第二十三章「時の一族」
目を覚ませば、心配そうな青龍先生の顔が視界いっぱいに拡がった。
「あ……れ──先…生?」
「…良かった───お加減は如何でしょうか?」
「…まだちょっとクラクラするけど……大丈夫そうだよ」
首筋に触れると、赤龍に噛まれた時に出来た傷口が無くなっていた。
驚いて何回も触れていると、先生が「私の力でしたら、そんな傷は直ぐに治ります。これでも医者なので」と、先生の力は偉大なのだと、この時改めて実感する。
(そういえば、何があったんだっけ…………)
赤龍に攫われて~からの変態僧侶の黒龍と出逢って……キョンシー達に襲われそうになったけど……───なんやかんやあの二人には一応助けてもらった事になるよね。
(……すっごい、険悪そうな仲だったけど……。しかも死にかけたしぃ~…)
「災難でしたね…。あの《《馬鹿二人》》に巻き込まれて大変だったでしょうに…」
「でも……赤龍に関しては、素直じゃなくて頑固で…。黒龍に関しては、面倒くさくて変態なだけで──悪い人達…………(いやでも…森を平気で燃やしてでも……積年の恨みを晴らすつもりだったよね……)先生!やっぱり悪い人達ですっっっ」
「然し──貴女のおかげで、森は全焼にならずに済みました。…きっと、その龍の髭の力によるものでしょうね。」
「そ、そうなんだ……────良かったぁ~…。」
おばあちゃんから貰ったこの指輪……───
(助けてくれたのかな?……おばあちゃん)
左手の薬指に嵌めていた龍の髭を撫でていると────
「かみっ、めがさめたのだなっ」
「"へんたいそうりょ"だなんて、ひどくねっ」
「……なんで……おれが……こんな」
神美が横になっていた寝台の上に「んしょっ…」と攀じ登ってきたのは──《《幼児化》》した、白龍・黒龍・赤龍だった。
(ま……まさか───気絶する前に空から降ってきたあの音って……)
「あ……すみません、先生……───いつの間に此処は託児所になったのでしょうか?」
「ほんの数時間前ですかね……」
「かみ、いたくないか?」
つぶらな瞳でこちらの様子を伺う白龍に、自然と顔がニヤけてしまう。
それは青龍先生も一緒のようで、口許を抑えて悶絶していた。
そのまま、ぎゅうぅ~~と抱き締めると、白龍は、頬を赤らめてじたばたと暴れ出すが、神美の力に適う筈もなく……
口から泡を吹いて気絶しかけていた。
「ぎゃあああ!?小龍が死にかけてる!?」
「───そりゃあ……、君の馬鹿力で抱き締めたらそうなるよ」
「あ…!黄龍!──なんだか久しぶりな感じぃ~!」
安堵の笑みを浮かべた黄龍は慌てて首を横に振り、そっぽを向いた
「ふ、ふん……!───別に心配とかしてないんだからね!。…大体にして、君のせいで陛下と《《馬鹿二人》》が幼児化したんだから!!。責任取って元に戻しなよ!!」
「え……あ、あたしの────せいぃぃ~~!?────…その前に……此処は何処なの?」
室内は清潔感があって、居心地は良いが……
気候が暖かいのか、少々汗ばんできた。とゆーか
(暑い……─────)
この世界に"冷房"があれば直ぐに稼働していたであろうが……まあ、勿論そんな物は無いので諦めている。
パタパタと手で扇いでいると、「なんとか戻してくれぇぇ~~!」と、急によぼよぼの老人が神美の目の前に現れた。
「ひぃっ!?へ、変態おじいちゃん!?」
「阿呆!変態ではないわい!───お主、どうしてくれんのじゃ!。この僧侶にワシは呪いをかけられたんじゃぞ!!。なのに……こんな姿じゃあ……泣」
「あ、エロほんにつられた、じじいだ!」
幼児化した黒龍に指をさされ、馬鹿にされていた八罫に、赤龍は軽蔑の眼差しを向けるが、照れ臭そうに「ワシ好みのエロ本だったもんでつい……」と頭をポリポリと掻いた。
神美・青龍・黄龍は蔑視……
「じいさんそんなのでつられたのかよ!!」
「……この際、そこのジジイが呪いをかけられたとかはどうでも良いのですが───…神美さんは龍の髭の力の一つ…"時戻し"を無意識に発動させたのでしょうね」
「おい…糸目の小童!!"どうでもいい"ってなんじゃっ」
「時戻し…?」
「ガーン!……スルーされた…」
「まあ、げんきだせってっ」
「変態僧侶…………お主、意外と良い奴じゃな……」
「……そんなすがたにさせられて……よくいうぜ…」
「"時戻し"は、数時間前~数千年先の過去の状態に戻す力の事です。火が燃え移る前の状態に戻されたことで、全焼せずに済んだ。……然し、龍の髭は、元は龍仙女様が扱っていた力……───まだまともに使いきれていないのか……少し暴走した結果が、……幼児化なのでしょうね……」
「あぁ~……、いくらあたしの意思ではないとしても……、こんな可愛い姿になったんだもんねっ!グッジョブ!!」
「おい!おまえ!、こころのこえがダダもれだぞ!!」
「ぐふふふ……そんな小さい姿だったら、抵抗できないよねぇ?」
まるで変態ジジイのような手つきでジリジリと赤龍に迫ると、精神も幼くなったのか、涙目で助けを懇願する。
あの時の迫力はいずこ……。
すると───先程まで軽蔑されて少し落ち込んでいた八罫が、何か閃いた様子で
「時の一族じゃ!」と叫んだ。
「時の一族?」
「流石に仙女程の力ではないが、時を自在に操れるという噂を聞いてな……。」
「そんな凄い人がいるの!?」
「 火龍果国に寝たきりの娘が居るんじゃが……どうやらその者は、時の一族の末裔らしくてな……。──自身の力に嫌気が差し…、どっかの国の妃候補として役人にスカウトされて、国を離れたらしいが……、患って数年前に帰ってきたんじゃ」
「ジジイ、それって本当の話なの!?」
黄龍が異様に喰い付く。
無理もないよ……
(もしかしたら…、その…”時の一族”の末裔の人が……若榴…)
黄龍の、かつての親友なのかもしれないのだから。
キョンシーに……心を利用された───
「娘は、この 火龍果国の花街に身を潜めていると言う噂じゃ…。」
「ええ!!、此処… 火龍果国なの!?。それに……花街?」
八罫がニヤリと口角を上げる
「遊郭じゃy────」
グゴオオオオオオオオオオ─────
「……お腹空いたんだけど……何か食べるものあるかな?」
えへへ…と、頭を掻くと
神美の腹の虫の音に驚いた八罫は腰を抜かしてしまった。