第61話 : これ以上の喜びはない
<前回のあらすじ>
ソル、りょーたろに新しいデバイスを借りたルナは”OneYearWar”で戦闘を行っていた。
すると、やはり前回同様に、AIから拒絶と”戦いたくない”という声が聞こえてきた。
その声が何故かとても気になるルナ。
そこで、ルナはソルとりょーたろにそれを伝えた。
ルナはさらに強力なデバイスをソル、りょーたろから受けとった。
その時、ルナにリチャード・マーセナスから連絡が入る。
リチャード・マーセナスはソルの0時間通信デバイスを量産させてほしいとお願いしてきた。
その連絡をソルに繋ぎ、ソルは一度地球にあるリチャード・マーセナスの工場に見学に行くこととなった。
ルナに新しいデバイスを渡した3日後、ソルとりょーたろはスペースシップから地球の成層圏の青い帯を見ていた。
「うわー、やっぱり本物はスゲーな。」
りょーたろも興味津々でスペースシップの窓から外を眺めて言った。
ソルも美しい地球の姿に感動を覚えていた。
「これが地球。おれたちの始まりの大地。なんだか帰ってきたって感じだな。」
スペースシップが軌道エレベータのゲート部に連結された。
二人はイミグレーションを過ぎ、軌道エレベータに乗った。
ドーナツ型の大型エレベータにはスペースシップと同数かそれ以上の座席が用意されており、座席に座った状態で、外を見ながら徐々に降下していった。
成層圏の青いベールの中に降りていくにつれて、大地の湾曲がどんどん平らになっていき、黒かった空間がやがて青い空に変わっていった。
緑や青や白い粒だった大地のキャンバスに海や森、建物が具体的に姿を見せ始めた。
その様子も言葉を失うほど美しい光景であった。
軌道エレベータを降りると、秘書のような女性型アンドロイド1体とボディガード用アンドロイド4体が二人を待っていた。
「ソル様、亮太郎 波多野様ですね。長旅ご苦労様でした。」
「お出迎えいただいて、ありがとうございます。」
「お疲れでしたら、ホテルに向かい、工場見学は明日に。
そうでなければ、このまま工場に向かいますが、いかがいたしましょうか。」
ソルはりょーたろと少し目を合わせて、答えた。
「ええ。大丈夫なんで、工場に向かってください。」
「かしこまりました。どうぞこちらに。」
ソルとりょーたろは車の方に案内された。
重厚な黒塗りのイオンクラフト車が待機しており、それに乗り込んだ。
二人を乗せたイオンクラフト車が走り出した。
りょーたろが腕や掌を見ながらソルに言った。
「これが本当の重力ってやつなんだな。
大地に引っ張られてるってこんな感じか。
やっぱりコロニーとは違うな。不思議だ。」
「うん。確かにね。ズンって沈む感じだよね。これが地球なんだね。」
イオンクラフト車が巨大な工場の敷地内に入っていった。
工業コロニー以外ではあまり見られない景観にソルとりょーたろは少し圧倒されていた。
イオンクラフト車が一つの巨大な建屋の前に到着した。
アンドロイドが車のドアを開け、ソルとりょーたろに降りるように促した。
建屋の前にリチャード・マーセナスと『HERVIC』と表示された作業服を着た男性が立っていた。
その周囲には警備のアンドロイドもずらっと並んでいた。
リチャード・マーセナスが挨拶した。
「ようこそ!我がHERVIC社へお越しいただき、誠にありがとうございます。」
ソル、りょーたろも挨拶した。
「お招きいただき、ありがとうございます。」
「私がリチャード・マーセナスです。そして、こちらがこのHERVIC社の社長をしておるリッティーです。」
「HERVIC社社長リッティー・マーセナスです。」
「あっ、よろしくお願いします。」
ソル、りょーたろが二人の顔を比べて見ていた。
「立ち話もなんですので、早速こちらへ。」
リチャード・マーセナスが建屋の中に入り、リッティー・マーセナスがソルとりょーたろを中に招き入れるような素振りを見せた。
ソル、りょーたろは誘導にしたがって建屋に入っていった。
二人は会議室に通された。
会議室には工場長や数名の技術パート長がすでに席に着いていた。
ソルとりょーたろが入るなり、それらの人々は慌てた様子で立ち上がった。
二人は改めて全員に向けて挨拶をした。
リチャード・マーセナスはソルとりょーたろに向かって提案してきた。
「まずは安心して任せていただくため、やはり現場確認をしていただくのが一番かと思います。
いかがでしょう。まずは工場内を案内させていただくというのは?」
