第65話 : なんかはめられてる?おれ?
<前回のあらすじ>
ルナは”OneYearWar”の中で、再びAIの拒絶の声、「戦いたくない」という声を聞いた。
そして、ついにルナはその奥にある”戦争の記憶”を見た。
それは人類の歴史だけではなく、なにかもっと、もっと膨大な戦争の記憶。
ルナは頭に鋭い痛みを感じ、痛みと共に、機体を破壊されてしまった。
次の日、ルナはそのことをソルに相談するため、ソルに連絡をいれていたのだった。
りょーたろが部品の入った箱を数えながらソルに言った。
「あー、これ全部で、チップ2500個、加速ユニット1万個だ。」
運んでいるアンドロイドを見ながらソルがりょーたろに言った。
「ありがと。りょーたろさん。これで1週間、また頑張れるよ。」
「お前に出しても、ほとんどおれに利益ないんだけどな。
まあ、お前との腐れ縁だし、しゃーねーな。」
渋い顔をしながらりょーたろが軽く笑った。
そこにルナからソルに連絡が入った。
ソルがタキオンコミュデバイスを棚の上において通話を取った。
「おー、ルナ。どした?」
ソルがりょーたろに、ルナからというアイコンタクトを送った。
「ソルさん。この前のデバイスなんだけど。」
「あー、あれな!
ちょっと待って。今、りょーたろさんもいるから。見てもらってもいいか?」
「あっ、うん。もちろん。
りょーたろさんにも聞こうと思ったし、ちょうどいいし。」
「おう。ちょっと待って。」
ソルがりょーたろにも画面に入るように手招きした。
「こんにちは、ルナちゃん。」
「りょーたろさん、こんにちは。」
「で?デバイスがどうしたって?」
「やっぱりAIがものすごく拒絶してる。入ってくるなって。戦いたくないって。」
「あー、まあ前にも言ったけど、JAM-Unit自体の機能は本来、相手の思考を読み取って、自分の思考を送って、意識を共有するためのユニットだったからな。
今の使い方自体が通信機能を持つものへの強制情報送受信。
土足で相手の意識に入り込んで乱しているんだし、まあその入ってくるなって反応は当然といえば当然かもな。」
りょーたろが遠慮のないソルの言葉に注意した。
「おい、ソル。お前、いっつもルナちゃんに厳しいな。
ルナちゃんはそんな悪意を持って使ってねーよ。」
「でも、それが真実だろ!?
AI自体は仮想現実で生きてる。
ゲームだって、現実世界だって、あいつらにしたら区別なんかないじゃん。
あいつらにしたら戦争は戦争だぜ。」
「まあ、そうだけど。ルナちゃんは。」
「分かってるよ。」
ソルが画面向こうにいるルナに話しかけた。
「ルナ。まあ、そんなに重く考えんなよ。
ゲームの中では、主義主張に関わらず、善とか悪とかそんなものもなく、敵対する状況を作ってんだから。
AIだろうが、人間だろうが、敵対して、どうしようもない場合は、それを排除するしかない。
それだけだろ!?」
「まあ、そうだけど。」
ソルがふと机の上のタキオンコミュデバイスを見た。
「でも、きっと現実世界はそれとは違う。
設定じゃないし、本当はみんなが同じ境遇の上にいるし、なんとかすれば、ひとつに繋ぎ合わせることができるんじゃないかって、、、思うんだ。」
りょーたろが、ルナの相談そっちのけで机の上に置いたタキオンコミュデバイスをじっと見つめているソルを見た。
「おい、お前、自分のデバイス作ることで頭いっぱいだろ!?」
りょーたろが笑った。
「あ?あー、ルナ、ごめん。まあ、つまりあんまり深く考えすぎんなってこと。」
「うん。。。ありがと。
でも、正直、もうあんまりあの声を聞きたくない。
AIがあんなに嫌がってるのに。。。それに。。。」
「それに?」
「なにか拒絶と同じくらいAIは戦いたくないって思ってる。
でも、むりやり戦わされてる。それが分かるの。
それと、一瞬だけど戦争の記憶が見えた。
私たちの知らない戦争の記憶。膨大な戦争の記憶。
それに、ものすごく生々しくて、怖かった。」
「どこで?」
「相手のエリアにかなり入り込んだ時。。。ホントに怖かった。
あれが戦争なんだって。。。人が人の手で燃やされてる映像とか。。。」
しばらくルナが沈黙した。
ソルとりょーたろが落ち込むルナを見て、声をかけようとしたが、再びルナが話し始めた。
「私、『OneYearWar』やめよっかな。。。
でも、それだと、私の居場所がなくなっちゃうのかな。。。」
ルナの目から涙が流れていた。
二人はルナがそこまで思い詰めているとは思っていなかった。
りょーたろは言葉をかけられなくなっていたが、ソルがおもむろに話し始めた。
「いいんじゃねーか?やめちゃえよ。
お前の居場所なんてどこにでもあるじゃねーか。
家にだって、ここにだって。
それに、忘れてんのかよ!?
