第十二章「青い龍と蒼猿」
「それでは、本日は健康診断を行ないます。今年も 度量衡医士の先生方にいらっしゃって戴いたので、皆さん御迷惑をおかけしないようにね」
早朝から叩き起され、眠い目をこすりながら麒麟宮の外に出れば、何百人…いや、何万人との妃達が気だるそうに整列をしていた。一番前の列は、上流階級の妃───四方と中央を守護する神獣の名が入った後宮に住む妃達が並んでいた。
あたしもその列に……黄龍の隣に並ぶと、他の妃達からの鋭い視線が身体に刺さる。
「ねぇねぇ、黄龍……」
「何よ……?───てか、その名で呼ばないでよね。」
「なんか……周りからの視線が怖いよ……」
「そりゃあねぇ……、あんたみたいな平凡&大娘が…いきなり上流階級の妃ってなったら、反感買うのは当たり前よ。……アタシだって…まだ認めてないんですからねっ!!」
「そ、そんなぁ~涙」
「それくらい……陛下に対する気持ちは、皆真剣って事なの。でも…───あんたには……そんなのわかりっこないわよね…。」
(小龍か……)
艶のある長くて黒い髪─────蒼い硝子玉の様な瞳───
眉目秀麗で、強くて優しくて儚げで……
(うん──隙がない…超絶ハイパークラスのイケメンだわ……)
「先生──今年もよろしくお願いいたしますねっ」
「……?」
それは本当に一瞬だった
柘榴ちゃんがお爺ちゃん先生に頭を下げた瞬間、お爺ちゃん先生の後ろに青い龍が現れた。
青い龍は、深みのある赤色をした瞳で誰かを捜している様子だった。
(え……、これって……)
確か、夢にも出てきた……五匹の龍の内の……、でも…他の皆は、龍が見えてない?
「……!」
黄龍があたしと同じ方向を見つめ、目を細めた。
「黄龍…!もしかして《《見えてる》》の!?」
「!……あんたにも……青龍が見えてるの?」
「《《チーロン》》…?」
「───柘榴様、東の国から優秀な人材を引き入れましてな …」
「噂はかねがね伺っておりますわ。なんでも、動物をも診れるとか?」
「左様でございます…。───藍猿先生、この方がこの後宮の女官長である柘榴様ですぞ。」
藍猿───と呼ばれた青い龍は、人間の青年へと姿を変えた。思わず、神美と黄龍は顔を見合わせた。
「…──柘榴様、お初にお目にかかります。 董 藍猿 で御座います。」
拱手をしながら藍猿は柘榴に頭を垂れた。
その姿に、周りの妃達は「はぅ……」と言わんばかりに頬を紅潮させている。
「ねぇ…黄龍?、此処に居る妃達は小龍Loveじゃなかったの?」
「───…神美、あんた…何とも無いの?」
「へ?、いたって普通に元気だけど……」
「……見なさい…、周りの妃達は《《媚薬》》をかけられたのよ」
「媚薬?」
神美が周りを見渡すと、妃達や柘榴…老医達まで目を♡マークに変えて、藍猿と呼ばれた青年を見つめていた。
すると、藍猿は神美に近付く。
「貴女が……、白龍帝の正妃となられる方ですか?」
「あ、貴方!!、みんなに何をしたの!?」
「…御安心下さい、《《本物を炙り出した》》だけですので…。直ぐに元に戻りますよ。」
「本物?」
「蒼猿達、出てきなさい────」
「「「「キーーーーーッ!!キキッ!!」」」」
藍猿の背後からわらわらと登場した青色をした大量の猿達。
それを見た黄龍は悲鳴を上げて倒れてしまった。
「黄龍!!」
「…フフ、黄龍は昔から猿は苦手なんですよ。」
「貴方……もしかして……さっきの青い龍?」
「驚いた……、御明答です。…困りましたね……私の秘密を知られてしまった以上……──生きて返すわけにはいきません……。」
大勢の蒼猿の内、二匹が藍猿 に、 呉鉤(幅が広く、持ち手が短い刀)を手渡した。
「これは 呉鉤と呼ばれる刀です。他の刀よりかなり切れ味が抜群な物となっております」
刀を十字に構えた藍猿を見て、神美は冷や汗を垂らした。
「ま……まさかとは思うけど……それであたしの事斬ったり……」
「しますよ───」
「嘘でしょぉぉおおお!?」




