第52話 : その奥にある光は、
<前回のあらすじ>
ソル、りょーたろはマフィアUnion-Roswellのボス、ブラック・ロズウェルの前までたどり着いた。
だが、そこには光学迷彩で姿を隠した複数のアンドロイドが待ち構えていた。
回避するしか術のない二人。
二人の体力は徐々に削がれていった。
片や、”OneYearWar”世界大会決勝の舞台に立つルナ。
ルナの前には一角獣の名を持つ”モノセロス”というメタリックステラが立ちはだかる。
ルナはそのメタリックステラのパイロット”キャスバル・ノンレム”にただならぬ強さを感じた。
ルナはキャスバルの言うまま、二人で戦場から離れ、一騎討ちを開始するのだった。
部屋の奥にあるバロック調の重厚な机の前でブラック・ロズウェルが手を広げて立っていた。
「まさかここまで来るとは。お前たちのしぶとさには驚いたよ。」
「ふんっ、今さら謝ってもムダだぜ!」
そのソルの言葉を聞いて、ブラック・ロズウェルが高笑いをした。
「お前たちは何か勘違いをしているようだな。
少しずつ試しているんだよ。お前たちがどこまで耐えられるのかを。
そろそろヤバイ頃あいだろ。
さあ、これはどうかな?」
ブラック・ロズウェルが指を鳴らした。
すると、二人の目の前の空間が僅かに歪んだ。
二人は思考共有デバイスを通して、何かを感じ取った。
慌てて両サイドに回避行動を取る。それとほぼ同時に歪んだ空間から突然レーザー光が発せられた。
だが、二人は事前に感じ取った危機感のおかげで間一髪避けられた。
りょーたろが慌てて、ソルに思考共有デバイスで話かけた。
(こいつら、光学迷彩着けてるぞ!かなりの数だ!!)
ソルも思考で返事をした。
(うん、分かってる。おれのとっておきを出す!!)
ソルは避けながら、太腿部に付けていた棒型発信器を取り出し、スイッチをONにした。
棒型発信器はソルの思念波、想いを受けとり、それを増幅して、全方位に信号として発信し始めた。
虹色の波動がソルを中心に周囲に広がる。
その間もレーザー光は部屋の至るところから二人に向けて放たれた。
だが、アンドロイドたちの攻撃の情報を二人は察知して、何とか回避していた。
しかし、りょーたろは身体の負荷がピークに達しつつあった。りょーたろの回避幅が徐々に狭くなっていく。
そんなりょーたろの様子を見て、ソルは力を振り絞った。
ソルの目がますます赤く染まっていった。
それにつれて発信器からの信号がどんどん強くなっていき、光学迷彩の隙間から放たれるレーザー光の数が徐々に減少していく。
ソルも脳の負荷が増大したことで肩で息をし始めた。
その時、ついにりょーたろの声が部屋中に木霊した。
「ぐあーーーー!」
ソルがりょーたろを見る。りょーたろの腕にはレーザーの着弾痕が。そしてその腕から血が溢れだしていた。
「りょーたろさん!!」
「はーっはっはっはっ!!もう終わりか!!?どうした?最初の威勢はどこいったんだよ!?」
ブラック・ロズウェルの言葉にソルの怒りが高まった。
「きさまーー!!」
「おれは大丈夫だ!」
りょーたろは腕をダラッと垂らしたままで必死に動いていた。
ソルがアンドロイドに与えるノイズによって何とか急所は外れており、りょーたろの受けた傷は致命傷にはなっていなかった。
ソルの怒りに呼応するかのように、発信器からの信号がさらに強くなり、空間を歪ませた。
それに伴い、光学迷彩を纏っていたアンドロイドの形状が空気の屈折率差によってあぶり出された。
ソルはそれを見た。
最初に戦ったアンドロイドよりも大型だが、戦車ロボットなどではない。
その数、約30。
ソルがりょーたろに思念を送った。
(りょーたろさん!!)
(りょーかい!!)
