表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タキオンの矢  作者: 友枝 哲
7/59

第7話:オル・アティード(光の未来)、出る!!

<前回のあらすじ>

ソルはりょーたろが手に入れたという万年筆を見た。

「同じようなの、持ってんだ。」

ソルもまた祖父から譲り受けた万年筆を持っていた。

そして、それをきっかけに祖父と母が言い争う日を思い出していた。

時を同じくして、ルナが自分の部屋に入った。

ルナが机に座る。机がコックピットに変形する。

起動される”OneYearWar”という宇宙戦争のゲーム。

ルナは戦闘宙域に出撃するのであった。



 夜の9時55分。


 豪華に装飾が施された部屋。


 バロック様式のドアの向こうで話し声が聞こえる。


「分かってるよ。ママ。あっそうそう。もう今日は早く寝るから起こさないでね。」


「分かったわよ。ルナちゃん、おやすみ。」


「うん。おやすみなさい。」


 バロック様式のドアが開く。ルナが部屋に入って来た。


 ドアノブの上の小さな丸いプレートを押した。


 指の中の血管に流れるナノマシンからルナの遺伝情報が読み取られ、照合が完了し、ドアにロックがかかった。


 ルナが部屋の電気を消した。


 そして、机に座る。


 首を一度上に向け、目を閉じ、ふーと息を吐いたかと思うと、目を開き、机の正面を見た。


 QuantumGate Play34というロゴが机の上にホログラムのように浮かび上がる。


 それはルナが装着しているBCDから脳内視神経に信号が送られた結果であった。


 ウインドウの中に何個かアイコンが表示された。


 ルナはその中の1つ、スペースコロニーと地球が描かれたアイコンを見た。


 すると、ウインドウが1つ展開された。


 そのウインドウには”OneYearWarを起動しますか?”と書かれていた。


 ルナが軽く頷くとそのウインドウが消え、ルナの周囲が何かの球体のコックピットの中にいるような風景に変わる。


 まだコックピットから外の様子は見えていなかった。


 机の形が変形し、左右に操縦桿のようなレバーが現れた。


 そして、足元には両足で踏めるような2つのペダルが出てきた。


 ルナは足元のペダル2つを左右の足でそれぞれ踏みつけ、左右のレバーを両手で掴んだ。


 するとルナの姿が茶色いモジャモジャの髪で、目が大きい高校生くらいの男子に変わり、コックピットの球体内部の壁から外界が透けて見えるようになった。





 何か基地の中にいるような風景であった。


 周囲に数10mの戦闘機やロボットなどが見える。


 戦闘機に弾薬や燃料が運び込まれている。


 巨大なガトリングレール砲が設置されている戦闘機もあった。


「メタリックステラの部品交換急いでくれ!!」


 前方に見えるロボットの腕部分が交換されていた。


 コックピットからは、それらのユニットが緑色の四角い線で認識されており、ほとんどがその四角の右上に(PG)と表示されていた。


(PG)は、プログラムによる動作決定を行うユニットであり、ユーザーは時おり、動作プログラムの入れ換え、動作決定の比重変更などを行うことで操作が行われるユニットであった。


 それと同じくらいに(NP)と書かれたユニットがおり、これらはNonPlayerのユニット、つまりゲームメーカーが提供しているAIユニットである。


 NPのユニットはゲームの進行とともにLevelが引き上げられる仕様となっていた。


 それらに対して、ごく稀に(HM)と表示されているユニットがあり、これはAIの操作補助などもあるが、基本的には人間が操作を行っているユニットである。


 ルナの乗っている戦闘機も外から見ると、(HM)と表示されていた。


 他のユニット同様、ルナの機体にも燃料や弾薬が投入され、同時に機体のアサルトユニットやブースターユニットのマニピュレータなどが自動チェックされ、コックピットの中に状況表示のウインドウが立体表示されていた。


 項目が1つずつ(OK)表示になっていく。


 すぐに全ての項目がOKとなった。


 そのチェックの様子と同時に燃料のゲージが延びて、100%に近づいていた。


 ちょうどその頃、開戦の10時までのカウントダウンが始まっていた。


「開戦まであと10、、、9、、、8、、、7、、、6、、、」


 ルナの戦闘機の燃料が100%になった。


 全員が息を呑んで開戦の時を待っている。


「5、、、4、、、3、、、2、、、1、、、Mark!!」


 ルナが叫ぶ!


