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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第51話 : そろそろヤバイ頃あいだろ。

<前回のあらすじ>

屋敷の最初の部屋に入るや、ソル、りょーたろはアンドロイドたちに完全に包囲されていた。

だが、りょーたろの作った全反射フィルムを使い、何とか危機を脱した。

一気に最初の部屋のアンドロイドたちを撃破する二人。

その先の部屋へと二人は歩を進めた。

一方、”OneYearWar”世界大会決勝で戦うルナ。

こちらもメタリックステラ50機に包囲され、深紅の機体にイオンビームが打ち込まれる。

だが、ルナの超反応、JAM-Unitからのノイズ付与によるAI処理遅延によりこれを回避。

その回避の様子はまるで蝶が舞うかのような動作。それは”バラフライムーブ”と呼ばれていた。

そして、ルナも何とか危機を脱し、さらに奥に陣取っている戦艦に対して進行を開始したのだった。


 

 ソルとりょーたろが扉を蹴破り、次の部屋に飛び込んだ。


 そこは奥の部屋に繋がる幅の広い通路のような部屋であった。


 そこにはそれまでの人型アンドロイドとは違い、先端に球体が取り付けられた四本の脚と、レールガンやミサイルなどが取り付けられた二本の腕を持つ大型戦車ロボットが四体。そしてイオンクラフトにより浮上しているバイクサイズのドローン戦闘機が四体待ち構えていた。


 ソルとりょーたろはその戦車ロボット、ドローン戦闘機を見て、驚いた。


 思考でGearを急激に上げる。


(Gear3!!)


 二人の全身に負荷がかかる。


 りょーたろの身体から汗が吹き出しはじめる。


 りょーたろが顔をしかめながらぼやいた。


「クッ、、、マジかよ。。。もう軍隊じゃんかよ。」


 戦車ロボットのレーザーガトリングが回転を始めた。


 ドローン戦闘機もイオンクラフト独特の青い光、赤紫の光を機体の上下に灯しながら、小型ミサイルの発射口をパカッと開けた。


 ソルとりょーたろが一瞬目を合わせ、高速にサイドステップをした。


 二人がいた場所にレーザーと小型ミサイルが着弾し、爆発した。


 レーザーが二人の移動する軌跡を追って着弾した。


 着弾したレーザーは壁や装飾をドロッと溶かしていた。


 小型ミサイルも床や壁を破壊していた。


 破片が飛び散る中、二人は高速に移動しながら虹色の波動を放ち続けていた。


 移動中もソルがりょーたろに思考共有デバイスを使って話しかけていた。


(避けるばっかりじゃ埒が明かないよ!)


(でも、もうあんまり手持ちがないぜ。)


(ちょっと待って。)


 ソルが避けながらも飛び散った小さい破片を拾い上げ、戦車ロボットやドローン戦闘機に投げつけた。


 戦車ロボット、ドローン戦闘機はゆっくり放物線を描き飛んできた破片の大きさ、速度を考慮し、避ける必要がないと判断した。


 戦車ロボットやドローン戦闘機に破片がぶつかり、音が木霊した。


 ソルはその音に集中していた。


 それほど高い音ではなく、且つ残響も長くなかった。


 ソルは材質が高圧プレスなどで鋼にしたものでないことを判断した。


(うん。おれの用意してるやつ、使おう!)


 ソルは用意したものを想像した。その時、りょーたろにもそれが伝わっていた。


(ああ。分かった。)