おれたちだって、リタ婆ちゃんだって、お前の味方だぜ。
誰かがお前の横にいてくれるなら、それがお前の居場所だろうがよ。」
ルナが画面のソルを見ながら涙を流していた。
「うん。。。あり。。がと。。。」
泣いているルナを見て、ソルが照れながら続けた。
「あー、おれの事業、忙しくなりそうだし、手も必要だしな。
ちょーどいいや。手伝ってくれよ。」
りょーたろが優しい笑みを浮かべてソルを見ていた。
その時、ソルのBCDにメールが入った。
「あっ、マーセナスさんからメールだ。ルナ、ちょっと待って。」
ソルが、視野の前方にメールのウインドウを広げた。
りょーたろはソルのBCDウインドウが共有されていたので見えたが、ルナにはタキオンコミュデバイスのカメラ越しだったため、見えてなかった。
メールの内容をソルとりょーたろが読み、笑顔になったのが、ルナに見えた。
ルナが気になって内容を聞いた。
「なになに?何て書いてるの?」
りょーたろがカメラに向かって話した。
「向こうの量産体制が整ったから、地球に来て、確認と最後のソフトインストール部分をやってほしいって。」
ルナが喜びの声を上げた。
「ソルさん、すごいじゃん!!」
「っていうか、もう体制ができたって、すげーな。」
「ああ、マジでやる気だな。マーセナスさん。」
りょーたろがソルの方に向いて聞いた。
「で?いつ行く?」
「りょーたろさん、明日とか行ける?善は急げでしょ!」
「まあ、おれは大丈夫だけど。」
その時、ルナが反応した。
「私も行きたい!」
ソルが反射的に答えた。
「お前はこっちにいろよ。」
ルナはムスッとしながら反論した。
「さっき、私に、手も必要とか、手伝ってくれって言ったじゃん!!」
ソルがはっとした表情になって、りょーたろの方に向き、言い訳を考えながら言葉を漏らした。
「それはだな。」
りょーたろがニンマリの表情と細い目でソルを見た。
「分かったよ!じゃあ、明日、日帰りでチケット取ってもらうようにするよ。
日帰りならお前のおじさんとかにばれねーだろ。。。」
「やったー!」
喜ぶルナにりょーたろが声をかけた。
「よかったね。ルナちゃん。」
「うん。ありがと。りょーたろさん。」
「なんかはめられてる?おれ?」
ソルはルナとの通話を切って、リチャード・マーセナスに翌日の往復チケットの予約をお願いした。
翌朝、ソル、りょーたろがコロニー3-104スペースポートに来ていた。
そして、ルナがシュレディンガーを連れてスペースポートに到着した。
「えっ?シュレディンガーまで連れてきたの?大丈夫かよ。。。」
「だって、シュレディンガーが行くって聞かないから。
それに、大丈夫だよ。さっき、マーセナスさんにペットシートも予約してもらったし。」
「まあ、それならいいけど。。。」
3人と1匹は無事スペースシップに乗り込み、全員が再度地球の美しさと軌道エレベータからの絶景を体験し、無事地球の大地に立った。
地球の到着ゲートにはすでにHERVICのアンドロイドが待機しており、3人と1匹は直接工場まで移動した。
工場前にはリチャード・マーセナスも待機していた。
その場で簡単に挨拶を済ませ、3人はすぐにラインに入った。だが、さすがにシュレディンガーは会議室で待機となった。
ラインではすでに試作品の流れ作業に入っていた。
アームロボットが部品を取り出し、組み立てていた。
一部の作業用アンドロイドが上階から降りてきた部品をアームロボットが処理できるように運んでいた。
アームロボットによって組み立てられた部品の角度、出来上がった形状を作業用アンドロイドがあらゆる角度から確認し、判断を下していた。
ソルの仕様書に書かれている誤差範囲内にデバイスが組み上げられていた。
そのラインが20ラインほど並んでいた。
その風景は圧巻であった。
「おおーーー!!」
思わずソル、りょーたろから声が漏れた。
「えっ?もうラインがこんなに!?」
ソルが驚きの声を上げた。
工場長が3人に説明した。
「一昨日から、全製品の稼働を止め、全アンドロイドを集めて作業をしておりました。
昨夜にライン構成が完成しまして、本来であれば、稼働認証やリスクアセス検証などをやる必要があったのですが。。。」
リチャード・マーセナスが工場長の言葉に付け加えた。
「それらを特例として省略し、本日、めでたく稼働に入ったのです。
この状態を是非皆様にお見せしたかった。
我々の夢が叶う日が来たのです。」
工場長がさらに付け加えた。
「最後の機器設定、ソフトインストールはこの先にあります。どうぞこちらへ。」
3人が奥の部屋に案内された。
そこには作られたデバイスがずらっと並んでおり、デバイスにソフトをインストールできるように配線が敷かれていた。
工場長が目の前の装置について説明した。
「この装置に設定アプリとインストールするソフトを入れてください。」
「分かりました。」
ソルはりょーたろを見た。
二人とも髪の毛に隠してJAM-Unitを着け、怪しいところがないか、確認していた。
彼らには工場長、ライン技師などの声が聞こえていた。
(本当にこんなもんが世界を変える?)
(5時以降に働かされるとは思ってなかったぜ。)
(こいつらのせいかよ。全く勘弁してくれよ。)
HERVIC社長からも聞こえてきた。
(これで赤字が出たらどうするつもりだよ、全く。
あのクソオヤジには困ったもんだぜ。
早く引退しておれに継がせろよ。)
だが、リチャード・マーセナスからはずっと同じ声しか聞こえてこなかった。
(これで世界をひとつにできるのだ。やっとだ。)
ソルはあまりの順風満帆具合になぜか分からないが、心の奥底で不安を感じていた。
<次回予告>
デバイスの量産に一抹の不安を感じるソル。
リチャード・マーセナスの工場で0時間通信デバイス量産は稼働し始めるか?
そして、同行したルナはある光景を見る。それが示すものとは何なのか?
その後、工場からコロニーへの帰路に立つ3人。
その帰路の最中、ルナはある想いを受けとるのだった。
次回、第66話 ”漆黒の宇宙空間の中で”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




