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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第46話 : おれは、、、あいつらを許さない。

<前話のあらすじ>

”OneYearWar”決勝に向け、地球に出発したルナ。

スペースポートに見送りにきたソル、りょーたろとルナの両親。

ルナの父親からルナとこれからも友人でいてほしいと言われるソルとりょーたろ。

ソルはルナの父親に言った。

ルナは切っても切れない仲間であると。

そして、ルナは地球に向かうスペースシップの中で誰かの悲鳴を聞いたのだった。


 

 ルナがスペースシップに乗り込んだ。


 荷物運搬用ロボットが自動で収納スペースに入った。


 ルナが席に座った。


 その時、頭の中に悲鳴のような、悲しそうな声が木霊した。


「やめてください!」

「我々は関係ないのに!」

「私たちを壊さないで。。。」


 ルナは席に座ったまま周囲を見回した。


 だが、周囲では何も起こっていなかった。


 そして、その悲しそうな声はわずかな時間続いたが、すぐになくなった。


 ルナは何かいやな予感がしたが、そのまま席に座っていた。


「まもなく離陸体勢に入ります。シートベルトをお締めください。」


 スペースシップがコロニーからの射出ゲートに移動し始めた。





 スペースポートから移動してきたりょーたろの車がジャンク屋の前で止まった。


 ソルとりょーたろが自動車を降り、唖然と立ち尽くした。


 りょーたろのジャンク屋の中の棚や積み上げられていた部品類が壊されて、店がボロボロになっていた。


「なんなんだ、これ。」


 ソルがジャンク屋の前に落ちている部品を拾い上げて、りょーたろの方に向いた。


 その時、周囲の店から人が飛び出してきて、ソルとりょーたろに向いて叫んだ。


「お前ら、ロズウェルと揉めてんのか?そんななら、ここから出ていけ!!」


「そうよ!私たちまで余計なことに巻き込まないでよ!!」


 ソルとりょーたろが声がした方に向き直った。


 そこには外傷修復用のバンドが手や腕、脚に貼っている人たちが立っていた。


 りょーたろが周囲を見回して言った。


「えっ?みんな、怪我して。。。しかも、ロズウェルって?。。あの時の金の話か?」


 りょーたろがそう言ってソルを見た。


「あいつら。ここの関係ない人たちまでも!クソッ、でも、なんでまた急に。」


 ソルが苛立ちを見せていた。


 その時、突然、ソルのBCDに着信が入った。ソルの視界にウインドウが表示される。


(リタお婆ちゃん)


 ソルはすぐに着信を取った。


「もしもし。お婆ちゃん?」


「ソル。大、、変だよ、、、ロボット、、たちも、、、、壊されて、、、、」


 リタお婆ちゃんの視界がウインドウに映った。


 破壊されたアンドロイドたち。


 映像からお婆ちゃんが床に倒れていることは明らかだった。


 そして、持ち上げた手には血が付いていた。


 りょーたろもその映像を見ていた。


「お婆ちゃん!すぐ行くから!!ちょっとだけ待ってて。。。」


 急激にソルの呼吸が激しくなった。ソルの怒りに反応してシャツの黒い帯が赤く発光し始めた。


「ぐわぁあぁぁぁーーーーーーーーーー!!」


 ソルが空気を震えさせるほど吠えた。


 周囲に集まった人々もソルがここまで怒りを露にするのを今まで見たことがなかった。


 その姿を見て、周囲の人々は後ずさりをし、もう文句を言う人もいなくなった。


 ソルがりょーたろを見て言った。


「ごめん。りょーたろさん、おれ、行ってくる。」


 ジャンプしようとしたソルにりょーたろが声をかけた。


「おい。お婆ちゃん助けたら絶対すぐ戻ってこいよ。約束だぞ。」


「分かってる。」


 荒い呼吸をしながらソルが返事をして、白いヘッドギアを付けることもせず、一気にジャンプした。





 ソルがタキオンコミュデバイスを作っているアパートの前に着地した。


 周囲は関わりたくない一心で全てが放置されていた。


 ソルがジャンプし、4階に着地した。


 ドアが壊され、部屋の壁にレーザーの着弾痕がそこかしこにあった。


 床にはアンドロイドの腕や胴体、足が散らばっていた。


「ニュートン、アインシュタイン、湯川、ガロワも、みんな。。。」


 ソルは用心しつつ、玄関から中に入っていった。


 少し中に歩いていくと、お婆ちゃんが倒れているのが見えた。


「お婆ちゃん!!」


 ソルはお婆ちゃんに駆け寄り、抱きかかえた。


「ソル、、、来てくれたのかい。。よかっ、、、た、、、」


「もう話さないで。」


 腹部からの出血でお婆ちゃんの服が赤黒く染まっていた。


 ソルはお婆ちゃんを抱きかかえ、決心した顔でアパートから出て、再びジャンプした。


 思考によって、BCDを操作する。


(じいちゃん)