りょーたろはソルが何をしたいかはっきりと認識した。
何度か放たれたレーザーを避けながら、二人が部屋の中央に集まった。
そして、二人は一緒に発信器を掲げた。
二人は同時にアンドロイドの意志決定をシャットアウトすることを強く念じた。
二人の脳は、頭に付けている思考共有化デバイスと手に持っているデバイス=JAM-Unitを介して一つになり、強い思念波を産み出した。
その時、二人が吼えた。
「うおおおおおぉぉぉぉーーーー!!」
二人の目から血の涙が流れた。
思念波が発信器を通じて、全方位に広がる。
思念波はまるで圧を持っているかのようにアンドロイドを押し退ける。
思念波を浴びたブラック・ロズウェルは思わず後ずさりしていた。そして、得も言えぬ恐怖に思わず身体が震えていた。
動作を停止させようとする思念波により、アンドロイドの光学迷彩が解け、完全に姿が露となった。
アンドロイドの内部ではあまりの情報過多に処理が追い付かず、エラーが頻発して、再起動が掛けられていた。
それを見て、ソルとりょーたろが発信器から手を離した。
ソルはパワードスーツの出力を最大限にした。
「Gear4だぁーーーー!!」
りょーたろはバッグから小型のボールを取り出した。
オル・アティードの前に再びキャスバル・ノンレムが操るメタリックステラが手を広げて構えていた。
「このあたりでいいだろう。
私の名はキャスバル・ノンレム。この機体は『モノセロス』(一角獣)だ。」
「私はリトル・フォレスト、いや、ルナ小林。この機体は『オル・アティード』(光の未来)。」
「では、いくぞ!!」
お互いが再び強い虹色の波動を放ち始めた。
モノセロスは腕部や脚部にもブースターがついており、非常に速い方向変換を行うことができるようになっていた。
盾型ビットはキャスバルが撃ち込むイオンビームの方向以外にイオンビーム中和フィールドを展開しており、オールレンジ攻撃に対しても非常に高い防御力を誇っていた。
お互いがJAM-Unitから流れ込む相手の思念を読み取り、攻撃、防御を行う。
ただ、ルナはいつもビットまで自分で操縦しているのに対して、キャスバルは通常ビットをAI運用しており、今日初めてビットまで自分で操っている点が異なっていた。
そのため、メタリックステラ『モノセロス』を囲うように陣取っている盾型ビットはイオンビームの防御こそ中和フィールドによって完璧に防御していたが、レールガンの攻撃には時折ただただ受けるほかなかった。
盾型ビットは強化金属の構成と虹色の波動による斥力によって、数発まではレールガンの砲弾に耐えられた。
それでも、オル・アティードの本体、ビットが、徐々に、そして着実にモノセロスの防御を剥がしていった。
キャスバルが劣性となった立場に危機感を感じ、さらに集中度が増した。
「おれは!おれは負けるわけにはいかないんだっ!!はあぁぁぁーーー!!」
キャスバルの目がどんどん赤く染まっていく。
モノセロスから放たれる虹色の波動がさらに強くなった。
額と頭部側面から突き出す3本のアンテナも虹色に光りだした。
次の瞬間、盾型ビットに囲まれた領域からモノセロスが飛び出した。
その速度は瞬間的にオル・アティードとの距離を詰めるほどであった。
距離を詰める間に腰に装着されていたプラズマブレードを手に持った。
モノセロスは急加速しながら、オル・アティードとの中間位置にいたルナの操るビットを切り裂き、さらにオル・アティードまで距離を詰めてきた。
ルナはこれまで見てきた中で、ここまでの速度を操る人を一人しか見たことがなかった。
その瞬間にルナはある人を思い出した。
「SummerEye。。。」
「魂を込め、心を解放しなさい!」
ルナは目を見開いた。
ルナは、モノセロスから距離を取る動きではなく、逆に距離を詰める方向に急激に加速した。
キャスバルは接近を察知し、プラズマブレードを振り抜いた。だが、プラズマブレードは、すでに過ぎ去った後の稲妻の軌跡を撫でた。
しかも、深紅の機体はブースターユニットから一つのバンカーバスターミサイルを置き土産にしていた。
モノセロスのプラズマブレードはそのミサイルを切り裂いていた。
ミサイルがモノセロスの目の前で爆発。
白い三角獣に破片が飛び散ってくる。
機体が纏う虹色の波動により、若干破片は逸れたが、それでもいくらかは機体に刺さった。
モノセロスはそれも気にせず、急激に反転し、オル・アティードの移動した方向に機体を向き直した。
キャスバルもレールガンの攻撃を受けることを察知し、咄嗟に盾型ビットを自分の前に移動させた。
キャスバルは自分の行動に驚いた。
これまでと違い、はっきりとした意思としてレールガンが飛んでくることを察知していた。
そして、AI任せだった盾型ビットを、本体とほぼ同時に操縦していた。
それは今までに感じたことのない奇妙な感覚。機体との一体感だった。
ルナの虹色の波動が、キャスバルの中の何かを共振させていた。そして、キャスバルに新たな能力を与え始めていた。
「見える!なんだ、これは!?」
暗闇の中で激しく動くオル・アティードの行動予測が今まで以上に鮮明になっていた。
モノセロスの機体から放たれる虹色の波動がより強いものとなった。
ルナはそれを感じ取っていた。
ルナも先ほど思い出したSummerEyeとの記憶がルナの感覚をより強いものにさせていた。
オル・アティードから放たれる虹色の波動もさらに強いものとなっていった。
稲妻のような鋭角に曲がる虹色の軌跡と、様々な曲率を持った曲線による虹色の軌跡が絡み合うように何度も交差した。
