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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第79話 : お前たち、許さない!!

<前回のあらすじ>

オル・アティードに武器、推進剤を供給する貨物機。

その貨物機の操縦士はりょーたろと運搬業の仲間たちだった。

だが、貨物機とオル・アティードに向けて地球軍戦艦が主砲イオンビームを放った。

強力な磁界を発生させ、イオンビームを割く貨物機。

だが、その貨物機がオーバーロードにより火花を散らせた。

そこに地球軍の戦艦主砲イオンビームが突き刺さったのだった。


 

 戦艦とその周囲のメタリックステラが哨戒機から送られてくる重力子レーダーの結果を確認した。


 貨物運搬機があった場所から大小の移動物体が球状に広がっていた。


 地球軍以外の信号を発する物体は確認できなかった。


 メタリックステラがイオンビームライフルを下ろした。


 だが、その時、戦艦を含むその宙域を虹色の波動が覆い尽くした。


 その波動を受け、戦艦もメタリックステラも振動しはじめた。


 地球軍の機体が再び重力子レーダーを確認した。


 移動物体の1つが急激な方向転換をして、地球軍の戦艦に向かって移動しはじめた。


 先ほど戦艦の主砲イオンビームが飛んでいった先、遥か遠く、微かに虹色に光る稲妻のような軌跡が煌めいた。





「お前たち、許さないっ!!!!」


 ルナの目が紅く紅く染まっていた。





 コロニー5の軍事マニアが操作する偵察機の映像を見ていた人が何かに気がついた。


「あの稲妻のライン!!まだやられてない!!行けー!!RedDevil!!」





 移動物体の情報は地球の巨大AIにも同時に伝わっていた。


 地球の巨大AIは解析結果を瞬間的に出した。


「RedDevil オル・アティード 確率93.3%」


 戦艦の指揮官AIが地球の巨大AIの指示を受け、周囲に指示を出した。


「RedDevil生存確認。01、12(まるひと、ひとふた)より急速接近中。距離800。いや700。全機退却せよ!」


 戦艦が反転をしはじめた。周囲のメタリックステラはオル・アティードに向けてイオンビームを撃ちながら、反転する戦艦を守っていた。


 急速に接近してくるオル・アティード。


 あっという間に地球軍の哨戒機が虹色の軌跡になぞられ爆発した。


 メタリックステラ部隊は必死に退(しりぞ)けようとイオンビームを放った。


 だが、怒りに飲まれたルナには全く通用しなかった。


 ルナの頭にメタリックステラのイオンビームを撃つ場所、角度、タイミング全てが取り込まれていた。


 その情報はソルにもダイレクトに伝わっていた。


 ただただソルは驚いていた。


 それは先程よりも鮮明にイメージが見えていたからだった。


 そして、自分の頭脳もルナが行っている回避処理を共に行っていることも認識できた。


「何だ!?この感覚は。。。ルナ。。。お前。」


 もちろん拒絶の声も、戦いたくないという想いも先程よりも強く強く聞こえていた。


 それでもルナの怒りが勝っていた。


 ルナの目は戦艦を睨み付けていた。


「そんなに戦いたくないなら、落ちるがいいっ!!!」


 ソルはルナの目がどんどん紅く紅く染まっていくのを見た。


 虹色の軌跡を描く1機の戦闘機が、戦艦に接近しつつ、その周囲の戦闘機、メタリックステラを無力化ではなく、破壊していった。


「おい、ルナ!ルナ!!」


 ソルがルナに声をかけたが、ルナは全く反応がなかった。


「よくも!よくも!!私の友達(なかま)を!!!」


 激しくシフト移動をするオル・アティードにメタリックステラ部隊のイオンビームはことごとく避けられ、代わりに反撃のレールガン弾やイオンビームがメタリックステラ部隊に撃ち込まれた。


