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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第67話 : これっておれたちが乗るはずだった便じゃないか!?

<前回のあらすじ>

ソルはリチャード・マーセナスから工場での量産ラインが出来上がったと連絡を受けた。

ソル、りょーたろ、ルナは、コロニー3から地球に移動し、リチャード・マーセナスの工場に入った。

ソルは工場で最後のソフトインストールに関するセッティングを完了させた。

無事に0時間通信デバイス”タキオンコミュデバイス”の生産が開始されたのだった。

3人は、コロニーへのスペースシップに遅延が発生するも、偶然その場で出会ったレミ柊、つまりソルの母親のスペースシップでコロニー3へ向かうこととしたのだった。


 

 RM財団のスペースシップに乗って、3人はコロニー3に向かっていた。


 出発して、3時間が過ぎた。


 それまで3人でカードゲームなどをしつつ楽しんでいた。


 だが、笑顔だったルナの表情が、なぜか急に険しくなり、血の気が引いていった。


 誰から見ても体調が急変している様子だった。


 ルナが手に持っているカードを落としてしまった。


「おい!ルナ、大丈夫か?」


「ルナちゃん、めちゃくちゃ顔色悪いよ。大丈夫?」


 ルナは息を切らしながら話した。


「なんか大勢の人の叫び声が聞こえた。何だろう、これ。でもまた急に静かに。」


「疲れたんじゃねーか。横になっとけよ。」


「うん。そうする。」


 ソルが座席をフルフラットにして、ルナが横になった。


 横になったルナの目から涙がこぼれていた。


 そして、機内アナウンスが流れた。


「本機はまもなく着陸態勢に入ります。

 機体の回転が徐々に停止するため、無重力状態となります。

 必ずベルトをお締めくださいますよう、よろしくお願い致します。」


 ルナは横になったままで、ソルとりょーたろがルナのベルトを締めて、自分達もシートに座り、ベルトを締めた。





 3人はコロニーのスペースポートに到着した。


 ルナは何とか体調を取り戻したが、ソルの肩を借りて歩いていた。


 レミ柊もルナを心配していた。


「ルナちゃん、大丈夫?私が送っていってあげるよ。」


「あっ、大丈夫です。二人に送っていってもらうので。」


 レミ柊が心配そうな目でソルを見た。


「心配するなよ。ちゃんとおれが送っていくから。」


「あら、そう。ならいいけど。」


 レミ柊が先に行こうとしたが、振り返ってソルに言った。


「あなたもたまにはちゃんと家に帰ってらっしゃい。分かったわね?」


 ソルは返事をすることがなかった。


 レミ柊がまた振り返り、歩きはじめた。


 その時、ソルが言った。


「助かった。送ってくれてありがとう。」


 レミ柊が少しの間、立ち止まったが、振り返らずそのまま歩いていった。


 りょーたろが一般の自動車乗り場に自動運転で車を呼びつけた。


 3人はそちらに移動しはじめた。


 着陸ゲートから出た時に、そこにいる全員が立ち止まり、前方のウォールスクリーンを見上げていた。


 3人もそのウォールスクリーンに映し出されている映像を見て、驚きで思わず立ち止まった。


 そこには映し出されているもの。それはある事故の映像だった。


 スペースシップが爆発かなにかによって真っ二つに割れている映像。


 破片もあちこちに飛び散っている様子だった。


 ”LIVE”と書かれているその現場の映像は、立ち入り禁止宙域ギリギリまでAI運転によって接近した報道用スペースシップが撮影しているものだった。