「LittleForest、オル・アティード(光の未来)、出る!!」


 金属が擦れるような音を立てながら、リニアレールによって機体が急激に加速された。


 細い加速通路を一気に抜けて宇宙に放り投げられる。


 すぐさま赤い機体中央のコックピットボールから電磁ネットによって連結しているアサルトユニット、ブースターユニットがコックピットボールに引き寄せられた。


 そして、アサルトユニット、ブースターユニットに着いているブースターから青白い光を機体後方に射出させ、さらに加速した。


 飛び行く戦闘機の後ろには中継基地である母艦が見えた。


 ルナがオル・アティードと呼んだ戦闘機はその母艦から射出されていた。


 ランキングの順番で射出されるため、今回ルナは母艦から二番目の射出であった。


 射出されたオル・アティードは一気に宇宙第三速度をも超え、25km/sまで加速した。


 母艦からは続々と戦闘機、メタリックステラと呼ばれるロボットが射出されていた。


 出撃してしばらくすると旗艦から通信が入った。


「各機に告ぐ!本ミッションは宇宙座標系とする。太陽方向正対、惑星周回方向水平、ポラリスサイドを上面とする。座標、合わせ!」


了解(ラジャー)!!」


 ルナは座標合わせを行いながら、愛機を圧倒的な速度で進行させて、他のプレイヤーを置き去りにしていった。


 グングンと味方機との距離を離すオル・アティード。


 だが、一機だけ引き剥がされず、何とかついてくる白い機体があった。





 先行二機が進む先には艦隊が待ち構えていた。


 艦隊よりはるか前方に哨戒機が一機待ち構えていた。


 その機体には遠距離重力子レーダーが装備されており、進撃してくる二機を捕捉した。


「敵機二機、捕捉。方向12、11(ひとふた、ひとひと)。情報共有完了。」


 艦隊全員にその情報が伝達されていく。


「二機ともヒューマンじゃんか。こりゃ最速で死ににきたのか?」


「お前、もしかして初めてか?


 あの速度、ありゃ『RedDevil』だ!!ヤバイのが来た!!


 でもなんで二機も?」


 艦隊がざわつき出した。


「戦闘機部隊、包囲陣形整えろ!」


「戦艦、主砲用意!!」


「メタリックステラ部隊、母艦ならびに戦艦防衛に当たれ!!


 主砲射線上に入るなよ。」


 艦隊内の母艦から出撃した無数の戦闘機が次々といろんな方向に飛んでいく。


 艦隊は面状態で広範囲に広がっており、その面は、前方より突き進んで来る機体を、包み込むことができるように若干円錐状に陣形を変え始めた。


「距離4000」


「来るぞ!戦艦主砲、撃て!!」


 母艦の周囲にいる戦艦の主砲が低音、高音を入り交じらせた爆音を放ち、ぶっといイオンビームを放った。





 オル・アティードのコックピットに座るモジャモジャ頭の男子の目が光った。


 すると、機体のアサルトユニットに付いているビットの光彩部位が虹色に光り出し、波動が全方位に広がった。


 まだオル・アティードのレーダーには敵機の反応がなかった。


 だが、その時、パイロットの額にビリッと電気が流れ、レーダーの敵機に照準を合わせる絵が見えた。


「避けろ!」


 オル・アティードの機体側面に付いている小型ブースターがイオンを吹いた。


 機体がグンとシフト移動する。


 後ろからついてきた機体も慌てて進行方向を変える。


 次の瞬間、前方で何かがキラッと光ったかと思うと、爆音と共に半径数10mの太いイオンビームが機体の横を過ぎ去っていった。





 オル・アティードと対峙する艦隊内で状況分析が進む。


「機動性分析結果、2機中先行する機体が『RedDevil』の可能性:84.61%」


「後ろの機体は接近すればいつでも落とせる!!


 まずは『RedDevil』だ!!あれを落とせ!!」





 イオンビームを、オル・アティードはかなり余裕で、白い機体は間一髪で避けられた。


 イオンビームの回避行動を取っていなければ確実に落とされていたと『RedDevil』と行動を共にしている白い機体のパイロットは思った。


(先行するというのはこういうことか。。。)


