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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
39/85

第38話 : それで間違いなさそうだな。

<前話のあらすじ>

”OneYearWar”の予選決勝まで駒を進めたルナ。

そして、予選決勝の火蓋が切って落とされた。

数10万VS数10万の戦い。開始直後からイオンビームが飛び交う。

ソルとりょーたろは、観客として戦闘に参加していた。

ソルはそこでルナの困惑した声を聞いたのだった。


 

「哨戒機にて敵機、捕捉。遠距離射撃砲、撃ち方用意。

 Warning入った者、後方からのビーム射線より回避せよ。」


 さらに通信が入る。


「最前線各機、イオン中和フィールド最大化せよ。」


 被りながら別の通信が入る。


「Warning回避急げ。射撃まで5、4、3、2、1、撃て!!」


 その声に合わせて、ソルの機体下方からイオンビームが前方に向かって飛び出した。かと思うと、突然前方から黄色い光が斜め上を走った。


 かなり前方の斜め上ではそのビームの直撃を受けたのか、爆発の青白い光が円形に広がるのが見えた。さらにずっと前方でも青白い光が見えた。


「始まった。。。」


 ソルが声を出した。


 すると立て続けに黄色い光が前方から飛んできた。


 そして、ソルの後方からも同じような黄色い光が前方に対して放たれていた。


 次々と前方の至るところで爆発が起きていた。


 その時だった。


 ソルの耳にルナの声が聞こえた。


「えっ?あれ?動かない?なんで、反応が鈍い?

 えっ?これ、おかしくない?」


 それは明らかに焦っている声だった。


 ソルが気になって、コックピットブースから出てきた。


 すると横のブースからもりょーたろが出てきた。


 ふたりの頭にはカチューシャのようなデバイスが着けられていて、わずかに虹色に光っていた。


「おい!聞いたか?なんかルナちゃん、困ってないか?」


「ああ。聞こえた。なんか反応が鈍いって。」


「おー、そう。それそれ。おれもそれ、聞いた。」


 二人でルナのブースの上を見た。


 すると、ルナの赤い機体は避けこそしているものの、かなりスレスレでイオンビームを回避していた。


 ソルには小さいながらもずっとルナの声が聞こえていた。


 ソルはなぜだか、あることが出来る気がして目を閉じた。


 ソルは全神経をルナの声に集中させた。


 すると、目を瞑っているはずのソルの視界が開け、レバーを動かしている手が見える。


 レバーの動作から瞬間遅れて機体が動いている。ソルがそれを感じた。


 それは本来ソルが感じ取れるほどのディレイではなかったが、ルナを通して、ルナが感じているままを、ソルが感じ取っていた。


 ソルがはっと目を開けた。そして、りょーたろに告げた。


「なんかおかしい!操作が邪魔されてるのかも。」


「でも、邪魔っていったって。」


 その時、ソルとりょーたろは司会進行役の男性が行っている実況中継を聞いた。


「おっと、これは緊張からでしょうか。RedDevilにハプニング!!

 イオンビームがブースターユニットの1つをわずかに掠めた模様だ!!

 どうなっているのか!?」


 その時、ソルはVIP席から焦りにも恨みにも似た強い思念を感じた。


(お前!やられるなよ!!おれはお前に相当賭けてんだからな!!

 うちの財閥の命運がお前にかかってんだよ!!)


 ソルがそのVIP席を見た。


 そのガラス張りのVIP席ではスラッとした20台後半くらいに見える男が、今にもガラスを蹴破りそうな表情でルナを凝視していた。


 ソルが言った。


「賭け?これ、賭博の対象になってんのか?」


 りょーたろがソルのそれを聞いて、返事した。


「あー、なんか聞いたことあるぜ。大会の度に財閥が1つなくなるって。

 まあ、そんな財閥はほっといたってどうせなくなる運命みたいだけどな。」


「もしかして、それで!?」


 ソルが慌てて、鞄の中から小さい箱を取り出した。


 そして、自分のBCDに繋いだ。


 BCDがソルの思考を読み取り、1つのアプリを立ち上げた。


 ウインドウが二人の前に開かれる。


 もちろんそれはソルとりょーたろにしか見えていなかった。


 ソルが両手を前に出すとキーボードが宙に浮かび上がった。


 ソルが1文字打つと思考読み取りとその1文字から書かれるだろうコマンドが表示される。


 パラメータも今までの記述とプログラム内容から適切な名前が付けられ、表示される。


 ものの1、2分でこの会場システムに入り込んだ。そして、その会場にアクセスしているユーザーを特定した。


 だが、当然のことながら、世界中から無数のアクセスが入っている。


 その数、約28億。


 そこから単純閲覧のものを除外、操作命令が施されているものを表示した。


 残り、約1万。


 ずらっと並んだアクセス元を見て、りょーたろが驚いた。


「これってつまりこんなに攻撃受けてるってことだろ?

