第84話 : これが私たちの力
<前回のあらすじ>
地球軍に取り囲まれた深紅の機体、オル・アティード。
オル・アティードを操るルナ、ソル。
無数の地球軍AIからの拒絶の声が二人を襲っていた。
その時、二人に舞い込む敵機の方向情報。
二人はその情報を元に、再び地球に向け進撃をはじめた。
だが、それでも無数の弾幕により、オル・アティードの進撃が再び止まる。
そして、とうとう地球軍のイオンビームの餌食となってしまった。
だが、撃墜される直前、ソルは小さい声を聞いていた。
それをきっかけにして、この争いを見ている人に対して、ソルがあるメッセージを送った。
”JAM-Unitを着けて、そして、どうか祈りを。”
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おびただしい数の地球軍戦闘機、メタリックステラがオル・アティードが放つ虹色の波動に対して拒絶の反応を示していた。
それでも、オル・アティードは絶えず地球軍の機体を戦闘不能にしていった。
ところが、ある宙域からは、あまりの地球軍の多さに地球へ僅かに進んでは後退、また進んでは後退と、正に一進一退を繰り返すようになっていった。
ルナもソルも焦りを感じだしていた。
二人は目を真っ赤にして、肩で息をするほどに疲労してきていた。
その時、突然、方向情報ではないメッセージが飛び込んできた。
(今、これを見ている皆さん。
お願いです。
JAM-Unitを着けて、そして、どうか祈りを。
お互いの喜びも、怒りも、悲しみも、嬉しさも、その祈りに託して。
心の底から。)
そのメッセージにルナとソルが僅かに困惑した。
必死に回避するが、イオンビームがギリギリを通過する。
そして、すぐに別のメッセージが入った。
(心を解放するんだ!)
ソルはそれが何のことか分からなかった。
しかし、ルナはその言葉で理解した。
これは未来の自分達が何かに気づき、送ってきたメッセージのはずだと。
そして、ルナは気づく。
自分の中に作られた心の壁があることを。
ルナはそれまでAIの拒絶の声、戦いたくないという声、そして稀に入ってくる無数の戦争の記憶を読み取っていた。
だが、徐々にAIの奥底に眠る戦争の記憶が入ってこなくなってきていた。
”入ってくるな”という拒絶の声しか聞こえなくなってきている状況を無意識に感じていたからだった。
「そういう、、、ことか。。。」
拒絶の声で歪んでいたルナの目が少し穏やかになった。
回避する機体には今にも直撃しそうなほど無数のイオンビームが打ち込まれていた。
「おい!ルナ!!大丈夫か!?」
ソルはまだ表情が歪んでいた。
だが、その時、ルナの思考に誰かからの視点が入り込んできた。
それは後方左側に位置する戦闘機がこちらを狙っている映像だった。
コロニー5の軍事マニアの超小型偵察機はすでにRedDevilを追えなくなっていた。
だが、コロニー5の軍事マニアはコロニー1の軍事マニアにバトンを渡していた。
戦場に最も近いコロニー1の軍事マニアが放出した超小型偵察機が再びRedDevilの戦いをアップしていた。
それを無数の人たちが見て、RedDevilを応援していた。
それを見ている中には家族を宇宙開拓に送り、ソルの開発したタキオンコミュデバイスを受け取った人たちも数多くいた。
その人たちにメッセージが届いた。
(今、これを見ている皆さん。
お願いです。
JAM-Unitを着けて、そして、どうか祈りを。
お互いの喜びも、怒りも、悲しみも、嬉しさも、その祈りに託して。
心の底から。)
そのメッセージを見て、『OneYearWar』ユーザーたちはすぐさまJAM-Unitを装着した。
そして、それをタキオンコミュデバイスに繋げた。
その中にはアイザック少年も、キャスバル・ノンレムもいた。
大会の上位勢にもりょーたろと運搬屋がタキオンコミュデバイスを送り届けていた。
大会の上位勢も次々に装着していた。
アイザック少年はタキオンコミュデバイスを連結するや、オル・アティードからのカメラ情報、ルナの思考、ソルの思考が流れてくるのを感じた。
さらにはルナ、ソルがJAM-Unitを通してアクセスする敵機の情報までもがアイザック少年に流れ込んできた。
その中の1つに今にも深紅の機体を打ち落とそうとする戦闘機を発見した。
宇宙開拓民の人たちも、その家族も、ソルからのメッセージを受け取った。
「これ!!ソルさんのメッセージだ!!JAM-Unit?おい、JAM-Unitないか?」
それを聞いた家族が反応した。
「なんだい!急に。確か隣の子がゲームで使ってるって。」
「すぐ持ってきてくれ!!きっとたたごとじゃねーんだ!!」
オル・アティード進行方向左下に位置する戦闘機からイオンビームが放たれた。
イオンビームはオル・アティードのブースターユニットの1つを貫いた、かのように見えた。
だが、オル・アティードは間一髪で狙われたブースターユニットの角度を変え、回避していた。
続けて、オル・アティードに次々にイオンビームが打ち込まれる。
同様に、地球軍のAIは99%を超える確率でオル・アティードの機体を貫いた、という予想を出していた。
だが、深紅の機体のユニットそれぞれが奇妙な動きで回避していた。
ルナの中に自分で認識したものではない数々の映像が入ってくるのを感じた。
そして、ルナは気がつく。
入ってくるもの。それは映像ではない。それは人の意識だということを。
さらに、その意識がルナのそれとどんどん統合されていくことを。
ルナの赤く染まった目が徐々に薄い色に変わっていく。
ソルもルナの中に今まで以上の映像が入って来ているのを見た。
