第59話 : 戦いたくない。。。
<前回のあらすじ>
”OneYearWar”世界大会はルナの優勝で幕を閉じた。
その夜の表彰式、新技術発表パーティーで、ルナは新しいAIと戦うこととなる。
そして、その戦いの中でAIの拒絶の声、さらには戦いたくないという声を聞いたのだった。
コロニーに戻ってきたルナは、そのことをソル、りょーたろに打ち明けた。
ソル、りょーたろはもっと相手の意思を知ることができるJAM-Unitをルナに渡したのだった。
ルナがジャンク屋を見渡しながら言った。
「なに、このお店の状態。ボロボロじゃん!何かあったの?」
りょーたろとソルが顔を見合わせた。そして、りょーたろが状況を説明した。
「え?そんなことが。。。二人とも身体は大丈夫なの?」
「ああ。もうすっかり元通りだよ。お婆ちゃんもな。
っていうか、そうだ!優勝おめでとな。」
「あっ、そうだな。ルナちゃん、おめでとう。」
その話をするとルナの顔が沈んだ。
「ありがと。」
ルナが小声で答えた。
その様子にソルが質問した。
「なんだよ?嬉しくないのかよ?あんなに出たがってたじゃねーか。」
ルナが急にソルの方に向いた。
「勝ったのは嬉しかった。でもその後、新しいAIと。。。」
「あー、エキジビションマッチの話な。」
「でも、あれってルナちゃん、疲れてたって聞いたけど。」
その言葉を聞いて、急にルナの顔が曇った。
「たしかにそれもあったけど、でもやっぱりすごい性能が上がってて、疲れてなかったとしてもどうなってたか。それに。。。」
「ん?それに?」
曇った表情から次は困惑した表情に変化して続けた。
「それに、なんか。。。いや。戦いたくないって、、、言ってるような気がしたの。」
「戦いたくない!?」
ソルとりょーたろが一緒に反応した。
「お前の心がか?」
「違う違う!AIだよ。AI!!」
ルナの言葉を聞いて、ソルが不思議そうな顔をした。
「なんかお前、新しい宗教でもはじめようとしてる?」
「そんなわけないでしょ!!もういい。ソルさんに相談した私がバカでした。」
「なんだよ。」
雰囲気を元に戻そうとりょーたろが言った。
「AIのことは分かんないけどさ、技術的なところでなら、もしかしてルナちゃん助けられるかもしれないよ。」
「え?どういうこと?」
「例えばジャミング技術の発展版とか。ソルとおれの手にかかれば、相手の思考にズバッと入り込むくらいのことはそんなに難しい技術じゃないよ。」
「えっ?そうなの?」
「うん。OneYearWarの売りは世界にあるデバイスをほぼ網羅してるって言うじゃん?」
「うん。」
ソルがRoswellの屋敷で使ったジャミング機器を出しながら言った。
「えっ?じゃあ例えばこれとかも使えるってこと?」
りょーたろが使用可能な部品リストを目線で表示して、型式を思い浮かべた。
「ああ。たしかあったと思うぜ。」
すると、すぐに一つのデバイスがリストからピックアップされた。
画面共有しているソルはその表示を見て、少し興奮気味に言った。
「マジか!?っていうことは、これ、そのまま使えるんじゃ。。。」
「えっ?なに、それ?」
ルナが興味津々で前のめりになった。
「っていうか、そういや、お前。今、どんなデバイス使ってんの?」
ルナが前のめりになった身体を戻して、ポケットに入っている小さいカチューシャデバイスを二人の前に出した。
ルナの手のひらに載っているデバイスをソルとりょーたろが見た。
りょーたろがそのデバイスの型式と性能を認識した。
そして、その情報がソルにも伝わった。
「え?マジか!?お前、いつの時代のポンコツデバイス使ってんだよ。
こんなので戦ってたのかよ?逆にスゲーな。お前。」
りょーたろがソルの言葉に反応した。
「ポンコツって言うな。デバイスにだってだな。使命をもって。。。」
「あー、ゴメンゴメン。そういう意味じゃなくてさ。」
「ったく。」
そう言いながらも、りょーたろはソルのデバイス愛を知っているだけにちょっと意地悪な言い方をしてみただけであることはルナにも分かっていた。
りょーたろは笑みを浮かべるルナから曇りがなくなっていることを確認した。
「分かった。今日さ、ルナちゃんのアカウントにゲーム内でこのデバイス作って送っとく。」
りょーたろがソルの方を向いて言った。
「いいだろ?ソル。ルナちゃんに使わせても。」
「うん。もちろんいいよ。」
ソルがデバイスをルナに差し出した。
ルナが棒状のデバイスを受け取った。
「一回それ、試してみるといい。あと、デバイスはBCDと有線で直結させた方がいい。ただ、ちょっと脳への負担が重くなるから、それは注意しろよ。」
「うん。ありがと、りょーたろさん、ソルさん。試してみる。」
