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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第36話 : マジで絶好調じゃん!!

<前話のあらすじ>

”OneYearWar”の世界大会予選1回戦、ルナは見事勝ち上がった。

だが、勝利の後、E地区中央区に来ていた観客から襲われることに。

その時、ルナは観客から憎悪の声を聞いた。

「おれたちの希望を潰しに来たのか?」と。

慌ててルナを連れて逃げるソル。

ソルはルナとシュレディンガーを連れて富裕層に降り立った。

そして、ルナは自宅へと帰り着くことができたのだった。


 

 ルナがバロック様式の大きな扉から屋敷(自宅)に入ってきた。


「ただいま。」


「ルナお嬢様、おかえりなさいませ。」


 メイドアンドロイドがルナを出迎えた。


 母親は奥の部屋の入り口に立ち、ルナの様子を見ていた。


 だが、ルナが自宅に戻ったのを見た後、すぐに奥の部屋に入っていった。


「あっ、ママ。ちょっと話だけでもさせて。ママ!ママ!!」


 奥の部屋の前まで走っていき、ドアを叩く。


 だが、母親が部屋から出てくることはなかった。


「ルナお嬢様。お部屋にお戻りください。」


「ママ。ママなんでしょ?エントリーしてくれたの。。。少しだけでも話をさせてよ。」


 ルナには部屋の中から母親のすすり泣く声が聞こえた。


 そして、母親が出てくることはなかった。





 ルナは自分の部屋に戻った。


 まだ母親と話せないのが、辛かった。


 ふとBCDにメッセージの着信履歴が99+と表示されていることに気がついた。


 ルナは”OneYearWar”をする時に、着信表示が出ないようにするのが慣習なのだが、大会が終わった直後のゴタゴタもあり、その設定を戻さずにいたため、全く気がついてなかった。


 辛い気持ちを抑えて、メッセージを確認した。


「ルナ〜!まさかあんたが!!

 なんか時々RedDevil様の気持ちの代弁者みたいな時あったし。

 そういうことだったのか!!ゆるさないぞ〜!!

  なーんてね。ウソウソ。

 絶対優勝してよね!期待しているからね。

 頑張れ〜〜!!」


「おい!お前だったのかよ。

 っていうか、おれらをディスってたくせに!(笑)

 でも、今日の見て、メチャクチャ鳥肌立ったわ!

 絶対勝ち上がれよ!

 応援しているぜ!!」


 メッセージは全て仲良し女子3人組やクラスメート、そして今までの知り合いからのものだった。

 みんなが応援してくれている。それだけでルナの心が少し晴れた。


 仲良しの友達やクラスメートに返事を入れた。


「うん。ありがと。隠しててゴメンね。私、頑張るよ。」





 それからも母親と話せない日々が続いた。


 その辛さを抱えつつも、ルナの快進撃は止まることはなかった。


 1日おきに開催される大会の予選。


 ルナは富裕層地区であるA地区で大会に参加。


 開催場所は都度熱狂に包まれた。


 ルナは、コロニー3の参加者10万人から1万人への2次予選、1万人から1000人への3次予選。そして、1000人から100人への4次予選。100人から10人への5次予選も難なく突破した。





 ソルはそのニュースを見つつ、アパートの一室でひたすらタキオンコミュデバイスを作り続けていた。


 エンケラドスの開拓移民たちの中で瞬く間にソルは有名人になった。


 ソルの作るタキオンコミュは各コロニーや月、地球に残された開拓移民の家族へと渡され、仲介役であるブライト・ハサウェイが作るタキオンコミュがエンケラドスやタイタン、イオなどの衛星開拓移民者に渡された。


