第37話 : えっ?これ、おかしくない?
<前話のあらすじ>
ルナは順調に”OneYearWar”コロニー3地区予選決勝まで駒を進めた。
ソルは順調に開拓移民たちにタキオンコミュデバイスを販売し続けていた。
そして、ついに”OneYearWar”コロニー3地区予選決勝、開催の日となった。
”OneYearWar”予選決勝当日。
A地区の中央区では野外ステージが用意され、ステージの上には10台のコックピットブースが用意されていた。
ステージの下にも観客用のコックピットブースが数多く、ところ狭しと並べられていた。
会場全体の数m上空にはこれまでの戦闘のホログラム映像が流されていた。
開始1時間前だというのに、会場はすでに人で埋め尽くされ、熱気に満ちていた。
ソルとりょーたろが観客席に入った。
観客は富裕層の人ばかりだった。
他のコロニーからもRedDevilを一目見ようと様々な人が集まっていた。
つなぎを着ているソルとりょーたろは何か場違いのような雰囲気だった。
周囲を見回しながらソルが驚きの声を上げた。
「なんかスゲーな。なんだよ。このコックピットブースは!?
これって観客も混じってできるってことか?
この前の会場からしたら、同じゲームの会場とは思えねーな。」
りょーたろもキョロキョロしながら答えた。
「まあ、確かにあっちとこっちじゃ、課金勢が払ってる額の桁が数個は違うだろうしな。
B-DAI-N.Coからしたらここはきっと世界でも有数のドル箱地区だ。
その結果だな。」
ソルが苦笑いしながら言った。
「そういうことか。でもあまりにも差付けすぎでしょ。」
その時、すれ違う男女がソルとりょーたろの方を汚いものでも見るかのような目で見て過ぎ去っていった。
りょーたろが若干ひきつった顔をして言った。
「っていうか、明らかにおれたち浮いてるよな。ははは。」
それでもソルは落ち着いて言った。
「いいんじゃない?おれたちは誇りを持って、仕事しているし、このカッコはその象徴なんだから。」
りょーたろの顔が落ち着きを取り戻した。
「そりゃ、そうだな。何か雰囲気に圧倒されちまって卑下になっちまってたよ。」
二人が周囲を見渡していた。
ドームのような会場の上にはVIP用のブースが用意されていた。
そのガラス張りのブースにルナの父親の姿を見つけた。
同時にルナの父親もソルとりょーたろを見つけた。そして、お互い会釈をした。
「ルナのおやじさん、見に来てるな。」
「みたいだな。」
りょーたろもVIPブースに目をやっていた。
その時、突然ステージの上に宇宙遊泳用のノーマルスーツを身に付けた男性と女性が現れた。そして、男性が叫んだ。
「Ladys and gentlemen!
今日はとうとう”OneYearWar”世界大会、コロニー3の予選決勝が開催されます!!」
男性の声に続けて女性が話し出した。
「今、世界で最も注目されていると言っても過言ではない”OneYearWar”世界大会!
特にこのコロニー3は、世界一と謳われる”RedDevil”が参戦している地区。
全世界のユーザー10億人が注目している地区でもあります!」
ステージ上で女性司会者を見ていた男性司会者が続ける。
「そして、今回、観客席に来ていただいた方々も参加いただくことが可能です。
それぞれのコックピットブースを用意しております。
参加していただくも良し、観覧していただくも良し。
ご自由に楽しんでいただければと思います。」
「はい。それではそろそろ予選決勝まで勝ち上がった10名の方々をご紹介したいと思います。」
「はい。よろしくお願いします。」
「はい。まずはナンバー1番。
”空を歩く者”さん。
機体は戦艦型。
機体名は”マラナ・ストリ”(サンスクリット語のデススター)!」
白い柔道着にも似た格好の男性がステージに登場した。
会場からは拍手が送られていた。
「”空を歩く者”さんは戦艦型ではあるもののその実、超巨大なボール型要塞です。
そして、超大出力レーザーが持ち味。
世界ランキングも100位以内のトッププレイヤーです。」
「そして、ナンバー2番。
”ケンドー・キーノウ”さん。
機体はメタリックステラ型。
機体名は”ファントム・ノヴァ”!」
ノーマルスーツを身に纏った男性がステージに登場した。
