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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第81話 : そうか!!その手が。。。

<前回のあらすじ>

ルナとソルが操るオル・アティードが2万機を超える地球軍の宙域に飛び込んだ。

深紅の機体は虹色の軌道を描きながら次々に地球軍の機体を戦闘不能にしていく。

地球軍が手薄なルートをうまく選び、回避しながら進行していたオル・アティード。

しかし、それは地球軍の巨大AIの罠であった。

気づけば、オル・アティードは無数のメタリックステラに取り囲まれていた。

ルナ、ソルが無力化する機体数よりも多くの機体が周囲を取り囲む。

そして、地球軍から発せられる拒絶の声が二人の心を蝕んだ。

二人の頭に鈍い痛みが走った。

その時、深紅の機体のブースターにイオンビームが突き刺さってしまったのだった。


 

 オル・アティードは回避の動きをしつつ、地球軍を1機、また1機と戦闘不能にしていく。


 だが、地球軍の機体からおびただしい数の拒絶の声が二人を襲う。


 その時、二人の頭に一瞬鈍い痛みが走った。


 二人の身体がその瞬間ビクッと震えた。


 そして、二人は目を見開いて、左斜め下を見た。


 メタリックステラの視点が飛び込んできた。


 その機体はオル・アティードのブースターユニットに向けてすでにイオンビームを発射させていた。


 コックピットの左半分が真っ白に染まる。


 高エネルギー特有の甲高い音が前方から後方に突き抜けた。


 そして、左後方から爆発音が鳴り響く。


 機体がルナとソルが意図しない方向に吹き飛ばされる。


 姿勢を維持しようとルナが操縦桿とフットペダルを操作する。


 だが、それでも機体は回転を止めなかった。


 視線の前方にAlertが表示される。


(ブースターLTユニット被弾 Mulfunction)


 機体の制動不安定のWarningも発報される。


 次々に上がるエラー表示。


 だが、次の瞬間、至る方向から真っ白な光がコックピットに照射された。


 コックピットには鈍い重低音と甲高い音が入り交じった爆音が響いた。





 コロニー3の柊邸、地下EEE(トリプルイー)


 そこに作られたコックピットブース。


 その中のソルとルナは真っ暗闇の中で前面に表示された赤い文字を見ていた。


(No Signal)


 コックピットブース内がほんのり明るくなった。


「そっ、そんな!なんで。。。」


 赤い目のまま、困惑した顔をしたルナがソルを見た。


 ソルの顔が自責の念に染まっていた。


「最後の攻撃だけ読めなかった。。。すまん。。。」





 コロニー5の偵察機で映像を見ていた世界中の人々は信じられない光景、いや信じたくない光景に、愕然としていた。


「うっ、嘘だろ!?」





 何千機の戦闘機、メタリックステラの中心で爆発が起き、それが収まった。


 オル・アティードの信号が完全に消えたのを確認して、リチャード・マーセナスが感極まった表情で言葉を放った。


「とうとうやったぞ!!

 コロニー軍はもう終わりだ!!

 これでついに、ついに、、、われら地球軍が全てを掌握する。」


 そして、動かない地球軍に気づき、リチャード・マーセナスが指示を出した。


「何をボケッとしている!!残っている部隊よ、コロニー3へと進軍するのだ!!」





 ソルが愕然としているルナを見て言った。


「あいつら、きっとここに来る。

 それまでに何とかしないと。

 何ができる?

