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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第40話 : 思いを、、、弄ぶなーー!!

<前話のあらすじ>

”OneYearWar”予選決勝を戦うルナ。

開戦後すぐにルナは、操作系にディレイが発生していることに困惑する。

同時に、ソル、りょーたろもそれに気がつく。

ソル、りょーたろはそれをハッキングと断定。

ハッキング元が同コロニー内3箇所であることも特定し、ソルがそれを1つ破壊。

ルナはディレイによって追い詰められていたが、そのディレイが軽くなり、何とかファントム・ノヴァというメタリックステラを撃破した。

そして、次の敵機が現れた。

ルナは、その敵機から普段感じたことのない嫌悪感を感じたのだった。


 

 ルナは回避行動をしつつ、次の標的にアサルトユニットの角度を合わせ始めた。


 と、その時。次ははっきりとした嫌悪感がルナを襲った。


 狙われているわけではない。なのに、ルナはなにかを感じ取っていた。


 すると、突然前方で先ほど散開した敵機から無数のイオンビームが放たれた。


 そのイオンビームはルナのオル・アティードを狙ったものではなかった。


 オル・アティードが今にも狙いを定めていた敵機に向かって放たれていたのだった。


 距離にして、周囲約60km。最初に散開した20機中15機ほどが爆発した。


 爆発がルナの視界を邪魔した。


 実際に戦場においてこの程度の連続爆発は良くあることだった。


 この視界の遮蔽はルナにとってまだまだ全くの想定内のできごとだった。


 しかし、僅かにルナの動きが鈍った。


 それはこの時感じた嫌悪感から来るものだった。





 男は爆発の影響を使って”RedDevil”の予想移動位置を絞っていた。


 その予想位置にさらに散開した味方機を配置させていた。


 そして、後方からの機体を使い、同士撃ちをさせ、前方の機体を爆発させた。


 それによって、次々と”RedDevil”の予想移動位置を塞いでいった。


 ”RedDevil”の接近に伴って、男の機体にも周囲の機体にも振動が始まっていたが、男はまだそれを気にはしていなかった。


 二度目の同士撃ち爆発を行った時、”RedDevil”の予想移動位置、つまり男の狙うべき位置が10点ほどに絞れた。


 男はさらに周囲の機体に指示して、その10点に対して、それぞれ5機ほどでイオンビームを射出させた。





 ルナは二度目のひどい嫌悪感を感じた。その直後、機体が複数機から狙われている気配も感じた。


「5機!?来る!!」


 咄嗟に回避行動を取るが、嫌悪感とディレイも合間って間に合わないことを悟った。


 前面に最大でイオン中和フィールドを張った。


 通常の戦闘機であれば、回避行動は機体の角度を変えて進行する。


 つまり、その行為自体が中和フィールドのない横腹を相手に晒してしまうことを意味していた。


 だが、オル・アティードはサイドブースターを使い、シフト移動を行っていた。そのため、前面を敵機に向けたまま回避を行えた。


 黄色い光がルナの目の前に飛び込んできた。


 オル・アティードを狙った5本のイオンビーム。


 1本はギリギリ機体の横を追加。残り4本がオル・アティードを捉えた。


 しかし、4本のイオンビームも、オル・アティードが展開していたイオン中和フィールドの中に吸い込まれ、バチバチと霧散した。


 ルナはアサルトユニットの直前まで迫るイオンビームに息を呑んだ。


 それでも、引き続き、ルナは回避行動を取りつつ、距離を詰めていた。


