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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第9話:なかなか健康的な身体を持っているようだ。

<前回のあらすじ>

夜、ルナが部屋に籠り、宇宙戦争がモチーフのゲーム”OneYearWar”にログインした。

彼女はAIをも打ち負かす凄腕のヒューマンプレイヤー”RedDevil”だった。

ゲームの中でルナは快進撃を続け、遂には相手陣営の最終戦艦までも破壊し、世界一位に返り咲いた。

ルナがゲーム内で活躍を見せた次の日、ソルは親しくしているお婆ちゃんの家に医療用の回復ポッドを見にきていたのだった。


 

 ソルが医療用回復ポッドのカバーに備え付けられているレーザー照射部を見ていた。


「どうかの?直りそうかの?」


 お婆ちゃんがソルに話しかけた。


 ソルが照射部の部品を検査していた。


 だが、どこも故障してはなさそうだった。


「あれ?別におかしいところなさそうなんだけど。


 ってか、おばあちゃん、これ、結構新しい製品じゃない?


 どしたの、これ?」


 お婆ちゃんが嬉しそうに話した。


「息子がの、買ってくれたんじゃよ。


 もうええからって言うたんじゃけどな。」


 ソルが照射部に向けていた視線をお婆ちゃんに移した。


 お婆ちゃんの嬉しそうな笑顔がソルを笑顔にした。


「親孝行な息子さん持って、おばあちゃん幸せだね。


 確か息子さん、エンケラドスの開拓移民じゃなかったっけ?」


 ソルは話しながら、再び照射部に視線を向けた。


「そうそう。そうなんじゃよ。孫もできてな。ほら。」


 お婆ちゃんが電子ペーパーの写真を出した。


 ソルが再びお婆ちゃんの方を見た。


 画像はノイズだらけで僅かながらに小さい子の顔が分かるかどうかくらいのものだった。


「あー、そうか。エンケラドスまでは氷の粒がびっしりなところがあるから、ノイズ酷いんだね。」


「うーん、そうじゃよ。でも、まあ見れるだけ良しとしないとね。」


「あー、そうそう。時間はかかるけどノイズに強い方法があんだよね。それ使って送ってもらえば?」


「え?そんなのがあるのかい?」


 そんな話をしながらも、ソルは装置の他のところも見ていた。


「うん。あとで教えるよ。ちょっと待ってね。」


 ソルはしばらく照射部や装置制御Boxのあちこちを見たが、異常はなく、制御Boxの蓋を閉めた。


「おかしいな。これ、大丈夫だと思うんだけど。どこも壊れてないよ。」


「そうなのかい?


 病院で見てもらって、この機械なら腰の痛みが取れる治療ができるって聞いたんだけども。


 それでもダメな時はまた来いってゆっとったから、また行かんとやね。」


 ソルがそれを聞いて少し怪しんだ。


「ところで、治療用の体内ナノマシンに腰痛治療用プログラム入れてもらった?」


「あー、なんかそんなの入れるって言うとったよ。」


「そうなんだ。ちょっと病院の治療ログある?見せて。」


「ログ?なんだい、それ?」


「あっ、ちょっと待ってね。」


 ソルは鞄の中から21世紀にあった名刺入れサイズの銀色の箱を取り出した。


 ソルが箱を見ると箱の縁が緑色に光り出した。


 ソルの視野の中に(Checking GeneNanoMachine …)と表示された。


「ここに指付けてみて。」


 ソルがそう言うと、おばあちゃんは指を出した。


「ここでいいのかい?」


 おばあちゃんの指が箱の表面に触れた瞬間、体内ナノマシンに書き込まれているDNA情報、並びに治療処方情報を取得した。


 だが、そこには入れてもらっているはずの腰痛治療の処方が入っていなかった。


 ソルが小さい声で言った。


「やっぱり。。。」


 ソルがお婆ちゃんを見て言った。


「ちょっと待ってね。」


 ソルはそう言いながら、唇をペロッと嘗めて、横にウインドウを1つ表示させた。


 そして、あるプログラムを立ち上げた。


(Small Spring Hacking System...)


 それはどんなシステムに対してもすぐに脆弱性を見つけ、ハッキングが可能なプログラムであった。


 ソルはそのシステムを使って、お婆ちゃんの治療処方情報に書かれている病院のデータベースにあっさり入り込んだ。


 ソルがお婆ちゃんの名前で検索を掛ける。


(リタ・ハサウェイ)