「ああ。きっとブッ飛ぶぜ!」
「お前、言い方。。。」
三人は一緒に笑いあった。
夕方になり、ソルとりょーたろがソルのタキオンコミュデバイスの生産用アパートを片付けていた。
お婆ちゃんがおにぎりの差し入れを持ってきてくれた。
「お婆ちゃん、身体の傷、良くなったからって、あんまり無理しないでね。」
「ああ。もうすっかり良くなったし、私はもう大丈夫だよ。
あの紳士の方に親切にしてもらったしね。」
「紳士の方?」
ソルがあの時のことを思い浮かべた。
「あー、レイじいちゃん?」
お婆ちゃんが少し照れた様子で答えた。
「そうそう。あのお方。」
そんな話をしているところに、突然、ソルのタキオンコミュデバイスに着信が入った。
着信をとると、デバイスの上にBCDを介して映像が映しだされた。
「あっ、繋がった。」
映像にソルが反応した。
「あー、ワトニーさん!」
ワトニーはエンケラドスの宇宙開拓士からソルの0時間通信の噂を聞きつけ、ソルに連絡を取った火星宇宙開拓士だった。
「ソルさん。おはようございます。あれ?朝と違うかな。
というか、これ、本当にありがとうございました。
素晴らしいですよ、このデバイス。」
「もしかして、コロニー4のご家族にも届いたんですね。
火星と交信できました?」
「ええ。家族と久しぶりに楽しく会話ができました。
ありがとうございました。
これ、しかし、本当に時間差がないとは。
ソルさん、あなた、とんでもない技術者ですね。」
「いえいえ。でも喜んでいただけてるみたいで本当に嬉しいです。」
りょーたろとお婆ちゃんがソルの方を見ながら微笑んでいた。
「こちらで、言われていた通りの方法で、3000個作っています。
一応、爆発は起こっていませんので、ご安心ください。」
ソルがにこやかに返事をした。
「良かったです。こちらのはすでに各家庭に送りましたので。」
「ええ。存じてます。私のデバイスを使って、まだ数家族ではありますが、繋いでみました。」
「大丈夫でした?」
「ええ。もうそれはそれはすごい評判です。」
その時、ワトニーの顔が真面目な顔になった。
「それで、少し相談なのですが、こちらでいろんな家族からさらに注文を受けまして、出来ればさらに3000個増産したいのですが、よろしいでしょうか。
もちろんお代はお支払いたします。」
ソルが満面の笑みを浮かべた。
「もちろんですよ!こちらでもそのご家族分を作ってお送りします。」
りょーたろとお婆ちゃんが手を取り合って喜んでいた。
だが、ソルが部屋の状態を見て、少し困った顔をした。
「ただ、ちょっといろいろありまして、こちらの生産が少しだけ遅くなりそうです。
2、3週間くらいでしょうか。」
ソルの言葉を聞いて、ワトニーが少し心配そうな表情になった。
だが、今頼れるのはソルしかない現実に納得する他なかった。
「あー、ええ。そのくらいでしたら、大丈夫です。
ぜひよろしくお願いいたします。」
ソルもワトニーの表情を見て、すぐにも欲しいという心情を読み取っていた。
だが、こちらの状況で納得せざるを得ないとワトニーが感じていることも読み取れた。
ソルはワトニーに対して、デバイスをすぐに提供できないもどかしさを感じた。
と同時に、ソルはリチャード・マーセナスの提案を思い出した。
何かを考えているソルをワトニーが心配した。
「ソルさん?大丈夫ですか?」
ソルがワトニーの言葉を聞いて、ふと我に返った。
「ああ。大丈夫です。詳細に日程が決まれば、またご連絡いたします。」
「ええ。よろしくお願いいたします。」
「はい。では、失礼いたします。」
そう言ってソルが通話を切った。
映像が消えてすぐに、ソルがリチャード・マーセナス議長の言葉を再び思い出していた。
りょーたろとリタお婆ちゃんがソルのところに来て、りょーたろがソルの肩を叩いた。
ソルが我に帰った。
そのソルの手をお婆ちゃんが取った。
ソルもお婆ちゃんの嬉しそうな顔を見て、ソルの心も晴れ上がった。
そして、三人は一緒に飛び跳ねて喜んだ。
ソルはこのデバイスが少し世界を変えているような、そんな気がして堪らなく嬉しくなった。
ルナが部屋で新しいシーズンとなった『OneYearWar』にログインしていた。
機体に装備していた使用デバイスを、ソルにポンコツと言われたデバイスから、先ほどりょーたろから送られてきたデバイスに置き換えた。
そして、自分の装着しているカチューシャデバイスを机の上に置き、代わりにソルから受け取った部品をカチューシャデバイスに装着して、BCDと接続した。
ルナがコックピットから母艦内の風景を見回した。
アンドロイドが機体の準備をしていた。
「戦闘開始まであと30秒。」
