第69話 : あのコックピット付近に、、
<前回のあらすじ>
リチャード・マーセナスは突然コロニー製品に関税200%をかけると発表した。
その内容をコロニー議会が否決した。
ソルもリチャード・マーセナスに連絡を入れ、マーセナスを説得しようとするも決裂。
タキオンコミュデバイスの生産を白紙に戻すこととした。
そして、次の日の朝、状況が一変する。
地球軍が、地球に最も近いコロニー1を攻撃しはじめたのだった。
朝7時、ソルは、タキオンコミュデバイスの完了品が100個になり、出荷作業を始めた。
その時、突然りょーたろから着信が入った。
「大変だ!大変なことが起こっちまってる!!ニュース見てみろ!!」
「え?」
ソルがニュースサイトを開いた。
「大変です!現在、地球軍がコロニー1に侵攻を開始したようです。
コロニー1の防衛軍が地球軍と交戦中です。」
地球軍の戦闘機、メタリックステラがコロニー1の戦闘機、メタリックステラを攻撃している映像が流れていた。
アンドロイドアナウンサーが状況を伝えていた。
「先日の地球議会の議長リチャード・マーセナス氏が宣言したコロニー関税。
これが否決されたことに関係がある可能性が98.92%と出ております。」
そう伝えながら、アンドロイドアナウンサーが状況の異常さに気がついた。
「なにか様子がおかしいです。
ご覧ください。
破壊されている機体の約87%がコロニー1の機体です。これは異常です。
AIによる機体単体能力にそこまで差が発生するとは考えにくく、この原因を現在調査中です。」
そのニュースの裏でルナから連絡が入った。
「ソルさん!りょーたろさん!ニュース見た?」
「うん。今見てるよ。」
「ああ。見てるぜ。」
ソルが返事すると、ルナが焦った声で続けた。
「あの戦闘機とメタリックステラ、見た?」
「え?地球軍のか?あれがなんだよ?」
ルナの声が震えていた。
「あのコックピット付近に、、付いてるのって。。。」
「コックピット付近?」
ソルはルナに言葉を返した後、ウインドウに地球軍戦闘機が写っている映像で止めた。
そして、ソルが戦闘機の画像を拡大した。
ソルはそこに映ったものを見て、心拍数が急上昇した。
ソルは心の底から怒りが込み上げてきた。
「くっそぉーーーー!!」
コックピットの上に付いているもの、それは紛れもなくタキオンコミュデバイスであった。
りょーたろもそれに気がついた。
「あいつら、地球のコンピュータリソースの利を活かして、アップグレードしたAIから0時間通信で指示を送ってるんじゃ。。。だから距離が離れても劣勢にならずに。。。」
ソルが怒りの声で言った。
「それであれだけの圧倒的な戦力差が。ふざけやがって!!」
ソルがすぐさまリチャード・マーセナスに連絡を入れた。
しばらくして、マーセナスと繋がった。
ソルは怒りに任せて言葉を放った。
「なぜあのデバイスを使ってる!契約は破棄したはずだ!!すぐに止めろ!!」
リチャード・マーセナスが鼻で笑った。
「デバイス?なんのことでしょうかな?記憶にございませんが。。。」
「ふざけるな!!
戦闘機に付いているのを見たんだ。
そんな言い訳が通用すると思ってるのか?
データだってある。立証はすぐにだってできるんだ!」
ソルの感情の高ぶりを感じて、リチャード・マーセナスが上を向き高笑いをした。
そして、ソルの方を向いて言った。
「立証して国際裁判にでも掛けるおつもりですかな?