 二人は爆発の煙の中を一度交差した。


 その時、ソルがりょーたろに何かを渡した。


 二人は虹色の波動を放ちながらレーザーやミサイルを避けつつ、ソルは入口から右側の壁に、りょーたろは左側の壁にそれぞれ高速に移動した。


 その後、二人は壁を走るように部屋の奥に向けて移動した。


 二人の移動の後をレーザーやミサイルが着弾し、壁がどんどん破壊されていく。


 二人はただ手を広げて、特に攻撃するでもなく、戦車ロボットやドローン戦闘機を何体も越えて部屋の奥へ奥へと移動した。


 二人の移動に合わせ、部屋の入口側に配置していた戦車ロボットが方向転換した。


 レーザーは二人の移動後の軌跡を追いかけた。


 そして、二人が戦車ロボットを追い越した時、戦車ロボットに異変が生じた。





 戦車ロボットに備え付けられているカメラの画像が戦車ロボットの移動とは異なる方向に動き出した。


 戦車ロボットは位置を合わせるため、脚の球体を回転させる信号を送る。


 だが、その時、信号線断裂のアラートが発報。そして、機体のあらゆる箇所のアラートが次々と画面を覆い尽くす。


 ついには、メイン電源、サブ電源両方からの電力供給遮断により、画面までがブラックアウトした。





 ソル、りょーたろが過ぎ去った後、戦車ロボットがキレイな輪切りになり、一部がずれ落ちた。


 次に二人が宙に浮かぶドローン戦闘機の位置を通り過ぎた。


 その直後、ドローン戦闘機の上下に出ていたイオンの色が消え、輪切りとなったドローン戦闘機が墜落した。


 手を広げた二人の間に、極僅かであるが、キラキラとした線が見えた。


 四体いた戦車ロボット、四体飛んでいたドローン戦闘機が見る見る輪切りになっていった。


 二人の間にキラキラと見えた線。


 それは多重カーボンナノチューブワイヤであった。


 地球の軌道エレベータにも使われているそのワイヤは柔軟でありながら、超強度を誇る。


 さらにナノサイズの超極細繊維であるため、かかる力をそのナノサイズの幅に集中してかけることができる。


 それにより、一般的な密度の金属であれば、まるで柔らかい果物のように切断することができたのだった。


 輪切りにされ、崩れた戦車ロボット、墜落したドローン戦闘機は一気に爆発した。





 ルナが8機目の巡洋艦をパイルバンカーで落とした。


「8つ!!」


 そして、その先に構える母艦群に向けて、進行しようとした。


 その時、AIのターゲット捕捉とは違った感覚をルナが感じ取った。


 オル・アティードのアサルトユニット、ブースターユニットがクルッと反転。


 ブースターがイオンを最大放出。


 深紅の機体が普通の戦闘機ではあり得ないような角度で方向転換をした。


 虹色の軌跡が折れ曲がったところにイオンビームが通りすぎた。


「ちっ、避けやがったか!」


 オル・アティードがイオンビームが飛んできた方向に対して反撃のイオンビームを放っていた。


 しかし、飛んでいったイオンビームの先には盾型ビットが配置されていた。


 そして、盾型ビット前方に展開されていた中和フィールドにてビームは霧散した。


 盾型ビットがスライド移動する。


 その奥には白い角の生えた一体のメタリックステラがオル・アティードの方に向いていた。


 そのメタリックステラの装甲のいたるところから、オル・アティードと同様に、虹色の波動を纏っていた。


 メタリックステラがイオンビームガンを構え、オル・アティードに向けて、すかさず攻撃を仕掛けてきた。


 オル・アティードは超反応でなんとか避けた。


「この人、私の攻撃を読んでた。感じる!すごい!!」


 ルナは笑みを浮かべた。自然と今まで以上に集中力が上がるのを感じた。


 オル・アティードから放たれる虹色の波動が空間を歪めるほどになった。


 それに負けじとメタリックステラの虹色の波動もさらに強いものになった。


 イオンビームの応酬。


 メタリックステラは盾型のビットを、AIではなく、自分のコントロールで動かし、飛んでくるイオンビームを盾の前に展開した中和フィールドで霧散させた。


 対するルナの操るオル・アティードは常に回避しつつ、接近を試みていた。


「この人、アナウンスじゃ、ビットはAIって言ってたのに。。。私と同じだ!!

 全部、操ってる!!」


 ルナも、メタリックステラを操るキャスバル・ノンレムもギリギリのところでなんとかお互いの攻撃を無効化させていた。


「こいつにはおれの全てをぶつけてやる!!」


 キャスバル・ノンレムがそう叫ぶと、頭部側面からさらに角が生え、角が3本となり、メタリックステラの身体のいたるところから虹色の波動が放たれだした。


「この人、すごい!!でも、私、負けない!!」


 その虹色の波動を受け、オル・アティードからさらに強く虹色の波動が放たれだした。


 そして、徐々に近づく2体の機体。


 メタリックステラの盾型ビットがイオンビームを受ける。だが、霧散。


「やられるものかよ!!」


 だが、霧散したイオンビームと全く同じ位置にレールガンが撃ち込まれていた。2体の接近により、盾型ビットは盾の中央ではなく、端でイオンビームを霧散させていた。その端にレールガンが着弾。そこはビットをシフトさせるためのスラスター部分だった。


