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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第41話 : これでお前は自由だ!

<前話のあらすじ>

”OneYearWar”予選決勝で戦うルナ。

操作系のディレイに困惑しつつも何とか勝ち残っていた。

その操作系ディレイがハッキングによるものということを見つけたソルとりょーたろ。

二人はハッキング元を破壊していった。

ハッキング元は残り1つ。

その時、ルナの目の前には大出力イオンビームを放つ巨大要塞が立ちはだかったのだった。


 

 ルナが距離2000kmの位置、進行方向の左30度、高度+30度、つまり11、01(ひとひと、まるひと)方向に巨大な敵機マークを見つけた。


 そして、そこでは味方機のマークが次々と消えていた。


 ルナが機体の角度を変え、アサルトユニット、ブースターユニットをコックピットボールに近づけ、急加速をした。


 虹色の軌跡が美しく輝いていた。


 数10秒後、その正体が姿を表した。


 銀色の超巨大なボール型要塞。


 約1000km先からでもその構造が分かるほど大きい。


 その要塞の周囲では爆発が頻繁に起きていた。


 そして、そのすぐ後に、ルナも驚くような光景を目の当たりにする。


 直径1kmを越えるイオンビームの射出。


 ルナの位置からでもその光の線が見て取れた。


 イオンビームの輝度から見るに5000kmほどの射程を持つと思われるそのイオンビーム射出はその光の軌跡に数多くの爆発を産み出していた。


「あの射程なら戦闘宙域の中間位置からでも旗艦を狙える。」


 ルナの目に驚きと喜びが浮かんでいた。


 ちょうどその時ルナが接近する方向とは逆方向から戦艦が一機、戦闘機を引き連れて、その要塞に攻撃を仕掛けていた。


 戦艦の主砲が一斉にイオンビームを射出した。


 主砲の数、8つ。その光が要塞に照射された。


 しかし、要塞の手前で、要塞周囲にある無数の小型敵機マークの位置で爆発が発生しつつも、イオンビームの幅がなにかによって広げられた。そして、広げられたイオンビームはバチバチと霧散させられていく。


 さらに戦艦から放たれた主砲イオンビームは要塞に近づくにつれ、どんどん拡散、霧散させられ、要塞に到達するまでに全てが書き消されてしまった。


 その直後、要塞の中から小さい敵機マークが無数現れ、再び要塞を取り囲んだ。


 そして、要塞の角度が要塞周囲のブースターで変更されていた。


 ルナは戦艦から通信が入る距離まで接近した。


 AIの船員たちの会話が聞こえてきた。


「”マラナ・ストリ”から高エネルギー反応!!」


「要塞前の中和フィールド展開機を蹴散らせ!ミサイル撃て!!」


 戦艦の横腹からミサイルが複数放たれた。


「敵主砲の角度調整予測時間、約20秒。」


「大丈夫だ。こちらの方が早い。中和フィールド機がなくなった時こそチャンスだ。必ず仕留めるぞ!!」


「エネルギー充填50%、主砲あと10秒で撃てます。9、8、7、6、」


 その時、別のAI船員が叫んだ。


「えっ?要塞の主砲イオンビーム、来ます!!」


「大丈夫だ!相手の主砲は角度が合っていない!!」


 その声と同時に”マラナ・ストリ”と呼ばれた要塞から再び超高出力イオンビームが射出された。


 射出されたイオンビームは要塞の主砲の前方で約15度屈曲させられた。


 その曲げられたイオンビームの角度はまさに戦艦の方向であった。


 戦艦と要塞の距離は約600km。光の7割の速度で進行するイオンビームが戦艦に到達するまで約0.002秒。


 瞬間で戦艦にイオンビームが到達。


 戦艦前方ではイオンビームの一部が霧散。


 がしかし、イオンビームの出力に対して、中和フィールドが圧倒的に不足していた。


 その射出されたイオンビームのほとんどが戦艦にヒットし、戦艦はまるで紙屑のように散り散りになり、大爆発を起こした。


 それを見た直後、ルナの心臓が高鳴った。


 そして、要塞がオル・アティードの方向に角度を向け始めた。





 ”空を歩く者”が戦艦の爆発を横目に最大望遠で虹色の軌跡を残している赤い機体を確認した。


「来たな!RedDevilよ。今日こそお前の時代が終わる日だ!!

