第8話:魂を込め、心を解放するんだ!!
<前回のあらすじ>
夜になり、ルナは両親に内緒で”OneYearWar”にログインする。
光の未来という意味を持つルナの機体、オル・アティード。
またの名を”RedDevil”。
彼女の機体は圧倒的速度で敵陣営に侵攻していった。
だが、戦艦を目前にして、彼女は敵メタリックステラ部隊に包囲されてしまう。
そして、彼女の機体におびただしい数のイオンビームが襲いかかるのだった。
戦艦との距離が100kmを切った時に、オル・アティードのコックピットの武器表示部分に変化が現れた。
(N2 Missile:NoEscapeRange)
と、同時に再び額に電気が流れるような感覚。
気がつけば、メタリックステラが赤い機体を球状に取り囲むように集まっていた。
「よし!包囲完了。」
「今だ!!撃て!!」
「流れ弾、気をつけろよ!!」
無数のイオンビームがオル・アティードを襲いはじめた。
オル・アティードはアサルトユニット2つ、ブースターユニット2つを180°回転させ、逆噴射により急激に進行速度を落とし、それまでとは全く異なる動きを見せはじめた。
先ほどの稲妻のような動きからまるで蝶が羽ばたきながらヒラヒラ動くような動きに変化したのだった。
飛び交うイオンビームが羽ばたきの動きによってことごとく空を切った。
そして、赤い機体からビームが放たれ、向かってくるミサイルを的確に捉えた。
また、ビーム射出口の後ろにあるミサイル射出口が開き、ミサイルもあちこちに発射された。
メタリックステラは反撃に対して回避行動を取るが、距離50kmでは避けられるほどの時間はなかった。
さらには動きにディレイも加わっていた。
メタリックステラはまだしっかりと盾を構えきれていなかった。
そこに急に飛んできたミサイルによって盾を吹き飛ばされ、その上にさらに飛んできたミサイルがボディに突き刺さった。
胴体で爆発が起こり、メタリックステラの身体が2つに分離した。
周囲のメタリックステラも同様に爆発していった。
「もう少しだけ耐えてくれ!!こっちから援護に向かう!!RedDevilさえ撃てば。。。」
敵陣営にRedDevilがいると分かった時からRedDevilが進行した逆サイドにいた部隊もRedDevilを追いかけるように移動して来ていた。
「早く来てくれ!!どんどんやられている!!」
RedDevilを取り囲んだメタリックステラ部隊から救援を求める声が響く。
だが、次の瞬間、RedDevilを追いかけ移動している機体の回線から激しい爆発音が何度も木霊した。
時を同じくして、RedDevilの援軍がようやく戦闘宙域に入ってきた。戦闘機、メタリックステラ部隊の中で通信が飛び交う。
「12、12(ひとふた、ひとふた)に敵機確認。RedDevilを援護せよ!前方敵機を撃てよ!撃てよ!撃てよ!!」
RedDevilを追いかけ移動してきていた戦闘機部隊を真横から狙い撃ちする形となった。
RedDevilの援軍がイオンビームやミサイルを次々と放った。
突然横からイオンビームが降り注いだ。若干遅れてミサイルも飛んで来た。
「ヤバい!90度回頭!!」
「敵部隊、09、12(まるきゅう、ひとふた)方向!!」
「09、01(まるきゅう、まるひと)からもだ!」
「09、11(まるきゅう、ひとひと)からも。。。あーー!!」
回線から幾度となく爆発音が鳴り響いた。
突然の急襲に慌てる編隊。
ある者は真横から、ある者は斜め上から、ある者は斜め下から狙われ、なす術なく、爆発していった。
「こんなことがあり得るのか!?」
戦艦の指揮官が信じられない光景を見て、恐れおののいていた。
オル・アティードは舞う蝶のように動き、周囲に陣取っていたメタリックステラのほぼ全機を爆破した。
そして、ブースターユニット4機で再び加速を始め、目の前に佇む戦艦に近づいた。
「来るぞ!!弾幕作れ!!早く!!」
そのユーザーの指令を受け、戦艦に付く無数のレールガン砲が一斉に射撃を開始した。
AIは標準を的確にオル・アティードに合わせ、射撃をしようとする。