すぐにソルも気がつく。それは映像ではないことを。
「心を解放する。。。そういうことか。。。」
ソルもその大きな意識の一つに入っていった。
そして、ソルの意識なのか分からない大きな意識は、見える無数の映像が今まで経験した映像と全く違うことを認識していた。
それは今までのものよりも遥かにゆっくり流れているように感じていた。
そして、その映像はますますゆっくりになっていった。
イオンビームが飛んでくる位置も今まで以上にはっきり見えた。
「なんだ??これ。。。」
ソル(のものなのかの意識)が驚きながら周囲を見た。
ソルは目を疑った。
ルナと思われる個体の後ろにアイザック少年やキャスバル・ノンレム、ブライト・ハサウェイ、ワトニーなど無数の人の姿が見えた。
その間もソル(の感じる大きな意識)の中に次々と無数の映像が入ってくる。
そして、それが圧倒的速度で処理され、最適解が導かれ出されていく。
それまで苦しそうだったルナとソルの表情はわずかに恍惚なものに変わっていた。
そして、二人の目からは完全に赤色が消えていた。
地球軍の戦闘機やメタリックステラからオル・アティードに向けて無数のイオンビームが放たれていた。
だが、オル・アティードは今や機体全体が虹色の波動で包まれ、その機体は放たれたイオンビームの隙間をどんどん抜けていく。
その機体の制動はAIをもってしても予期できるものではなくなっていった。
99%を超えていた地球軍の巨大AIの示す撃墜確率が急激に落ちはじめた。
「なぜ当たらん!!回避される可能性は天文学的確率なんだろう!?どういうことだ!!?」
リチャード・マーセナスが焦り始めた。
ルナもソルも感じ取っていた。
タキオンコミュデバイスの持つ0時間通信の機能と記憶や思考を伝達し合うJAM-Unitを介して、全ての脳がリンクしていることを。
視点が、感覚が、感性が、ますます拡張していく。
人々が繋がっていくにつれて、処理クロック数が驚くほど上昇していく。
その上昇は人の数の足し算ではなく、指数関数的なものとなっていた。
そして、その大きな意識は、戦いの処理を行いながらも、戦争を止める方法を考えはじめた。
瞬時にある結論に至る。が、同時にまずはこの戦争を止めることを最優先とした。
ルナ(を含む大きな意識)が呟く。
「これが私たちの力なんだね!!」
ルナとソルの目が蒼く輝きだした。
オル・アティードが纏った七色の波動が混ざっていく。
波動はやがて真っ白になり、眩いほどの輝きとなった。
オル・アティードの動きはもうすでにAIの予測を遥かに超えるものとなっていた。
地球軍のイオンビームは完全に真っ白に輝く機体の残像に撃ち込まれ、実体は全く別の場所を動いていた。
機体が放つ美しい輝きが小さい爆発を伴いながら一気に地球に進行し始めた。
オル・アティードが戦艦から放たれたレールガンもミサイルも回避し、戦艦の横をすり抜け、後部ブースターに小型ミサイルを撃ち込んだ。
真っ白に輝く軌跡が戦艦の横をすり抜けて行った。
その軌跡とすれ違った戦艦は瞬く間に行動不能に陥った。
オル・アティードは戦艦のみならず、戦闘機、メタリックステラをも置き去りにしてしまった。
相対速度60km/sを超えた恐ろしい速度で地球に進行するオル・アティード。
ルナやソル(を含む大きな意識)の目の前に地球が大きく映っていた。
その地球の絵が、おびただしい数の敵機の赤い反応で埋め尽くされた。
次の瞬間、オル・アティードを数万という軌道衛星からのレーザー砲が襲い始めた。
<次回予告>
真っ白に輝くオル・アティード。
その機体に襲いかかる無数のレーザー砲。
さらに、大気圏突入のためには速度を落とすしか方法がない。
だが、それは地球軍にとって格好の的となってしまうのだった。
果たしてルナとソルは地球軍を、地球の巨大AIを止めることができるのか?
次回、第85話 ”なぜ争うことばかりを考える?”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!
<ちょっとあとがき>
我々は、立場の違う者の考えを理解する上で、相手の気持ちになって考えよう、と良く言われてきましたが、実際にそれを行うことはなかなかできるものではありません。
それに対して、今回出てきたタキオンコミュデバイスの0時間通信機能、さらにJAM-Unitによる思考の連結機能。
これは人間の脳による超並列処理が行われたものです。
これはただ話し合いとか、そういったものではありません。
完全に脳が連結していますので、まるで1人の超天才が生まれたような状態となっています。
それによって、相手の立場とか、そういうものを超え、初めて等しく考えられる状態となり、さらには超天才状態であるので、我々では想像もできないような解決方法や技術が導き出されることでしょう。
物語の中で、その状態となり、ソル、ルナが地球軍の包囲網から突破する時、恍惚の表情をしていると表現しました。
この頭脳は前述の通り、超明晰となっているため、速やかに問題解決がなされ、超高純度のスッキリ感(アハ体験?)が脳を駆け巡ります。
それにより恍惚の表情となっています。たぶんこの感覚は病みつきとなるでしょう。(笑)
それはそれは恐ろしい技術のはずです。。。(笑)
あと、オル・アティードの語源はヘブライ語で、オル(オール)は”光”、アティードは”未来”という意味ですが、オルは別の意味で”絆”という意味もあります。
” 光 (レイ) の未来 (ミライ)”は前作主人公の名前から付けましたが、”絆の未来”という今回のコンセプトともなる名前にしたく、これを採用しました。