 その映像を元にリアルタイムでニュースが流れていた。


「地球の富士芦ノ湖スペースポート発、コロニー3-104ポート行き SN58314-8便が突然爆発しました。

 乗客657名は全員亡くなったものと思われます。

 原因はまだ分かっておりません。

 地球を出発してまもなくの出来事であり、地球軍はテロの恐れがあると報告をしており、現在も調査が進められております。」


 りょーたろの顔に汗が流れていた。


「これっておれたちが乗るはずだった便じゃないか!?」


「こんなことって。。。」


 ソルも驚きを隠せなかった。


 二人に比べ、ルナは無表情だった。


 ルナは朧気ながら、こんな事件(こと)が起こっていたのではないかと薄々感じていた。


 3人はウォールディスプレイの前で立ち止まっていたが、りょーたろに自動車が到着した旨を知らせるメッセージが入った。


「あっ、車が着いたみたいだ。とにかく、行こう。」





 3人と1匹が富裕層エリアと貧困層エリアの境目に来た。


 すると、以前と同様に、壁の前に黒いイオンクラフト車が停まっていた。


 ソルが言った。


「ルナはここでいいみたいだ。」


 りょーたろが車を停め、3人と1匹が車から降りた。


 すると、黒いイオンクラフト車からも屈強な護衛用アンドロイドが数体とレイモンド小林、そして、美月小林が降りてきた。


「パパ。ママ。」


 ルナが両親のところに駆け寄った。シュレディンガーも一緒に走っていった。


「ごめんなさい。勝手に外出して。」


「心配したのよ。地球からの船が爆発したって聞いたから。」


 ソルがルナの両親に謝罪した。


「申し訳ありませんでした。ルナを勝手に地球に連れていったりして。」


 レイモンド小林もさすがに一言物言いをつけた。


「そうですね。次は必ず私たちの承諾を得てからでお願いします。

 特にコロニーの外は危険が多い。なにかあってからでは遅い。」


「すみませんでした。」


 ソルとりょーたろが深々と頭を下げた。


 美月小林もルナを見ながら言った。


「そうよ。ルナちゃん。次からは必ず、パパとママに行き先を言ってちょうだいね。」


「うん。ママ、ごめんなさい。」


「まあ、ルナが無事でなりよりだ。」


 ルナがソルとりょーたろの方を見て言った。


「りょーたろさん、ソルさん。今日はありがとう。

 何か、、、こうやって世界ができてるんだなって、本当に勉強になった。

 ありがとう。」


「ああ。」「うん。」


 ソルとりょーたろが頷いた。


「では、これで。」


 レイモンド小林がイオンクラフト車にルナを乗せた。


 そして、自分が乗り込む前にソル、りょーたろの方に向いて、頭を下げ、ソルを見て、一言言った。


「ありがとう。」


 イオンクラフト車がゆっくりと加速して富裕層の住むエリアに入っていった。


 りょーたろがイオンクラフト車を見ながら言った。


「っていうか、なんでルナちゃんの両親、俺たちが地球に行ってたこと知っているっぽく話してんだろな?」


 ソルはイオンクラフト車の後部ガラスから見えるシュレディンガーを見て言った。


「さーね。まあ、いんじゃないの。」





 地球から戻って2日後。


 ソルはタキオンコミュデバイスをできるだけ多くの人に届けられるように自らもデバイス作製を続けていた。


 そこにルナからのメッセージが入った。


(ソル様

 明日、小林邸にて食事会を開催いたします。

 時間は夕方5時です。私の手料理で皆様をお・も・て・な・し!!します。

 是非お越しください。

 来なかったら許さないからね! ルナ)


