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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第4話:母ちゃん、見て、見て!!

<前回のあらすじ>

ルナは学校の授業で、製品価格下限に関する社会問題”CropsPricePradox”について

学んでいた。

教師アンドロイドは社会の貧富の差、二極化を示すため、コロニー内の富裕層、

貧困層の景観を見せていた。

その時、ルナだけが貧困層を通る赤い光に気づく。

ソルは、まさにその時、貧困層を高速移動していた。

白いシャツに描かれた黒い帯を赤く光らせながら。

そのソルが高速道路を通るイオンクラフト車と衝突しそうになっていたのだった。


 

 ソルが富裕層間を区切る高さ10mほどの高速道路の壁を飛び越えた。


 道路を通るイオンクラフト車の上を飛び越すソル。


 だが、そのイオンクラフト車のさらに上を1台だけ猛スピードで走ってくるイオンクラフト車があった。


 ソルとそのイオンクラフト車の距離がどんどん近づいていく。


「やべっ!!」


 イオンクラフト車と衝突しようになったその時、ソルが身体を捻った。


 何とかソルは衝突を回避した。


 身体を捻りながらも、ソルはそのイオンクラフト車の中を見た。


 その中にはソルの母親、レミ柊の姿があった。


 そして、その横にはソルに瓜二つの姿もあった。


 ソルは二人を睨むように見た後、レミ柊と目が合ったような気がした。


 ソルはそのままの勢いで高速道路を飛び越し、次の区画の富裕層道路に進行方向と後ろ向きに、足を開き着地した。


 すくっと上体を起こし、過ぎ去ったイオンクラフト車の方を見た。





 イオンクラフト車内では、運転用AIがレミ柊に言う。


「先ほどの物体、もしくは人は違法越境物、違法越境者と推測します。通報しますか。」


 レミ柊は何かを少し考えた後、言った。


「いいえ、それには及びません。このまま議院に向かいなさい。」


「かしこまりました。」


 レミ柊がソルに似た人物を見た。ソルに似た人物が口を開いた。


「母さん、僕の心配は必要ありません。」


「。。。」


 それは目、瞳孔の動き、網膜毛細血管、発汗、体温、指紋など表層部分から内蔵の動き、身体の動かし方、そして血中マイクロロボットによる遺伝情報まで、全てを模倣したアンドロイドであった。





 イオンクラフト車の方を睨むソルの視野の隅にアラームが表示される。


(依頼先訪問まであと3分)


