第58話 : やっぱりこれは彼らの、、、声だ。
<前回のあらすじ>
地球で開催された”OneYearWar”世界大会で見事優勝を果たしたルナ。
その日の夜、大会の表彰式と新技術発表パーティーが開催されていた。
ルナはそこでコロニーにいるソル、りょーたろと通信を行った。
ソルの開発したタキオンコミュデバイスによって0時間通信を可能としていた。
遅延のない通信を見て、驚き、慌てふためく地球議会長リチャード・マーセナス。
リチャード・マーセナス議長は自分の工場でそのデバイスの量産を行いたいとソルに提案したのだった。
ルナとソルの通話が終わり、いよいよB-DAI-N.Co社長による新技術発表。
それは新型AIの投入についてであった。
社長はエキジビションマッチとして、新型AIとの対戦をルナに提案した。
ルナは新型AIとの対戦を受けて立った。
「4、3、2、1、Mark!!」
オル・アティードが母艦内のリニアカタパルトに沿って急加速した。
緑色のランプが凄まじい勢いで過ぎ去っていき、あっという間に機体が宇宙空間に放り投げられた。
下面には地球の地平線が広がっていた。
その瞬間、ルナは目を見開いた。
機体がさらに加速する。
そして、オル・アティードから虹色の光が放たれ、放射状に波が広がった。
「旗艦より各機へ。本戦闘は地球座標系とする。座標会わせ!」
機体に設置されている汎用重力波レーダーが1000km先の敵機を捕捉した。
ルナは最大加速で敵機旗艦に向けて直進していた。
数秒後、ルナは敵機の攻撃を察知した。
サイドブースターがイオンを放射。オル・アティードが急速にシフト移動した。
その直後、イオンビームが深紅の機体のいた場所を貫いた。
その距離は以前ほど離れてはいなかった。
観客は俯瞰カメラで撮された映像を見ていた。
オル・アティードが間一髪でイオンビームを避ける様を見て、歓声が上がった。
次々と打ち込まれるイオンビーム。
オル・アティードは稲妻のような軌跡を描きつつ、イオンビームを回避し、どんどん進行していく。
通過したイオンビームは後続の味方機に当たり、後方で爆発が発生していた。
ルナは僅かに異変を感じていた。
(ん?思った以上にビームの距離が近いな。)
10秒ほど進行した後、ルナが回避行動をとりつつ、イオンビームを射出し始めた。
すると前方で爆発が起きた。
オル・アティードのコックピット映像にはまだ肉眼で敵機を確認できる状態ではなかった。にも関わらず、深紅の機体はビームを吐き、敵機を撃破する。
その様子に観客の歓声はますますヒートアップしていった。
そこから数秒間の進撃で次々と敵機を撃破していくルナ。
だが、徐々に機体の回避位置と敵機の放つイオンビームが通過する位置が近づいてきていた。
敵機の表示がどんどん増えていき、敵旗艦まで約300kmまで接近した時点で、深紅の機体は周囲を敵機に囲まれた状態となっていた。
ただ、そのような状態はルナにとって日常茶飯事だった。
周囲から無数のイオンビーム、レールガンの弾丸が飛んで来た。
オル・アティードの進行が遮られるほどの弾幕。
深紅の機体は急激に速度を落とした。
すると、オル・アティードはアサルトユニットやブースターユニットの角度を変え、翔び方を一変させた。
稲妻のような軌跡は、まるで蝶の舞いのように変化した。
ヒラヒラと跳ねるように攻撃を躱し、反撃のイオンビーム、レールガンを射出。
オル・アティードは敵機を一体、また一体と撃破していった。
しかし、次の瞬間、ルナは耳を疑った。
(入ってくるな!)
ルナには確かに聞こえた。
強い拒絶の感情がルナに伝わってくる。
機体とイオンビームの距離がさらに近づいてきた。
ルナは先のキャスバル・ノンレムとの戦いを思い出した。
お互いの気持ちが入り込む感覚。
ルナが小声で言った。
「まさかこれってAIの、感情!?」
一瞬の気の緩みからブースター推力偏向プレートの端をイオンビームが掠めた。
ルナがそれを感じ取った。
さらにキャスバル・ノンレムとの戦いを思い出し、ルナの感情が高ぶった。
すると、オル・アティードの虹色の光が強さを増した。
空間を歪ませるほどの波動が空間を伝搬した。そして、周囲の敵機が強く震えだした。
オル・アティードとイオンビームの距離が再び広がった。
避けながらも徐々にゆっくりと旗艦の方に移動を開始しだした。
深紅の機体の動きに合わせてか、さらにAIのレベルが引き上げられた。
それにともない、ルナの中に強烈な拒絶の感情が流れ込んでくる。
(私の心に入ってくるな!!)
