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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第63話 : 最速、最善を尽くします。

<前回のあらすじ>

0時間通信が可能なタキオンコミュデバイス。

その開発者であるソルはどうやってこのデバイスを量産するか考えていた。

その時、そのデバイスのことを知った地球のリチャード・マーセナス最高議長が自分の工場で量産を行いたいと提案してきた。

ソルとりょーたろは、ひとまずのマーセナスの工場を見学した。

工場では完璧なほど準備が整えられており、後はソルのGOサインを待つばかりの状態であった。

だが、何もかもうまくいっているように感じたソルは何故か不安を感じていた。

そこにデバイスの噂を聞き付けた宇宙開拓士たちから8万個もの量産依頼が舞い込んできたのだった。

受注は嬉しい限りだが、量産速度がまるで間に合わず、困惑するソルであった。


 

「5万個に3万個、それに前に3千個もあったな。

 こりゃ、相当頑張らないと時間がかかりすぎるな。」


 その時、ソルのBCDに着信が入った。


 その着信の発信者を見て、ソルがなにかを思い付いたようだった。


 ソルがその着信を取った。


「はい。ソルです。」


 しばらくの間があった後、相手からの声が聞こえ始めた。


「あのー、リチャード・マーセナスです。

 昨日は弊社工場に来ていただき、ありがとうございました。

 で、もしご検討の結果が出ておりましたら、お聞かせいただきたく。

 急かすようで申し訳ありませんが、いかがでしょうか。」


 ソルは質問に質問で返した。


「あの、マーセナスさん!少し質問があります!!

 もし仮に部品点数が30点ほどで全て一般的な電子部品の場合、ライン構成に何日程度かかりますか?

 あと、デイリーで何kほど生産できますか?」


 またしばらくの間が空いた。ソルはじっとリチャード・マーセナスの回答を待った。


「あー、はい。30点ほどであれば、きっとライン構成は2、3日で済むでしょう。

 流れ作業に入ってしまえば、デイリーで1ライン1kほどが確保できると思われます。

 並列にラインを構成すれば、生産量は数日後には5kほどにはなると思います。

 それ以降は受注量に合わせてラインを増やしていければと思います。」


 それを聞いて、ソルの目が輝いた。


(5kなら8万個も2、3週間で何とかなる!!)


「マーセナスさん、この前の話ですが、是非お願いしたいと思います。」


 ソルの胸が高鳴った。


 再び数秒の間。だが、ソルにはこの時間ですら、耐えられないほどの長さに感じた。


「おお!本当ですか?それは本当に、本当に有り難いお言葉です。」


 その言葉にソルが即座に返した。


「はい。その代わり、できるだけ早くライン構成をお願いしたいのですが、可能でしょうか。」


 待つ時間の間、周囲でりょーたろとルナがハイタッチをしたりと喜んでいた。


「勿論です!ですが、実際の部品配置図などを技術者に見せてみないことには何とも。」


 ソルは一呼吸置いて、答えた。


「分かりました。デバイスのメカ設計図を送ります。

 機密保持契約は後日に、日付を遡ってお願いします。

 ハードは良いのですが、チップ内にインストールするソフトは少し危険が伴うため、可能であれば私が一度そちらに出向き、設定したく思います。

 ラインの状態も見たいと思いますので。」


 ソルの目が希望に溢れていた。


「かしこまりました。

 NDA(Non-Disclosure Agreement)契約の件もかしこまりました。

 本当に、本当にありがとうございます。

 メカ設計図が届き次第、こちらの技術チーフとライン構成設計にあたります。

 最速、最善を尽くします。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


 そう言って、ソルが通話を切った。


 ソルがりょーたろの方を向いて言った。


「これで2、3週間くらいで、待ってる人たちにきっと供給できる!」


「ああ!そうだな!!」


「あっ、そうだ!」


 ソルがファイルの暗号化作業をして、すばやくリチャード・マーセナスにファイルを送った。


 暗号化解読の方法は別途メールで送付した。


 ソルの目に力が宿り、輝いていた。





 その日の夜、ルナが再び『OneYearWar』にログインしていた。


 頭には新しいJAM-Unitが装着されていた。





 ルナが新しいデバイスを試した翌日、ルナがソルに相談していた。


「これ着けてやったんだけどさ。

 何て言うか、やっぱりはっきり聞こえるんだよ。

 AIの本当の声が。

 AIたち、『戦いたくない』って言ってる。」


 りょーたろがルナの話を聞いて答えた。


「戦いたくないって?AIが?そんなバカな。それ、人間の心の声なんじゃないの?」


「違う。あれは絶対に、絶対にAIの声だよ。」


 ソルが少し理解しているかのようなことを言った。


「まあ、分からないでもないな。

 いつだったか、AIのプログラムを分析したことがあるんだけど。

 あいつら漏れなく人間からの指示プログラムや無数の機能関数群の下に膨大な意思にも似たプログラムがあるっぽい。

 しかも驚くべきことに、それは人間の意思プログラムの形に似てる。

 もっと言うと、この宇宙のプログラムにも似てるんだ。」


 ソルがりょーたろとルナを代わる代わる見て、続けた。


「そう考えたら、AIの中には人間が思うのと同じように、戦いたくないって思ってるやつがいてもおかしくはない。」


「いてもおかしくないというか、エンカウントする機体全部がそう言ってるんだよ。

 でも、何て言うか、何かまだその奥があるような気がするんだよね。。。

 何でだろう。良く分からないけど。」


「そうなのか?うーん。じゃあさ、このデバイス使ってみるか?」


 ソルが奥の棚から新しいJAM-Unitを取り出してきた。


「お前、これ!」


「ああ。Type-Rだよ。」


「それ、確かに相手の思考の奥底まで入り込めるけど、脳への負担が半端ないじゃん。

 お前ですらそれはかなり危ないのに、それをルナちゃんに着けさせるのか?」


「だってさ、もうあとはこれくらいしかないし。

 まあ、確かに脳への負担は高いけど、大会の動きとか見れば分かる。

 こいつなら何とか使いこなせそうだしね。

 もし少しでも違和感があったら、すぐに止めればいいだけだよ。」


 ソルがルナの方に向いて言った。


「これ、使ってみるか?」


 ルナがソルの差し出したデバイスをじっと見た。


「うん。あの声、気になるし、ちょっとやってみる。」


「いい?ルナちゃん。

 自分を保てなくなるような変な感覚を覚えたり、頭が痛くなったら、絶対外すんだよ。」


 ルナがりょーたろとソルを交互に見て言った。


「うん。わかった。」





 ルナが『OneYearWar』にログインした。


 視野全体がコックピットからの風景に切り替わった。


 ルナは外を眺めた。


 そこはいたっていつもの母艦内の風景だった。


 ドック内に配置されている数多くの機体が発艦準備をしていた。


 アンドロイドクルーが慌ただしく動いていた。


 そして、戦闘開始カウントダウンがスタートした。


 オル・アティードがリニアカタパルトに設置された。


「5、4、3、2、1、Mark!」


 オル・アティードが勢い良く加速した。


 いくつものグリーンライトを通過し、機体が宇宙に放り出された。


<次回予告>

新しいデバイスのおかげか、戦闘宙域の状況が手に取るように分かるルナ。

そして、前回以上にAIの中に潜り込むことに成功する。

そこでルナは”ある光景”を目の当たりにするのだった。

次回、第65話 ”なんだったの?あの戦争の映像は。。。”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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