「やっべ。遅れちまう。」


 そういうと再び超ハイスピードで走り始めた。


 そして、再び区域を隔てる壁を飛び越え、さらに飛び越え、富裕層区域から再び貧困層区域へと入った。


 貧困層区域に入り、再び壁を越え、ようやく次の現場であるD地区に着いた。


 着地する時、着地目標地点に何人かの子供の姿があり、ちょうど着地の地点に子供たちが蹴ったボールが飛んできていた。


「おいおいおいおいっ!!」


 ソルが身体を捻り、ボールを避けつつ、足ではなく、右手で着地した。


 そして、右手で地面を押し、さらに飛び上がりながら身体をグルグル回転させ、両足を揃え、きれいに着地を決めた。


 ソルは思わず両手を持ち上げて着地ポーズをした。


「おおおおーーー!!」


 G難度の着地に子供たちが拍手した。


 が、少し離れた位置にいた母親と思われる人は驚き顔で白いヘッドギアの男をいぶかしげに見ていた。


「あー、すみません。ちょっと屋根の修理から落ちたもので。。。」


 白いヘッドギアの男が上を指差しながらニヤけて誤魔化した。


 子供と母親が白いヘッドギアの男の指差した建物の上層階を見た。


 その瞬間、ソルは猛ダッシュで建物の影に隠れた。


 瞬間でいなくなった白いヘッドギアの男を子供と母親がキョロキョロ探していた。


 ソルはそれを建物の影から覗いていた。


「あっぶねー。しっかし、子供と女だけで外で遊ぶとか、この辺、治安良くないんだけどな。。。」


 地図を視野内に表示した。


 ソルがちょうど入った裏路地が依頼人の住んでいる通りだった。


「この辺だな。」


 ソルが周囲を見回し、人気ひとけと監視カメラがないのを確認して、白いヘッドギアを取り外した。


 そして、腰のデバイスを押した。


 デバイスの表示が(カラーリング999)から(カラーリング001)に変化した。


 表示の変化と同時に、繋ぎの色が深い赤から藍色に変化した。


 白いシャツやレギンスの帯は赤色の発光から再び黒色になった。


「ふう。」


 ソルが建物の影から出ると、依頼人がちょうど通りに出てきた。


「おー、ソル!来てたか!!こっちだよ。」


 ソルが歩いて、その依頼人のところに行く。


「さすが、仕事人!時間ピッタリだな。」


「いやー、交通規制で遠回りしたから大変だったよ。」


「あー、そうか、そうだよな。隔壁工事かなんかで。


 って、どうやってきたんだよ?あっちのエリア通過すんの、大変じゃ。。。」


「あー、えーっとだな。」


 ソルが依頼人をチラチラ見ながら返事に困っていた。


「まあいいんだよ。それより、壊れたの見せて。。。」


「あー、そうだそうだ。頼むよ。医療ポッドが全然起動できなくなってさ。」


「え?医療ポッドなの?温調器って言ってなかった?」


 ソルは依頼人とアパートの階段を上りながら話した。


 ソルは何とか話をうまくすり替えられたとホッとしていた。


「あー、すまん。家内が間違えて言ったみたいだな。」


「それだと部品ないかもだよ。」


「まあ、その時はしゃーないな。」


 ソルが部屋の中に案内された。


 少し暗い居間に男の奥さんがいた。


 男の奥さんは大きなお腹をしていた。


「ソル。こんにちは。」


「こんにちは。お腹の赤ちゃん、元気?」


「ええ!とっても!!最近、お腹をすごい蹴ってて、もう元気いっぱいだよ。


 わざわざありがとね。」


「えっ?赤ちゃんがお腹を蹴るの?」


「そうよ。だって、赤ちゃんはお腹の中で生きてるんだもん。」


「ま、まあ、そうだよね。そうか、そうだよね。」


 ソルは驚きを隠せずにいた。


「いやしかし、今時、自然妊娠で赤ちゃん産むなんて、すごい決断だよね。」


「あっ、今、蹴ってる。触ってみる?」


「え?」


 妊婦がソルの手を引っ張ってお腹に当てた。


 ソルの手に何かが当たった。


「うおぁ!!」


「ね?元気いっぱいでしょ?」


「う、うん。すごいね。」


 お腹の赤子の父親がソルを奥の部屋に案内する。


「ソル、こっちだ。」


「あっ、うん。」


 ソルは妊婦に挨拶して、男と一緒に奥の部屋に移動した。


 そこには大人が一人寝そべることができるサイズの高級なベッド型医療ポッドがあった。


 明らかに部屋の内装からして場違いな機器だった。


 男が手前の医療ポッドを指差して言った。


「これなんだけど。起動がさ。」


「うん。起動関係とすると、まずは安全回路、見させてもらうよ。」


 ソルはしゃがみこみ、そのポッドの下の制御BOXを開ける。


 ソルは自分の鞄から衝撃吸収材に包まれたお手製のデータアナライザを取り出した。


 小さい箱から何個かのプローブが繋がっている。


 ソルはそのプローブを医療ポッドのメイン制御ボードのコネクタ部分やチップ部分に設置した。