ルナは気のせいかもと思っていたが、その時、はっきりと分かった。
「やっぱりこれは彼らの、、、声だ。」
オル・アティードとイオンビームの距離が再度縮みはじめた。
ルナが全神経を集中させた。
ルナの目が赤く染まっていく。
そして、赤い涙が流れだした。
ルナの心に響く声がますます強くなっていった。
それでも深紅の機体は何とか回避し続け、次々と撃破し、ゆっくりと旗艦の方へと進行していく。
その様子を見ていたリチャード・マーセナスは焦りを見せていた。
インカムを使い、トミー宝田に連絡を入れた。
「おい!大丈夫なのか!!?」
トミー宝田が壇上で小声で答えた。
「まだ最大レベルが残っています。これで。。。」
トミー宝田が思考で指示を出した。
ついに、AIのレベルが最大に到達した。
ルナの中に脳を刺すような”感情”が流れ込んできた。
(入ってくるな!!)
(入ってくるな!!)
(入ってくるな!!)
ルナはさきほど以上に強烈な拒絶の意志を感じた。
あまりの強い拒絶にルナの心に大きな負荷がかかる。
しかし、ルナもその拒絶のバリアを破るように、相手の中に入り込もうとする。
それはまるでキャスバル・ノンレムと戦った時に発現した最後の超集中状態のようであった。
オル・アティードの動きが大きな動きから最小の動きに変化した。
イオンビームを、レールガン弾を極僅かな回避動作で避け、直進しはじめた。
リチャード・マーセナスとトミー宝田は想定以上のルナの動きに驚いた。
「これほどとは!そんなバカな!!」
ルナは表情を失い、真顔でコックピットに座っていた。そして両目から赤い涙が溢れていた。
コックピットから見える周囲の映像の中に次々と爆発が起こっていた。
ルナは表情を一切変えず、無機質に戦闘を行っていた。
だが、次の瞬間、ルナの心に得も言えぬ悲しみを持った声が小さく響いた。
(私は戦いたくない。。。)
(私は戦いたくない。。。)
(私は戦いたくない。。。)
それは、先ほど同級生の城ケ崎の中から聞こえたような、心の中の本当の声だとルナは無意識に感じとった。
ルナはありとあらゆる方向から聞こえるその声に驚いた。
「え?」
その声を聞き、ルナの目の赤色が急速に薄まった。
一瞬だが、オル・アティードの動きが止まってしまった。
ルナが再び集中しようとしたが、コックピットの映像が一瞬で光に包まれた。
コックピットブースの上に映された映像の中心で、爆発が一つ起こった。
その爆発は観客の歓声を一瞬で書き消した。
リチャード・マーセナスはその爆発を見て、目を見開き、うっすら笑みを浮かべた。そして、握りこぶしをグッと握りしめていた。
真っ赤だったルナの目は元の黒色に戻り、赤い涙を拭い流すように透明な涙が溢れていた。
ルナの心はその悲しい声に呼応していた。
観客からの歓声はどよめきに変わってしまっていた。
MCが慌てて解説に入った。
「おーっと、残り距離から察するに、まさにAIレベルが最大になったところでしょうか。
LittleForest選手、惜しくも撃墜されてしまいました!!
いかがですか?トミー宝田社長。」
MCが壇上のトミー宝田にコメントを求めた。
「そうですね。これがまさに新しいAIの能力です。ご覧の通り、非常に強力なAIとなっています。
ですが、最初に本ゲームを投入した時のように、きっといつか皆さんがこのAIすらも越えてくれると信じています。
我々は新しい時代に突入します!