 あっ、そうだ!コロニー3軍の他の機体を借りれないか。」


 ルナが呆然としてしまっていることに気がつき、ソルが大きな声でルナを呼んだ。


「ルナ!ルナ!!」


 ソルがルナの肩を揺らす。


 ようやくルナがソルに焦点を合わせた。


「コロニー3の他の機体は使えないのか?」


 ルナが焦りながらも答える。


「わっ、分からない。やってみないと。

 でも、きっとあの機体の構成じゃないと動きが全然違いすぎて。」


「そうか。そうだな。。。考えなきゃ、なにか、なにか。。。」


 ソルとルナがコックピットブースから出た。


 ソルが改造用の道具を置いているテーブルに近づき、何かないかとキョロキョロしていた。


 ルナがまだ自分を責めていた。


「ごめんなさい。私がもっとちゃんとしないとだったのに。。。」


 その時、テーブルの横のコンテナの上で大人しくしていたシュレディンガーがソルの足元にすり寄ってきた。


「ニャーン」


 シュレディンガーはソルを見ながら一鳴きして身体をブルブルッと震えさせた。


 そして、ルナの方に歩いていく。


 ルナは寄ってきたシュレディンガーをさっと抱きかかえた。


 その様子をソルは見ていた。


 それはまるでデジャブを見ているかのようだった。


 ソルは、そんな場合ではないと分かってはいたものの、以前に見た同じ景色を思い出していた。


(このシーンって。。。

 あれは確かルナをRoswellのアンドロイドから守った時だったな。)


 ソルの顔がふと真顔になった。





 Roswellのアンドロイドを全員なぎ倒したソル。


 だが、壁の瓦礫に埋もれていたアンドロイドがレーザー銃をソルに向けて構えていた。


 レーザーが発射される、その時。


 何故か鳴り響くタキオンコミュデバイスの音。


 当時はソル以外まだ誰もあのデバイスを持っていないはずなのに、確かに鳴り響くタキオンコミュデバイス。


 その音に反射的に振り向くソル。


 ソルの頭を掠めるレーザー。





 ソルは何度もそのシーンを思い出していた。


「はっ!!」


 ソルの表情が何かを閃いたそれに変化した。


 シュレディンガーを抱えていたルナにソルの想いが流れ込んだ。


 ルナがなにかを思い付いたソルを見つめた。


 ソルは目の前にタキオンコミュデバイスの設計図を展開した。


 その展開図はルナにも見えていた。


「そうか!!その手が。。。」


 そして、ソルが宙に数式を突然書き出した。





 とうとう地球軍がコロニー3の手前まで来た。


 コロニー3軍が地球軍を迎え撃つ。


 だが、結果は自明であった。


 圧倒的なキルレートで、地球軍があっという間にあらゆる宙域を支配していった。


 そして、戦艦がコロニー3をミサイル射程圏内に納めた。


 戦艦からミサイル数十発が打ち出された。





 ソルとルナのいる場所にも退避を促す警報が鳴り響いていた。


 ソルの目の前にコンパイル完了の文字が表示された。


 それを見て、ソルが言った。


「できた。これで伝えられる。」


 ソルがルナを見た。


 ルナにはソルの意志がすでに伝わっていた。


 空中にミサイル着弾までに時間が表示された。


「S2ミサイル着弾まであと、58秒」


 カウントダウンが進む。


 ソルがルナに聞く。


「最後のイオンビームの、、、」


 ルナがソルの質問が終わる前に答えを返した。


「1010(ひとまる、ひとまる)だよ。」


 ソルがうなずき、タキオンコミュデバイスを使って、通信を送った。


 ソルがそれぞれ異なる日時を打ち込み、それぞれに空のデータを送り、その後、また日時を打ち込み、「1010」とだけ書き記して送った。


 ソルとルナが目を合わせ、頷いた。


 警報が残りの時間をカウントダウンしはじめた。


「着弾まで10、9、8、7、6」


 ルナとソルがぎゅっと抱き合った。


「5、4、3、2、1、」


 二人の周囲が真っ白になった。


<次回予告>

地球軍の猛攻を回避する深紅の機体。

誘い込まれるルナとソル。

地球の巨大AIの罠にはまった二人。

二人は今にも撃墜されそうになる。

だが、そこに”ある信号”が舞い込む。

その信号とは何なのか?

次回、第82話 ”やっぱりあるんだな。”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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