 だが、再び嫌悪感を感じた。


 正面に見える敵機の固まりに、また周囲から敵機が集まってきているのも見えた。


「おれはNPテイマーだ。NP(Non-Player)の機体があるかぎり、おれの機体が減ることはない。さあ、いつまで耐えられるかな?」


 そして、再びルナの機体に接近してきた敵機が同士撃ちにより爆発した。ルナの選択肢を減らすために。


 その時、ルナは周囲からの微かな声を聞いた。


「な、、まを、、こ、、、し、、たく、、、」





 ソルがD地区のアパートの屋上に着地した。


 分かりやすくある向かいのアパートの一室の前に先ほど倒したアンドロイドと同じ型式のものが二体立っていた。


 ソルがその部屋に向かってジャンプした。


「Gear3!!」


 ソルがそう言うと、シャツに描かれている帯が赤色から虹色に光だした。


 ドアの前で待機しているアンドロイドが震えだした。


 アンドロイドの視界に一人の男が飛び込んできた。


 ソルは警護をしているアンドロイドに向かってキック一閃。


 アンドロイドは発生しだしたディレイのため、キックを(かわ)す間もなく、吹き飛び、アパートのドアを突き破った。


 ソルがアパートの入り口で着地した。


 隣にいたもう一体のアンドロイドが一人の男を認識し、その男に対してパンチを繰り出した。


 だが、ソルはそのパンチを見切り、躱し、さらにその腕を掴み、腕の逆間接を取りながら背負い投げをした。


 そして、ソルは宙に浮いたアンドロイドの身体に回し蹴りを叩き込んだ。


 アンドロイドの身体が大きく凹み、アパートの壁に埋まり込んだ。


 ソルがアパートの中を覗いた。


 身体がくの字に折れたアンドロイドが刺さった壁が崩れた。


 その奥に、体格が良く、腕に蛇の刺青の入った人間が銃を構えていた。


 蛇の刺青男がソルに向けて発砲した。





 ルナが三度目の嫌悪感を感じた。と同時に誰かがまた微かな声を上げていた。


「なか、、を、、ころ、、、く、、な、、、」


 オル・アティードの周囲でまた爆発が起きた。青白い光が20個ほど広がった。


 ルナが回避行動を取った。


 ルナの回避行動が想定選択肢の中の1つであることに、NPテイマーと呼ばれた男がニヤリと笑う。


「おまえらはおれの捨て駒だ。さあ、おれのために死ね!!」


 オル・アティードの周囲にはまた敵機が近づいてきていた。


 ルナが再び嫌悪感を感じた。


 その時、ルナが叫んだ。


「やめろーーーー!!!」


 オル・アティードから放たれる虹の波動がより強いパルスとして周囲に広がった。


 深紅の機体に近づく第2陣から第1陣の機体に向けてイオンビームが放たれた。


 だが、イオンビームは、第1陣の敵機に当たることはなかった。


 NPテイマーの笑みが消えた。


「なに?なに、やってる!?なぜ爆発しない!?」


 ルナの目が光った。


 オル・アティードは稲妻のような軌跡を描きながら周囲の敵機を破壊することなく、進んで行った。


 敵機がオル・アティードに対してイオンビームを放ってきた。


 その時、ルナの感じていた嫌悪感が消えた。ルナはいつもの感覚に戻っていた。


 だが、ディレイが全て消えたわけではなかった。


 ルナはこのチャンスを逃すべく可能な限り直線でNPテイマーの機体に近づこうとした。


 そのため、イオンビームを避けながらも、時には中和フィールドでイオンビームを受つつ、急速に敵機固まりに距離を詰めていった。





 敵機集合体の中心にいたメタリックステラのパイロットが慌てて周囲の機体に命令していた。


「なにをやっている!?はやく撃て!!あいつの進路を防ぐんだよ!!