 良く弾いてんな、このシステム。。。」


 りょーたろの声にソルが閃いて、笑顔になった。


「さっすが!りょーたろさん。それだ!!」


 ソルがまたカタカタとコマンドを打った。


 ソルがコマンドを打っている間に、その思考がりょーたろにも流れ込んでいた。


「なるほどな。」


 ソルが宙で手を振る。リターンキーが押されるとアクセス元が3件になった。


 結果を見て、りょーたろが言った。


「おっ?システムが弾いたのを除外して、残り3件か。しかも、こいつらのアドレス、このコロニー内だぜ!!」


「だね。さっきりょーたろさんが言った通り、このシステムに弾かれてるのがほとんどだったね。」


「はは。おれはそんな意図で言った訳じゃねーんだけどな。

 お前ほど普通は閃かねーよ。」


「まあでも、りょーたろさんのおかげだよ。

 って、それよりも、攻撃元の特定、急がないとだね。」


「そーだな!」


 二人の意識の集中と共に、二人の頭に着けているデバイスが前よりはっきりと虹色に光りだした。


 りょーたろがソルの代わりにコマンドを打ちはじめた。


 りょーたろはソルほどプログラムに精通してなかったが、頭の脳神経連結デバイスを通して、ソルと意識が繋がり、二人の知識、経験が一つになっていた。


 りょーたろはソルがなにをやろうとしているのかも把握していた。


「場所が特定できたぜ!アドレス送る!!」


 ソルが腰のボタンを押した。


「うん!行ってくる!!」


 ソルがルナの方を見て言った。


「待ってろよ!!」


 ソルが人の目では追えないほどの速度で大会会場から消え去った。





 ルナの機体、オル・アティードのブースターの表面一部が焦げていた。


 ただ、性能を落とすほどの被害ではなかった。


 その後もギリギリでビームを避けながら前進していた。


 ついに前進しながら敵前線の機体と交戦可能なエリアに突入した。


 すでにルナの機体は虹色に光を帯びていた。


 だが、機体は時おり、ガクガクと動いたり、虹色の光の帯も時おり薄くなったりしていた。


 ルナはわざといつもより大きく動き、敵の攻撃を交わしながら反撃のビームやミサイルを撃っていた。


 その状態でも並みのAIプレイヤー、前線のレベルの低いAIであれば相手ではなかった。


 この交戦状況から”RedDevil”の位置を把握した一体の機体がオル・アティードの前方に急接近してきた。


 その機体は戦闘機型のように見えたが、オル・アティードとの交戦可能範囲1000kmに達した時、変形し、メタリックステラ型となった。


 そして、戦闘機時にウイングだった部分が切り離され、ウイングが”く”の字型で8つに分裂した。分裂したユニットがメタリックステラの周囲を周回し、メタリックステラの周囲にはイオン中和フィールドが張られた。


 このバリアユニットを持つ機体はケンドー・キーノウのファントム・ノヴァだった。


 ケンドーがAIに思考で指示を出した。


 すると、メタリックステラがオル・アティードと思われる敵認識マークにビームガンを構えた。


 ルナの虹色の波動影響範囲に入り込んでいたため、ケンドーのユニットも若干震えだしていた。


 次の瞬間、バリアユニットがビームガンの正面に来て、一瞬静止した。


 バリアユニットの中央にはちょうど丸い穴が空いており、そこからビームが外に向けて放たれたのだった。


 ビームガンとバリアユニットは細かく震えていたが、それでもその穴をビームが通るには十分に余裕があった。





 ルナは1000kmほど先の一体の機体が自分を狙っていることを感じた。


 急速に機体シフトをさせようとする。


 だが、若干のディレイのため、シフトするのが遅れた。


 機体がズルっとシフトした時、正面から飛んできた黄色い光が機体をかすめた。


 エネルギーをもったビームが唸りを上げてルナの機体の横を通過した。


 そんな唸り音を聞いたのは敵陣内最後の旗艦にまで達した時だけだった。


 ルナは若干の焦りを感じた。


 ルナは集中力を高め、もしものために中和フィールドを前面に最大展開した。


 立て続けに攻撃を予感して、さらにシフト移動を行った。


 今度は避けながらも攻撃場所に対して、ビームで反撃を試みた。


 だが、機体が思ったように動かないため、うまく照準を合わせることができなかった。


 それでもルナの放った一発が相手の機体を捉えた。


 しかし、そのビームはバリアユニットが張っている中和フィールドによって霧散した。


 逆にその霧の中から再びビームがルナに向かって飛んできた。ルナが避けきれず、そのビームはルナの機体左側に直進してきた。


 だが、中和フィールドで霧散した。そんなことは久しぶりの出来事で、ルナの焦りはより高まっていった。


(あまりこんなところで中和フィールドを無駄に使いたくないのに。。。)