 エネルギー充填急げ!!

 最大屈曲以内に入った瞬間、即時ビーム射出せよ!!」





 ルナの機体には、先ほどの射出時のエネルギー充填数値が重力感知レーダーにより記録されていた。


 エネルギーはすなわち質量であるため、重力子レーダーにも反応が出ていた。それほどまでに高出力であった。


 要塞のエネルギー集束値が徐々にその感知された数値に近づいていく。


 オル・アティードが要塞から700kmの距離に近づいた時、ルナは狙われているのを感じ、回避行動に出た。


(さっきの屈曲した角度から考えるとまだ大丈夫のはず。)


 そうルナの理性が言っていたが、ルナの直感は危険を察知していた。


(いや、来る!!)


 ルナはサイドブースターではなく、アサルトユニット、ブースターユニットを90度回転させ、ほぼ直角に機体の進行方向を曲げ、最大の回避行動を取った。


 だが、そこに若干のディレイが入った。


 そのディレイがこの危機感の中では、ルナにとって、生死を分けるほど大きな足枷に感じた。





 ”空を歩く者”は機体の震えを感じていた。


「なんだ?これは!?どういうことだ!」


 このような震えは感じたことがなかった。”空を歩く者”は一抹の不安を感じた。


 その時、AI船員が”空を歩く者”に告げた。


「エネルギー充填完了しました!」


「屈曲角度最大でターゲット捕捉可能!!」


 ”空を歩く者”は、一旦震えのことを心から追いやり、即座に指示を出した。


「撃て!ビーム射出だ!!」


 ”空を歩く者”の号令の後、若干のディレイを挟んで、イオンビームが射出された。





 ルナの回避行動の後、すぐにイオンビームが主砲の穴から射出された。


 そのビームは主砲の穴から出た直後から徐々に角度を変えていく。


 要塞から離れるにつれて、深紅の機体に向けて、どんどん角度が変わる。


 黄色く光る一匹の竜が、轟音と共に、ルナの機体のブースターユニットの後方10mほどを通過した。


 ブースターのイオン射出角度補正板が竜の吐息にかすかに触れて若干溶けた。


 目映い光がコックピット内を包んだ。


 一瞬ルナはやられたのかと錯覚するほどだった。


 だが、光がすぐになくなり、無事だと分かった。


 ルナは考えた。


 相手は充填に10数秒かかる。その隙に本体に近づけば。。。そう思った。


 だが、主砲がどんどん角度をこちらに合わせてくる様子が見て取れた。


 しかも、自分に課せられたディレイ。


 相手へ与えられるはずのディレイもなぜか微妙に小さい。


 先ほどのAI機を操るプレイヤーとの戦闘でもそうだった。


 この若干のディレイが自分の選択肢を狭めているのを感じていた。


 そして、その選択肢の消滅がルナのいつものアグレッシブさを消してしまっていた。


 その迷いの中、再び高エネルギー反応が要塞から検出された。


「来る!!」





 ソルがE地区のマップに示された場所に到着した。


 一階が駐車場、二階、三階、四階には複数のアンドロイドが待ち構えていた。


 いろんな部屋の明かりが付けられていて、そのアパート全体がアジトになっているようだった。


 そのため、ソルには、どこにハッキングの装置があるのか見当がつかなかった。


「もう情報が入ちまったってのか。。参ったな。」





 ”空を歩く者”がAI船員の合図を聞いた。


「エネルギー充填完了!!」


「角度、行けます!!」


 即座に”空を歩く者”が再び号令を出す。


「撃てーー!!」


 機体はガタガタと音を立てるほど震えていた。


 僅かなディレイの後、イオンビームが射出された。





 ルナはイオンビームが来ることを察知した。


 アサルトユニット、ブースターユニットを地球降下方向に方向転換させ、最大推力で回避移動した。


 黄色く光る竜(イオンビーム)が轟音を立てて、オル・アティードのブースターユニットの後方を通過した。


 地球の重力を借りた加速のお陰で何とか無事回避に成功した。


 だが、主砲の角度は完全にオル・アティードを捉えていた。





 ”空を歩く者”が声を荒げた。


「エネルギー充填まだか!!?」


「現在、充填率45%」