 お前たちはおれの壁なんだよぉ!!」


 だが、それ以上、敵機は同士討ちをすることがなかった。


 目の前では虹色の軌跡が急激に接近してきていた。


「もういい!撃て!撃て!撃ちまくれ!!中和フィールドを全部剥がすんだ!!」


 ルナが集合体にどんどん近づいていった。


 それにともない、ディレイのせいで時おりイオンビームが当たり、中和フィールドが削られていった。


 ルナの目がどんどん赤く染まっていった。


 集合体との距離100kmを切った。


 集合体の中心にいたメタリックステラのパイロットが別の指示に切り替えた。


「この距離!ミサイルだ!ミサイルに切り替えろ!!」


 周囲の戦闘機から無数のミサイルが目の前の赤い機体に発射された。





 ソルが(すんで)の所で身体を捻った。


 ソルのほほを弾丸がかすめた。


 ソルが細い通路を壁蹴りでジャンプし、銃を持つ相手との距離を詰めた。


 蛇の刺青の男も何度も発砲した。


 が、その銃弾はすでにソルがいなくなったところに飛んでいった。


 ソルは虹色に光る帯が描かれたグローブを着けた手で銃を掴んだ。


 ソルは最大パワーで出して、銃をグシャっと握りつぶした。


 そして、軽く男のほほを叩いた。


 それでも男は部屋の壁に向かって飛んでいった。


 その奥には線の細い男がディスプレイの前で呆然とソルの方を見ていた。


「いや。これは、、、その、、、私も頼まれて、、、」


 ソルがその男に言った。


「お前、その大会にみんながどんな思いで臨んでいるか、知ってるのかよ?」


「いや、でも、私は頼まれて、、、」


 ソルが怒りで拳を強く握っていた。


「思いを、、、」


 拳を出すのと同時にソルが叫んだ。


「弄ぶなーー!!」


 1m立法ほどの大きなコンピュータと思われる機械はソルの拳により粉々に破壊され、その先にあったアパートの壁までぶち抜いていた。





 ルナはイオンビームを避けようとした。


 その時、足枷のようなディレイがさらに軽くなったのを感じた。


 同時に目の前から無数のミサイルが飛んできた。


 瞬間、そのミサイルの型式を判別した。


「近接じゃない!行ける!!」


 ルナが機体をさらに加速させた。


 それまでよりも比較にならないほどの角度、精度で機体が宙を切り裂いた。


 ミサイルの補正可能な角度限界を越えて、ルナが機体を動かす。


 無数に飛んでくる全てのミサイルの隙間を縫い、虹色の軌跡が敵機に近づいていく。





 集合体の中心にいるメタリックステラのパイロットには信じられない光景であった。


 虹色の軌跡を残し、まるで幽霊(ゴースト)のようにミサイルをすり抜けて近づいてくるその様に恐怖を感じた。


 それはほんの2秒足らずの出来事だった。


 パイロットはすでに敗北を感じていた。


「これが、、赤い、、悪魔か。。。」





 ルナが集合体の中に飛び込み、周囲の戦闘機をガトリングレールガンで破壊しつつ、中央のメタリックステラに接近した。


「思いを、、」


 ルナが叫びながら、メタリックステラに対してミサイルを打ち込んだ。


「弄ぶなーー!!」


 アサルトユニットからイオンビームと10発ほどのミサイルが放たれた。


 様々な角度からメタリックステラを小型ミサイルが襲った。


 戦意喪失したパイロットに変わり、メタリックステラのAIが機体を操作した。


 まず中和フィールドの盾を手前に出し、ビームを霧散させた。


 そして、その後、飛んでくるミサイルを打ち落とそうと試みた。


 だが、最初のビーム防御に時間を取られていた。


 なんとか飛んでくるミサイルのうち3発は打ち落とした。が1発がビームガンを持つ腕に命中してしまった。


 その爆発で姿勢を崩し、なす術もなく、残りが腹部、頭部、胸部と立て続けにヒットし、メタリックステラが爆発した。


 オル・アティードが集合体の中心を通過し、さらに敵陣へと前進していく。


 躱しつつ攻撃するその動きは前にも増して、鋭いものとなっていた。





 ルナの目の前には屋敷に仕える使用人が見えた。


 主人から罵倒される様子。何度も何度も。


 主人の笑みから読み取れる。アンドロイドではなく、人を奴隷のように扱うことに喜びを得ていることを。


 その苦痛から解放される時間。それが”OneYearWar”。


 誰かを操り、自分の思いのままに動かす時間。


 ルナは伝える。


 ”そんなことをせずとも私たちは繋がり、そして、お互いを支え合えるはず。これからは、これからは。。。”





 NPテイマーという男にはルナの言葉が伝わっていた。


 ”なんだ。この暖かい想いは。そうか。おれは。いや、おれたちは繋がれるのか。そうか。”


 NPテイマーという男は笑みを浮かべて、天を見上げていた。





 りょーたろがソルと通信をしていた。


「ルナちゃんの動きが良くなってきてる。ソル、もう一息だぜ!」


「ああ!りょーたろさん、次の場所を教えて。」


「今送るぜ。」


 りょーたろの言葉か先か、表示が先か、ソルの視野に映るマップに赤い表示が灯った。


「次はE地区ポートか。」


 そういうと再び白いアイマスクのソルが部屋に開いた穴から外に向かってジャンプした。





 ルナが距離2000kmの位置、進行方向の左30度、高度+30度、つまり11、01(ひとひと、まるひと)方向に巨大な敵機マークを見つけた。


 そして、そこでは味方機のマークが次々と消えていた。


 ルナが機体の角度を変え、アサルトユニット、ブースターユニットをコックピットボールに近づけ、急加速をした。


 虹色の軌跡が美しく輝いていた。


 数10秒後、その正体が姿を表した。


 銀色の超巨大なボール型要塞。


 約1000km先からでもその構造が分かるほど大きい。


 その要塞の周囲では爆発が頻繁に起きていた。


 そして、そのすぐ後に、ルナも驚くような光景を目の当たりにする。


 直径1kmを越えるイオンビームの射出。


 ルナの位置からでもその光の線が見て取れた。


 イオンビームの輝度から見るに5000kmほどの射程を持つと思われるそのイオンビーム射出はその光の軌跡に数多くの爆発を産み出していた。


「あの射程なら戦闘宙域の中間位置からでも旗艦を狙える。」


 ルナの目に驚きと喜びが浮かんでいた。


<次回予告>

巨大要塞からの高出力イオンビーム。

まだルナの機体に残るディレイ。

そのディレイによりイオンビーム回避不可能な状態に。

ソルは最後のハッキング元に急ぐ。

果たしてソルのハッキング元破壊は間に合うのか?

次回 第41話 ”これでお前は自由だ!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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― 新着の感想 ―
息を吞む宇宙戦闘と格闘戦のバトルアクション、とても楽しませて頂きました(*^^*)♪ 投げからの蹴りの技や宇宙戦闘の光景などの、どこかで見たような幾つものシーン。 子どものころや大きくなってから見た…
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