ルナは特に何も変わっていないように感じていた。
武器が機体に積み込まれ、イオンブースターのエネルギーも最大まで充填された。
「戦闘開始まであと10秒。9、8、7、6、、、」
ルナのオル・アティードがリニアカタパルトに置かれた。
「5、4、3、2、1、Mark!」
オル・アティードはカタパルトから強烈な加速を受け、宇宙に放り出された。
E国、Z国それぞれの機体がどんどん接近していった。
オル・アティードはいつものように群を抜いて先頭に立っていた。
ルナがそろそろ哨戒機のレーダー範囲に入りそうな位置に来た時、目を見開いた。
ルナの目が若干赤く染まった。同時にオル・アティードから虹色の波動が全方位に広がった。
その波動はいつも以上に強くはっきりと空間を歪ませるほどの波となって広がっていた。
波が広がった後も、しばらくの間、オル・アティードは敵陣に向けて進行していた。
次の瞬間、ルナが額に電気が流れるような感覚を覚えた。
それはいつも以上に明確で、照準がどこに合わせられているかが認識できた。
認識したというよりも、まるで自分が照準を合わせているような感覚が脳に入ってきたのだった。
ルナはいつものように大きく機体をスライドさせた。
その直後、まさにルナが思った位置にイオンビームが通りすぎた。
「なに、これ!?」
ルナはこれまで以上の鋭い感覚に驚きを隠せなかった。
それはまるで決勝戦で感じた鋭い感覚に似ていた。
オル・アティードが進行するに従って、次第にイオンビームの頻度が高くなっていった。
オル・アティードも反撃のイオンビームを撃ち始めた。
次々とルナの脳に入ってくる信号。
研ぎ澄まれていくルナの集中力。
どんどん赤く染まっていく目。
だが、敵戦闘機の群に入り込み、交戦を開始した時、照準を合わせる情報に加えて、それ以外の情報が入り出した。
(私の中に入ってくるな!)
さらには人の意識ですらも聞こえてきた。
(RedDevilかよ。あんなチョロそうな女が全く生意気な!!)
撃墜数が上がっていくにつれて、さらにルナの集中力が高まっていった。
ライトニングドライブと呼ばれる稲妻のような大きくスライドする動きから決勝戦で見せた最小の動きでイオンビームを避ける動きに変わっていった。
ルナの赤く染まった目から赤い涙が出始めた。
進行にしたがってルナの楽しそうな表情が徐々に無機質なものに変わっていた。
(入ってくるな!)
(おめーはおれの邪魔すんじゃねーよ!)
(入ってくるな!)
(どうやったらあんなになれんだ。スゲーな、マジで。)
(入ってくるな!)
(Little Forest様、マジでリスペクトっす!)
(あのビッチが。なんであんなのが、ありえねーし。)
(入ってくるな!)
その情報の中に混じって、ごく微かだが”ある声”が入ってきた。
(戦いたくない。。。)
「え?」
戦闘が激しくなるにつれて、人の声はほぼ書き消された。
反対にほぼ全てがAIの声となっていった。
初めは小さかったAIの戦いを拒否する声が、オル・アティードが進行するにしたがって徐々に大きくなっていった。
そして、さらに拒絶の声も大きくなっていった。
(入ってくるな!)
(戦いたくない。。。)
ルナにとって激しい拒絶の声、そして悲しみの声を聞き続けることは苦痛以外の何者でもなかった。
ルナは無機質な表情から苦悶の表情に変わっていった。
拒絶の声が高まるにつれて、最小限の動作で避けていたオル・アティードの機体の装甲をかすめるような状態となり、再びオル・アティードは大きな動きで避けるようになっていった。
ルナは旗艦にたどり着く途中に陣取る戦艦を撃墜した後、敵メタリックステラに取り囲まれた。
(入ってくるな!)(入ってくるな!)(入ってくるな!)(入ってくるな!)
(入ってくるな!)(入ってくるな!)(入ってくるな!)(入ってくるな!)
そして、
(戦いたくない。。。)(戦いたくない。。。)(戦いたくない。。。)(戦いたくない。。。)
(戦いたくない。。。)(戦いたくない。。。)(戦いたくない。。。)(戦いたくない。。。)
真っ赤な目をしたルナはズキンズキンと頭痛まで感じるようになってきていた。
<次回予告>
新しいJAM-Unitは、AIの思考を深いところまでルナに伝える。
ルナはAIの悲痛の叫びを聞く。
その声がルナの心に重くのし掛かる。
それが何かは分からないが、その声が気になるルナ。
その話を聞いたソルとりょーたろはさらに深くまで潜り込めるデバイスをルナに渡すのだった。
次回、第60話 ”感情への過剰潜行だな。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




