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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第53話 : もうサイコー!!

<前回のあらすじ>

”OneYearWar”世界大会決勝。

ルナは、同じヒューマンプレイヤーであるキャスバル・ノンレムと一騎討ちをしていた。

その時、お互いの想いが流れ込んできた。

ルナにはキャスバルの貧困層でのつらい思い出が、キャスバルにはルナの繋がりを求める心が、流れ込んだ。

キャスバルはルナとの出自の違いに想いを拒絶していたのだった。

一方、ソル、りょーたろはとうとうマフィアUnion-Roswellの頭領であるブラック・ロズウェルの前にまで来た。

その時、何もない空間からソル、りょーたろに向けてレーザーが放たれた。

何かが光学迷彩を纏い、攻撃をしかけてきた。

防戦一方の二人だったが、ソルがジャミングデバイス(JAM-Unit)を取り出して、信号を発信し始めたのだった。


 

「何が分かり合いたいだ!誰も結局分かり合えるはずなんかない!

 そんなもの、幻想だ!!

 誰もおれもことなんか分かってなんかいやしない!!」


 ルナとキャスバルが放つ虹色の波動で空間が歪んでいった。


 二人の機体はすれ違いながら、イオンビームやレールガンで攻撃し合っていた。


「なに、これ!?

 あの人の想いが見える。

 拒絶からは何も生まれやしない。

 それに、本当は、本当は、分かり合いたいんじゃないの!?

 あなたのその奥にある光は、本当に願ってるその光は。。。」


「奥にある、、、光?」


 キャスバルは今まで経験したことのない暖かさを感じていた。


「なんだ!?これは!!??」


 キャスバルの目から涙が流れてきた。


 それでもキャスバルは認めたくなかった。


 認めた途端、今まで自分が築き上げてきたものが崩れるような気がしていた。


「これ以上、なにも言うな!うるさい、うるさい、うるさい!!!」


 さらにモノセロスから強い波動が放たれた。


 そして、放ったイオンビームがルナの操るビット二機を捉えた。


 ルナは今まで以上の強い拒絶を感じた。


 ルナの心がキャスバルの放つ強い波動に反応した。


(かわいそうな人。私はただあなたの本当の心が知りたいだけ。。。)


 ルナの心が穏やかに澄みわたっていった。




Gear4(ギアフォー)だぁーーーー!!」


 ソルは発振器をりょーたろに任せて、発振器から手を放した。


 次の瞬間、虹色に光る稲妻が部屋を駆け巡った。


 ソルが文字通り、目にも止まらぬ速度で移動し、アンドロイドの胸に拳を叩き込んでいく。


 その中に、以前お婆ちゃん宅に入り込んできたアンドロイドがいることに気がついた。


(あの時のお返しだぁ!!)