そして、時折発生する爆発。
ルナは盾型ビットを数個撃破し、キャスバルはルナの操るビットを二個撃破した。
機体の減少と共に、お互いの集中が研ぎ澄まされていった。
そして、二機の本体が真正面からギリギリの距離ですれ違った。
その時、キャスバルの思いとその裏に隠された過去がルナの中に入ってきた。
キャスバル・ノンレムが立っている。
そこは貧困層のアパートの一室。
キャスバルはまだ小学生高学年くらいの歳で、親と思われる大人になにか文句を言われている。
「食べるだけのやつはいらないよ。なんか食いもんでも取ってこい!」
そして、中学生くらいに大きくなった時、親と思われる大人にネグレクトや虐待を受けながらも、資源拾いに駆け回っていた。
ろくに学校にも行かせてもらえなかった。
そして、何とか18歳になった。
ベーシックインカムが貰えるようになった途端、大人がある言葉を口にした。
「今まで育ててやったんだ。その金をよこしな!!」
キャスバルは後ずさりをした。それでも迫ってくる親を思わずはね除けた。
キャスバルの母親と思われる大人がキャスバルを睨んで叫んだ。
「おまえはそのために産んだんだ!!はやくよこさないか!!」
キャスバルはその言葉に愕然として家を飛び出した。そして、家に帰ることはなかった。
親の態度を反面教師として見て育ったせいか、ワルに染まることもできなかった。
貧困層では盗難や暴行も日常茶飯事であり、しばしばチンピラに追いかけられることもあった。
だが、持って生まれた機敏性や鋭い勘で逃げることができた。
ある時、チンピラに追われて、逃げ込んだ遊技場で『OneYearWar』のRedDevilの動きを見た。
キャスバルは経験こそなかったが、RedDevilの動きを見て、何か自分にもできような気がした。
そこで遊技場に行き、ベーシックインカムを使い、『OneYearWar』に参加するようになった。
徐々に頭角を表し出すキャスバル。だが、あるところで壁を感じ出した。その時。。
「RedDevilってJAM-Unitっていうのを使って、AIを打ち負かしてるんだって。」
それを聞いたキャスバルは、ある日、ベーシックインカムでは買うことが叶わない高価なJAM-Unit(脳波コントロールユニット)を盗難したのだった。
キャスバルは逃げに逃げ、捕まることはなかったが、キャスバルの心にはこの盗難が常に心に引っ掛かっていた。
ルナはキャスバルの心に憎悪が見て取れた。
親への憎しみ。
世間への恨みにも似た感情。
自分が盗難したのは社会のせいだという想い。
その想いは固い心の殻となっていた。
「おれにはここにしか居場所がないんだ。
このゲームで勝てばみんなが誉めてくれる。
負けたらまたあの生活に逆戻りだ。
もうあんな生活に戻りたくない。
邪魔をするな!」
ルナはキャスバルから強い拒絶を感じたのだった。
キャスバルは、ルナのように、相手の過去を読み取っていた。
「いろんな人と心の繋がりを感じたい。」
このゲームで感じた心の繋がり。
それは安心感や温かさもあるが、それだけではない言葉には言い表せない感覚。
まるで世界が広がるような感覚。そんな風にも感じていた。
それを求めているルナの心が見てとれた。
それと同時に富裕層での薄っぺらい人との繋がりに嫌気が差していたこと。
最近ようやく両親と少し分かり合えた気がしたこと。
だが、貧困層で襲われそうになった時に感じた恐怖、予選の終わりに襲われそうになった時の恐怖がどこかに入り交じっていた。
貧困層の中でもアイザック少年との友情、ソル、りょーたろ、お婆ちゃんとの出会い。
素直なルナの心がキャスバルに流れ込んでいった。
だが、キャスバルはそれを拒絶していた。
出自の違い。
富裕層の出に自分の気持ちなど分かるはずがない。
その想いがルナの想いを拒絶していたのだった。
「何が分かり合いたいだ!
誰も結局分かり合えるはずなんかない!
そんなもの、幻想だ!!
誰もおれもことなんか分かっていやしない!!」
ルナとキャスバルが放つ虹色の波動で空間が歪んでいった。
二人の機体はすれ違いながら、イオンビームやレールガンで攻撃し合っていた。
「なに、これ!?あの人の想いが見える。
ちがう!拒絶からは何も生まれやしない。
それに、本当は、本当は、分かり合いたいんじゃないの!?
あなたのその奥にある光は、
本当に願ってるその光は。。。」
「奥にある、、、光?」
キャスバルは今まで経験したことのない温かさを感じていた。
「なんだ!?これは!!??」
キャスバルの目から涙が流れてきた。
それでもキャスバルは認めたくなかった。
認めた途端、今まで自分が築き上げてきたものが崩れるような気がしていた。
「これ以上、なにも言うな!うるさい、うるさい、うるさい!!!」
さらにモノセロスから強い波動が放たれた。
そして、放ったイオンビームがルナの操るビット二機を捉えた。
ルナは今まで以上の強い拒絶を感じた。
ルナの心がキャスバルの放つ強い波動に反応した。
(かわいそうな人。私はただあなたの本当の心が知りたいだけ。。。)
ルナの心が穏やかに澄みわたっていった。
<次回予告>
発信器の強い信号により、動作を止め、姿を露にするアンドロイド。
そして、ソルは一気に反撃に出る。
ルナはキャスバルの想いを知り、心を開くように想いを伝える。
心が澄みわたるルナ。
そして、虹の軌跡が奇跡を起こす。
次回、第53話 ”もうサイコー!!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