 そして、医療ポッドの電源をONにした。


 回路に流れるデータが可視化されて見えていた。


 途中のチップを越えたところで緑色だったデータが時おり赤色に変化しているのが見えた。


「お前か。。。」


 ソルが小声で言った。


 すぐに鞄の中を見たが、使われているものと同じチップもなければ、互換のありそうなチップもなかった。


「全部足の数が違うな。。」


「直りそうか?」


 プローブを外しながら、ソルが答えた。


「いや、ちょっと手元に部品がないな。」


 ソルが手前の部屋の奥さんの方をチラッと見た。


「でも、これ急ぎだよね。いつ使うことになるかも分かんない。。。よね?」


 依頼人の男が困った顔をして、指で頬を掻いていた。


「そうだな。。。すまんけど。」


「あっ、うん。ちょっと待ってね。」


 そう言うと、ソルは頭の中で通話を意識した。


 すると、BCDがアプリ一覧を視野に映し出した。


 ソルは目線と思考で(ジャンク屋 りょーたろさん)を選んでCallした。


「おー、どした?」


「りょーたろさん?部品なんだけど。」


「あー、ちょいまち」





 電子部品が処狭しと並べられている中古電子部品店の中で、ソルにりょーたろと呼ばれた、20台後半に見える男が目線で部品リストのウインドウを開いた。


 りょーたろは黄土色の繋ぎを着て、青みがかった髪は天然パーマで波打っている。


 ゴーグルを首に提げていて、頭にはカチューシャのような電子機器を着けていた。


 りょーたろがソルと会話していると、頭のカチューシャ(のような電子機器)の一部が虹色に光だした。





 ソルも頭にカチューシャのような機器を付けた。


 すると、すぐにソルの付けた機器の一部も虹色に光だした。


 光だすと同時にソルの脳に部品リストの情報が入ってきた。





 ジャンク屋にいるりょーたろにはソルの見た欠陥部品の映像と情報が流れていった。


 すると、りょーたろがすぐに反応した。


「これなら2048-9192コンバータと。。」





 その言葉を聞くか聞かずのうちにソルが言った。


「あっ、だね。QuantamFPGAのXiLinXクシィーリンクス60Aとマウントで良さそうだね。」


「ああ、これならうちにあるぜ。部品置いとくわ。」


「うん。あんがと。今日、夕方取りに行く。」


 それはまるで2人の情報がお互いの間で共有され、2人の脳が1つの個体のように働いた瞬間だった。


 ソルは通話を切って、カチューシャのような機器を取り外し、目線でスケジュール帳を開いた。


 目の前の宙に今日のスケジュールが表示された。


 午後6時半からの案件で今日の作業は終わっていた。


「今日夜7時くらいに全部の作業が終わるんだけど、そこから部品取りに行って、その後だから、夜の8時くらいに来てもいい?ちょっとそれまで不便かけるけど。」


 ソルは男を見た後、ちらっと手前の部屋の奥さんも見た。


「あー、ああ、夜8時ね。でも、そんな遅くにいいのかよ?危なくねーのか?ソル?」


「うん。そんなの全然大丈夫だよ。」


 男も奥さんの方を見て、再びソルを見て言った。


「ああ、悪いな。ごめんけど、頼むわ。」


 男がそう言った後、奥さんも付け加えた。


「いつもありがとね。この人、機械オンチもいいとこだから、ソルがいてくれてホント助かるよ。」


 男が痛いところを付かれたという顔をしながら、ソルをまじまじと見て言った。


「しっかしさ。前もだけど、何か部品探す時のりょーたろとのやりとり、おかしくねーか?


 なんかお互いが見てるもんが見えてるみたいな感じ?」


「ああ、りょーたろさんとは気が合うんだよ。」


 ソルが笑って答えた。


 それを聞いて、府には落ちてなかったが、男が言った。


「気が合ったらできるもんじゃなさそうだけどな。


 まあ、良く分からんけど、何にせよ、おれはそれに助けられてるしな。


 これは間違いない。ははは。」


 その感謝の言葉がソルにとって心の救いとなっていた。





 ソルがアパートから出ると、広い通りを挟んで向こう側の裏路地から、明らかに悪っぽいチンピラが4人、闊歩して広い通りに出ようとしていた。


 ソルが慌てて、裏通りアパートの壁裏に隠れた。


 が、広い通りでは、先ほどの子供たちがまだボールで遊んでいた。しかし、その周囲に母親はいない。


 そして、アパートの扉という扉が閉められていて、誰かが助けに出てくる様子もなかった。


 ソルが、チンピラには見えない位置で、子供に向けて手を振りながら小さい声で言った。


「おい、隠れろ!隠れろ!!」


 チンピラたちが話している。


「テロメをあんだけ集めても、まだ今月の納品分足りないんスか?」


「ああ、はやいところ、なんかで掴まねーとヤバイことになる。」


 ソルは次の予定を表示させた。


(あと15分)


