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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第6話:そうそう、『センネンヒツ』とかいう。

<今後の更新日程について>

今まで、毎週土曜0~1時の間に更新しておりましたが、

これから毎週水曜、土曜の 0~1時の間に更新していきます。


<前回あらすじ>

ルナは学校の友達と”OneYearWar”のRedDevilに関しておしゃべりをしていた。

友達はルナがRedDevilだとも知らずに。

ルナも思わず打ち明けそうになる。だが、心の重石(おもし)がそれをさせなかった。

ルナは心の中だけで思った。想いが繋がることで見えるものがあると。

その日の夜、ソルが”りょーたろさん”と呼ぶ男が経営する中古電子部品店、

通称ジャンク屋に着いた。

そこでソルは彼から午前中に依頼した部品を受けとったのだった。


 

 ソルはF地区のとある電器部品店の前にいた。


 店の中から声がする。


「おー、ソル!お疲れ!!」


「りょーたろさん、お疲れ!」


 りょーたろと呼ばれた男が店から出てきた。


 少し背が低く、青みがかったボサボサの髪の毛、頭にゴーグルを付けて、黄土色のつなぎを着た、年にして20代後半の男だった。


 顔とつなぎはところどころ油で汚れていた。


 りょーたろがソルにある物を手渡した。


「これ、朝のやつ。」


「あんがと。」


「まあ、まけにまけて、4000サークルでいいよ。」


「えっ?本当にそれでいいの?」


「ああ、まあ、廃品から取り出したタダ同然のもんだしな。」


「あー、助かる。ホント持つべきものはジャンク屋りょーたろ様だよ!!」


「へへへ」


 笑っていたりょーたろがふと思い出したように話し出した。


「あっ、そういやさ。珍しいもんが手に入ったんだよ。」


「えっ?珍しいもん??」


「これだよ。」


 りょーたろがある品物をソルの前に出した。


「これ。えーと、なんだったっけな、名前。。。


 そうそう、『センネンヒツ』とかいう。。。」


 ソルが笑いながら答えた。


「それいうなら、万年筆だよ。」


「あー、そう!!そんな名前だった。


 何でも昔、紙っていうメディアに直接文字を書いてたらしくってその時に使ってたものらしい。


 まあ、お前以外に興味持ちそうなヤツ、いないんだろうけどな。


 って、ソル、知ってたのか?」


 ソルはじっと万年筆を見ていた。





 幼いソルが、重厚な木机の上板から顔を半分出して、机の上に飾ってある万年筆をじっと見ていた。


 おもむろに幼いソルが振り向いて、後ろに立っていた老人に話しかけた。


「おじいちゃん、これなぁに?」


 少し曲がった腰、白髪で長い顎髭、細襟の白いヒラヒラとした羽織を着た老人が杖をつきながら、ソルの方に歩き出した。


「あー、それか。」


 ソルの祖父が机の方に杖をつきながら歩いてきて、万年筆を取り上げ、話し始めた。


「これはな、昔、文字を紙に書いていた頃に使っていた筆じゃよ。」


「カミって、あのでんきのやつ?」


「どれ、ちとやってみせようかの。」


 そういうと、ソルの祖父は机の引き出しから紙を取り出し、机の上に置いた。


 そして、万年筆が飾られていたところにあったインクカプセルを手に取った。


 ソルの祖父はソルにそのインクカプセルを見せた。


「これがインクというやつでな、これをこの中に入れて、紙にこのインクを吸わせるんじゃよ。」


 ソルの祖父が万年筆を真ん中からクルクルと回して、二つに分離させ、その中にインクカプセルを入れ、再びクルクル回して元の形に戻した。


「この先を良く見ておくんじゃよ。」


 ソルの祖父がペン先をソルの方に向けた。


 するとソルの目の前で毛細管現象によってインクがペンの烏口に伝わっていった。


 それをソルは目を丸くして見ていた。


「うわぁー。」


 ソルの祖父は笑みを浮かべて、紙に大きく字を書いた。


(柊レイ)