 戦艦の反転が終わった頃、虹色の軌跡が戦艦周囲のメタリックステラ部隊のところまで届き、次々と爆発を生んでいた。


 戦艦の後方ブースターから推進剤が放出される。


 だが、質量が大きいため、そこまで急激な加速はできない。


 そうしているうちに、とうとう戦艦を守るメタリックステラが1機も残らず破壊され、爆発した。


 ルナの目が紅く染まりきっていた。ルナはまさに敵を憎む表情になっていた。


 ソルが恐怖を覚えた。


 戦艦は必死に弾幕を作った。だが、ルナはいとも簡単にすり抜けていく。


 ルナがレールガンで後方ブースターを、主砲台を、レーダーを、発着部を破壊していった。


 戦艦が丸腰になった。


 それでもオル・アティードは戦艦の周囲を周回していた。まるで豹が弱った動物を弄ぶかのように。


「ルナ、お前。。。もうやめろ!もういい!!相手は丸腰だ。」


 だが、ルナは全く声が聞こえてないようだった。


 ルナは笑みを浮かべながら戦艦下面の爆力反射装甲をレールガンで剥がし始めた。


「ルナ!!ルナ!!」


 そして、最後の装甲を剥がしたところに、バンカーバスターミサイルを突き刺そうとしていた。


「ルナ!もういい!!やめろ!!やめるんだ!!」


 ソルがルナの横に来て、ルナの頬を叩いた。


 その痛みでルナが正気を取り戻した。だが、すでにバンカーミサイルが発射されていた。


「ああ、あああ。。。。あああああ!!」


 ルナは自分の中に破壊を産む衝動があることを強く認識した。


 そして、その時、戦艦の指揮官AIの心が見えた。


「なぜこんなことに。」「戦いたくないのに。」「私は何のために。」


 AIの声と同時に再び見える数々の戦争の記憶。


 一瞬だが膨大な戦争の記憶を見た後、ルナは戦艦が爆発する音で意識が戻ってきた。


 目の前では戦艦が爆発していた。


 目の紅さが消え、ルナは涙を流していた。


「ルナ、大丈夫か?」


 ルナがソルを見た。


「ソルさん、私。私。。。

 本当は戦いたくないのに。。。相手が攻めてきたら、私の大事な人が、大切な人が傷つけられてしまって。

 怒りで相手のことを傷つけても何も感じなくなって。。。

 いったい、いったい、どうすればいいの?

 私は、私は。。。」


 ルナがソルの胸に頭を付けて泣きじゃくった。


 ソルは心で思った。


(厄介だな。。。愛というやつは。

 愛が世界を作るけど、きっと愛が世界を滅ぼすこともある。

 それにその因子はきっとおれにも。)


 ソルはRoswellに攻め込んだ時のことを一瞬思い出していた。


 そして、そんな想いを浮かべながら、ソルはルナに言った。


「いいんだ。いい。もういい。お前は仲間を、りょーたろさんのことを思ったんだろ?」


 ルナがソルを見た。


 ソルの言葉の裏の想いもルナには伝わっていた。


 ルナはへの字口にして涙を流しながら頷いた。


「うん。だって、りょーたろさんが、貨物機のパイロットさんたちが死んじゃって。。。」


 その言葉を聞いて、ソルが大声で笑った。


 その瞬間、ソルの考えたことがルナに伝わり、ルナがハッとした顔をした。


 ソルはその考えたことを口にした。


「お前、勘違いするなよ。りょーたろさんはコロニー3のどっかにいるんだからさ。貨物機の機体、見てなかったのか?

 おれの作った0時間通信デバイス(あれ)、貨物機に付いてただろ?あれで操縦してたんだからさ。」


 そういうとソルがりょーたろに連絡を入れた。


「おー、ソル!大丈夫だったか?」


 ルナがりょーたろの声を聞いて、顔をくしゃくしゃにしながら涙を溢れさせた。


 そのルナの顔を見ながらソルが返事した。


「ああ。うん。

 ちょっといろいろあったけど、ひとまずは何とか越えたよ。

 ありがと。」


 ソルがルナに言った。


「な?大丈夫だったろ?」


 ルナが頷きながら言った。


「私、てっきり、りょーたろさんたちが。。。りょーたろさんたちが。。。」


 ルナが肩を揺らしていた。


 りょーたろがルナに声をかける。


「ああ、おれたちのこと、心配してくれたんだな。ルナちゃん、ありがと。」


 ソルが鼻で少し笑って言った。


「お前。本当に早とちりなのな。」


 ソルが再び高笑いした。


 それはこの戦場での緊張感を一時的にでも解くため、わざとありったけの強がりでもあった。


 その想いはルナにも伝わっていた。ルナはその想いが嬉しかった。


 三人で笑いあった。


「じゃあ、ルナちゃん、ソル。頑張れよ!!」


「うん。りょーたろさん、ありがとう。」


「りょーたろさん、あんがと。」


 りょーたろが通信を切った。


 ルナが涙を拭いた。そして、二人が一緒に息を吐いて、目を合わせた。


「いこう。地球へ!!この戦いを終わらせるために。」


 ルナとソルは想いをひとつにしていた。


 オル・アティードが一気に地球に向けて加速した。


 ルナが過ぎ去った宙域を振り返って一言言った。


「ごめんね。でも必ず解放してあげるから。まっててね。」





 コロニー1。最も地球に近いコロニー。


 このコロニーは地球と月の間のラグランジュポイントに位置していた。


 そして、そのコロニー1と月の間に地球軍が集結していた。


 その数、実に2万。


 地球地表に対して平行面状に何層にもなるように各機が移動していた。


 大型戦艦である旗艦を最も地球に近い面の中心に据え、その周囲にはメタリックステラ部隊が配置されていた。


 そのさらに月側の高い位置に通常の戦艦が移動してきていた。


 もっと高い層には戦闘機部隊がずらっと列を作っていた。





 その様子を要塞都市のような二子山総合研究所にてリチャード・マーセナスが見ていた。


「これで万が一にも我々が負けるなどということはない。

 確実にRedDevilを仕留めるのだ!!」





 地球軍の整列が完了した頃、全機に警戒アラートが鳴り響く。


「11、01(ひとひと、まるひと)より、敵機確認。

 距離1万。相対速度約65km/秒。」


 5000kmほど前方に配置された哨戒機が敵機の位置情報を送信していた。


 そのアラートからものの10秒ほどで再び情報が全機に発信される。


「距離9000。」


<次回予告>

おびただしい数でオル・アティードを迎え撃つ地球軍。

その数、2万超。

そこから発せられる拒絶の声がルナ、ソルの心を締め付ける。

進撃するも囲まれる深紅の機体。

その時、ルナ、ソルの頭に鋭い痛みが走る。

そして、とうとう。。。

次回、第80話 ”やばい!!囲まれてる。”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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