 ソルは高速移動しながら、祖父に連絡を入れた。


 するとすぐに祖父、柊レイが出た。


「おお。ソルや。どうした?」


「。。。じいちゃん、ごめん。ちょっと医療ポッドを使わせて。理由は後で話すから。」


「ああ。分かった。起動しておこう。早く来るんじゃ。」


 短い通話を終わらせて、ソルが移動に意識を集中させた。





 柊家の屋敷の前にソルが着地した。


 外に杖をついた柊レイが待っていた。


「じいちゃん。」


 柊レイは、心配そうな顔をして老婆を抱えたソルを見て、言った。


「話は後じゃ。早く医療ポッドへ。」





 ソルが屋敷の中に入って、医療用の別棟に行き、医療ポッドにお婆ちゃんを入れた。


 上部カバーが閉じ、医療ポッドにパッと表示が浮かんだ。


(最高レベル、全身治療)


 医療ポッド内で数秒かけて全身スキャンがされ、外傷部分が把握された。


 マニピュレータによって患部の衣類が取り除かれ、同時にマイクロニードルによる患部への麻酔、脳内麻薬分泌信号が脳に施された。


 苦痛に歪んでいたお婆ちゃんの表情がほどけていった。


 人工血液が注入され、バイタルが安定しだした。


 ポッドの下部では遺伝子情報を元にした血液生成が始まっていた。


 患部における修復不可能な部分に対して細胞アポトーシス信号が送られ、細胞が死に絶え、消えていく。


 その代わりとなる細胞を作るため、幹細胞注入、そして、その幹細胞を元の組織にするため、電気信号送信と光照射による組織復元が始まった。


 柊レイが心配そうに見ているソルの腰に手を当てて言った。


「ここまでくれば心配はいらん。もう大丈夫じゃて。」


 ソルが柊レイの方を向いた。


 柊レイがソルに続けて話しかけた。


「突然だったのじゃろ?理屈の分からぬヤツもおる。お前もあんまり無理はするでないぞ。」


「でも、これはさすがに酷すぎる。おれは、、、あいつらを許さない。」


 柊レイはソルの激しく燃える目を見て、そして、ポケットの中のデバイスを見た。


(JAMーUnitを装着して、、、)


 柊レイは決心した顔でソルに話した。


「おまえはおまえの正しいと思ったことを為せばよい。


 心で感じたことを、肌で感じたことを、おまえがしたいと思ったことを。


 おまえがそれを人の道だと思うのなら、わしはいつでもおまえを応援するぞ。」


「じいちゃん。」





 りょーたろが散らかった部品を片付けているところに、ソルが戻ってきた。


 ソルの服に描かれている赤く発光した帯が黒色に変化した。


 りょーたろがソルに気づき、ソルの方に歩み寄ってきた。


「お婆ちゃんは大丈夫なのか?」


「うん。きっと。」


「良かった。良かった。」


 りょーたろの言葉は、お婆ちゃんの安否に対して、そしてソルがここに戻ってきたことに対してだった。


 だが、りょーたろはソルの顔に何かの決心のようなものを感じとった。


「お前。」


 ソルが店の前の台に置かれた1つの部品を取り上げた。


「りょーたろさん、これ、使ってもいい?」


 ソルの取り上げた部品は、あらゆる周波数帯へ電波を飛ばす発信器だった。


 りょーたろは眉をひそめてソルに聞いた。


「お前、それで何するつもりだよ?」


 ソルは部品を見つめながら話し始めた。


「あいつらはここの人たちのことなんて何とも思っちゃいない。


 あいつらはおれが今まで築き上げてきたものを何とも思っちゃいないんだ!