新しいステージを楽しんでください!!」
スタッフアンドロイドと女性MCがコックピットのハッチを開け、疲労困憊のルナに手を貸していた。
ルナの様子に女性MCが男性MCに対応不可のサインを送った。
それを見た男性MCがルナにコメントを求めようとしたが、様子を見て、エキジビションを終わらせた。
「LittleForest選手は本戦の疲労もあったようです。
今、回復ポッドに向かっていただきました。
LittleForest選手、本当にありがとうございました。
それでは引き続きパーティーをお楽しみください!!」
そして、パーティーが終わった。
次の日、ルナがコロニーに帰ってきた。
ソル、りょーたろがエアポートに迎えに行ったが、OneYearWar優勝者を誰しもが見たいとエアポートは人でごった返していた。
護衛のアンドロイドが道を作るように立ち並び、少し後にルナが出てきた。
一気に大きくなる歓声。それは、エアポートが歓声で揺れているような錯覚を起こすほどであった。
ソルとりょーたろがその様子を高い位置の廊下から見ていた。
りょーたろが苦笑いしながら言った。
「こりゃ近づけんな。。。」
ソルも僅かにひきつった表情で、頬を指で掻きながら言った。
「ルナ、えらいことになってんね。」
ルナは歩きながらキョロキョロして、上にいるソルとりょーたろを見つけた。
ルナが目で合図をした。
(あとでね。)
りょーたろが顔の前で二本指をピッと出して合図を返した。
ソルも軽い笑顔と頷きで合図を返した。
ソルとりょーたろがジャンク屋を片付けていた。
棚や壁は一部まだ壊れていたが、部品が並べられて、商売が再開できるほどになっていた。
「これで最後だね。」
「あー、ソル、あんがとな。ホントに助かったわ。」
二人が会話しているところに帽子を深々と被り、夏の暑い気候にも関わらず、厚手の服を着て、サングラスまでかけ、いかにも怪しそうな雰囲気の人が店の前に立っていた。
りょーたろがお客の気配を感じて、振り向きながら言った。
「いらっしゃ、、、い?」
りょーたろが帽子の下から覗き込むように少し前屈みになって続けた。
「ルナちゃん?」
りょーたろの声にソルもそっちを向いた。
「は?」
ルナがサングラスを取りながら笑っていた。
「ばれたか。。」
りょーたろが周囲を見回し、慌ててルナを店の中に引き入れた。
店に入ってきたルナをソルが説教した。
「お前な!こんなとこに来て。。。今、お前の状況分かってんのかよ?あの人だかりスゴかったろーよ。」
「私は私だよ。何も変わってないし、ソルさんやりょーたろさんがどうしてんのかなって気になって。」
「お前は変わってなくても、周りの目が変わってんだよ。」
「はい。その話は終わり!っていうか、なに、このお店の状態。ボロボロじゃん!何かあったの?」
りょーたろとソルが顔を見合わせた。そして、りょーたろが状況を説明した。
ルナを地球に見送った後、マフィアUnion-Roswellによってジャンク屋が破壊され、その周囲の人が傷つけられたこと。
ソルのデバイスを作るアパートが破壊され、お婆ちゃんが傷つけられたこと。
そして、二人でマフィアUnion-Roswellに殴り込みに行き、ソルの祖父の力も借り、なんとか壊滅させたこと。
「え?そんなことが。。。二人とも身体は大丈夫なの?お婆ちゃんは?」
「ああ。もうすっかり元通りだ。お婆ちゃんもな。っていうか、そうだ!優勝おめでとな。」
「あっ、そうだな。ルナちゃん、おめでとう。」
その話をするとルナの表情が沈んだ。
「ありがと。」
ルナが小声で答えた。
その様子にソルが質問した。
「なんだよ?嬉しくないのかよ?あんなに出たがってたじゃねーか。」
ルナが急にソルの方に向いた。
「勝ったのは嬉しかった。でもその後、新しいAIと。。。」
「あー、エキジビションマッチの話な。」
「でも、あれってルナちゃん、疲れてて全力が出てなかったって噂だけど。」
その言葉を聞いて、さらにルナの顔が曇った。
「たしかにそれもあったけど、でもやっぱりすごい性能が上がってて、疲れてなかったとしてもどうなってたか。それに。。。」
「ん?それに?」
曇った表情から次は困惑した表情に変化して続けた。
「それに、なんか。。。いや。戦いたくないって、、、そう言ってるような気がしたの。」
「戦いたくない!?」
ソルとりょーたろが一緒に反応した。
「お前の心がか?」
「違う違う!AIだよ。AI!!」
ルナの言葉を聞いて、ソルが不思議そうな顔をした。
<次回予告>
AIの声からなにかを感じ取っていたルナ。
ルナはソル、りょーたろから新しいJAM-Unitをもらう。
それを使ったルナは。。。
次回、第59話 ”戦いたくない!!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