「あれ、ヤバいだろ。。。まだ少し時間はあるな。」


 ソルが裏路地のアパートの物陰に入った。


 ツナギの腰の白い箱を指で押した。


 するとその部位に”カラーリング999”と表示された。





 チンピラたちが大通りの子供の声を聞きつけた。


「おっ!ちょうどいいところにカモがいますぜ!アニキ!!」


 そう言うと、声をかけた男が小走りで大通りの方に向かって移動していった。


 その時、4人の中で最後尾の男の後ろに、白いヘッドギアをして、全身赤いツナギを着た男が音もなく、降り立った。


 そして、おもむろに最後尾の男を掴み、瞬間で後ろの壁に向かって放り投げた。


 その放り投げる反動を使い、白いヘッドギアの男は前方の男まで瞬間的に距離を詰めた。


 まだ男たちは最後尾の男が飛んでいったことには気がついてなかった。


 次の男は上に放り投げられた。


 それも瞬間的で、その放り投げられた男は声を上げることもできず、何が起こっているのかも認識できていなかった。


 ヘッドギアの男はさらに前方の一人に対して廻し蹴りをした。


 廻し蹴りをされた男が吹き飛んだ。その時、初めて大きな音がした。


 次に、ヘッドギアの男がさらに前進し、大通りに向かって移動したもう一人の男に接近した。


 男は大きな音に気がつき、振り向きつつあった。


 男は振り向きながら視線を後方に向けていた。


 視界にヘッドギアの男が映った。


 その瞬間、天地がひっくり返った。


 ヘッドギアの男は振り向く男の後ろ襟を掴んだかと思うと、これも瞬間で背負い投げのように投げて地面に叩きつけた。


 背負い投げをされた男が地面に叩きつけられる音。


 次に、最初に壁に放り投げられた男が壁に激突する音。


 さらにその次に、廻し蹴りで蹴り飛ばされた男が壁に激突する音。


 最後に、地面に叩きつけられた男の上に空から落ちてきた男が衝突する音。


 完全に男たちは何が起こったのか、気がつく間もなく、失神させられた。


 全ては、ものの数秒の出来事であった。


 大通りでボール遊びをしていた子供が大きな物音に気づき、裏通りが見えるところに来た。


 子供が白いヘッドギアの男と倒れている4人の男を見て指差しながら大声をあげた。


「母ちゃん、見て、見て!!またホワイトマスクマンだよ!!」


 その声を聞き付けて、子供の母親が飛び出してきた。


 アパートに隠れていた大人たちが窓を少し開け、様子をうかがい始めた。


 ソルはその動きを感じとり、一気にアパートの屋上に飛び上がった。


 住民の何人かそろりそろりと出てきて、チンピラたちが気絶しているのを確認した後、再びアパートに戻っていった。


 ソルはアパートの下を様子見しながらしみじみ言った。


「なんか最近、またああいうやつら、増えてきたな。近々潰さないとか。。。」


 そう言うと、次の依頼先の場所を視野に映した。


 そして、白いヘッドギアの男が一気にアパートの上から飛び去った。





 学校の終業の鐘の音が鳴り響いた。


 数学の授業が終わり、ルナが両手を持ち上げて伸びをしていた。


 そこにクラスメイト3人が来た。友人の一人がルナの席の真正面に来るや、すぐさま話し始めた。


「ルナ、昨日の見た?レッドデビルさまぁ、すごかったよねぇ〜!!」


<次回予告>

電子機器の修理の傍ら、貧困層住民の安全を守るソル。

子供たちにはホワイトマスクマンと呼ばれ、親しまれていた。

一方、授業が終わったルナ。

そこに仲良し3人組がルナの前に集まった。

”OneYearWar”のRedDevilに対して熱烈なコメントをする友人たち。

ムズムズするルナ。

そこで、思わずルナが取った行動とは?

次回、第5話 ”想いが繋がってるって感じなんだよね。”

さーて、来週もサービス、サービスぅ!!


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― 新着の感想 ―
 母親が、しょっぱなからトンデモナイ事していますね……。  あと、前回からちょっと気になりましたが、円筒状のスペースコロニーで円周方向に高速移動したら、体感重力変わりませんかね。自転と逆に行ったら浮く…
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