第70話 : 私、乗ります!乗せてください!!
<前回のあらすじ>
ソルはリチャード・マーセナスのコロニー関税に失望し、リチャード・マーセナスの工場での0時間通信デバイス”タキオンコミュデバイス”の量産を断念した。
リチャード・マーセナスのコロニー関税はコロニー議会の反対を受け、否決された。
地球での量産を断念したソルは自分のアパートでデバイス製造をしていた。
その時、恐ろしいニュースがソルに舞い込んできた。
地球軍がコロニーに侵攻を開始したというニュース。
しかも、なぜか地球軍が圧倒的に優勢となっていた。
そこにさらに追い討ちがソルを襲った。
地球軍の機体にタキオンコミュデバイスが付いている事実。
ソルは慌てて、りょーたろとルナ、ルナの家族、さらにソルの家族を集め、現在起こっていること、タキオンコミュデバイスが使われていることを全員に話したのだった。
ソルが柊レイを見た。
「じいちゃんは何も悪くないよ。おれだ。おれがあいつを信用したのが。。。」
ソルが一度下を向いた。
そして、目をつぶり、一息を吐いた後、キッと目を開いて言った。
「でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。
この状況をどうすべきかを考えなきゃ。」
柊レイが少し笑って言った。
「そうじゃ。その通りじゃ。今をどう打開すべきか。」
その時、ルナが頭を抱えてしゃがみこんだ。
「イタッ。また悲鳴と助けを求める声が。。。」
ルナの顔色が青ざめていき、明らかに気分が悪くなっている様子であった。
次の瞬間、全員にニュースが入った。
ソルが言った。
「次はコロニー5が狙われてる。」
レイモンド小林がルナに聞いた。
「ルナ。大丈夫かい。何が聞こえたんだい?」
母親に手で支えられ、額に汗をしたルナが答えた。
「人々が逃げ惑う叫び声と。。。」
柊レイやミライ、小林秋雄と小春もルナをじっと見ていた。
「それと『戦いたくない』って。きっとこれはAIの言葉。」
ルナの言葉を聞いた柊レイがルナに聞いた。
「ルナさん。そなたは『OneYearWar』でエースパイロットだと聞いた。
もし仮にそなたが操る機体があったならば、地球にある大規模処理ステーションを破壊することができるかね?
それを破壊できれば、きっと地球軍AIの能力をコロニー侵攻ができないほどに低下させることができるじゃろう。
どうじゃな?」
それを聞いたルナの母親が反対した。
「ルナを戦闘機に乗せるだなんて、私は反対です。」
「いやなに、実際に乗るわけじゃない。
通信は0時間でできるのじゃから、ここから機体を操れば良いのじゃ。
ルナさん。どうかの?」
「そういうことであれば。。。」
ルナの母親である美月小林は納得はしたが、少し複雑な表情をしていた。
そんなやりとりの間も、ルナは戸惑っていた。
ルナはAIの強い拒絶と悲しい声にここ数日、コックピットに座れずにいたからだった。
その様子を見て、ソルが割って入った。
「じいちゃん。ルナはそのAIの声で精神が持たなくなってる。
ルナはもうあれには乗れない。」
ソルがルナを見た。
ルナは考えていた。
(私があの声に耐えさえすればいい。耐えさえすればいいんだ。
だけど、このまま、放っておいたら結局全てのコロニーが攻められ、人々が殺される可能性だってある。
それに、あの子たちを誰が助けてあげられる?
私がいろんな人と心を通わせられるのは何のため?
私にしかできない、私にならできること。
ほんの少しかもしれない。だけど、それでも。ほんの少しでも。)
だが、別の心がルナに呼び掛ける。
(なんでわざわざまたあの痛みを受けないとダメなの?
あいつらは拒絶しているんだ。
助ける必要がどこにある?
ましてや土足で相手の心に踏み込むなんて。)
ルナが目を瞑った。
(また、頭が割れるように痛くなるかもしれない。)
ルナは下を向き、数秒じっとしていた。
瞑った目をグッと、より強く瞑った。
すると、瞼の裏に、コロニーで会った人々、ゲームで繋がった人々、宇宙開拓移民の人々、そして、働いているアンドロイドたちまで、数多くの人たち、アンドロイドたちが一気に映った。
その時、ルナの心の奥から声が聞こえた。
(それでも!!)