 盾型ビットが一つ、操作不能に陥る。そこにすかさずイオンビームが着弾。


 盾型ビットが1つ爆発した。


 同時に、ルナの操るビットにもイオンビームが掠めた。


 ビットのサイドに付いていたブースターのフィンが一部溶けた。


 それを感じたキャスバルは自分の盾型ビットの防御を放棄し、他のビットを使い、ルナのビットにイオンビームを集中させた。


 ルナはビットの機動性低下を鑑みて、避けきれないと判断。


 他のビットでメタリックステラ本体、そして他のビットをイオンビームとレールガンで狙った。


 ルナのビットの1つが爆発した。


 が、ルナの狙い通り、メタリックステラが操る盾型ビットがさらに1つ爆発した。


 その時、ルナは対峙するメタリックステラとは違うターゲット捕捉の感覚を捉えた。


 イオンビームが数発、オル・アティードを狙って飛んできた。


 だが、ルナはその攻撃を難なく避けた。


 深紅の機体と対峙する虹色の三角獣メタリックステラはRedDevilのビットを破壊できる気がした。だが、撃たなかった。


 オル・アティードと対峙するメタリックステラがイオンビームの飛んできた方向を見て、叫んだ。


「外野は邪魔をするな!!」


 すると、メタリックステラと盾型ビット数機が飛んできた戦闘機三機に向けて、イオンビームを放った。


 イオンビームは戦闘機三機を貫いた。


 戦闘機は次々に爆発した。


 ルナはその行為に驚きを隠せなかった。


「なんで同士撃ちを!?」


 メタリックステラが再びオル・アティードの方に向いた。


「ここでは邪魔が入る。少し離れるぞ。ついて来い!!」


 キャスバルが戦闘宙域から離脱していく。


 その動きはオル・アティードにも引けを取らないほどの機動性であった。


 ルナもメタリックステラについていった。





 りょーたろが肩で息をしていた。


「りょーたろさん、大丈夫?」


「ああ。なんとかな。どんな状況だろうが、ここで引けねーだろ。」


「。。。うん。でも、あんまり無理はしないでね。」


「分かってるよ。ほら、いくぞ!!」


 りょーたろが息を整えた。


 ソルとりょーたろが広い通路の奥にある重厚なバロック調のドアを蹴破った。


 ドアがバタンと倒れ、二人が奥の部屋へと入っていった。


 部屋は15m四方の広間であり、奥にはバロック調の重厚な机が置かれていた。


 部屋の横には応接用の背の低い机とソファがあった。

 

 部屋の奥にあるバロック調の重厚な机の前でブラック・ロズウェルが手を広げて立っていた。


「まさかここまで来るとは。お前たちのしぶとさには驚いたよ。」


「ふんっ、今さら謝ってもムダだぜ!」


 そのソルの言葉を聞いて、ブラック・ロズウェルが高笑いをした。


「お前たちは何か勘違いをしているようだな。

 少しずつ試しているんだよ。お前たちがどこまで耐えられるのかを。

 そろそろヤバイ頃あいだろ。

 さあ、これはどうかな?」


 ブラック・ロズウェルが指を鳴らした。


 すると、二人の目の前の空間が僅かに歪んだ。


 二人は思考共有デバイスを通して、何かを感じ取った。


 慌てて両サイドに回避行動を取った。


 歪んだ空間から突然レーザー光が発せられた。


 だが、二人は事前に感じ取った危機感のおかげで間一髪避けられた。


 りょーたろが慌てて、ソルに思考共有デバイスで話かけた。


(こいつら、光学迷彩着けてるぞ!かなりの数だ!!)


 ソルも思考で返事をした。


(うん、分かってる。おれのとっておきを出す!!)


 ソルは避けながら、太腿部に付けていた棒型発信器を取り出し、スイッチをONにした。


 棒型発信器はソルの思念波、想いを受けとり、それを増幅して、全方位に信号として発信し始めた。


 その間もレーザー光は部屋の至るところから二人に向けて放たれた。


 だが、アンドロイドたちの攻撃の情報が二人に伝わってきており、二人は何とか避けることができた。


 しかし、りょーたろは身体の負荷がピークに達しており、回避の幅が徐々に狭くなってきていた。


 そんなりょーたろの様子を見て、ソルは力を振り絞った。


 ソルの目がますます赤く染まっていった。


 それにつれて発信器からの信号がどんどん強くなっていき、光学迷彩の隙間から放たれるレーザー光の数が徐々に減少していった。


 ソルも脳の負荷が増大したことで肩で息をし始めた。


 その時、ついにりょーたろの腕にレーザーが貫通した。


「ぐあーーーー!」


「りょーたろさん!!」


「はーっはっはっはっ!!もう終わりか!!?どうした?最初の威勢はどこいったんだよ!?」


 ブラック・ロズウェルの言葉にソルの怒りが高まった。


「きさまーー!!」


「おれは大丈夫だ!」


 りょーたろは必死に動いていた。


 ソルの与えるノイズによって何とか急所は外れており、りょーたろの受けた傷は致命傷にはなっていなかった。


 ソルの怒りに呼応するかのように、発信器からの信号がさらに強くなり、空間を歪ませた。


<次回予告>

パワードスーツの負荷に身体が持たなくなっていくりょーたろ。

それを助けようとソルが心の叫びを放つ。

ルナはあるヒューマンプレイヤーと対峙し、1対1での戦いを開始する。

誰にも邪魔されないように戦闘宙域を離れ、真剣勝負に向き合うのだった。

次回、第52話 ”その奥にある光は、”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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