 ソルは拳をより強く握り込み、そのアンドロイドにも目一杯の一発を叩き込んだ。


 轟音が部屋中に木霊する。ソルは次々にアンドロイドに拳を叩き込んだ。


 ソルは身体中の筋繊維から切れるような音がするのを感じていた。


 それでも動くことをやめなかった。


 ソルが叩き込んだ拳によってアンドロイドの胸は前部が陥没し、後部が弾け飛んだ。


 アンドロイドの後方に部品がばら蒔かれ、光学迷彩の効力が失われた。


 朧気だったアンドロイドの形状がはっきりした形で現れた。


 りょーたろは小型ボールをアンドロイドの頭に向け、投げつけた。


 すると、りょーたろが投げつけた小型ボールは空気の流れを関知し、瞬間的に細長い形に変化した。


 小型ボールのすさまじい速度による形状変化が周囲の空気を音速を越え、押し退けた。


 押し退けられた空気は一瞬、極低圧の層を作った。


 ソニックブーム。


 空気の刃がアンドロイドの頭部を襲う。そして、空気の刃が頭部を過ぎ去った。


 アンドロイドはソルの拳により後方に()け反っていたが、頭部上半分だけが別の方向に移動し始めた。


 アンドロイドの脳部位にあるMPUチップが真っ二つに切り裂かれていた。


 ソルが全てのアンドロイドに拳を叩き込み、再びりょーたろの横に戻ってきた。


 りょーたろも最後のボールを投げたモーションのまま、止まっていた。


 二人の目からは赤い涙が流れて、二人とも肩で激しく息をしていた。


 二人が手を離した発信器が床に音を立てて落ちた。


 それと同時に、姿を表したアンドロイドが全て床に崩れ落ちた。


 二人は息を整えながらゆっくり立ち上がり、ブラック・ロズウェルの方を睨み付けた。


 部屋の奥にいたブラックが拍手をし始めた。


「お前たちの勝ちだ。」





 ルナの穏やかな気持ちに呼応するように、オル・アティードの動きが研ぎ澄まされていった。


 稲妻のような大きな動きが、相手の攻撃を最小限で躱す動きに変化した。


 可能な限りイオンビームを機体の傾きだけで避け、レールガン砲弾をビットの波動で軌道湾曲させた。


 それはまるで攻撃がすり抜けていくようであった。


 ルナは無表情のままだったが、赤く染まった目から赤い涙を流していた。


 オル・アティードは残像が見えるほどの動きでメタリックステラの盾型ビットを破壊し、ついにはメタリックステラの横をすり抜けた。


 モノセロスは腕にプラズマブレードを持ち、オル・アティードの動きに合わせて振り抜いていた。


 キャスバルはルナの機体を切り裂いた気でいた。


 だが、オル・アティードは無傷ですり抜けていた。


 すり抜けた深紅の機体が、アサルトユニット、ブースターユニットをぐるんと180度急旋回させ、モノセロスの方に向き直る。



 その時、プラズマブレードを振り抜いたモノセロスの腹部にパイルバンカーミサイルが突き刺さる。


 爆発までのゼロコンマ数秒。


 キャスバルの心の壁が崩れ落ち、ルナの暖かな心が入り込んでいた。


 キャスバルは涙で前が見えなくなっていた。


(ありがとう。)


 モノセロスが爆発した。





 観客が総立ちで沸き上がっていた。


 男性MCが声を枯らしながらアナウンスしていた。


「すでにプレイヤーはLittleForest選手を残し、全滅してしまいました!!