 ソルが反応する。


「あっ、おじいちゃんの名前。」


「そうじゃよ。この道具は、昔、エネルギーがまだ無尽蔵に作り出せなかった時代、こんな風にしてエネルギーを必要としない道具がたくさんあったんじゃよ。」


 ソルが目をキラキラさせて万年筆を見ていた。


 ふと、ソルの祖父は羽織のポケットの中に入っているデバイスを見た。


 そのデバイスには何かが表示されていた。


 それを見たソルの祖父は何か決断したような顔をした。


「ソル、お前にこれをあげよう。


 お前はお前の思ったことに突き進めばよい。


 好奇心旺盛なその目で見て、感じて、思うことをやればよい。


 これは私が私の父にもらった大事な品物だ。


 だが、お前の無邪気な好奇心を育てるためなら、これをお前に託すというのも良い選択なんだろう。」


 万年筆を両手で受け取ったソルは目をキラキラさせながらマジマジとそれを見ていた。





「おい、ソル?聞いてるか?」


 ソルがリョータローの声でふと我に返った。


「それ、ほしい?買う?」


 ソルがリョータローの方を向いて答えた。


「いや、いいよ。実は同じようなやつ、持ってんだ。」


「なんだ。もう持ってんのかよ。


 まあ、いいや。置いときゃいつか誰かが買うだろうさ。」





 ソルがジャンク屋から再び医療ポッドの修理を待つ依頼人のところに行き、修理を終え、ジャンク屋と同じF地区のあるアパート屋上に着いた。


 アパート屋上には小さい小屋が立っていた。


 ソルはその小屋に入っていった。


 小屋の中には、入って右側の棚にジャンク品が所狭しと並べられていた。


 小屋の奥には作業机があった。


 そして、その作業机の上には万年筆が1本飾られていた。


 作業机の奥の壁にある窓からコロニー端の回転中心にそびえ立つ発電所が見えた。


 その発電所ではS2機関というシステムで発電されていた。


 それはこの空間に折り畳まれた世界の一つである負界から物質流入を引き起こさせ、正界であるこの世界の物質と対消滅を起こさせることで莫大なエネルギーを得るというシステムであった。


 このシステムを開発したのが、ソルに万年筆をくれたソルの祖父『柊レイ』と祖母『柊(夏目)ミライ』であった。


 ソルは発電所から目を逸らし、部屋に入って左側の壁を見た。


 すると横の壁に報道スタジオの空間が広がったかのような3D映像が映し出された。


 美人系アンドロイドキャスターがニュースを読み始めた。


「本日の通商会合では、地球側がコロニー製品の関税引き上げを提議しましたが、コロニー側の反対により否決されました。」


 横にいる経済評論家が意見する。


「今や生産の拠点は完全にコロニーに移りつつあり、これは環境調整、排熱の観点から当然の結果と言えます。


 地球には環境資源の面で優位点があり、観光など、そういった点の産業育成が不可欠とAIの試算も出ていますが、今の地球側通商会長の意向により、、、」


 映像に会合に出席したレミ柊の姿が映し出された。


 ソルが今朝のイオンクラフト車で見たレミ柊の姿、そしてその横にいた自分と瓜二つのアンドロイドを思い出した。





 万年筆が置かれた机のある部屋で、幼いソルは祖父と母親がケンカをしているのを見ていた。


 レミ柊が言った。


「お父さんみたいに純粋に人の変革を求めたって、人類は変わらない。


 お父さんやお母さんも目の当たりにしたじゃない。


 S2機関でエネルギー問題が解決した。


 なのに、みんなが心を1つにしようとしなかったのよ!!」


 レミ柊を説得するように、柊レイが言った。


「それでもと。。。それでもと言い続けなければ何も変わらない。


 いつか、いつか、あの星のアンドロイドたちのように。。。」


  後ろに柊(夏目)ミライも立っている。


「あの星?アンドロイド?アンドロイドってノビィのこと?


 お父さんのせいでノビィは。。。まあ、いいわ。


 とにかく、この経済競争に勝って、法律で強制的にでも従わせない限り、いや、もしかしたら我々が独自に人を選別して、その人たちだけで国でも作らない限り、無理なのよ!!」


「それは昔と同じことだ!!