りょーたろがソルを見た。ソルもりょーたろを見て答えた。
「ええ。はい。是非そうさせてください。」
ソルとりょーたろが1階の小型スペースシップのラインに入った。
ラインは端まで見ることができないほど長く、天井も非常に高い。
そこにはハンドロボット、アンドロイドが多数常時作業していた。そして若干名の人間もいた。
だが、人間はほぼなにもしておらず、お飾りであることは一目瞭然であった。
アンドロイドたちの動きには無駄がなく、忠実に自分の仕事をこなしているように見えた。
端ではフレームだけだった筐体も、ラインが進むにつれて、完成に近づいていった。
見事なまでのライン統制。その様子は圧巻であった。
そして、3階に上がると次はイオンクラフト車のラインであった。
こちらも小型スペースシップのライン同様に、整然と工程が進んでいた。
そして、エレベータで5階に上がった。
エレベータのドアが開くと、そこはガランとした空間が広がっており、数100体にのぼる作業用アンドロイドが整列していた。
ソルとりょーたろが思わず質問した。
「ここは?」
リチャード・マーセナスが口を開いた。
「ここがソル様のデバイスを製造するラインの予定フロアです。
もちろんそれはソル様のご了承が下りればの話ですが。」
そういって、リチャード・マーセナスが笑みを浮かべていた。
ソルはその広さ、そして数100体のアンドロイドの隊列を見て、驚きと喜びに顔が自然とほころんだ。
ソル、りょーたろ、そしてリチャード・マーセナスとリッティー・マーセナスが会議室に戻ってきた。
全員が着席し、リチャード・マーセナスが話を切り出した。
「いかがでしたか。弊社の工場は。お気に召していただけましたでしょうか。」
「はい。まさかすでにラインの場所まで確保していただけているとは。」
リチャード・マーセナスが前のめりになって返した。
「私は貴殿のデバイスを見た時、確信したのです。
これこそが人類を一つにするデバイスだと。
そのお手伝いが我々にできるのであれば、もうこれ以上の喜びはない。
そう感じたのです。」
ソルもりょーたろもあまりに旨い話に少し懐疑的になっていた。
装着しているJAM-Unitを視線で起動し、リチャード・マーセナスの心理を探っていた。
だが、聞こえてくるのは本当に1つの想いだけであった。
(世界を1つにできる。)
HERVIC社の社長リッティー・マーセナスが付け加えた。
「父から伺っています。
ソル様の開発されたデバイスというのは、0時間通信という夢のようなデバイスであると。
そのような高付加価値デバイスであれば、利益率も高く設定できる。
ソル様や波多野様にも高い還元をお約束できるでしょう。」
ソルがその言葉を聞いて、返した。
「お言葉ですが、私はこのデバイスを可能な限り低価格で提供したいと思っています。このBCDがそうであったように、、」
ソルが指で耳の縁に着けているデバイスをさすった。
「世界の全員がそれを享受できる状況になって、世界の全員がそれによって喜びを感じられる状況になるべきだと、私は信じているのです。」
ソルの言葉を聞いて、リッティー・マーセナスが反論した。
「人類に寄与できることは素晴らしいことだと私も思います。
ですが、それですと事業性が損なわれてしまう恐れがあります。
我々、地球圏は、、、」
反論する息子を父親が手で制止した。
「分かりました。そのようにさせていただきます。
私もそう考えていたところです。
このデバイスを目にすれば、利益などというものはそれほど大した問題ではない。」
ソルもりょーたろもJAM-Unitから脳に送り込まれるリチャード・マーセナスの真相を感じ取った。
(利益などどちらでもよい。その先にあるものを。)
リチャード・マーセナスがソルに聞いた。
「いかがですか。我々にお任せいただけますでしょうか。」
ソルは何か拭えぬ一抹の不安がよぎり、回答をひとまず保留とした。
「回答を少し待ってもらえますか。一度考えさせてください。」
<次回予告>
地球のマーセナスが持つ工場を見学したソル、りょーたろ。
ソルはトントン拍子に進むことに少し戸惑っていた。
だが、コロニーに戻ってきたソルがある人に出くわす。
そして、ソルの心に変化が生まれるのだった。
次回、第62話 ”違う方法で世界を。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