ルナが目を開いた。
そして、ソルの方を向いて言った。
「それでも、私は、私ができることを、やりたい。」
ルナが柊レイの方を向いて言った。
「私、乗ります!乗せてください!!」
ソルとりょーたろはルナの決心した目を見た。
ソルがりょーたろを見て、お互い頷いた。そして、ソルはルナを見た。
「分かった。やろう!!」
ソルが柊レイの方を見て言った。
「じいちゃん。今から言う機体を。。。」
柊レイが笑って言った。
「分かっておる。」
柊レイが小林秋雄の方を向いて頷いた。
「ついてくるのじゃ。」
全員が柊レイについて屋敷の奥のエレベータ室に入った。
そして、柊レイが杖でコツンと床を突くと、エレベータ室がどんどん地下に降りていった。
エレベータ室の表示を見て、ソルが驚いた。
屋敷の地下は5階までのはずだったが、それよりもどんどん地下に降りていく。
そして、表示が『EEE』となった時、扉が開いた。
そこはまるで何かの組み立てドックのような様子で、技師やアンドロイドが戦闘機、メタリックステラを組み立てていた。
「こんなところが。。。」
驚いているソルとりょーたろ。そして、ふと見慣れた部品の数々が目についた。
赤く塗られた槍型のアサルトユニットとグライダー型のブースターユニットが複数。
そして、ボール状のコックピットユニット。電磁ネットユニットも複数。
それぞれはまだ未完状態だったが、何となく形ができている状態であった。
小林秋雄がそれの前に立った。
「結構苦労したんじゃよ。
コロニー軍から物資を取り寄せるのにもそれなりの手が必要じゃでな。」
柊レイが応えた。
「さすが小林先生じゃ。こちらが望むものは何でもお見通しですな。」
「柊先生。先生はやめてください。」
柊ミライも小林小春も笑っていた。
ルナが笑った。
「おじいちゃん。これって。」
それはルナの祖父もこれまでのルナのことを見ていた証だった。
それが単純にルナには嬉しかった。
ルナの目からは涙が流れていた。
「これこれ。ルナよ。涙を流すのはこれを成功させてからじゃよ。」
ルナが涙を拭きながら言った。
「うん。私、頑張るよ。」
ところが、技師たちが部品の周囲に来て、問題提議をした。
「お取り込み中、大変すみませんが。。。」
技師長が不安そうな顔で続けた。
「この部品の組み立てですが、結構複雑で、図面展開だけでも1時間。
そこから組み立てまで最低でも6時間程度はかかりそうです。」
レミ柊がその時間を聞いて、愕然とした。
「地球軍はあと5時間もすれば、ここまで攻め込んでくるでしょう。
こちらからの攻め込む時間を考えたらきっとコロニー5の陥落までには作らないと。。。」
レミ柊が話している間に、ソルとりょーたろが部品の前に立った。
二人は笑みを浮かべて腕を回しながら言った。
「ここはおれたちに任せてくれ。なっ?りょーたろさん!!」
「ああ、ルナちゃんのあの機体作ればいいんだよな?
あの機体の動きはもう見飽きるほど見たし、構造だって大体見当はついてるしな!」
ソルとりょーたろは自分のウインドウを全員に見える形にした。
ソルとりょーたろの思考がリンクされ、カタログ情報から次々と設計図が目の前に広がっていった。
そして、そこから二人の思考のなかで部品が組み上げられ、その様子が全員の目の前に表示されていった。
組み上げられた結果から荒組み図、詳細組み立て図までがあっという間に出来上がっていった。
その様子を技師たちが驚きの表情で見ていた。
その時間たるや、ものの20秒ほどであった。
二人が息ピッタリで言った。
「2時間だな。」
技師たちはすっかり二人に魅了され、二人の回りに集まってきた。
ソルとりょーたろが集まってきた技師やアンドロイドたちに話かけ、自然と指示系統が出来上がった。
技師もアンドロイドもソルとりょーたろの指示に素直に従っていた。
その様子を見て、レミ柊にはソルが何だかたくましく見えた。
レミ柊が柊レイを見て言った。
「私は私のやり方で戦争を止めるよう動きます。ソルをよろしくお願いします。」
「分かっておるよ。」
そう言うと、レミ柊が退出しようとした。
それに合わせて、レイモンド小林と小林美月も退出した。
「私たちもレミさん同様に、政治的に押さえるよう、努力します。」
「ルナちゃん、がんばるのよ。」
「うん。ママ。ありがとう。」
コロニー5の戦闘機、メタリックステラが防衛体制を敷いていた。
そこに微弱ではあるが、虹色の波動が広がってきた。
コロニー5の機体が若干震え始めた。
その宙域に地球軍の戦闘機が進軍してきた。後方には地球軍のメタリックステラも陣取っていた。
宙域にイオンビームが、誘導ミサイルが、レールガン弾が飛び交いはじめた。
<次回予告>
ルナの機体を作り出したソルとりょーたろ。
その間にもコロニー5は地球軍によって侵略を受ける。
圧倒的な戦力を見せる地球軍。
ただコロニー5軍もただではやられることはなかった。
コロニー5軍は地球軍を退けられるのか?
次回、第71話 ”いままでの戦場には皆無だ。対応しきれまいて。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