「えーい。早く充填しろ!!」


 ”マラナ・ストリ”本体がガタガタと震えていた。


「なんだ!?この振動は?さっきより酷くなってきている?」





 焦ったソルが周囲をキョロキョロした。


 その時、別のアパートの中の子供たちが見えた。


 暑い夏の日差しを避け、部屋の中で遊ぶ子供たち。


 一人の子供が積み上げられた積み木の一番下にある木を取り外した。


 グラグラと揺れる積み木。そして、積み木が崩れ落ちた。


 ソルが目を見開き、アジトのアパートに向かってジャンプした。





 ルナは悟った。


 次は避けきれない。


 相手に与えられるはずのディレイがあまり効果なく、こちらには足枷がかけられている。


 もう一か八かで突撃しかない。


 ルナはオル・アティードのユニットを全て要塞の方に向けた。そして全開で加速し始めた。


 要塞からはレールガンやミサイルが撃ち込まれるが、それを稲妻の軌跡で避け、打ち落とし、前進し始めた。





 ”空を歩く者”が突撃してくる赤い機体を目にして、笑みを浮かべた。


「とうとう諦めたか!!おれが作ったこの要塞!お前などには負けぬ!!

 次で必ず()としてみせる!エネルギー充填まだか!!?」


 AI船員に怒鳴りつけた。AI船員が答えた。


「エネルギー充填率65%。あと10秒!!9、8、7、、、」





 「Gear3(スリー)!!」


 ソルが目に追えないほどの速度で移動し、一階の駐車場の柱に対して、拳を叩き込んだ。


 1mほどの柱に拳を叩き込み、柱の半分以上を吹き飛ばす。そして、次の柱に移動し、また柱に拳を叩き込む。


 ソルは、あっという間に、9本あった柱を全て半壊させた。


 アジトにいるアンドロイドは揺れを感知した。外を見回すアンドロイドたち。


 「Gear4(フォー)だぁーー!!」


 ソルが一気にアパートの高さの二倍ほどジャンプして、拳を下にして急降下し始めた。


「ううおおおぉーーーー!!!」





 揺れる”マラナ・ストリ”本体の中で、エネルギー充填のカウントダウンが進んでいた。


「4、3、、、」





 ルナはイオンビーム充填の音、そして射出される主砲の奥の煌めきを見て、一か八かで避けるタイミングを計っていた。


「来る!!」





 空気を切り裂くほど加速されたソルの拳がアパートの中央支柱のてっぺんに叩き込まれた。


 目の細かい月の砂レゴリスで作られたアパートの壁は衝撃に脆いものであった。


 アパートが音を立てて、崩れていく。


 まずは一階が潰れた。


 駐車場に置いていた高級車がベキベキと音を立ててペシャンコになった。


 一階が下に落ちる勢いで二階が、そして三階が、轟音を立てながら潰れていった。


 アパートが潰れる拍子に破片がソルのところに飛んできて白いアイマスクに当たった。


 アイマスクが割れてしまい、ソルの額から少しだけ血が流れ出した。


 アイマスクがアパートの屋上に落ちた。と同時に、ギリギリ残っていた四階部分が鉄がひしゃげるような音を立てて、崩れ落ちた。


 立ち上がったソルが言った。


「ルナ、これでお前は自由だ!」


 ソルの額と拳から血がしたたり落ちていた。





 相手の攻撃を可能な限り迅速に察知するため、ルナは全神経を集中させていた。


 その時、突然、全ての感覚が研ぎ澄まされていくのをルナは感じた。


 それは従来の感覚に戻っただけのはずだが、なぜかこれまで以上に心が澄み渡っていくのを感じた。


 そして、どこからともなく、ソルの声が聞こえた。


「ルナ、これでお前は自由だ!」


 オル・アティードの虹の波動がさらに強く全方位に広がっていった。


<次回予告>

ディレイから開放されたルナ。

そこに飛んでくる黄色く光る竜(イオンビーム)

全てを飲み込むその竜にルナはどう立ち向かうのか?

ルナは要塞を撃破することができるのか?

次回 第42話 ”おい、お前も見えてるか?”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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