第77話 : これで終わりだ!
<前回のあらすじ>
地球軍の機体30機を無力化した深紅の機体、オル・アティード。
その動きを見て、地球軍はコロニー5宙域に500機を超える機体群を用意した。
その機体から浴びせられるおびただしいAIの拒絶の声。
折れかかるルナの心。
その時、ソルの強い想い、コロニー5や他コロニーでルナを応援する人々の心がルナに流れ込んだ。
覚醒するルナ。
オル・アティードは次々と地球軍を退け、地球軍は退却を余儀なくされた。
だが、その時、オル・アティードに残された推進剤が僅かであることがルナを通じて、地球軍に伝わってしまったのだった。
オル・アティードは次から次へと戦闘機を戦闘不能状態にした。
出撃時、フル充填ではないにしろ、それまでのルナの動きであれば充分に地球まで持つ推進剤を積んでいた。
だが、ルナの動きが覚醒した後の動きは推進剤の消費量も増加していた。
ルナは推進剤の残量をチラッと見た。
(あと、5%もない。)
ソルにもその心配が伝わる。
リチャード・マーセナスが苛立ちの姿で指示を出した。
「くそっ!全機退却だ!!退却しろ!!」
オル・アティードを狙った無数の攻撃が急激に減少し、各機が退却していく。
だが、ルナの推進剤残量を気にする感情が僅かながら退却しようとする戦闘機に伝わった。
JAM-Unitは本来、意思を疎通させる機器であるため、逆方向にもわずかに信号が流れていたのであった。
それは瞬間的に地球の巨大AIにも伝わった。
地球の巨大AIがリチャード・マーセナスに意見を述べた。
「退却命令を破棄し、直ちに攻撃を再開させてください!」
リチャード・マーセナスの苛立ちがますます高まった。
「なに!!?お前、さっきは撤退しろと言っただろが!!」
地球の巨大AIは冷静に答えた。
「いえ、敵機の推進剤残量が少ない可能性が高いのです。」
リチャード・マーセナスが目を見開いた。
「なんだと!!それは本当だろうな。」
そう言うと、リチャード・マーセナスが咄嗟に指示を出した。
「退却命令破棄。直ちに攻撃再開せよ!」
敵機の退却を見たルナが気を緩めた。
だが、次の瞬間、撤退を始めていた機体が急速な方向転換を行い、再びオル・アティードに向かって攻撃を始めた。
ソルが、言葉にはしなかったが、心で思った。
(ルナの推進剤の残量への不安を察知されたか。。。)
その思いがルナに伝わった。
ルナがチラッとソルを見た。
ソルが一瞬しまったという顔をしたが、2人はお互いの目を見て頷き、お互いの戦い抜く覚悟を確認した。
オル・アティードはそれまでと変わらず動き続け、イオンビームやレールガン、ミサイルを放ち続けた。
戦闘機がひっきりなしに爆発する。
戦闘機が残り約40機になった時、オル・アティードの推進材残量が3%を切った。
さらに戦闘が続いた。
戦闘機、残り約15機。推進剤残量1%。
それでもなおオル・アティードが激しく動く。
アサルトユニットが回転し、戦闘機を戦闘不能にしていく。
ルナとソルの融合した意識が、コックピットボール右上のアサルトユニットを敵機に向かってクルッと回転させようとする。
サイドブースターから推進剤が放たれる。
アサルトユニットが想定角度に達するか達しないかの時、そのアサルトユニットからの推進剤放出が止まった。
アサルトユニットから射出されたイオンビームが何とか戦闘機の下部に付いているイオンビーム砲と翼に付いているブースターを潰した。
残り3機。
だが、とうとうオル・アティードの推進剤が底を尽き、ブースターから推進剤放出が止まった。
その様子を3体の戦闘機が確認した。
3機の戦闘機がアサルトユニットの攻撃角度から外れた位置でゆっくりとオル・アティードの方向に姿勢を直した。
地球ではリチャードマーセナスがその様子を見ていた。
「よし!ついに推進剤が尽きたか?
これで終わりだ!
これでとうとう地球の時代が始まる!!
私の時代、私の時代が!!」
戦闘機がオル・アティードに向けて照準を合わせ始めた。
その情報がルナとソルにも伝わる。
だが、2人にはどうすることもできなかった。
ルナが機体を動かそうと操縦桿をガチャガチャと動かした。
「動いて、動いてよ!!今、動かないと、みんなが、みんなが。。。」
ソルが心の中で呟く。
(くそっ!!ここまでか。。。)
ルナがクルッとソルの方に向き直り、叫ぶ。
「そんなことない!!なにか、なにか方法が!!」
「分かってる。分かってるけど。。。」
戦闘機の砲塔が深紅の機体に合わせられた。
その時!!
