第55話 : つまりはお前たちにお灸を据えるということ
<前回のあらすじ>
マフィア”Union-Roswell”に殴り込みをかけたソルとりょーたろ。
二人は大量のアンドロイド部隊を退けたが、人間部隊が襲ってきた。
すでにほぼ体力の尽きていた二人だったが、ソルがマフィアの頭領ブラック・ロズウェルに迫った。
その時、りょーたろがレーザーで足を撃たれ、捕まってしまう。
動きを止めたソルにもレーザーが打ち込まれ、ソルも動けなくなってしまった。
そして、ブラック・ロズウェルはりょーたろにソルを見捨てるか、二人で死ぬかの選択を迫るのだった。
ブラック・ロズウェルが攻撃の届かない距離でしゃがみ、りょーたろに向かって言った。
「おい、お前。
お前に今から人生の選択をさせてやる。
選択肢は二つだ。
一つ、今、こいつを置いて、素直に家に帰れ。
そうするならお前の命は保証してやる。
後腐れもなしだ。
そして、もう一つ。こいつと一緒に今から、もう生きていたくないって思うくらい酷い拷問を受けるか。
どうだ?
どうせお前はこいつに付き合わされただけなんだろ?
それでわざわざ命を落とすことなどない。
家に帰っちまえよ。」
りょーたろがうつむいた。
そのりょーたろを見て、ソルが言った。
「りょーたろさん、帰るんだ。おれのことはいいから。」
ブラック・ロズウェルがソルの言葉が終わるか、終わらないかのうちに、レーザーガンでソルの右脇腹を撃った。
「ぐわぁぁーーー!!」
ソルが倒れ込んだ。
「あー、すまんな。
大切な臓器が1つなくなっちまったかぁ?
生きたまま取り出してやるから覚悟しとけよ。」
りょーたろが顔をあげ、倒れ込んだソルを抱え、ソルの脇腹を押さえた。
そして、ソルに向かって言った。
「ソル、すまん。」
りょーたろがソルから手を放した。
りょーたろは左足を引き摺るようにしてゆっくり立ち上がり、ソルの前で両手を広げた。
そして、ブラック・ロズウェルに向かって言った。
「おれは帰らない。
お前、何か勘違いしてねーか?
おれはな、あの店を壊したお前らが許せないんだよ。
あそこで築いたいろんなことをお前たちは何の躊躇もなく奪いやがった。
おれはお前たちを絶対に許さない。
おれは今までいろんなジャンクを扱ってきた。
なかなか手強いジャンクもいっぱいあったけどよ。
それでも何とか使いこなせばいろんなところで使えるもんなんだよ。
だけどな。
おまえらは、おれが扱ってきたジャンク以下にジャンクだ。
どこにも使うことができねーほどにな。
そんな使えないジャンク、何て言うか知ってるか?
それ、ゴミって言うんだよ。」
ブラック・ロズウェルの顔が今まで以上に歪んだ。
そして、持っているレーザーガンをりょーたろの右足に向けて躊躇なく撃った。
「ぐああーーーー!!」
りょーたろの身体を支える力がなくなり、崩れ落ちた。
何とか手を床に突き、体重を支えたが、ブラック・ロズウェルはその支えた右手もレーザーで撃ち抜いた。
りょーたろの身体が床に転げた。
「そんなに死にたかったら殺してやるよ。
だけどな。簡単には殺さない。
もういっそ殺してくださいって泣き叫ぶくらい痛め付けてやる。」
ブラック・ロズウェルがりょーたろに向けてさらにレーザーを撃とうとした。
その時、ソルが膝でりょーたろの方に移動しながら叫んだ。
「やめろ!りょーたろさんは悪くない。やめてくれ!!」
ブラック・ロズウェルが移動するソルを見ながら、笑みを浮かべた。
「はっはっはっはっ!そうだな、こっちにもゴミがあったな。」
ブラック・ロズウェルがソルにレーザーガンを向けた。
「そこまでじゃ。」
その声は部屋の壊されたドアの方から聞こえた。
ドアのところには一人の杖をついた老人が立っていた。
ブラック・ロズウェル含め、残った取り巻きがそちらの方を見た。
遅れて、ソルとりょーたろも声のした方を見た。
ソルがその老人を見て、苦しそうに息を吐くように言った。
「レイじいちゃん。。。」
ソルのその声にブラック・ロズウェルが反応した。
「もしやRM財団創始者のレイ柊様ですか?
