第56話 : 血筋なのかもしれんな。
<前回のあらすじ>
マフィア”Union-Roswell”に殴り込みをかけたソルとりょーたろ。
二人はアンドロイド部隊を退けるも、人間部隊に取り囲まれピンチに陥った。
その二人を助けたのが、ソルの祖父、柊レイであった。
人間部隊を退けた柊レイだったが、直後に100体を越えるアンドロイド部隊が屋敷に入ってきた。
柊レイ、ソル、りょーたろはアンドロイド部隊に囲まれてしまったのだった。
柊レイ、ソル、りょーたろ3人の前でブラック・ロズウェルが土下座をしていた。
ソルとりょーたろもブラック・ロズウェルを見ていたが、周囲でなにかドタドタと音がしていることに気がついた。
ソルとりょーたろが周囲を見回した。
その時、ブラック・ロズウェルのBCDの画面にある表示が点いた。
(Approaching)
その表示を見たブラック・ロズウェルが頭を下げたままニヤリとほくそ笑んだ。
すると、周囲の窓、出入り口からアンドロイドが次々と部屋の中に入ってきた。
柊レイ、ソル、りょーたろたちはあっという間にそのアンドロイドたちに取り囲まれた。
ブラック・ロズウェルの周囲には集まったアンドロイドよりも一際屈強な護衛アンドロイドが付いた。
ブラック・ロズウェルが服の埃を祓いながら立ち上がった。
「なーんてな。おれがお前らに負けるわけがないだろーが!」
ブラック・ロズウェルはわざと煽るような表情をして言った。
お互いを庇いあいながら立っているソル、りょーたろが、一気に変わった形勢を見て、再び不安な表情を浮かべた。
三人の周囲には今や百体は下らないアンドロイドがレーザーガンを構えて立っていた。
「さー、お前ら、どうするよ?土下座でもしてみるか?」
ブラック・ロズウェルが再び勝ち誇った顔で言った。
ところが、柊レイは再び軽く笑みを浮かべて言った。
「つくづく学習能力のない一族よの。」
その言葉を聞き、ブラック・ロズウェルの眉がピクッと動いた。
「あー!なんだと!?」
アンドロイドたちが改めてレーザーガンを構えた。
今にもレーザーが飛んできそうで、ソル、りょーたろが息を飲んだ。
それでも柊レイは静かに笑みを浮かべていた。
そして、持っている杖の先で床をトンと突いた。
その直後、杖の先端が虹色に光りだした。その光りは部屋中に広がった。
柊レイの目が急速に赤く染まる。
柊レイやソル、りょーたろを取り囲んでいたアンドロイドが若干震えたかと思うと、ガクガクと震えながらもレーザーガンをソルたちの方向からブラック・ロズウェルの方向に変えた。
ブラック・ロズウェルの回りにいた屈強なアンドロイドもガタガタ震えながらブラック・ロズウェルの方を向いた。
「な、なんだ!?お前ら?」
その声を聞くか聞かぬかの間に、ブラック・ロズウェルの周囲にいた屈強なアンドロイドの振動が止まった。
次の瞬間、屈強なアンドロイドがおもむろにブラック・ロズウェルの腕を掴み、腕を極めて、ブラック・ロズウェルの身体の後ろに回した。
「おっ、おい!お前ら!!何をする!?スクラップにされたいのか!?」
あっという間にブラック・ロズウェルは、腕を極められたまま、床にうつ伏せ状態にさせらた。
柊レイがうつ伏せのブラック・ロズウェルの前に歩いてきた。
その後ろではソルとりょーたろが庇いあって立っていた。
柊レイが赤い目でブラック・ロズウェルを睨んだ。
「わしの持つ全ての力を使ってでも、お前さんが罰を受けられるようにしてしんぜよう。
一生かけてコロニー監獄で罪を償うがよい。
監獄ではお前さんの大好きなテロメライザーも支給される。
数100年悔いるがよいて。」
その後、すぐにサイレンが鳴り響き、警察アンドロイドが屋敷に突入してきた。
ブラック・ロズウェルの率いていたアンドロイドたちはまるで降伏するように電源が落ちた。
警察アンドロイドが気絶している取り巻きたちやブラック・ロズウェルの身柄を確保していた。
柊レイの赤く染まった目が元に戻っていった。
そして、柊レイがソル、りょーたろの元に移動した。
ソル、りょーたろの緊張が解け、二人が崩れそうになる。
すると周囲の警察アンドロイドが二人を支えつつ、床に横たわらせた。
「無茶をしおって。」
多量の出血で気を失いそうなソルが言った。
「ごめん、じいちゃん。」
「もう話すでない。すぐに緊急医療班が来る。」
すると、医療用アンドロイドが四体部屋に入ってきた。
二体ずつがソル、りょーたろに付いた。
アンドロイドの目からスクリーニングの光が出て、ソルとりょーたろの全身をスキャンした。
その情報は対応するアンドロイドそれぞれに共有され、即座に患部にマイクロニードルによる麻酔が施され、応急治療が開始された。