 すぐにりょーたろやリタお婆ちゃんから連絡が入った。


 二人とも誘われており、りょーたろの車で一緒に行く事になった。


 映像で見た他の二人の招待メッセージには最後の一文は書かれてなかった。





 次の日、ソルもりょーたろも仕事を早めに切り上げ、リタお婆ちゃんをピックアップして、A地区の小林邸に向かった。


 富裕層、貧困層境界の検問では、ソルが対応し、難なく通過した。


 小林邸前では護衛アンドロイドが立っていた。


 が、3人はすでに登録されており、網膜認証で判断され、邸宅の門を通過できた。


 門を通過すると自動運転の経路に屋敷前までの経路が追加された。


 門からも100mほど庭が広がっていた。


 庭の中央には大きな噴水があり、それを迂回して屋敷に向かった。


 りょーたろとリタお婆ちゃんが驚きを隠せなかった。


「ふえーー!すげーな、こりゃ。」


「ほほー、こんな世界もあるんじゃのー。」


 豪邸の前に車が誘導され、そこで3人が降りた。


 豪邸の前にはすでにルナが立っていた。


 ルナが車から降りてきた3人に最初に声をかけた。


「いらっしゃい!!」


 ソルとりょーたろ、リタお婆ちゃんも挨拶した。


「おう。」


「ルナちゃん、もう身体大丈夫?」


「ルナちゃん、あたしまでホントありがとね!」


「うん。身体はもう大丈夫だよ。さあさあ、どうぞ中へ。」


 そう言われて、3人は屋敷の大きなバロック調の扉から中に入った。


 ソルは誘導するルナの手に絆創膏がたくさん貼られているのに気がついた。


「お前、その手、どうしたんだよ。」


 ソルの言葉を聞いて、ルナがさっと手を隠した。


「いいの!ささっ、入って入って!」


 3人が屋敷の中に入ると、そこはもうりょーたろ、リタお婆ちゃんにとって完全に別世界だった。


 立派な絨毯。アンティークな家具類。生きた花が活けられたたくさんの大きな花瓶。

 壁にかけられた歴史の教科書で見たようなタペストリー。装飾を施されたアーチ状の階段。


 二人はキョロキョロしながら案内されるまま、中を歩いていった。


 屋敷に入ったところの講堂を通り、奥の食堂に入った。


 食堂には丸いテーブルに椅子がいくつも用意されていた。


 テーブルも椅子もテーブルクロスすらも明らかにアンティーク調で高級感溢れるものであった。


 そのテーブルの横にはレイモンド小林と美月小林が立っており、テーブルの反対側にレミ柊がいた。


 ソルが一瞬立ち止まった。


 ルナはそれを察して、言葉をかけた。


「さあさあ、皆さん、座って座って!」


 ルナが素早く動き、それぞれのメンバーを座席に座らせた。


 そして、自分の席に戻って話し始めた。


「今日は皆さん、お越しいただき、ありがとうございます。

 少し紹介すると、こちらが私の父、レイモンド小林、その隣が私の母、美月小林です。

 その隣が子供の時から親しくしてくださってるレミ柊さん。

 で、こちらが私の友人、リタお婆ちゃん、その隣がりょーたろさん、そしてソルさんです。

 話しはこれくらいにして、まずは食事を楽しんでください!!

 今日は全部じゃないけど、私の手料理もあるから、楽しんでいってくださいね!」


 みんなが拍手した。


 ルナがアンドロイドに依頼した。


「じゃあ、料理のサーブをお願い。」


 コース料理がサーブされ、皆が一品ずつ堪能していた。


 りょーたろもリタお婆ちゃんもお世辞にも上品な食べ方とは言えなかったが、何とか見よう見まねで食べていた。


 ビーフシチューがサーブされた時、レイモンド小林が口を開いた。


「いかがですかな?お口に合えば良いのですが。」


 レミ柊が返事をした。


「とても美味しいです。全てが新鮮で。さすがですね。」


 ルナがリタお婆ちゃんに聞いた。


「どう?お婆ちゃん?美味しい?」


 リタお婆ちゃんは正直に答えた。


「ああ。とってもとっても美味しいよ。お肉も柔らかくて、シチューもコクがあって、それでいて上品な味だね。」


「よかった!実はこの料理、私が作ったんだよ。ソースも全部。私が初めてもらった給料で食材も買ってね。」


「マジかよ!あのお金でか?っていうか、お前、料理の才能あるくないか!