これはこれは。
こんなところに来ていただくなんて誠に光栄でございます。」
柊レイが周囲を見回しながら言った。
「うちの孫がなにかやりましたかな?」
ブラック・ロズウェルが答えた。
「ええ。ご覧ください。
お孫さんが何かの手違いで我々を襲ってきたのです。
お孫さんには我々に対して借金もありまして、その件のようですが。」
ソルがブラック・ロズウェルを睨みながら苦しみながら言った。
「お前、よくもそんな。。。」
「もちろんお孫さんの借金を返済いただけるのであれば、お二人は帰っていただいても。」
ブラック・ロズウェルの言葉を柊レイが遮った。
「そうじゃの。金で解決するのがもっとも平和的なのじゃろうな。」
ブラック・ロズウェルは柊レイの言葉に少しホッとした顔をした。
「さすが。RM財団創始者。話が早くて助かります。」
だが、ブラック・ロズウェルの言葉を聞いた柊レイの眼光が鋭いものになった。
「だが、それはこの場だけが収まる。それだけの話じゃ。
そして、その行為は争いの火種を野放しにするも同然。
お前たちがこれから先その金でまた新たな火種を生むやもしれん。
それを考えれば、ここでお前たちに罰を与え、お前たちに恨みの火種が植え付けられたとしても、その先でお前たちが新たな火種を作る量を減らせるなら、それは有意義なことなのかもしれんな。」
ブラック・ロズウェルの顔が少し曇った。
「何を言ってらっしゃるのですか。
払っていただけるのですか、それとも拒否するということですか。」
柊レイの眼光がさらに鋭さを増した。
「ふふ、話が理解できんようじゃの。
つまりはお前たちにお灸を据えるということじゃ。」
ブラック・ロズウェルが少し笑みを浮かべて言葉を返した。
「は?こんなところにご老人一人で来て、ケンカを売るということがどういうことか分かっていらっしゃらないようだ。」
そう言うと、ブラック・ロズウェルは声を出して笑った。
それにつられて取り巻きたちも笑った。
柊レイはブラック・ロズウェルに言葉を返した。
「では今から、お前たちはその老人一人にすら勝てないという現実を教えてやろう。」
ブラック・ロズウェルの顔がひきつり出した。
「本気で言ってるのか?
ここはおれの縄張りだ。あまり調子に乗っていると。。。」
その言葉を聞き、柊レイが話の腰を折った。
「おや?本性が出てきておるぞ。」
ブラック・ロズウェルの顔がますますひきつり、拳が震えていた。
そして数秒の我慢も限界に達してついに叫んだ。
「このクソじじい、やってしまえ!!」
大部分の取り巻きたちは戸惑っていたが、血気盛んな数人が柊レイに対して、レーザーを放った。
レーザーが数本柊レイに向けて飛んでいった。
ところが、柊レイの前に、バスケットボールくらいの大きさの球体が虹色に輝きながら三体、光学迷彩を解いて現れた。
その球体は、表面で飛んできたレーザーを曲げた。
部屋の壁に曲げられたレーザーが着弾。
取り巻きたちが驚きの声をあげた。
「なに!?」
その時、柊レイが手を前にかざした。
すると、再び空中に球体が4つ姿を現し、その球体がソルとりょーたろの方に飛んでいった。
取り巻きたちは再び柊レイに、そしてソル、りょーたろにレーザーを放った。
だが、結果は同じだった。
レーザーは球体の表面で曲げられ、別の場所に着弾した。
ブラック・ロズウェルが何度もソルやりょーたろに向けてレーザーを放った。
柊レイの目がさらに鋭くなった。
すると、1つの球体がレーザーを曲げ、他の球体が曲げられたレーザーをさらに曲げ、ブラック・ロズウェルの持つレーザーガンに当たった。
ブラック・ロズウェルは熱くなったレーザーガンに耐えられず、手から放してしまった。
「こんな老いぼれ、素手て十分だろが!かかれー!!」
柊レイはふっと笑みを浮かべてかざした手を下ろして、言った。
「無駄だと言っている!」
柊レイは手に持った杖を垂直に立て、手を放した。