会場から再び拍手が送られていた。
「”ケンドー”さんもランキング100位以内。
V型の角付きメタリックステラに、イオン中和フィールド展開可能、且つミサイル撃墜用イオンビーム照射機能付き浮遊シールドを開発。
徹底的な防御力で名を上げていきました。」
「続いて、ナンバー3番。
”アイザック・リゲル”さん。
機体は戦闘機型。
機体名は”ストレガ・カッチァ”(イタリア語の魔女狩り)!」
普通のTシャツに半ズボンで少年がステージに登場した。
だが、先程のような拍手はあまり起こらなかった。明らかに階層差別が見て取れた。
「”アイザック”君はまだ中学生になったばかりで、最近始めたばかりのプレイヤー。
みるみるランキングを上げており、今や1000位内に入ってきています。
しかも、ヒューマンプレイヤー!将来が楽しみな少年です。」
「ナンバー4番。
”NPテイマー”さん。
機体はメタリックステラ型。
機体名は”ジャック・O・マインド”!」
細い体つきに黒いブレザーと黒いズボンを着た男がステージに登場した。
拍手が起こるが、一部ブーイングしているものもいた。
「”NPテイマー”さんはご自身の名前の通り、味方NPを混線操作してしまうという荒業で環境影響ポイントを稼ぐ新しい戦い方を行う方です。
こういった戦い方は一部のプレイヤーに嫌われているのも事実ですが、こういった方法が行えるのも、この”OneYearWar”の自由度の成せる技だとも言えます。」
「そして、ナンバー5番。
お待たせしました!”LittleForest”さん。
機体は戦闘機型。
機体名は”オル・アティード”!!(へブライ語で光の未来)」
コロニーが都市に落ちている絵のTシャツ、ダボダボなズボンを着たルナがステージに登場した。
会場中、割れんばかりの拍手が沸き起こった。
「もう説明は不要ですね。
世界のプレイヤーの頂点にして、最強ヒューマンプレイヤー!!
AIをも打ち負かす新人類!!”RedDevil”ーーー!!」
しばらくの間、拍手が続いていた。
ルナが照れ臭そうにステージに立っている様子を見て、ソルもりょーたろも何故だか誇らしい気持ちになった。
そして、その後、次々に残り5人が紹介された。
紹介の後すぐに女性が次へと進行させた。
「それでは、早速機体のセッティング時間に入りましょう!!
その前に宙域の発表です!今回選ばれた宙域は。。。」
様々な宙域の映像がパイロットブース上に代わる代わる映し出されていた。そして、1つが選ばれた。
「月-コロニー間エリアです!!」
エリアの説明を男性が行った。
「ラグランジュポイントに置かれたコロニーと月の間はそれほど地球の重力影響を受けず、いたってシンプルな開かれた宙域です。
きっと観覧される方々も操作しやすく、参加しやすいかと思われます。」
そして、女性が進行を続けた。
「セッティング時間は5分です。
その後、すぐに開戦。
決勝の時間は60分となります。」
その合図を聞き、ソルがコックピットブースに入ろうとした。
それを見て、りょーたろがソルに問いかけた。
「えっ?お前、やるのかよ?っていうか、やったことあんの?」
「いや。ないけど。ちょっとどんなもんなのかな?って。」
それを見て、りょーたろもコックピットブースに入った。
「しゃーねーな。じゃあ、おれもやるかな。おれは自分のID持ってるしな。」
りょーたろがコックピットブースに座り、早速IDを入力した。
どこかで見たことのあるようなX型の翼を持った戦闘機が画面に表示された。
横のコックピットブースでは、やり方が分からなさそうなソルが登録をしていた。
りょーたろがコックピットブースから出てきて、ソルの登録を手伝い、何とか標準型の戦闘機を電磁カタパルトにセットできた。
「セッティング時間はあと1分です。」
ソルがコックピットブースから顔を出し、ルナの方を見た。
ルナのコックピットブースの上には、カタパルトに設置されているルナの赤い機体が見えた。
ソルが小さい声で言った。
「がんばれよ!」
ルナがコックピットブースで腕を上げて伸びをしていた。
その時、ふとソルの声が聞こえた。
「がんばれよ!」
ルナがはっと周囲を見回したが、当然ながら誰もいなかった。
観客席を見たが、たくさんの観客がいたため、ソルを見つけることはできなかった。
