第十六章「遺書に秘められた真実」
「本日の朝食は、 青頭菜を細かく刻んだ物を乗せたお粥よ♪」
神美の前に差し出されたのは、白いお粥の上に、細かく刻まれたザーサイが乗っている物だった。
満面の笑みの柘榴は、神美と青龍と、不貞腐れた表情の翠麟に茉莉花茶を注いだ。
「お、かゆ…………だけ!?」
「妥当ですね。」
「目玉焼きとウィンナー10本のセットは!?」
「そんな物はありません」
「ス、翠麟は足りるの!?」
「……寧ろこのお粥で足りない事が異常じゃないの?。…それに、お粥は美肌効果に覿面しているし、身体を温める作用もあるから、痩せやすくなるんだよ」
「……そうは言っても……」
「急に食事量を減らせと言ったって、無理があるわよねぇ~」
「シ、柘榴ちゃん…!」
「でーも、犯人捕まえる為に頑張って!神美!」
「ガーン!!」
早速心が折れそうな神美は、泣きながらお粥を食すのであった。
。
。
白梨国 外れの牢獄にて───
白龍は家臣数名を連れて、国から少し外れた牢獄にへと足を運んでいた。
その牢獄は洞窟となっており、中に入れば老いぼれた罪人と───先日悪さをして捕らえられた血の気の荒い若人等……
「陛下……、いくら数年前の事件の真相を突き止めるとは言え……───」
「帝が牢獄に自ら足を運ぶなど……」
「気にするな───……之は、私自身の問題でもある…」
今朝方、老いた宦官が老衰で息を引き取り、その者の遺品を整理した現役の宦官が遺書を見つけた。
遺書にはこう綴られていた、数年前──当時後宮の医官を担当していた者は、毒殺事件に加担していたと……。一人の妃の為に…………───自らの立場を犠牲にして
「陛下──此方でございます」
鉄格子の間から見えたその罪人の顔は酷く窶れ、此方を凝視するが焦点が全く合っていない。視力が略、無いに等しいのか……
「蕃石……」
白龍がその名を口にすると、鉄格子の中の罪人は口角を上げた。
「……帝がこの様な場所に、態々足をお運びになられるとは……、中々の趣味をお持ちのようで……」
「無礼な!!!」
「なら……私を殺して下さい───」
蕃石がそう発言すると、周りの家臣達は思わず言い淀んだ。
「数年前の毒殺事件……そなたが加担していると聞いた。」
「………フフフ───…その妃は、とても気高く、自尊心の高い娘でした。 榴花と言う、赤い花が好きでしてなあ………」
蕃石は語った
当時、その妃は下級妃としてあまり目立たない存在ではありながら、帝に対する忠誠心と野望を抱いていたと────
『先生!私、絶対に帝のお嫁さんになるわ!』
『…そうですか…───まあ、それなら頑張らないと』
『…絶対に、幸せになって見返してやるの……』
『誰に対してですか?』
『私をこの世に誕生させるきっかけを作った、父上に……』
『………きっと、叶いますよ』
そう───きっと……
「妃は努力を惜しまず、見る見る美しく変貌し、軈て…中級妃を飛び越え、上級妃へと昇格が決まりました。……ですが、その妃の身体に…病が忍び寄ったのです。」
「…乳癌の事か……」
「妃の母君は、乳癌で亡くなられております……──受け継いで持った体質なのでしょう……。どんなに注意を払っていても、抗えない物はあります。」
「それで、そなたはその妃を病から救ったのだな。」
「……はい。憔悴し切った娘を放っておける程………───私も人の心は捨て切れませんから……。───そして、胸部を切り落とす時……それと同時に、妃から黒い靄が現れたのです」
「黒い靄だと?」
「その黒い靄は妃の身体の中に入り込み……、妃はこう言いました……"正妃諸共妃は全員殺す……──そして、美豚は必ず手に入れる……"……と」
「何だと……!?」
「……恐らく、僵尸の仕業かと思われます。…陛下……罪人の戯言をどうかお聞き下さい……。どうか……どうか……娘を……僵尸からお救い下さい。娘は身体を利用され、弱った心に漬け込まれたのです……。美豚を手に入れる為だけに……」
「その妃は……そなたの娘なのか…。」
蕃石はこくりと頷き、涙を流した。
「どうか……────どうか……」
"娘をお助けください"
蕃石はそのまま瞳を閉じ、ドサリと地面に倒れた。
そして、身体がみるみる干涸らび……
異臭を放ち、白骨化とする。
その姿に家臣達は腰を抜かし悲鳴を上げた。
「……そうか、 蕃石はもう……既に────」
どうする事も出来ないのならば……
娘を護る為に、自分の命を差し出しても……
。
。
「……僵尸様……、もうすぐで御座います。もうすぐで、美豚はこの手に……───うッ……」
後宮の一室────
光も射さない部屋の中から、女の呻き声と重なる不気味な声
『美豚はもうすぐ……我等、悪神五凶の物だ……──フフフ……アハハハハッ!!』