だが、一瞬のディレイが生じていた。
漆黒の宙に再び虹色に光る稲妻のような軌跡が描かれた。
「この程度、弾幕とは言わんのだよ!!」
オル・アティードは60mmレールガン砲弾を回避しながら次々と砲台を破壊していく。
「さあ、電子の海に還るがいい!!」
そして、回避動作の合間にアサルトユニットからパイルバンカーミサイルが放たれた。
周囲の砲台を失った大きな艦体の脇腹は恰好の的だった。
ミサイルは一瞬で艦体の中央にめり込み、武器庫にまで到達。
誘爆を伴い、戦艦が激しく内部から爆発した。
RedDevilを追いかけていた敵部隊やその部隊を横腹から攻撃していたRedDevil側の部隊からも戦艦の爆発が見えた。
「一機で戦艦をやったというのか?」
その言葉が終わるかどうかのタイミングで再び大きな爆発の光が見えた。
その爆発の光は徐々に敵包囲網の中心に向かって近づいていく。
RedDevilと行動を共にしていた白い機体は少し離れた位置からその戦いぶりを見ていた。
RedDevilは周囲の攻撃を避けながら、どんどん敵機を撃ち落としていく。
白い機体もただ見ているだけではなかった。
わずかに虹色の光を帯びた白い機体はRedDevilが爆破した機体の周囲にいる機体を次々と撃ち落としていた。
当然のように白い機体もそれなりに狙われ、イオンビームやレールガンを撃たれているが、何とか避けていた。
危なっかしいその避け方をルナは見ていた。
五機目の戦艦を爆破した時、周囲の敵機が逃げ出した。
進行速度を落としつつ、白い機体のパイロットに話しかける。
「お前、なかなかやるな!」
「いえ、レッドデビルさんほどでは!」
その時、白い機体の背後で片足を失ったメタリックステラがイオンビームライフルを構えていた。
それをルナが認識した。
と同時に、白い機体のパイロットとルナの思考がわずかにリンクした。
白い機体のパイロットが、ルナの認識を通して、敵機の照準を感じた。
白い機体が突然ぎこちなく回避運動を取る。
白い機体の背後にいたメタリックステラからイオンビームが放たれた。
だが、白い機体はすでに回避行動を取っていた。
白い機体はギリギリでイオンビームを避け、反転してイオンビームを放った。
逆にメタリックステラは盾を構えるのが間に合わず、左手を落とされ、頭、右足を落とされ、遂には胸にイオンビームが突き刺さり、爆発した。
白い機体のパイロットは、先ほど感じた、オル・アティードのパイロットとリンクするという不思議な感覚に驚いていた。
二人はお互いの記憶もわずかにやりとりしていた。
ルナには、白い機体のパイロットが見る母親や妹の姿、宇宙に飛び立つ父親の姿、RedDevilの映像を見て真似る手の様子、通う遊技場の映像などが飛び込んできた。
そこにはRedDevilを尊敬している気持ち、父親不在の寂しい気持ち、誰にも負けたくないという想いも籠っていた。
白い機体のパイロットには、ルナが見る豪華なパーティーの様子、夜な夜なアクセスするOneYearWarの映像、朧げながら感じる両親との壁、本心の感じられない大人たちへの嫌悪感、OneYearWarのプレイヤーとの繋がりに感じる救い、それらが伝わってきた。
二人はお互いの抱えている不安、寂しさ、僅かな希望を共有することで、お互いの距離をそれまで以上に近く感じた。
お互いがふと我に帰る。
「すみません。ありがとうございます。」
その白い機体のパイロットはRedDevilに助けてもらったと感じ、礼を言った。
「いや。何もしてないよ。お前の感じたものはお前の強さだ。」
ルナはそう言いながら先ほど見た映像を思い返した。
遊技場の看板ホログラムに書かれていた店名。
(コロニー3-104 E地区中央店)
ルナがそれを口にすることはなかった。
(うん?同じコロニーか。。。)
その少し覚束ない避け方に以前の自分を見た。
ルナは5年前、”The drop of the colony”を始めた頃に出会ったスーパープレイヤーのことを思い出していた。
「考えるんじゃない。感じるんだ!!」