ルナが少し笑みを浮かべ、その声に答えた。
「うん。がんばるよ!」
ソルがコックピットブースに顔を納めた時、ふとルナの声が聞こえた。
ソルはルナの声が聞こえたことになぜだか安心感を得た。
時間が過ぎ、ほぼセッティング時間がなくなった。
「セッティング時間、あと10秒です。8、7、6、5、4、3、2、1、Mark!!」
多くの機体がカタパルトの緑ランプを急速に通過し、宇宙に放り投げられた。
IDのなかったソルの機体は開戦合図の20秒ほど後に発進した。
ソルの機体が緑色のランプを加速しながら通過していく。
その時、ソルは身体がコックピットのシートに押し付けられる感覚に襲われた。
これはBCDが、身体が加速度を感じた時のように脳に信号を送っているためだった。
ソルの機体が母艦から飛び出した時、すでに周囲にはおびただしい数の戦闘機、メタリックステラなどが飛んでいた。
以前、ソルが観客席でルナの操っている戦闘機を見ていた時は、戦闘機の少し後方や他のカメラを通して、ルナの操る機体を見ていたため、このコックピットからの1人称視点がソルにとってはとても新鮮に感じられた。
「各機に告ぐ。本ミッションは地球座標系とする。座標、合わせ!」
ソルの目の前、空中に座標合わせボタンが表示された。
ソルがそのボタンを押した。
視野右下に小さくマップが表示された。
ルナに倣って、ヒューマンプレイヤーとして登録したため、2つのレバーを操作して少し機体を動かしてみた。
操縦桿に合わせて機敏に動くその機動性にソルは胸踊った。
全機、正面に陣取っている敵陣に向かって加速していた。
ソルもそれに倣って加速させる。
再びソルはシートに身体が押し付けられる感覚を覚えた。
まるで本当に宇宙を飛び回っているような没入感にソルはますます心を踊らせた。
各機が徐々に間隔を広げ、進行していく。
旗艦AIから全体にいろいろな指示が出される。
「高度方向にまだ展開が薄い。高度28万から32万kmまで広がれ!」
「速度落とすなよ。地球に引きずり込まれるぞ!」
「宙域、視野オールクリアのため、各機、あらかじめイオン中和フィールド展開せよ。」
その指示を受け、ソルの視野左上に(IonNeutralizeField)と書かれたボタンが表示された。
ソルは少し戸惑いながらそのボタンを押す。
若干視野が薄緑色がかった。
ソルがマップを見ると、緑色で描かれた味方の点の中で数個がすでにかなり前を走っていた。
今まで見た感じからそれが哨戒機だと考えた。
だが、高高度側に各哨戒機の間隔でないところに点が1つだけ見えた。
ソルはその1点が何を意味しているかすぐに把握し、そこに合わせてレバーを切り、最大限の加速を始めた。
味方機の隙間を走りながら飛翔する。
それだけでもかなりの爽快感を感じた。
しばらくするとマップに赤い点が表示されはじめた。そして通信が入る。
「哨戒機にて敵機、捕捉。遠距離射撃砲、撃ち方用意。Warning入った者、射線より回避せよ。」
さらに通信が入る。
「最前線各機、イオン中和フィールド最大化せよ。」
被りながら別の通信が入る。
「Warning回避急げ。射撃まで5、4、3、2、1、撃て!!」
その声に合わせて、ソルの機体下方からイオンビームが前方に向かって飛び出した。
かと思うと、突然前方から黄色い光が斜め上に飛んできた。
かなり前方の斜め上ではそのビームの直撃を受けたのか、青白い光が円形に広がるのが見えた。
さらにずっと前方でも青白い光が見えた。
「始まった。。。」
ソルが声を出した。
すると立て続けに黄色い光が前方から飛んできた。
そして、後方からも同じように光が前方に対して放たれていた。
次々と前方の至るところで爆発が起きていた。
その時だった。
ソルの耳にルナの声が聞こえた。
「えっ?あれ?動かない?なんで、反応が鈍い?えっ?これ、おかしくない?」
それは明らかにルナの焦っている声だった。
<次回予告>
コックピットで不調を訴えるルナ。
思うように愛機オル・アティードが動かない。
それを察知したソルとりょーたろ。
二人は動き出す、ルナのために!!
次回 38話 ”それで間違いなさそうだな。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




