第71話 : いままでの戦場には皆無だ。対応しきれまいて。
<前回のあらすじ>
ソルは、ソルが開発した0時間通信機器”タキオンコミュデバイス”の技術を地球議会長リチャード・マーセナスに騙し取られた。
その技術と地球の利点であるAIリソースを使い、コロニーに対し侵攻を開始した地球軍。
そして、瞬く間にコロニー1が陥落した。
その時、ソルの祖父、柊レイがルナに聞いた。
”OneYearWar”と同じ機体があれば、地球にあるAIの本拠地を叩けるか?
AIの拒絶の声に苦しんでいるルナだったが、苦悩の末、機体に乗ることを決心した。
だが、まだ機体は製造中の段階。技師達は言う。時間が足りないと。
それを見たソル、りょーたろが何とか間に合わせるよう、動き出したのだった。
地球軍はコロニー1に続き、コロニー5に侵攻を開始した。
逆算すると、コロニー5陥落までに機体を造り上げる必要がある。
ソル、りょーたろは機体を間に合わせることができるのだろうか!?
コロニー5の戦闘機、メタリックステラが防衛体制を敷いていた。
そこに微弱ではあるが、地球軍の放つ虹色の波動が広がってきた。
それを受けたコロニー5の機体が若干震え始めた。
その宙域に地球軍の戦闘機が進軍してきた。その後方にはメタリックステラも陣取っていた。
宙域にイオンビームが、誘導ミサイルが、レールガン弾が飛び交いはじめた。
「11、11(ひとひと、ひとひと)方向。敵戦艦。前方200キロ地点に中和フィールド展開、急げ!!」
中和フィールド用のミサイルが放たれ、それと同時にコロニー5戦艦主砲からイオンビームが放たれた。
コロニー5の機体群はビームの射線から逃れていた。
地球軍の機体の多くは、相手戦艦の主砲の向きから攻撃を予測し、回避行動をとっていたが、回避行動が間に合わない数機がビームに巻き込まれ、爆発した。
だが、地球軍もただではやられなかった。
地球軍の機体も反撃のイオンビーム、レールガン弾、誘導ミサイルを放った。
コロニー5軍の機体数機がイオンビームの犠牲となった。そして、犠牲となった機体の周囲が回避行動を取った。
しかし、地球軍の放ったレールガン弾やミサイルはAIの判断によって避けるであろう方向に的確に撃ち込まれていた。
コロニー5軍の戦闘機数機は遅れて飛んできたレールガン、ミサイルの餌食となった。
コロニー5軍の機体がその爆発を回避する行動を取った。
ところが、各々の機体が取った回避方向が同じ位置となるような状態を作られてしまっていた。
「なに!これをまさか狙って!?我々の回避アルゴリズムが読まれているのか!?」
集められたコロニー5軍の戦闘機数機に地球軍の主砲が狙いを定めていた。
コロニー5軍戦闘機が攻撃を察知。避けようとする。だが、そこに虹色の波動による処理ディレイが入り込む。
「ダメだ!!間に合わない。。うわぁぁーーー!!」
戦闘機の回避動作が始まる前に戦艦主砲のイオンビームが戦闘機を捉え、爆発した。
後方のコロニー5軍戦艦指揮官はその様子を見て困惑していた。
「Jamming信号だと!?微弱とはいえ、全周波数を網羅しているではないか!!
なのに、なぜだ!?なぜ、やつらにその影響が見えん。
やつら、まさか、、、ヒューマンコントロールなのか!?」
コロニー5軍と地球軍の間で応酬が繰り返され、いたるところで爆発が発生した。
だが、爆発の数は明らかに地球軍よりもコロニー5軍が多かった。
地球軍の機体はお互いの連携がとれており、その連携速度はコロニー軍のそれを遥かに上回っていた。
さらに、虹色の波動がコロニー5軍の動きを重いものにした。
だが、なぜか地球軍の機体にはその影響がほとんど見られていなかった。
コロニー5軍の戦艦から放たれたイオンビーム、ならびに地球軍戦艦から放たれたイオンビームはお互いの敵戦艦前方で霧散した。
「敵機前方中和フィールドの濃度が濃い。
イオンビーム撃ち方やめい!!