 ゲームやめて、こっちでもいけんじゃねーか。

 めちゃうまいんだけど。」


「ホント!?ありがと!!お世話になった人に何かお礼がしたくてね。練習したんだよ。」


「あー、なるほどな。」


 ソルがルナの絆創膏の手を見て、納得していた。


 りょーたろも感動していた。


「ルナちゃん!おれ、今モーレツに感動してるよ!本当にありがとね。」


 リタお婆ちゃんも続けた。


「ルナちゃん、ホントにありがとね。こんな美味しいの、生まれて初めてだよ。もう、アンにも食べさせてあげたいよ。」


「あー、アンちゃん!エンケラドスのお孫さんだよね!!」


 その言葉をレイモンド小林が聞いてリタお婆ちゃんに質問した。


「エンケラドスにお孫さんがいらっしゃるのですね。宇宙開拓で?」


「ええ。そうなんですよ。」


「それではなかなか会うこともままならないのではないですか?

 お寂しくはありませんか?」


 リタお婆ちゃんが優しい笑みを浮かべて話した。


「そうですねえ。直接会うことはできないんだけれども、最近じゃあソルの作ってくれた機械のおかげでなに不自由なくVR通話したりできるから、もう寂しくはないんですよ。」


 リタお婆ちゃんがソルの方を向いて言った。


「ソルや。いつも本当にありがとね。」


 ソルがはにかみながら言葉を返した。


「お婆ちゃん。」


 レミ柊がそのやりとりをじっと見ていた。


 リタお婆ちゃんが続けた。


「この二人、りょーたろとソルは本当にE地区の人たちを明るくしてくれた。

 すさんだあの地区の人々を変えてくれたんですよ。

 いつかもっと多くの人を変えてくれるとあたしゃ信じてるんです。

 あたしが生きている間にそうなってくれたら嬉しい限りなんですけどね。」


「何ゆってんの。お婆ちゃんはまだまだ大丈夫だよ。」


 そのやりとりを見ていたレミ柊が涙を流していた。


 ソルの話をまるで自分のことのように聞いていた。


 それに気がついたルナがレミ柊に話した。


「そう!レミおばさん、聞いて!!

 ソルさんの開発した通信機、タキオンコミュデバイスって言うんだけど、あれ、本当にすごいんだよ!!

 地球とだって、エンケラドスとだって、全く遅延なく通信ができるの。もう本当にそこにいるみたいに。」


 それを聞いて、レミ柊が驚きの顔をした。


「ソル。。。あなた、あれを完成させたっていうの?タキオン通信を。。。

 お父様でもできなかったというのに。」


 ソルが少し面倒くさそうな顔をして答えた。


「まあ、基本コンセプトはじいちゃんのだけど。

 何とか試行錯誤してタキオンに情報を渡せるようにしたんだ。」


「さすが、、、お父様モデルね。。。」


「えっ?何だよ、それ。。。」


 その会話をリタお婆ちゃんが聞いて、驚いていた。


「ソル?あんたってもしかして。。。」


「ああ。まあね。。。そこの人が母さんだよ。」


「ってことは、このコロニー3、RM財団の?」


「ああ。だけど、おれはおれだよ。リタお婆ちゃんの思っているソルだよ。

 それでいいじゃんか。」


 すると急にリタお婆ちゃんが高笑いした。しばらく笑った後、口を開いた。


「ああ。すまないね。いやー、長生きはするもんだよ。ホントにね。

 まさか、RM財団の御曹司とゾディアックの御令嬢と友達になれるなんてね。

 これだから人生は面白い。

 辛いことがあっても前を向いてさえいれば面白いことが起こるもんだね。」


 リタお婆ちゃんが再び笑った。それにつられてソルも笑った。


「なんだよ。でも確かに200年以上生きてるお婆ちゃんに言われたら、妙な説得力があるよ。」


 場が一気に和んだ。だが、その時、突然レイモンド小林のBCDに着信が入った。


 レイモンド小林の表情が急に硬くなった。


「なに!?地球がコロニーでの生産品に関税200%を付加するだと?」


<次回予告>

地球の関税宣言に反発するコロニー議会。

ソルは慌ててリチャード・マーセナスに連絡を入れる。

決裂するソルとリチャード・マーセナス。

そして、ついに恐ろしいことが。。。

次回、第68話 ”違った正義”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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