 敵機のバリアユニットからも時おりミサイルが飛んできた。


 通常であれば、避けながらでもアサルトユニットのガトリングレールガンを使って、余裕でミサイルを撃退するのだが、それすらもルナはギリギリであった。


 ミサイルの破片が飛んでくるほどの距離での撃退となり、わずかにアサルトユニットに傷が入った。


 距離が800kmを切った時、打ったビームが全て霧散するのを見て、ビームでは反撃できないことをルナが悟った。


 ルナが目を赤く染めながら、ビームの回避に神経を尖らせた。


 過ぎ去るビームの唸りがさらに大きくなった。


 次のビームはもう回避を諦め、別の行動を取った。


 ルナは咄嗟に中和フィールドミサイルを前方に打ち出した。すぐにミサイルが炸裂して緑色掛かった空間が作られた。


 そこに飛んできたビームがバチバチと音を立てて霧散した。


 だが、ルナは霧の中に向けてミサイルを数発撃ち込んだ。


 ミサイルを発射したと同時に再びビームが飛んでくる。


 ルナは機体を錐揉(きりも)み回転させながら、ビームを何とかギリギリで回避した。


 発射したミサイルの一発がそのビームによって打ち落とされた。





 ケンドー・キーノウは、訳の分からぬ振動を抑えるようにAIに指示を出していた。


 だが、この振動は虹の波動の影響からであり、AIは振動解析をするも内部の問題ではないと回答していた。


 ケンドー・キーノウ側に打ち込まれるビームはことごとくバリアユニットのフィールドのお陰で霧散していた。


 さらに追加でミサイルが飛んできた。


 ケンドー・キーノウは振動にいらつきつつも、それらミサイルも全て認識していた。


 ケンドー・キーノウがバリアユニットに指示を出した。


 バリアユニットは中和フィールドのミスト噴射を止めて、ミサイルに対して、ごく細いビームを多方向に発射した。


 ほぼ全てのミサイルにイオンビームがヒットし爆発。ミサイルの残りが1つになった。


 ケンドー・キーノウは飛んできたミサイルをビームガンで狙い撃ちした。


 メタリックステラの腕が震えていたが、ビームはギリギリなんとかミサイルを掠め、最後の1つも爆発した。


 そして、再びバリアユニットは中和フィールドのミストを噴射し始めた。





 ルナの愛機オル・アティードとケンドー・キーノウのメタリックステラとの距離が500kmを切った。


 ルナは全力で攻撃回避に神経を尖らせていた。


 ルナの目がより濃い赤色に染まっていた。


 それでももうビームの回避が限界に達していた。


 うまく回避できたイオンビームは今まで聞いたことがないほど大きな唸りを上げて、機体の横を通過していた。


 反撃の時にはビーム被弾の覚悟で反撃を試みていた。だが、中和フィールドを張りながらの反撃であるため、レールガンやミサイルでの反撃となっていた。


 しかし、距離がまだ回避不可レンジではないため、ルナの放った攻撃は容易に回避、撃墜されていた。


 ルナは、思った以上に、中和フィールドのエネルギーを消費させられていた。加えて、ルナからの攻撃は全て無効化されていた。


(この状態が続けば、ここで撃破されてしまう。)


 激しく肩で息をしはじめたルナはそう思っていた。





 白いアイマスクを付けたソルがA地区パワーサイド(発電エリア)に建っているビルの上に立ち、下を見下ろしていた。


 りょーたろがソルの位置を確認し、信号がそのビルとビルの谷間から出ていることをソルに伝えた。


「そのビルとビルの間から信号が出てるな。」


「あー、ミニバン型のイオンクラフト車が一台停まってる。しかもなにやら護衛っぽいアンドロイドまで立ってる。」


「それで間違いなさそうだな。」


「そだね。分かった。次の場所、調べといて。」


「りょーかい!」


 ソルがビルの上からそのイオンクラフト車に向かって飛び降りた。


<次回予告>

ルナに襲いかかる操作系ディレイ。

どんどん近づいてくるイオンビーム。

ソルはハッキング元に急いで移動する。

だが、容赦ない攻撃がルナを捉えようとしていた。

次回 39話 ”やばっ!次、やられる!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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