これより戦闘機、メタリックステラによる接近戦闘に入る。
各機、円錐隊形に移行。
主砲射線には入るなよ!!」
地球軍戦艦は主砲ビームが収まったことを受け、戦闘機、メタリックステラを次々と宙域に放ちはじめた。
両軍とも戦艦前方に濃い中和フィールドを展開して、見守っていた。
戦闘機やメタリックステラ、小型ビットの爆発がいたるところで発生し始めた。
その爆発の数は地球軍1に対して、コロニー5軍が6。
コロニー5軍はみるみるうちに機体の数を減らしていった。
コロニー5の戦艦の指揮官AIがその状況を見て、対策を検討しはじめた。
「なんなんだ?この差は。。。
戦闘用プログラムにはそれほどの差はないはずだ。
それになぜ?Jammingをものともしない!?」
近距離戦闘において、わずかな反応速度の差が、結果に大きく反映されてしまう。
時間経過とともに地球軍とコロニー5軍のキルレートは10:1にまで拡大していった。
見る見る進んでいくコロニー5軍の機体減少。
コロニー5側の対応がどんどん後手に回っていった。
「こんなこと、あり得ない。
地球軍はなにか新しいプロセッサでも積んでいるというのか。」
戦艦の指揮官AIが対策を検討している間に、コロニー5の戦艦の弾幕をすり抜け、地球軍の戦闘機、メタリックステラが接近していた。
「02、10(まるふた、ひとまる)にメタリックステラが接近中!!」
「11、02(ひとひと、まるふた)に戦闘機接近中!!」
「もっと弾幕張れ!!」
戦闘機の爆発の後ろからメタリックステラが10機ほど現れ、戦艦の前方に陣取った。
メタリックステラが各々キャノン砲を肩に乗せ、戦艦に対してミサイルを放とうとしていた。
「撃たせるな!!メタリックステラを狙え!!」
コロニー5軍に破壊されるメタリックステラもあれば、一部破壊されながらもミサイルを発射したものもいた。
ミサイルが勢い良く戦艦に向かって飛んでいく。
「ミサイルだ!ミサイルを狙え!!撃ち漏らすなよ!!」
戦艦砲台や防御用メタリックステラがミサイルに向けてレールガン弾やイオンビームを放った。
爆発。ミサイルが次々に迎撃され、爆発した。
だが、その爆発の中を通り、突き進む一部のミサイル数個が、レールガン弾やイオンビームの隙間をすり抜け、戦艦に突き刺さった。
戦艦の爆力反射装甲によって装甲が剥がれるだけであったが、第2陣の戦闘機やメタリックステラがミサイルの照準をすでに戦艦に合わせていた。
そして、第2陣のミサイルが発射された。
かなりのミサイルが迎撃されるも、第1陣の時よりもレールガン砲台が破壊されており、複数個のミサイルが戦艦に届いた。
爆力反射装甲が炸裂したが、ついにその装甲が爆発しきってしまい、戦艦内にミサイルが侵入した。
ミサイルは武器庫にまで届き、ついにコロニー5軍の最先鋒戦艦が内部から爆発した。
地球軍も幾分かの損害は出すもののコロニー5軍の被害が圧倒的な量となっていった。
りょーたろがアサルトユニットと電磁ネットユニットを固定する接着材料の流し込みを行っていた。
「よし!これでこの接着材を硬化させれば、アサルトユニットは完成だ!!」
ソルはブースターユニットのイオンジェットの出力調整を機体を触りながら行っていた。
「こっちはもうちょっと、、、かかりそうだ。。。
LD側のサイドブースター0.3マイナスに振ってくれ!」
そう言いながらソルは技師やアンドロイドと一緒に調整を繰り返し続けた。
コロニー5の旗艦がコロニー5首都コロニーの回転軸の位置にあるスペースポートから出撃していた。
旗艦周囲には戦艦や巡洋艦が何隻も出てきており、総攻撃の様相を呈していた。
それらに対峙するように地球軍の戦艦も侵攻していた。
相互が出方を見るようにゆっくり近づき、ある距離を超え近づいた瞬間、互いの戦艦や巡洋艦からおびただしい数のイオンビームが打ち出された。
コロニー5軍の艦隊から戦闘機、メタリックステラ以外に小型の脱出ポッドが無数に吐き出されていた。
それはもちろん艦隊から脱出する目的ではなかった。