 ここで必死に生きている人たちのことがおれは好きだ。


 それをあいつらが壊すというのなら、おれはもう我慢しない。」


 ソルはそう言いながら、再び怒りに反応して服の黒い帯が赤く発光してきていた。


 りょーたろがソルの肩をポンポンと叩き、気持ちを静めるように促した。


「まあ、落ち着け。」


 りょーたろがソルの顔を覗き見ながら、フーと息を吐き、続けた。


「そうだな。お前がやるってんなら、おれもやるぜ。


 おれだって、この店に誇り持ってやってんだよ。それをあいつらは。。。


 技術者の善意で世界が穏便に過ぎていってるってこと、教えてやらないとな。」


 そう言うと、りょーたろはソルと同じ脳波感応デバイスJAM-Unitを頭に着けて、ソルの目を見た。


 ソルはりょーたろとの意識の交換を感じた。


 それは一瞬の出来事であった。


「やるならおれ一人でいい。相手が相手だし、もしかしたら死ぬかもしれない。」


「お前とおれの関係はそんなもんかよ。おれはそんな風には思っていない。お前もそんな風に思ってないよな。


 この店は壊されたが、お前との腐れ縁はそんなことでは壊れん。


 そうだろ?お前もそう思ってる。だろ?」


 脳波感応デバイスJAM-Unitが微かに虹色に光っていた。


 ソルはりょーたろの決意を感じていた。それはりょーたろが醸し出す雰囲気から感じたのではなく、直接的な脳神経の流れによる認識だった。


「そう、、、だね。」


 ソルが部品を一つ取り上げた。


 その部品の下に一枚の写真を見つけた。


 その情報がデバイスを通じてりょーたろに伝わった。


 りょーたろの思い出が脳に駆け巡る。


 その情報がソルにも伝わる。


 ソルは住んだこともない日本の香川の風景を懐かしく感じていた。


 二人は同調して考えていた。


「サクラばあちゃん。機会があったら、またあそこに帰りたいもんだな。」


 二人の思考は完全に一つになっていた。


 二人の目がわずかに赤く充血していた。


 それぞれが部品を手にして、何かを作り始めた。


 ソルはプラズマ放射ユニットを、りょーたろはパワークレーンアームを手に取った。


 りょーたろの部品に関する詳細情報を、ソルのプログラム生成技術を、お互いの持つ部品加工技術を、まるで二人ともが持っているかのように、作業しはじめた。





 ルナがスペースシップの窓から地球の地平線を見ていた。


「すごい!!なんてキレイなんだろう。これが、、、地球。」


 薄い大気の層が青白く輝いており、地球を覆っているのが分かる。


 海の青さもルナの目には神秘的に見えた。


 ルナがフワッと宙を飛んで船内の反対側の窓に移動した。


 太陽の光が当たっていない側では地上が暗く、その中で街の光がまるで脳神経シナプスの繋がりのように輝いている。


「ここに人が住んでる。。。ここが人類の故郷。。。」


 なぜかルナの目に涙が溢れてきた。


 船内放送が流れる。


「本船はまもなく速度を落とし、軌道エレベーター富士宮ポートと連結します。


 手荷物を所定箇所に収納し、座席にお座りのうえ、シートベルトをお締めください。」





 ルナは軌道エレベーターに乗った。


 エレベーターが降りていく間、地平線に広がる絶景を楽しんだ。


 そして、ルナは感じた。


 徐々に身体がエレベータの床に吸い付く感覚。


 美しい景観に感動しつつも、構造物が回転もせずに、身体が床に押し付けられる感覚を初めて体験した。


 コロニーのそれとは明らかに違う、その奇妙な感覚に思わず声を上げた。


「これが、、重力。。。不思議な感じ。。」


 ルナは思わず笑みを浮かべていた。


<次回予告>

ステージに立つルナ。

その時、ソルとりょーたろはある門の前に立っていた。

そして、互いの敵に向かって歩を進めるのだった。

自分の信じるものを心に灯して!!

次回、第47話 ”火蓋が切って落とされます!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


<ちょっとあとがき>

りょーたろの祖母 ”サクラ”は実は前作”ガロワのソラの下に”で登場した人物です。

ソルの祖父である柊レイは前作の主人公でした。

BCD=BrainConnectedDeviceも前作から登場しております。

前作から200年後の世界であるため、デバイスとしては結構進化をしているところももし良ければ読んでいただけると幸いです。

また、ルナが感じた重力。

私はコロニーの人工重力を感じたことはありませんが、たぶん地球の重力とは全然違う感じだろうなと想像します。

実際にはコリオリ(りょく)が働くため、僅かに横方向、回転方向にも力を感じているはずです。

そのため、コロニーで実際にボールを真上に投げると投げた位置に落ちてきません。(はずです。。)

それに慣れているコロニーの住人は、地球の重力という純粋な力に驚くと思い、それを表現してみました。

最近終了したジークアクスにも重力の表現がされてましたが、コロニーと同じだと主人公が言ってて、ふう、良かったと心を撫で下ろしました。(笑)

ジークアクスは赤いガンダムが出てきたりとちょっと驚きましたが、言っておくと、ジークアクスよりも本作が先に”赤い悪魔”を出してたので、パクったわけではありません。あしからず。(笑)


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― 新着の感想 ―
ジークアクス、なかなかに面白かったですね♪(●´ω`●) それはともかく、 御作の赤い悪魔が先であったことは、拝見してた自分も知っています♪(^人^)と書きたかった気持ちが少しありまして、ちょっと書…
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