それを見ていた柊レイに一本の通話が入った。
柊レイが思考によって、通話を受けた。
BCDを通してある一人の男性が空中に映し出された。
「お久しぶりです。柊レイ博士。」
「ああ、久しぶりじゃ。金形警視長官。」
「すみません。情報をいただきましたのに、少々証拠確保に手こずってしまいまして。
ですが、お陰さまで内部の腐敗分子を取り除くことができました。
これでD、E、F地区の治安を回復させることができると思います。
今回の件、なんとお礼を言えばよいのやら。」
「いやいや。礼には及ばんよ。持ちつ持たれつじゃろうて。」
そんな話の間、応急処置が終わり、ソル、りょーたろの下に電磁ネットタンカーが敷かれ、ソル、りょーたろがフワッと宙に浮いて運び出された。
柊レイも一緒に移動し始めた。
「金形君。すまんな。ちょっと孫と孫の友人を見なけりゃならんのだが。」
「あー、すみません。長話をしてしまいまして。
はい。それではあとはこちらで対応いたしますので。」
「ああ。よろしく頼むよ。」
柊レイが杖をつきながら、タンカに運ばれるソル、りょーたろに続いて、屋敷を出ていった。
ルナが回復ポッドで体力と神経消耗を回復させた後、ホテルの部屋で父親と母親に電話をかけていた。
「あっ、パパ、ママ。私、優勝したよ。
パパとママが送り出してくれたおかげ。
本当にありがとう。」
しばらく時間が経って返しの言葉が入った。
「うん。ルナ、優勝おめでとう。
良かった、本当に。
ママも横で聞いているよ。」
ルナは父親の言葉を聞いて、返した。
「ありがとう。本当に。私、この大会に出て。。。」
この大会に出てという言葉に被って、母親の言葉がルナの耳に入った。
「ルナちゃん、おめでとう。ところで、身体はもう大丈夫なの?」
ルナが言葉を止めて、母親の言葉を聞いた。
「あっ、知ってたんだね。
うん。もう大丈夫。すぐに回復ポッドに入ったし。」
言いきるかどうかで、次に父親の言葉が入ってきた。
「その大会で、お前が言っていた『つながり』は見つかったかい?」
ルナが答えた。
「うん。分かり合うにはまだまだかもしれないけど、それでもやっぱり私は。。。」
そう言っている途中に母親の声が聞こえた。
「こっちに帰ってきたら一度検査を受けないとね。」
会話が入り乱れている様子に、お互いが黙ってしまった。
ルナがすぐに二人にメッセージを送った。
(パパ、ママ。声が聞けただけでも嬉しかった。
帰ったらいっぱい話そ。
いろいろ話したいことがあるんだ。
だから帰ったらいっぱい。)
その数秒後に、父親、母親からメッセージが入った。
(うん。分かった。いっぱい話そう。優勝おめでとう。)
(ええ。ルナちゃん、本当にお疲れ様。地球、楽しんでね。)
ルナは若干涙目になりながらも通話を切った。
その後、ルナはタキオンコミュユニットを使ってソルに連絡を入れた。
だが、ソルは通話に出なかった。
「ん?なんか次のロットでも作ってんのかな?」
ルナは特に気に止めず、夜のパーティーまでゆっくり休むことにした。
数時間後、ソルとりょーたろが回復ポッドの緊急処置を終え、完全密閉状態だったポッドの扉が低い音を立てながらゆっくり開いた。
ポッドの中のソル、りょーたろには患部のみ保護ギブスが付いた状態であった。
保護ギブスの中では皮膚が再生され、傷が跡形もなく修復されているところであった。
機体に表示されているバイタルパラメータは全て危険領域を脱して、八割がたが安定数値、残り二割がまだ注意領域となっていた。
柊レイがソル、りょーたろに声をかけた。
「まあここまでくれば大丈夫じゃろう。無事のようでなによりじゃ。
しかし、お前たち、ちと無理しすぎじゃて。」
ソルが小さい声で答えた。
「ごめん、じいちゃん。いたたた。。。」
痛がるソルを見ながら、りょーたろも答えた。
「すみません。私がソルに無理をさせてしまったもので。あたたた。。。」
柊レイが二人を見て、笑みを浮かべながら穏やかに言った。
「これこれ。もうしゃべるでない。」
柊レイが軽く息を吐いて続けた。
「まあ、無茶をするのは柊家の血筋なのかもしれんな。
わしも昔ムチャをしたもんじゃ。
ちと犯罪まがいのハッキングで世界中のコンピュータを使ったりの。」
柊レイが集中医療室の天井を見て、少し思い出して、声を出して笑った。
「それがもとで今のお前さんたちのように死にかけもしたもんじゃ。それに。。。」
柊レイがりょーたろの方を見た。
そして少し悲しそうな顔になった。
「それに、本当に大事な親友を失くしもした。」
柊レイが再び息を吐き、口をつぐんで、床を見つめた。