脱出ポッドには戦闘機1機分の推進ブースターが取り付けられており、一気に地球軍の戦艦に向かって突き進んでいた。
メタリックステラの手ほどの小型サイズであるため、重力子レーダーにもほぼ掛からず、レールガン、イオンビームの隙間を飛んで地球軍に進行していった。
無数の脱出ポッドはその加速度からあっという間に先頭を走っていた地球軍戦闘機、メタリックステラの位置まで到達した。
地球軍戦闘機やメタリックステラもレールガン、イオンビームで対応した。
接近する幾らかの数機を撃墜するも、次々に襲ってくる脱出ポッドはお互いの視点を共有し、戦闘機、メタリックステラのエイムを躱し、ついには戦闘機やメタリックステラに追突し爆発した。
爆発にともない、コロニー5軍では歓声が上がった。
コロニー5旗艦に搭乗している総督がその様子を見ていた。
「これほどの小さく無数の機体同士によるリンク戦術は、いままでの戦場には皆無だ。対応しきれまいて。」
コロニー5の総督がほくそ笑んだ。
地球。二子山総合研究所。
地球軍の戦闘機、メタリックステラのカメラからの映像全てが、0時間通信を通して、地球の二子山総合研究所のデータセンターに送付されていた。
二子山は今や山自体が巨大な量子コンピュータ群となっていた。
二子山ではAIが瞬時に数千溝(溝は 兆、京、垓、穣のさらに上)スレッドを立ち上げ、パターン分析が開始された。
日々積み上げられてきた”OneYearWar”の戦闘データもその蓄積データには存在しており、それまでの数えきれないほどのユーザーが試した奇抜なアイディアによる戦闘データもそれらに含まれていた。
もちろんそこには無数のドローンによる攻撃データも含まれていた。
そこに今回の周囲機体データリンクによる動作が追加され、あれよあれよと言わぬ間にその動作解析が完了した。
そして、その対応処理アルゴリズムから導き出された動きが戦闘機、メタリックステラに送信された。
地球軍の機体の動作指示が二子山の超巨大AIによってなされていた。
それはまさにソルが開発したタキオンコミュデバイスであればこその成せる技であった。
地球軍戦闘機、メタリックステラを襲っていた数多くの爆発が見る見る間に減少。
それに伴って、コロニー5総督の顔から笑みが消えていき、それは焦りへと変わっていった。
「なぜだ?なぜこれほどまでに迅速な対応が!?」
脱出ポッドに搭載されたAI同士の連携では処理能力が限られていた。
そこから導かれる対応パターンは地球の超大型AIからすると子供のおもちゃのようなものであった。
地球AIに読みきられ、そこからのデータで動く戦闘機、メタリックステラに脱出ポッドは次々と落とされるようになった。
爆発の場所が地球軍の位置している宙域から徐々にコロニー5軍の宙域に移ってきた。
爆発は脱出ポッドだけでなく、コロニー5前線の戦闘機に、戦闘機の後方に構えているメタリックステラに、そして巡洋艦にと次々と移ってきた。
押され始めた戦況を見て、コロニー5の総督が怒りを露にして指示を出した。
「ええい!次だ!!太陽の火起動!!」
コロニー5軍の機体が一気に撤収じはじめた。
地球軍の機体が、撤収しだしたコロニー5軍の機体を追走しだした。
だが、次の瞬間。
追走する地球軍の機体群が、成している編隊の端から爆発し始めた。
その爆発が横の機体に、また横の機体にスライドしていく。
その爆発を地球軍の機体たちが情報共有していた。
爆発した機体のログから爆発する位置では激しく機体が熱せられ、一部がドロッと溶けた後、ジェネレータの熱暴走により爆発していた。
<次回予告>
突如として燃え出した地球軍機体。
だが、その瞬間から思考を巡らす地球軍の頭脳(AI)。
その思考は0時間で宇宙を駆ける。
地球軍は、コロニー5軍は、どうなってしまうのか。
次回、第72話 ”全機、玉砕の覚悟で臨め!!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