 自分の作ったデバイスでみんなが笑顔になる。


 その瞬間がソルは堪らなく嬉かった。


 それまでの自分の中の目標と現実との解離で鬱蒼としていた心が晴れていく。そんな感覚を覚えていた。





 ソルがりょーたろの店に部品を取りにきていた。


「おー、ソル!!部品入ってるぜ!!大量に。裏の倉庫だ。持ってけよ。」


「あんがと!!」


「っていうか、さすがにちょっと部品の手配が難しくなってきた。あんだけ大量だと、この周囲のコロニーの分もほとんどかき集めちまって。。。」


「あっ、そうなんだ。。。そっか。。。そりゃ、そうだよね。。。」


 ソルが笑みを浮かべながらも困り顔になっていた。


 りょーたろがそのソルの顔を見て、決心したような顔になった。


 りょーたろは配達業の仲間を何人か思い浮かべながら話を続けた。


「いや。まあまあ、何とかなる。うん、何とかしてみるさ。部品は世界に山ほどあるんだしな。」


 話題を変えるようにりょーたろが明るい声で言った。


「っていうか、ソル。タキオンコミュ、マジで絶好調じゃん!!」


「うん。すごく喜んでもらえてるみたいで。」


「だな!あー、っていうか、絶好調って言えば、こっちもだな!!」


 りょーたろがソルの目の前に記事を表示した。


 記事には深紅の機体と操縦桿を握るルナの姿が映し出されていた。


「あー、ルナね。うん。おれも見てるよ。すごい騒ぎだよね。」





 ニュースではRedDevilの快進撃が毎回のように取り上げられていた。


 二人は勝つ度に各々がルナに連絡を入れていた。


 そして、ついにルナが100人から10人に絞り込む5次予選を通過し、予選決勝にまで勝ち上がった。


 その記事が出たのはちょうどソルがタキオンコミュの出荷のため、りょーたろに車を持ってきてもらい、2人と製作用アンドロイドで荷物を積んでいる時だった。


 ソルが手を休め、ルナに動画通話をかけた。


 画面を見たりょーたろもソルの横で止まった。


 すると、すぐにルナが出た。


「ルナちゃん!予選決勝進出おめでとう!!」


 ソルの横のりょーたろがお祝いの言葉をかけた。


「りょーたろさん、ありがとう!」


 ソルもお祝いの言葉をかけた。


「ルナ。おめでと。お前、やるじゃん。」


「ありがとう。ソルさん!」


 その後、ソルがルナの動きを見ていて、気になった点を質問した。


「っていうか、最近、最初の頃みたいにド派手に攻めないんだな。なんでだ?」


「あー、最初のそっちでやった時でしょ?

 そりゃ、最初の頃はAIのレベルが低いから軽く避けられてたからね。

 今はちょっとでも気を抜いたら落とされちゃうから。

 敵全体の中央に飛び込むのはさすがにね。」


「あー、そういうことか。なるほどな。」


「あっ、明後日なんだけど、予選決勝。

 このコロニーのA地区中央区でやるんだけど、もし良かった見に来てよ。

 チケット送るからさ。」


「えっ!?ホント?行って良いの?」


 プラチナチケットと化していたチケットが手に入ると聞いて、りょーたろが今までになく笑顔になった。


「うん。ゼヒゼヒ。」


「ありがとう。ルナちゃん!実は生でめちゃ見たかったんだよ!!絶対行くから。

 な?ソル。行くだろ?」


「え?あ、ああ。」


 ソルが後ろの床に置かれているタキオンコミュデバイスの箱を見た。


 ルナはソルの後ろに積み上げられたタキオンコミュデバイスの数に驚いた。


「えっ?その箱、全部。タキコミュなの?」


「うん。そうだよ。今やタキオンコミュは開拓移民の中でちょっとした話題になりつつあるんだよ。な?ソル!」


「ああ。まあね。みんなが喜んでくれてるから。それが何よりだ。」


 ソルは、みんなが喜んでくれた笑顔を思い出しながら、話した。


「すごいじゃん。ソルさん!!」


 ルナがタキオンコミュの箱に書かれた数字を見て、指でその数字の部分を拡大した。


「え!?その箱に書いてるやつってシリアル番号?