 白い機体のパイロットの頬を汗が伝った。


「つづけて来るぞ!こっちだ!!」


 そう言うと、オル・アティードのアサルトユニット、ブースターユニットがぐるんと九十度回転した。


 アサルトユニット二機、ブースターユニット二機が進行方向前方に、残り四機が後方になり、オル・アティードはユニットが向きを変えた方に加速した。


 コックピットボールも同時にぐるんと回転し、瞬間的にオル・アティードは方向転換を完了させた。


 それに比べ、白い機体は少しオーバーシュートしながら後を付ける。


 そこに、連続して太いイオンビームが飛んでくる。


 白い機体は機体の真後ろをイオンビームが走った。


「はあっ、はあっ、はあっ」


「無理してついてこなくていい!あれはおれを狙っている。」


「レッドデビルさんの動きを間近で見たいんです!僕のことは気にせずやってください!!」


「フッ、なら、そうさせてもらおう。」


 そういうと、オル・アティードが、敵包囲網の端目掛けて加速した。


 その間も時おり機体側面に付いている小型ブースターがイオンを放射し、機体が急激なシフト動作をしていた。


 イオンビームが爆音を立てて何度も何度も赤い機体が通過したところを通り抜けていく。


 白い機体はその動きに付いていけず、少し後ろを飛んでいた。そのため、イオンビームに当たることはなかった。


 白い機体のパイロットは目撃した。


 オル・アティードの周囲がそれまで以上に虹色に光り、機体から、真空のはずの空間に波のような歪みが広がるのを。





「ヤバイぞ!こっちに向かってくる。」


「距離2500!!戦闘機部隊行け!!」


 隊列から無数の戦闘機が飛び出した。


 その後ろではメタリックステラと呼ばれるロボット部隊が片手に盾を持ち、もう片手にビームライフルを構え、戦闘機の隙間から敵機に向かって今にもイオンビームを放とうとしていた。


 その時、波のようなものが、待ち構えている機体を通過した。


 するとメタリックステラはガタガタっと振動しだした。


 メタリックステラは構わずイオンビームを放った。





 オル・アティードのパイロットの額に再び電気が流れるような感覚が走った。


 機体が今まで以上に急激なシフト動作をする。


 メタリックステラから放たれたイオンビームの間を赤い機体がすり抜けてくる。


 すり抜けつつも、オル・アティードから何本かのイオンビームが射出された。





 隊列から飛び出し、『RedDevil』に接近していた戦闘機の一機がその異様な動きを見た。


 戦闘機各機がイオンビームやレールガンで応戦した。


 しかし、虹色のオーラを纏う機体はその隙間をすり抜けてくる。


 それはまるで稲妻が走るようであった。


 戦闘機群の中の1機が戦慄の面持ちで言う。


「これがライトニングドライブか!?」


 その言葉を残し、戦闘機が爆発した。


 イオンビームは光の速度の七割程度のため、距離2500キロを0.01秒足らずで駆け抜ける。


 接近戦であれば発射された瞬間に到達する。


 にも関わらず、虹色の稲光はそのイオンビームを避けて進行していく。


 戦艦の艦長が『RedDevil』の周囲の戦闘機に向かって吠えた。


「ビームだ!!ちゃんと狙え!!なんで落とせんのだ?撃ちまくれ!!」


 戦闘機の群れが各々、赤い機体を捉えビームを撃とうとする。


 だが、それらの機体は常にガタガタと震えていた。


 各機とも、振動に構わずビームを放った。


 イオンビームが放たれる瞬間、赤い機体は急激な角度をつけ猛烈な速度でそこから離脱し、逆にイオンビームが飛んできた方向にアサルトユニットを向け、イオンビームを放った。


 虹色に輝く稲妻のような軌跡が過ぎ去ったその軌跡の上で次々と爆発が起こった。


 赤い機体にイオンビームが当たることはなかった。


 後ろから追いかける白い機体もその周囲で赤い機体を狙っている機体を打ち落としていた。


 みるみる稲妻の軌跡が戦艦に接近してくる。


 戦艦周囲のメタリックステラが赤い機体に照準を合わせようとする。


 だが、射線に味方戦闘機が入り込む。


 そのため、メタリックステラがビームを撃てずにいた。


 しかし、次々とやられる戦闘機部隊に業を煮やし、メタリックステラ部隊の指揮者が言った。


「戦闘機部隊、流れ弾に当たっても悪く思うなよ!