結構ですよ。やってごらんなさい。
裁判が終わる前に、いや始まる前ですかな。
その時、私はすでにあなたの手の届かないところにいるでしょう。」
皮肉たっぷりの言葉に怒りが込み上げ、ソルが壁を叩いた。
「絶対に何とかして止めてみせる!その時は覚えてろよ!!」
ソルの言葉を聞いて、リチャード・マーセナスがカメラに近づきながら言った。
「だから、記憶にないと言ってるでしょう。」
リチャード・マーセナスが再び高笑いをして、通信を切った。
虫酸の走る高笑いにソルの怒りがピークに達した。
ソルのシャツやレギンスに描かれた黒い帯が真っ赤に発光していた。
ソルの中で後悔と怒りが渦巻いた。
歯を食い縛り、声にならない声を出していた。
そして、行き場を失った拳を壁にぶつけた。
壁には大きな穴が開いた。
終始を聞いていたルナが言った。
「ソルさん、私たちだけではどうにもできないよ。
私はパパに相談してみる。ソルさんはレミおばさんに相談してみてよ。」
ソルはルナの言葉を聞いてはいた。
だが、柊レミへの相談を決断できずにいた。
そこに再びニュースが舞い込んできた。
「コロニー1が降伏宣言を出しました。」
「おい、ソル。もうこれは一刻を争う事態になってきてる。
お前、迷ってる場合じゃ。。。」
「分かってるよ!!頭では分かってるけど。。。
クソッ、クソッ、クソッ!!何なんだよ、これは!!」
ソルが目線でレミ柊に連絡をとった。
「母さん、だまっておれの話を聞いてほしい。
地球軍のことで話がある。
レイじいちゃんも一緒に。それとレイモンドさんも呼んでほしいんだ。お願いだ。」
「。。。分かったわ。みんなを呼んでおくから、速く家に来なさい。」
「ああ。分かった。すぐに行く。」
ソルはりょーたろとルナに言った。
「りょーたろさん、すぐにそっちに行く。パワードスーツ、着ておいてくれ。」
「ああ。分かった。待ってるぜ。」
「ルナ、すぐにそっちに行く。レイモンドさんにも話を通しておいてくれ。」
「うん。分かった。また後でね。」
ソルは赤く発光した状態でそのまま壁に開いた穴から飛び立った。
ソルはりょーたろと落ち合い、コロニー内を移動していた。
途中でりょーたろが話し始めた。
「ソル。お前、自分を責めんなよ。」
「でも、これはおれの責任だよ。」
りょーたろは自分を責めるソルを見つつ話した。
「無邪気な好奇心は悪だって言うやつがいる。
その無邪気な好奇心で作られた科学が人を不幸にしてるって言うやつもいる。
でもおれはこう思う。
その無邪気な好奇心が人のためにと作った技術で時に人が幸せになるなら、時に人の命を助けるなら、もし技術が人類を前に進ませるなら、おれたちに新しい世界を見せてくれるなら、まだおれたちは無邪気さを、好奇心を持っていいって思うんだ。
それに、おれは。。。」
言葉を詰まらせたりょーたろをソルが見た。
「それに?」
りょーたろが照れ臭そうに続けた。
「無邪気な、好奇心の塊みてーなお前が好きだぜ。」
ソルが横目でりょーたろを見た。
「ありがとう。りょーたろさん。ありがと。」
数分後、ソルとりょーたろが柊邸前に着地した。
門の前に待機しているアンドロイドがソルを認識して、門を開けた。
ソルとりょーたろは再び加速し、屋敷の前まで走っていった。
屋敷から柊レイが出てきていた。
ソルとりょーたろが柊レイの前で立ち止まった。そして、ソルが真剣な眼差しで柊レイを見て言った。
「レイじいちゃん。大変なことが。。。」
「ああ。分かっておる。さあ、みなが待っている。入るんじゃ。」
柊レイが屋敷に向かうと自動で扉が開いた。
ソル、りょーたろも屋敷の中に入った。
立派な広間に、ルナ、レミ柊、レイモンド小林、美月小林、ソルの祖父である柊レイ、祖母である柊(夏目)ミライ、そして、ルナの祖父、小林秋雄、祖母小林(浜辺)小春がいた。
ソルは全員を見た後、すぐに状況を説明し始めた。
「今、コロニーを攻撃してる地球軍のことなんだけど、、、」
ソルはタキオンコミュデバイスを開発したこと。
開拓者たちに販売したこと。
『OneYearWar』の世界大会でルナにデバイスを持たせたこと。
リチャード・マーセナスがこのデバイスに興味を持ったこと。
量産をするために製造データを渡したこと。
そして、そのデバイスが地球軍の戦闘機やメタリックステラに取り付けられていること。
を説明した。
それを聞いたレミ柊が声を漏らした。
「それで、地球の圧倒的なハードパワーから0時間で指示が。だから、あの圧倒的な戦力差が。。。
なんでリチャード・マーセナスにそんな技術を。。。」
「だけど、リチャード・マーセナスは言ったんだ。
この技術で世界をひとつにできるって。
おれはそれを信じて。」
「そうね。世界を1つにできるんでしょうね。
地球原理主義の世界にね。」
それを聞いて、ソルが握りこぶしを強く握り、震えていた。
柊レイが二人の間に入って言った。
「これはわしの責任じゃ。わしがソルにあれを渡したのじゃから。
ソル、すまんかったの。」
ソルが柊レイを見た。
「じいちゃんは何も悪くないよ。おれだ。おれがあいつを信用したのが。。。」
ソルが一度下を向いた。そして、目をつぶり、一息を吐いた後、キッと目を開いて言った。
「でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。
この状況をどうすべきかを考えなきゃ。」
柊レイが言った。
「そうじゃ。その通りじゃ。今をどう打開すべきか。」
その時、ルナが頭を抱えてしゃがみこんだ。
「イタッ。また悲鳴と助けを求める声が。。。」
ルナの顔色が青ざめていき、明らかに気分が悪くなっている様子であった。
次の瞬間、全員にニュースが入った。
ソルが言った。
「次はコロニー5が狙われてる。」
<次回予告>
柊レイがルナに示したある提案。
そして、ルナの祖父が用意していた数々の部品。
それはルナが見慣れたものであった。
だが、ソルはルナに苦痛を与える選択を取りたくはない。
各々の思いが交錯する。
次々に舞い込んでくる悲鳴に、ついにルナはある決断をするのだった!!
次回、第70話 ”私、乗ります!乗せてください!!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