 破壊されたプレイヤーは母艦にそのまま留まり発艦せずのようです。

 そして、ポイントもLittleForest選手が圧倒的!圧倒的です!!」


 女性MCも叫んだ。


「ということは!!」


「そう!LittleForest選手、”RedDevil”が初出場、初優勝だぁーーー!!」


 そう言いながらMC二人がルナのコックピットに駆け寄った。


 ルナは目を赤くしたままコックピットから出てきた。


 ルナは疲れから、足取りが頼りないものになっていた。


 MC二人とイオンクラフトで飛ぶマイクがルナの前に来た。


「さあ、今の気持ちをどうぞ!!」


 ルナはニコッと笑いながら言った。


「もうサイコー!!」


 両手を振り上げ、ピースサインを出した。


 会場が異様な熱気で包まれ、大歓声がさらに大きいものになった。


 そして、その異常なまでの大歓声の中、ルナの力が抜け、気絶してしまった。





「お前たちの勝ちだ。」


 しばらく拍手をしたブラック・ロズウェルが拍手を止めた。


 そして、笑い顔で続けた。


「というと思ったか?」


 そういうと、次はいかにもマフィアな格好をした人間がゾロゾロと現れた。


 その人間の身体には通常のアクチュエータ型パワードスーツが付けられていた。


 二十人ほどが再びソルとりょーたろを取り囲んだ。


 その取り巻きたちは右手にレーザーガン、左手にナイフを持っていた。


 まだ激しい息づかいのりょーたろが言った。


「ここまで戦力投入するかよ。」


 ソルが続けた。


「もうサイコだな。」


 その言葉を聞き、ブラック・ロズウェルが言い放った。


「おれは徹底的にやる主義でな。

 お前たちもこれで終わりだ。

 さすがに人間相手じゃ、お前ら殺れねーだろ?」


 身体の痛みに耐えながらソルが答えた。


「どうだろな?人間はアンドロイドより脆いからな。」


 まだ心の折れていないソルの様子を見て、ブラック・ロズウェルの顔がひきつった。


「お前はつくづくおれを不愉快にさせてくれる。

 その才能、天才的だよ。

 だが、それもこれまでだ。」


 ブラック・ロズウェルが両手の人差し指を立てて、ソルの方に向けて振った。


「殺れ!!」


 ソルとりょーたろが高速で動き出した。


 回りを取り囲んだ人間もソルたちに近い速度で動き出した。


 ソルは真っ先にブラック・ロズウェルの方に移動を開始したが、取り巻きが数人、ソルの行く先を塞ぐように立ちはだかった。


 そして、レーザーガンでソルを撃った。


 だが、ソルは稲妻のような動きでそれを避け、レーザーガンを構える一人を右手で掴んだ。


 次の瞬間、ソルの右手側の壁に向けてその男を放り投げた。


 投げる際にソルの移動が止まったため、他の取り巻きがレーザーガンでソルを狙った。


 ソルは取り巻きを投げた反動を使い、飛び退いた。


 ソルは再び筋繊維が悲鳴をあげるのを感じた。


 ソルが避けた先にもレーザーが飛んできた。


 ソルはJAM-Unitの能力をフルに活用することで、アンドロイドだけでなく、人間の思考さえも読み取っていた。


 その能力のおかげで追撃してくるレーザーも避けることができた。


 しかし、回避によってブラック・ロズウェルから離れてしまった。


 壁に投げられた取り巻きは壁に衝突し、けたたましい音を立てた。


 その取り巻きは衝撃によって気絶した。


 りょーたろは出来るだけソルに向けられる攻撃を分散させるために、ブラック・ロズウェルの方向とは反対側に移動した。


 出来るだけ速く動き、掻き回していた。だが、りょーたろもソル同様に、身体中に痛みが走っていた。


 りょーたろも飛んでくるレーザーを何とか避けていた。


 りょーたろの目にアンドロイドから飛び散った、ある部品が目に入る。


 りょーたろは回避しながらもアンドロイドの部品を拾い、取り巻きのレーザーガンに向けて投げつけた。


 取り巻きは反応できず、そのままレーザーを射出した。


 りょーたろが投げつけた部品はアンドロイドのバッテリーであった。


 小型だが、非常に強力なそのバッテリーはレーザーで撃ち抜かれたため、回路ショートして爆発した。


 レーザーを撃った取り巻きと周囲の2人を巻き込み、負傷を負わせることに成功した。


 周囲からりょーたろに向けてレーザーを放たれる。だが、りょーたろはすでにその場にいなかった。


 取り巻きたちがその爆発に瞬間気を取られた。


 ソルはその瞬間に再びブラック・ロズウェルに向かって移動する。


 今度はソルから向かって右側にいる取り巻きを左手で掴み、左側の取り巻きに向けて投げつけた。


 ソルのシャツに描かれた虹色に発生している超強化筋繊維の力で取り巻きはまるで軽い石ころのように飛んでいった。


 取り巻きの一人がその飛んでいった取り巻きに巻き込まれ、二人が同時に壁に激突した。


 その間もレーザーがソルを狙って撃たれていた。


 だが、ソルはそれも見事に先読みで回避していた。


 痛みに顔を歪ませながらも、ソルはさらにブラック・ロズウェルに向かって進行した。


 りょーたろもソルと同じように取り巻きの放つレーザーを躱しながら、一人の取り巻きを両手で掴んだ。


 りょーたろは、ソルと同じように、壁に向かって取り巻きを放り投げた。


 疲労困憊のりょーたろは投げるモーションが終わり、一瞬堪らず大きく息を吐き、吸い込んだ。だが、その間、動きが止まってしまった。


 ソルと繋がるJAM-Unitのおかげでりょーたろも取り巻きたちの思考が入ってきていた。


(撃たれる!)


 りょーたろが回避行動を取ろうとした。


<次回予告>

”OneYearWar”世界大会で優勝したルナ。

ソル、りょーたろは光学迷彩を纏ったアンドロイドを撃退した。

だが、ブラック・ロズウェルは追加で人間を投入してきた。

二人は何とか殺さずに追加で現れた取り巻きを撃退していく。

だが、二人の体力は限界に達しつつあった。

二人を待つ結末は一体!?

次回、第54話 ”次は逃がさないっ!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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