 メタリックステラ部隊、ビームライフル攻撃開始!!」


「おれの部隊も動くぞ!撃て!!」


 そう言い放った後、メタリックステラ部隊が一斉にビームを放とうとした。


 その時、戦闘機部隊と同様に若干の振動が伴う。


 ビームがあちこちから放たれた。


 それでもオル・アティードは前進する速度を緩めなかった。


 包囲網に近づくにつれ、シフト幅、シフト角度が大きくなり、ビームはやはり宙(空)を切った。


 そして、オル・アティードからは反撃のビームが射出されていた。


 赤い機体からの反撃は的確に戦闘機を捉えていた。


 連続して爆発音が轟く。


 メタリックステラにもイオンビームが放たれていた。


 だが、メタリックステラはビームを無効化するイオン中和フィールドを展開できる盾を持っていたため、盾の前でビームが霧散した。


「距離500!包囲して撃ちまくれ!!」


 赤い機体とすれ違った戦闘機は旋回しようとした際に、後ろから来た白い機体にかなりの数が打ち落とされていた。


 メタリックステラは、ゆっくりではあるがスラスターを使って方向転換し、赤い機体目掛けてイオンビームやレールガン、ミサイルを撃とうとした。


 だが、メタリックステラには振動と僅かなディレイが生じていた。





 ルナは、メタリックステラからイオンビームが放たれようとしているのを感じ取った。撃ちこまれる場所も見えていた。


 ルナは一本のイオンビームを避けようとした。


 だが、その瞬間、自分の機体の後ろにいるまだ動けぬ白い機体を感じとった。


 それゆえ、ルナは咄嗟に、回避せずに、イオン中和粒子の詰まった弾を前方に打ち出した。


 放たれた弾が機体前方で炸裂した。


 若干緑がかったもやが広がる。


 そこにイオンビームが流れ込んできた。


 花火が散るような音と共に赤い機体の前に霧が発生した。





「やったか!?」


 メタリックステラの操縦者がモヤに目を凝らした。


 次の瞬間、そのモヤの中からミサイルがメタリックステラの方に向かって飛んでいった。


「なに!?」


 メタリックステラは咄嗟に盾を突き出した。


 だが、ミサイルはメタリックステラが盾をかざす前に、メタリックステラ腹部に突き刺さった。


 メタリックステラはあっけなく爆発した。


 赤い機体はミサイルの後からモヤを突き抜け、メタリックステラの爆発の横を通り過ぎた。


 白い機体のパイロットが言った。


「僕がいたから、避けられなかったのか。なのに、、、すっ、すごい!!」


 戦艦との距離が100kmを切った時に、オル・アティードのコックピットの武器表示部分に変化が現れた。


(N2 Missile:NoEscapeRange)


 と、同時に再び額に電気が流れるような感覚。


 気がつけば、メタリックステラが赤い機体を球状に取り囲むように集まっていた。


「よし!包囲完了。」


「今だ!!撃て!!」


「流れ弾、気をつけろよ!!」


 無数のイオンビームがオル・アティードを襲いはじめた。


<次回予告>

ルナの乗る機体、オル・アティード。

それは「光の未来」という意味を持つ。

またの名を”RedDevil”。

彼女の機体は圧倒的速度で敵陣営に侵攻していく。

だが、戦艦を前にした時、敵メタリックステラ部隊が彼女の機体を包囲した。

そして、彼女の機体におびただしい数のイオンビームが襲いかかる。

ルナの機体は果たして?

次回、第8話 ”魂を込め、心を解放するんだ!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


<ちょっとあとがき>

戦闘シーンで時おり出てくる数字2つの意味ですが、これは謂わずもがな敵機の方向を示しています。

2つの数字は最初が水平方向に対して何時の方向か、後側が垂直方向に対して何時の方向か、を示しています。

そして、これを共通認識とするために、出撃後、すぐに全体が座標合わせを行っています。

今回は通常の宙域であったため、宇宙座標系と言われる、惑星周回平面を水平方向、太陽に向かって進行する方向を12時とし、ポラリス、つまり北極星側を垂直方向のプラス側としています。

こうすることで、数字2つを言われると同じ認識で敵を捉えられるようになるという仕組みです。

(もちろん機体それぞれの場所によって若干変わりますが、基本はレーダーがあるので、大丈夫です。)

あと、某アニメのようにレーダーを無効化する粒子は存在せず、この時代では重力子を用いた重力波検知、つまり物質の質量による空間の歪みを検出することでレーダーの役割を果たしているため、ステルスというものは存在しなくなっています。そのため、AIの超速度に人は全く敵わない状況となっています。

ですが、それを超えて、ルナや今回のもう1人のパイロットはAIを打ち負かしているわけです。もちろんそこにはカラクリがありますが。(笑)

ちょっと長くなりましたが、もし良ければ今後もお楽しみいただけると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