 すぐに結果が表示された。


 治療履歴には軽い打撲などに行われる赤外治療しか入っていなかった。


 だが、決済情報を見ると、ナノマシン治療の高めの治療代金が払われていた。


 ソルがお婆ちゃんに問いかけた。


「お婆ちゃん、明日病院行ける?予約あるみたいだけど。」


「ああ、別に行けるけども。ありゃ?明日予約しとったかね?」


「うん。明日の朝10時みたいだよ。治療。」


「あー、そうか。すっかり忘れてしもうとるね。ボケんようにせんとね。」


 ソルは笑うお婆ちゃんを見た後、明日の治療予約内容にお婆ちゃんの名前を追加し、腰痛治療用プログラムインストールに内容変更した。


 もちろん担当医を別の先生にして、さらに治療費支払い済みの設定を行った。


 ソルが小さい声で言った。


「これでよしっと!」


 その時、ドアのベルが鳴った。


「リタ・ハサウェイはいるか?」


 お婆ちゃんが返事をする。


「はいはい。少し待っておくれよ。」


 お婆ちゃんが玄関まで行き、ドアを開けた。


 すると、そこには数体の屈強な体躯をした、黒いスーツ姿でイカツイ顔のアンドロイドが立っていた。


「このアパートの家賃滞納がかさんできている。


 もうテロメライザーでの返金では利子にもならない。


 だから、家財を差し押さえに来た。」


 その声を聞き、ソルが玄関の方に出てきた。


 玄関の前に立っていたアンドロイドが他のアンドロイドに命令した。


「お前ら、さあ行け!!」


 3体の屈強なアンドロイドがお婆ちゃんを押して、土足で部屋に上がり込んできた。


 ソルはその状況が飲み込めず、ただ驚いていた。


「なっ、なんなんだ。おまえら?」


 リーダー格と思われるアンドロイドがソルを見て、家族の写真と照合し、関係者ではないことが分かると家財に目を向けながら言った。


「お前には関係のないことだ。」


 ソルが反論する。


「おまえら、さっきテロメライザーでの返金って言ったよな?


 あれは金で取引が禁止されてるもんなんだよ。知らねーのかよ?」


 先ほどソルを見たアンドロイドが再びソルにグイッと顔を近づけて言った。


「何度も言わせるな。お前には関係のないことだ。


 それに、こいつのサインもある。つまり契約が成立している。


 その返金がままならないから、こいつの私財を持っていくだけだ。


 あまり首を突っ込まないことだ。


 痛い目をみる。これは忠告だ。」


 ソルはただならぬ雰囲気をアンドロイドから感じ取った。


(痛い目をみる?こいつら、人間不可侵ロジックをオーバーライトされてるのか?)