 14000いくらって書いてない?そんなに作ってんの?この短期間に??」


 ルナが驚きの声をあげた。


「あー、まあな。でも半分はエンケラドスとかタイタンで作ってもらってんだ。

 どっちにしても家族で交信するためには2ついるだろ?

 この前のブライトさんが手伝ってくれてる。」


「タイタンの移民の人にまで。すっご!!」


「あっ、そうだ。そういや、もうお前のおやじさんからのお金、必要ないからさ。返すわ。」


「もう、それはいーんだって。」


「そうだぜ。ソル。一度もらったお金なんだからさ。

 なんか、もう必要ありませんから返します、ってなんかカッコ悪いぜ。

 だからさ、もらっとけって。」


「そうそう。さすが!りょーたろさん。分かってるー!」


「そんなわけにいくかよ。」


「ソルさんはそこんとこ固いんだよ。

 あっ、分かった!じゃあさ、今度パパにあった時にパパに直接ゆってよ。」


 しかたないなという顔でソルが小さくため息をついた。


「はあ。まあ、そういうことならそれでいいけど。」


 ふとルナの顔が曇った。


「はあ。そっちは順調なんだね。」


「何言ってんだよ。お前だって明後日、予選決勝だろ!?」


 ソルがルナの曇った顔に気がついた。


「お前、もしかしてまだおばさんと話せてないのか?」


「うん。まだ話、聞いてくれないんだ。ママ。」


「そっか。まあ、なんだ。お前が頑張ってる姿見せれば、何か伝わるもんがあるんじゃねーか?

 だからさ、それまで、お前は本気で向き合えば良いと思うぜ。

 ゲームにも、おばさんにも。」


「うん。そだね。それしか、ないよね。」


「うん。おれもそう思うよ。ルナちゃんの本気、見せてやりなよ。」


「うん。分かった。二人ともありがと。あっ、明後日あさって見に来てね。絶対だよ。」


「うん。絶対行くから心配すんな。」


 ルナの顔が少しだけ晴れやかになった。


 それをソルが見て、少しだけほっとした。


「うん。ありがと。」


 そういってルナは通話を切った。





 Roswellの敷地内にあるゴシック調建物の中で、白いスーツの男が机に両足をあげて組んだまま、話をしていた。


「ええ。そういうこと。」


 両足を床に下ろして、ポケットに手を入れたまま、立ち上がった。


 周囲のアンドロイドには目もくれず、ゴシック調の机の前に移動しながら、誰かに話し続けた。


「明後日の”OneYearWar”予選決勝!

 ターゲットはRedDevil!!

 他のプレイヤーは倍率が100倍を超えているんですよ。

 次にオッズが高いのがこの少年。

 AIでの予想はこの少年が98%の確率で勝利する。

 RedDevilさえいなければ、ね。

 他の者はみんなあの女に掛けてるんです。

 そこを狙う!!

 ガッポリいただきましょう。

 だから。。。分かってますよね!?失敗したらどうなるか?

 あなたの頭でどうすればいいか?しっかり考えなさい。

 なに、あなたのシマに優秀なエンジニアが何人もいるのでしょう?

 良く考えるんですよ。」


 白いスーツの男は、机の上のレーザー銃を手にとって、銃口で自分の頬を軽く叩いていた。


<次回予告>

富裕層A地区で開催されるコロニー3地区予選決勝。

これに勝ち抜けば地球での本選決勝に出場へ。

だが、ある組織がこの決勝に黒い影を落としていたのだった。

次回 第37話 ”えっ?これ、おかしくない?”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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― 新着の感想 ―
 タキオンコミュデバイス。そんなに作って大丈夫だろうか。混信とかしないのかな。電波法みたいなもの必要なんじゃないかなとか。  そして、ゲームの大会でト●カルチョ的な事をするとか、この世界の大人は大人…
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