そして、襲いかかろうとした取り巻きに対して、柊レイが、言葉通り、目にも止まらぬ速さで動き出した。
取り巻きたちも、アクチュエータ式の強化パワードスーツを着ているため、動きは決して遅くなかった。
しかし、老人がまさか瞬間で自分達との間合いを詰めてくるとは想像もしていなかった。
そのため、取り巻きたちの反応が遅れた。
取り巻きは柊レイの身体が、拳が、急激に近づいてくるのが見えていた。
だが、取り巻きは身体を動かすことができなかった。
柊レイの右拳が取り巻きの腹部にトンと当たった。
取り巻きにはそれほど力のある攻撃には見えていなかった。
ところが、取り巻きの身体には、その見た目から想像のつかないほどの力積が加わった。
取り巻きの身体は、まるでピンポン玉のように、弾け飛んだ。
取り巻きは、自分の頭で理解している身体の位置と実際の身体の位置が甚だしく解離していることに気がついた。
次の瞬間、けたたましい音と共に身体が壁にめり込み、一瞬にして意識がなくなった。
柊レイはレーザーを避けつつ、取り巻きの攻撃も避けつつ、一人、また一人と取り巻きを吹き飛ばしていった。
柊レイの放した杖が地面に倒れそうになった時、一人の老人の手が、床に倒れる前の杖を掴んだ。
その時にはすでに取り巻き全員が壁にめり込んでいた。
四つの球体がソル、りょーたろの回りを飛び、残り三体が元の位置に戻ってきた柊レイの回りを飛んでいた。
ブラック・ロズウェルが口をポカンと開けて、愕然としていた。頬に汗を流し、思わず唾を飲み込んでいた。
そのブラック・ロズウェルの様子を見て、柊レイが言った。
「さあ、どうするかね?」
すると、突然ブラック・ロズウェルが土下座をし始めた。
「申し訳ございません。
もう金輪際このようなことはいたしません。
奪った財産などはお返しします。
ですので、命だけは!命だけはお許しを!!」
ブラック・ロズウェルは額を地面に擦り付け、泣きながら謝り続けていた。
ソルとりょーたろの元に柊レイが移動し、手を貸し、何とか立たせていた。
柊レイは二人を立たせた後、ブラック・ロズウェルに向かって言った。
「その言葉、二言はないのじゃな?」
ブラック・ロズウェルが顔をあげ、即答した。
「もちろんでございます。」
ソルとりょーたろもブラック・ロズウェルを見ていたが、周囲でなにかドタドタと音がしていることに気がついた。
ソルとりょーたろが周囲を見回した。
その時、ブラック・ロズウェルのBCDの画面にある表示が点いた。
(Approaching)
その表示を見たブラック・ロズウェルがニヤリとほくそ笑んだ。
すると、周囲の窓、出入り口からアンドロイドが次々と部屋の中に入ってきた。
柊レイ、ソル、りょーたろたちはあっという間にそのアンドロイドたちに取り囲まれた。
ブラック・ロズウェルの周囲には他のアンドロイドより一際屈強な護衛アンドロイドが付いた。
ブラック・ロズウェルが服の埃を祓いながら立ち上がった。
「なーんてな。おれがお前らに負けるわけがないだろーが!」
ブラック・ロズウェルはわざと煽るような表情をして言った。
お互いを庇いあいながら立っているソル、りょーたろが、一気に変わった形勢を見て、再び不安な表情を浮かべた。
三人の周囲には今や百体は下らないアンドロイドがレーザーガンを構えて立っていた。
「さー、お前ら、どうするよ?土下座でもしてみるか?」
ブラック・ロズウェルが再び勝ち誇った顔で言った。
<次回予告>
柊レイ、ソル、りょーたろを取り囲んだ大量のアンドロイド。
再び絶望が二人を襲う。
だが、その時、部屋中に溢れ出す虹色の光。
そして、ブラック・ロズウェルを護るアンドロイドが震える。
次回、56話 ”血筋なのかもしれんな。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