オル・アティードの後方から3本の光が差し込んだ。
その光はオル・アティードの周囲にいた戦闘機に着弾した。
戦闘機が爆発する。
遥か地球側に位置する戦艦、メタリックステラ部隊がその様子を見ていた。
前方で光った突然の爆発に指示が飛ぶ。
「イオンビームで前方敵機を狙い撃て!!」
イオンビーム砲塔がオル・アティードに向けて照準を合わせた。
オル・アティードの近くで爆発した戦闘機の隙間から地球方向にミサイルが何発も飛んでいった。
そして、炸裂。その宙域一帯が若干緑がかった。
それは濃いイオン中和フィールドであった。
地球軍の戦艦指揮官AIが指示を出した。
「照準合わせたものから撃ち方はじめ!!」
戦艦横に配置していた多数のメタリックステラから一斉にイオンビームが放たれる。
オル・アティードに向けてイオンビームが飛んでいく。
だが、深紅の機体の前まで進行した後、そのイオンビームはバチバチと音を立てて霧散した。
オル・アティードの後方からさらにミサイルが飛んでいて、再びイオン中和フィールドが補充されていく。
そして、後方から平らでハンバーガーを潰したような貨物運搬機や細長い貨物運搬機、骨付き肉のような形のこれも貨物運搬機がオル・アティードに近づいてきた。
「よう!ソル、ルナちゃん。
イオンビームやレールガン、ミサイル、イオン推進剤は要らんかね?」
「は!?りょーたろさん??」
ルナが目を丸くした。
「ルナちゃ~ん。今ならお安くしとくよ!!」
ソルも驚いていた。
「え?りょーたろさん?もしかしてさっきのイオンビームってりょーたろさんが?」
「ああ!おれだけじゃないけどな。」
周囲の貨物船がひっきりなしにイオン中和フィールドを辺りの宙域に振り撒いていた。
「りょーたろさんの仕事仲間の人たち?」
「ああ、そうだぜ。まあ、おれがちょいと声を掛ければ、いろんな人が協力してくれるってわけだよ。」
「はは。さすが、りょーたろさんだね。」
すると、貨物機のパイロットが口を挟んだ。
「りょーたろ。後払い忘れんなよ。これ、貸しだかんなー。」
にやけ混じりの言葉の後、若干の沈黙が入り、りょーたろが切り出した。
「ハンさん、いいところなのにさ。へんなチャチャ入れないでよ。」
「ぐあっはっはっはっはっ。ちょっとした挨拶代わりだよ。ぐあっはっはっはっはっ。」
ソルは改めてりょーたろの有り難さを認識していた。
「あっ、っていうか、はやく補給しねーとな。」
りょーたろの操るハンバーガーのような貨物運搬機が上下2つに割れてオル・アティードを挟んだ。
上下2つに割れた貨物運搬機各々から配管が伸びてきて、オル・アティードの各ユニットに繋がった。
りょーたろの目の前にオル・アティードの武器残量、推進材残量が表示された。
「やっぱか。飛びたつ前、投入量、確認し忘れてたんだわ。すまん。」
りょーたろが供給ボタンを押した。
上がっていく推進剤残量を見て、ルナがホッとした。
「りょーたろさん。ホントにありがと。もう私、ダメだと思ったよ。」
「そうだね。後ろから追い付いた時、マジでやばそうな雰囲気だったもん。
まあ、こういうギリギリで来るのも、ちょっとヒーローっぽいでしょ?」
ルナが笑って返した。
「ホントにりょーたろさんたちはヒーローだよ。映画みたい。」
「へへっ。」
りょーたろが鼻の下を人差し指でこすりながら、上がっていく武器残量、推進剤残量をチラッと見た。
「いや。ほんとに助かったよ。ありがとう。りょーたろさん。」
「まあ、やっぱお前にはおれがいないとダメだな。」
ソルも半分冗談っぽく、照れながら答えた。
「うん。おれ、本当にりょーたろさんに感謝してる。ありがと。」
りょーたろも同じようなトーンで言った。
「まっ、お互い様だけどよ。」
ルナは二人の関係を少し羨ましく思った。そして、その想いはソルにも伝わっていた。
(もうお前も入ってんだけどな。)
ルナにはソルの声が聞こえた。
ソルとルナ、りょーたろが話している間も何度も何度もイオンビームが飛んできては中和されていた。
「主砲イオンビーム、充填急げ!!」
地球軍の戦艦内で指示が飛ぶ。
主砲イオンビームのエネルギーを充填している間もメタリックステラがイオンビームを放っていた。
「話の途中すまんけど。りょーたろ!!相手さん、どんどん撃ってくるぞ!!」
「ああ!分かってる。でも、もう少し、もう少しこらえてくれ。」
ひっきりなしに貨物運搬機からミサイルが放たれ、前方で炸裂し、中和フィールドが展開されていた。
そのおかげで飛んできたイオンビームは霧散していく。
その時、ルナとソルが地球側の何も見えない暗闇の中から何かを感じ取った。
ソルとルナ、二人が同時に叫んだ。
「ヤバい!戦艦のイオンビーム、来る!!」
<次回予告>
オル・アティードに襲いかかる戦艦からの主砲イオンビーム。
深紅の機体に走る激しいノイズ。
そして、けたたましく響く甲高い音。
ルナとソルの視界が真っ白に染まる。
次回、第78話 ”あと、少しだけ待ってくれ!!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