 リーダー格とソルが話をしている間、すでに部屋を物色していたアンドロイドが机の上にあった古びたランプを手に取った。


 アンドロイドは少し品定めをしたかと思うとポイッと放り投げた。


 ランプが床に落ち、陶器でできたランプの笠がガシャンと音を立てて割れた。


 そして、さらにもう一体のアンドロイドが、先ほどソルが修理していた回復ポッドのある部屋へ入ろうとした。


「こっちはなにもないよ。やめておくれ。」


 アンドロイドを必死で押すお婆ちゃん。


 だが、年老いた老人の力では全くアンドロイドに歯が立たなかった。


 奥の部屋に入ったアンドロイドが言った。


「なんだよ!良い回復ポッドがあるじゃねーか。


 こんな良いもん買えるくらいならその金、返金にまわせっつーの。」


 そう言って、アンドロイドが回復ポッドの方に歩いていった。


 必死で止めようとするお婆ちゃん。


「それだけは。。。許しておくれ。それだけは。」


 回復ポッドに徐々に近づくアンドロイド。


 他のアンドロイドもその部屋に集まってきた。


 ソルが見かねて、腰のスイッチを押した。


 腰のデバイスからエネルギーが充填されるような高音が響く。


 視線でつなぎの色は赤色にしないように設定を変更した。


 中に着ている白いピタッとした長袖シャツとレギンスの帯だけが赤色に発光を始めた。


 服の下の赤く発光した帯がつなぎから透けて見えた。


「お前ら、いいかげんにしろ!」


 ソルがそう良いながらアンドロイド一体の腕をグイッと掴み、手前の部屋の方向に引っ張り、放り投げた。


 アンドロイドが宙を浮き、飛んでいく。


 ソルが素早い動きで、回復ポッドとアンドロイドの間に入った。


 そして、掌底でもう一体も手前の部屋に吹き飛ばした。


 ソルに吹き飛ばされた二体のアンドロイドは空中で体勢を立て直し、着地した。


 アンドロイドは片手を床につきながら、両足で踏ん張って立っていた。


 床にはアンドロイドが踏ん張った片手、両足の擦り痕がついていた。


 もう一体、リーダー格のアンドロイドが回復ポッドの部屋に残っていた。


 そのアンドロイドの横にいるお婆ちゃんが驚きで震えていた。


 そして、リーダー格のアンドロイドはそのお婆ちゃんを見て、手を動かそうとしていた。


 ソルはアンドロイドの躊躇ない動きを見て、アンドロイドがお婆ちゃんに危害を加えようとしているのが分かった。


 ソルはそれを見て、咄嗟に言った。


「分かった。分かったよ。」


 両手をあげて、ソルが言った。


「おれが保証人になる。それで文句はないだろう。」


 リーダー格のアンドロイドの動きが止まった。


 そして、目線だけソルの方に向けた。


 しばらく沈黙が続いた。


「契約書にサインをしろ!」


 ソルの目の前に契約書が表示された。


 他の二体も再び部屋に入ってきた。


 一体は腕や首を回しながら文句を垂れていた。


「おめー、やってくれるじゃねーか。」


 一体はお婆ちゃんの後ろに立った。


 ソルはじっとアンドロイドの動きを見ていた。


「何をしている。早くサインをしろ。」


 ソルが手前のリーダー格のアンドロイドに目をやる。


「待てよ。契約ってのはちゃんと内容を精査してだな。。」


「それならば、回復ポッドを持っていく。」


 お婆ちゃんの後ろのアンドロイドがお婆ちゃんに近づきだした。


「分かった。分かったよ。サインすりゃいいんだろ。」


 ソルがしぶしぶ宙に浮く契約書にサインをした。


「親指だ。」


 ソルが契約書に親指でタッチした。


 すると、即座に個人情報に紐付けされた口座からお金が引き下ろされ、その内容がソルのBCDに表示された。


「はあ?100万?」


「それではまだまだ足りていない。元金は一切減っていない状態だ。」


「お前ら、どんだけぼったくりなんだよ、、、」


 二体のアンドロイドが撤収しつつ、一体がソルの前に来て、ノーモーションで腹にパンチをした。


「くっ。。。」


 突然の衝撃にソルの身体がわずかにくの字になった。


「ソル、大丈夫かい?」


 お婆ちゃんがソルのところに来た。


 ソルにパンチをお見舞いしたアンドロイドが手を見ながら、ゆっくりグーパーを何度か繰り返していた。そして、再びソルの方を見た。


 だが、リーダー格のアンドロイドが玄関に向かい歩き始め、他のアンドロイドに言葉をかけた。


「次だ。行くぞ。」


 ソルを見ていたアンドロイドがしぶしぶ玄関に向かって移動しだした。だが、去っていく途中、振り向き一言吐き捨てた。


「さっきのお返しだ、バーカ。」


 ソルは撤収するアンドロイドを睨んでいた。


 リーダー格のアンドロイドが玄関の前で振り向いて言った。


「なかなか健康的な身体を持っているようだ。


 身体というのはいろいろと使い道がある。


 今後が楽しみだな。」


 そう言うとアンドロイドたちが玄関から出ていった。





 シャツに描かれた帯が黒くなったソルはお婆ちゃんと一緒に荒らされた部屋を片付けていた。


「3ヵ月前くらいに、このアパートの家主が博打で負けたとかで、このアパート自体があいつらのものになったんだと。


 で、あいつらが家賃を200万サークルにしちまったんだよ。」


「200万って、ベーシックインカムでも15万なのに。


 それにこの辺りのアパートなんて、2万もしないよ?」


「そうなんだよ。


 で、そんなお金ないって言ったら返すまで出ていかせないっていうんだよ。


 それで、あいつら、あの薬を買い取ってやるって。


 いきなりサインさせられてね。」


「あー、それで。。。」


 ソルがお婆ちゃんを安心させるために言った。


「まあ、でも、もう大丈夫だよ。


 そうだ。今のうち、どっか違うアパートに引っ越しなよ。


 引っ越し手伝うからさ。」


「そだね。そうさせてもらおうかね。」


「こっちはおれがなんとかするからさ。」


「ソルは本当にいい子だよ。うちの孫が大きくなったらソルと結婚させてあげたいよ。」


「ははは。それはお孫さんにも選ぶ権利があるからなー。」


 そういって、二人して笑った。





 ソルがおばあちゃんのアパートからE地区中央のメイン通りに出てきた。


 メイン通りと言っても、富裕層のメイン通りとは違い、お店が何軒か並んでいるだけだった。


 そのお店の一つに遊技場があった。いわゆるゲームセンターであった。


 そこにちょっとした人集りが出来ていた。


 ソルは少し腰をかがめ、その人集りの中を覗いた。


<次回予告>

貧困層を荒らしているマフィアに脅されていたお婆ちゃん。

ソルがそれを肩代わりしてしまう。その先で何が起こるかも知らずに。

お婆ちゃんの医療ポッドを修理した後、E地区中央区の遊技場でソルは人集りを見つける。

ソルはそこであるプレイヤーに目を奪われるのだった。

次回、第10話 ”こいつ、AIスレイヤーってことなのか?”

さぁーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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― 新着の感想 ―
 なんかもうディストピアですね。夢のような技術を実用化した先の時代のはずなのに、全然幸せな感じがしない。  でも、飢えと獣に怯えて生きていた太古の人類から見れば、今の我々もこんな感じなのかもしれないな…
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