 自国の利益ばかりを追求して、ある時は勝利したようにも見える。


 だが、その影に沈められたものは、いつの日か心に火を灯す。


 そうやって行き着く先は滅亡だけだ。なぜ分からない!?」


「お父さんはいつも理想論ばかり!!」


 ソルが言う。


「もうやめてよ。ケンカなんかしないで。


 みんな、仲良くするための話し合いなんでしょ?」


 柊レイが祖父の顔を見て言った。


「おお、悪かった。ソル。お前は良く分かっているな。


 そうだな。おじいちゃんが悪かった。」





 ソルはニュース番組を遠い目で見ていたが、焦点が戻ったかと思うと、さっと目を反らした。


「もうおれには関係ないことだろ。。。」


 ソルは自分に言い聞かせるように言葉を発した。


 次の瞬間、チャンネルが科学系番組に変わった。


 ソルの目を反らした先の玄関に、コロニー配達ボックスがあった。


 ボックスの緑色ランプが一秒周期で明滅していた。


 ソルがボックスの方に歩いていくと、箱に(Sol authenticated)と表示され、自動で箱が開いた。


 中には小さな袋に入った錠剤があった。


 ソルが錠剤の入った袋を持って、部屋の科学系番組が映っている壁の手前に置かれている近代的な机の方に歩いていった。


 すると机の上に水の入ったコップが現れた。


 ソルは袋から錠剤を取り出して、その錠剤を少しの間見ていた。


 錠剤の表面には(telomerizerテロメライザー)と書かれていた。


 テロメライザーはソルが住むコロニー3-104に本社を置く複合企業、ゾディアックホールディングスが開発した薬である。


 この薬は人の細胞分裂回数を制御するテロメアという細胞を活性化させる役割を果たすものである。


 これにより細胞分裂の制限回数を飛躍的に向上させることに成功していた。


 それはすなわち老化防止の効果を発現させるものであった。


 この薬は開発者の善意で全人類に1日1錠配られることとなっており、それによって100年弱だった人類の寿命は推定500年とも言われるようになっていた。


 この薬はソルの祖父、祖母である柊レイ、柊(夏目)ミライが大学生だった当時、一緒に何かのプロジェクトを行っていた小林秋雄、小林(浜辺)小春という人物が開発したものであった。


 幼い頃から両家の交流は活発で、ソルはプログラムなどを小林(浜辺)小春から教わっていたのだった。


 S2機関による無尽蔵エネルギーは水、食料問題を解決し、世界にベーシックインカム制度まで普及させた。


 そして、テロメライザーは人の寿命を推定500年と言われるほど飛躍的に引き延ばした。


 この2つの発明は21世紀最大の発明と言われた。


 だが、人の怠惰を最大限膨らませた発明と言っても過言ではなかった。


 多くの人が無気力化し、貧富の差もこれ以上にないほど広がった。


 人を支えるのは他でもないアンドロイドたちであった。


 ソルは水を口に含み、テロメライザーを口に入れて、飲み込んだ。





 夜の9時55分。


 豪華に装飾が施された部屋。


 バロック様式のドアの向こうで話し声が聞こえる。


「分かってるよ。ママ。あっそうそう。もう今日は早く寝るから起こさないでね。」


「分かったわよ。ルナちゃん、おやすみ。」


「うん。おやすみなさい。」


 バロック様式のドアが開く。ルナが部屋に入って来た。


 ルナがドアノブの上の小さな丸いプレートを押した。


 指の中の血管に流れるナノマシンからルナの遺伝情報が読み取られ、照合が完了し、ドアにロックがかかった。


 ルナが部屋の電気を消した。


 そして、机に座る。


 首を一度上に向け、目を閉じ、ふーと息を吐いたかと思うと、目を開き、机の正面を見た。


 QuantumGate Play34というロゴが机の上にホログラムのように浮かび上がる。


 それはルナが装着しているBCDから脳内視神経に信号が送られた結果であった。


 ウインドウの中に何個かアイコンが表示された。


 ルナはその中の1つ、スペースコロニーと地球が描かれたアイコンを見た。


 すると、ウインドウが1つ展開された。


 そのウインドウには”OneYearWarを起動しますか?”と書かれていた。


 ルナが軽く頷くとそのウインドウが消え、ルナの周囲が何かの球体のコックピットの中にいるような風景に変わる。


 まだコックピットから外の様子は見えていなかった。


 机の形が変形し、左右に操縦桿のようなレバーが現れた。


 そして、足元には両足で踏めるような2つのペダルが出てきた。


 ルナは足元のペダル2つを左右の足でそれぞれ踏みつけ、左右のレバーを両手で掴んだ。


 するとルナの姿が茶色いモジャモジャの髪で、目が大きい高校生くらいの男子に変わり、コックピットの球体内部の壁から外界が透けて見えるようになった。


 何か基地の中にいるような風景であった。


<次回予告>

ルナは母親におやすみと言い、自分の部屋に入った。

勉強机に座るルナ。

机の形がコックピットに変形する。

そして、起動される”OneYearWar”。

ルナは愛機”オル・アティード(光の未来)”に乗り、戦闘宙域へと出撃する。

戦闘宙域に飛び出し、次々と敵機を撃墜していくその姿はまさに” RedDevil(赤い悪魔) ”そのものであった。

その時、”RedDevil”と共闘する1機の戦闘機が!!

次回、第7話 ”オル・アティード(光の未来)、出る!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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