そして、ソルとりょーたろの方を見て、続けた。
「お前さんたちは本当に良い友人に出会ったようじゃな。
りょーたろ君。これからもわしの孫と仲良くしてやってほしい。
この通りじゃ。」
柊レイは深々と頭を下げた。
りょーたろが慌てて、だが力のない声で返事をした。
「ああ、頭を上げてください。
僕の方こそ彼にはたくさん助けられて。。。いててて。」
「おお、すまんかった。もう声を出さんでくだされ。」
「りょーたろさん、だいじょー、、ぐぐぅ。。。」
ソルが心配して声をかけるも自分も痛みで声が掠れた。
りょーたろが柊レイとソルの両方に対して苦笑いを見せて軽く頷いた。
柊レイが二人の様子を見て続けた。
「お前さんたちを見ていると、わしも大学の頃を思い出すわい。
失敗もたくさんした。
わしを大学に入れてくれた教授に反抗したりしてな。」
ソルがハッとした顔をして、柊レイを見た。
柊レイもソルを見ていた。
ソルは祖父がその自分の姿をソルに重ねているのを感じ取った。
「そうじゃ。今のお前さんのようにな。
わしもどこかではその教授に認めてもらいたかったのかもしれん。」
柊レイがポケットに手を入れ、その中の何かを見た。
(JAM-Unitを・・・)
柊レイが再びソルの方を向き、真面目な顔つきになった。
「ソルよ。
お前は自分の信じること、人として正しいと思うことをやればよいのじゃ。
失敗など恐れずに前に向かって進めば良い。
迷った時は、そっと目を瞑れ。
まぶたの先に映るもの、それを掴むのじゃ。
しかしな、それはきっと大変なことじゃ。
諦めそうになることもあるじゃろう。
だがな、勝負はそこからじゃ。
そこから足掻いて足掻いて足掻きたおすのじゃ。
そうやって、一歩また一歩と進めばよい。
いつかそれがお前の道となるじゃろう。
そして、いつかきっと、その道を誰かが見てくれるはずじゃ。
お前さんの思いを感じ取る人たちが、きっとその道を大きなものにしてくれる。
それまで、諦めずに足掻くのじゃぞ!!」
ソルは、いつにない鬼気迫る祖父の言葉を呆気に取られて聞いていた。
そして、ソルは頷きながら返事をした。
「う、うん。分かった。分かったよ。あいててて。。。」
「おお、すまんすまん。
つい熱くなってしもうたの。
わしも年を取ったもんじゃ。
老人は小言が多くなっていかんの。」
そう言うと柊レイが笑った。
「あと、数時間で体力も全回復するじゃろう。
今はゆっくり、もう一眠りするが良い。」
柊レイが二人を見て、最後の言葉をかけた。
「それでは、またな。」
ソルもりょーたろも力を振り絞ってお礼の言葉を柊レイに向けて言った。
「ありがと、じいちゃん。」
「ありがとうございました。」
柊レイがコクッと頷いて、部屋を後にした。
「それでは授賞式の最後を飾るのは、、、」
会場中にドラムロールが鳴り響く。
「ヒューマンプレイヤーにして、AIをも打ち負かすネオンジェネシス!
そして、みなさんご存じの”RedDevil”という異名を持つプレイヤー。
2299年OneYearWarチャンピオン~!!」
大きな音を最後にドラムロールが鳴り止む。
「LittleForestーー!!」
”OneYearWar”勝利のファンファーレが鳴り、ドレスを着たルナが表彰台に駆け上がった。
二位のところに立っていたキャスバル・ノンレムもルナに握手を求め、ルナを祝福していた。
ルナが頂上に上ったところに、B-Dai-N.Coの社長がルナのところに来た。
B-Dai-N.Coの社長がルナの首にゴールドメダルをかけ、ルナの身長とほぼ同じサイズのトロフィーをルナに渡した。
三位までの表彰台メンバーとB-Dai-N.Co社長との記念撮影が行われ、無事表彰式が終了した。
「それではこれよりコンサートやショーが開催されます。
その間、ビュッフェ形式での食事も提供しております。
存分にお楽しみください。
そして、最後に、B-Dai-N.Co社長から新規発表とエキジビションマッチがあります!!
また、オンラインでのフリーバトルも可能ですので、奮ってご参加ください。」
そう言うと、MCが舞台からはけて、アンドロイドアイドルが登場して場を盛り上げ出した。
<次回予告>
”OneYearWar”世界大会で優勝したルナ。
ルナは、回復ポッドで体力を回復させ、表彰パーティーに参加する。
そのパーティーでルナは地球議会長リチャード・マーセナスと会う。
そして、その時、ある出来事が起こるのだった!!
次回、第57話 ”世界をひとつに”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