SummerEyeと呼ばれていた謎のプレイヤーが、モジャモジャ頭の操縦者の載る赤い機体に向けて言った。
SummerEyeの操る青い機体はまるでどこにビームが来るのかが分かっているように動き、そしてどのように相手が動くかが分かっているかのように反撃していた。
赤い機体の動きはその動きよりも少し重たく見えた。
そして、SummerEyeが付け加えた。
「そして、魂を込め、心を解放するんだ!!」
「魂を込める?心を解放?」
「そうお前の魂、心を。そうすればお前は私以上の無二の力を得られるはずだ!!」
オル・アティードの進む先に敵の旗艦が見える。
「お前に魂を込めてやる!!」
オル・アティードのアサルトユニットに付いている八つのビットがアサルトユニットから離れ、機体の回りをグルグルと回りだした。
そして、ビットの光彩部分が虹色に光り、それまでの光をより大きいものにした。
「いくぞ!はああぁぁーーーーー!!」
オル・アティードがさらに加速し、虹色に輝く稲妻のような軌跡を描いた。
周囲にいた戦闘機、メタリックステラ、敵味方区別なく、機体が小刻みに揺れだし、動きが重くなった。
それらの戦闘機、メタリックステラから放たれる無数のイオンビーム、ミサイル、レールガンの砲弾は全て、虹色の軌跡の上、すでに赤い機体が過ぎていったところに放たれていた。
パイロットの目が赤く染まりだす。
付いてきていた白い機体もその様子を見ていた。
「魂を、、、込める、、、」
その時、流れ弾となったイオンビームの一本が白い機体のブースターの一つを貫いた。
白い機体が爆発してしまった。
稲妻のような虹色の軌跡が旗艦に近づく。
「距離100!もう逃げられません。」
「いっっくぇーーーーー!!!」
「えーい!イオンビームは効かん!!
ミサイルだ。飛んでくるミサイルを撃ち落とせ!!」
旗艦からの声と時を同じくして、赤い機体から無数のパイルバンカーミサイルが放たれた。
赤い機体が回転しながら吐き出したミサイルは色んな角度にばら蒔かれ、急激に角度を変え、旗艦の方に急加速して飛んでいった。
砲台がミサイルを次々に迎撃する。
だが、照準を絞る砲台を赤い機体はイオンビームで撃ち抜いていった。
そして、再び赤い機体からパイルバンカーミサイルが射出された。
「El fin!さあ、電子の海に還るがいい!!」
旗艦の砲撃により、放たれた何個かのミサイルは撃ち落とせたものの砲台の不足により、数発のミサイルが旗艦の同じ箇所に着弾する。
爆力反射装甲が何発かのミサイルを跳ね返した。
だが、それにも限度が来た。
ミサイルは旗艦の防御壁を貫き、リアクターに到達したのだった。
そして、旗艦は青紫の光を放ちながら爆発した。
「そんな、、、一機ごときに、、、くそー、覚えてやがれ!!」
「はあっ、はあっ、はあっ、終わりだ!!」
充血した目のパイロットが息づかい荒く言った。
コックピットの表示にはミサイル残量が残り1となっていた。
爆発の光が収まった時、コックピットに勝者の表示が現れた。
(Z国勝利!!最優秀プレイヤー=LittleForest、機体名=オル・アティード)
ポイントが加算され、十二位まで落ちていたルナのランキングが再び世界一位となった。
ルナの大活躍の夜が開けた。
ソルは医療回復ポッドのカバーに備え付けられているレーザー照射部を見ていた。
「どうかの?直りそうかの?」
お婆ちゃんがソルに話しかけた。
<次回予告>
夜、部屋に籠り、宇宙戦争がモチーフのゲーム”OneYearWar”にログインするルナ。
AIをも打ち負かす凄腕のヒューマンプレイヤーのルナは”RedDevil”と呼ばれ、
ゲームの中で快進撃を見せるのだった。
そして、次の日、ソルは親しくしているお婆ちゃんの家で医療用の回復ポッドを修理する。
そこに現れる不吉な影。
ソルはその影に飲まれていくのだった。
次回、第9話 ”なかなか健康的な身体を持っているようだ。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!