第十四章「宦官」
宮殿の一室にて──────
「身体に異常はないみたいですね───《《重さ》》以外は」
「グサッ!!……痛いところ突くね……」
「フフ、これでも医者なので…。然し……歳頃の若い娘様が……」
「あーーー!それ以上言わないでぇ……耳が痛い!!」
「龍仙女様の大事な孫娘様を、傷付けることは致しませんよ」
ニコリと笑う青龍。
一騒動後、何とか妃達の健康診断を終えた 度量衡医士達は大勢の妃達にクタクタのようだ。……特にベテランの老医達は、足腰を痛めたと言って意気消沈。
「後は黄龍だけですか……」
「そういえば、黄龍の様子がおかしかったんだよね…」
「黄龍はいつも可笑しいじゃないですか」
「確かにそうだよね……───って、そうじゃなくて!。なんてゆーか……元気が無いってゆーか……───悲しそうにしてた…」
「そうですか……」
「何かあったのかな……」
「昔から情緒不安定ですからね…、面倒臭いんですよ。」
《ごめんなさい…………》
誰に対しての謝罪だったのか……
「所で、神美様」
「そ、その……様付けはやめて欲しいなぁ……」
「…ですが、私は龍仙女 様に仕える龍なので。あの方が認めた方ならば、尚更……」
「うーん……でも、あたしとおばあちゃんは家族だから……」
「…家族?」
「そうだよ、だからね……───あたしは、小龍や黄龍も……それに、青龍先生のことも……家族だって思えるんだよね…」
「───………私には理解し難いですね……。過去に、龍仙女 様は貴女様と同じ事を仰っていました。……白龍や黄龍……此処には居ない残りの二匹の龍や……私にも───」
「へへ、おばあちゃんらしいなぁ~。
……あたしとおばあちゃん、血は繋がってないって…つい最近知ったけど……、そんな物より"心で繋がってる"事が大切なんだって、改めて思い知らされた」
「心で……繋がる……」
「だから、そういう意味でおばあちゃんは先生に言ったんじゃないかな」
「……」
過去に私は……龍仙女様にこう言われた
『ええか龍達よ、ワシらは家族じゃ。』
『家族……?』
『そうじゃ。ワシらは主従でもなんでもねぇ───共に助け合って生きてきた家族じゃき。』
『ロンちゃんは相変わらず面白い事を言うよねぇ~』
『……所詮はババアの戯言だろ?』
『ちょっと、あんた達!!龍仙女 様に失礼でしょ!?。』
『龍仙女 ……冗談はよしてくれ……。こんな喧しい家族は御免だ。』
分からない──────
(ただの龍が……家族?───)
理解し難い
私達は使命を持って生まれた、五匹の龍。
四方と中央をそれぞれ守護する為に
(それだけの為に……誕生した筈なのに)
『青龍』
『……はい』
『もっと気楽に生きろ』
『……お言葉ですが……、私にはその様な家族は必要ないかと……』
それでずっと、此処まで生きて来られた。
総てじゃないのだろうか?
『なら、見つければええじゃ。お前が思う、家族を』
私が思う家族───────
「まだ……私には分かりませんね」
「へ?」
「ふふ、……なんでもありませんよ───神美さん」
「あー!それ良いかも!!。なんか、様とかちゃんとか呼び捨てよりも、しっくり来るよ!」
「左様ですか……、それは良かった。」
コンコン────
「はーい!!、小龍かな?──それとも黄龍!?」
神美が扉を勢い良く開けると、華奢な体型をした中性的な顔立ちの少年が立っていた。
その少年の瞳は黄金色をしており、髪の色は翡翠色。気高い雰囲気を漂わせていた。
「…君、新しい妃?」
「は……はい」
「…ふーん───…黄杏の方が綺麗だね」
「んな!?、黄龍と同じでめちゃくちゃ失礼!!」
「…貴方は……────宦官ですか?」
「……そうだよ」
「先生、宦官って…」
「簡単に言えば、皇帝の側仕えと妃達のお世話係と後宮やその他諸々の管理役ですね」
「簡単に纏めすぎだから……。後、そこの《《ヤブ猿》》に忠告しとくよ──毒殺事件の事を掘り下げるつもりなら……君の命は無いと思った方が良い」
「何か疚しい事でも?」
青龍が冷静に問い質すと、宦官は面倒臭いと言わんばかりの表情で
「君には関係ないだろう」
冷たく言い放つ。
「ちょっと!そんな言い方しなくても!」
「……君にも忠告してあげる。痩せようなんて、考えない方が良い。……本当に、君が殺されるかもしれない」
その黄金色の瞳から感じたのは『後悔』と『葛藤』
神美はその時、少年と黄龍が重なって見えた。




