表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タキオンの矢  作者: 友枝 哲
36/85

第35話 : おれたちの希望を潰しに来たのか!?

<前話のあらすじ>

”OneYearWar”の予選第1回戦に参加しているルナ。

ルナが”RedDevil”であることに周囲がざわついた。

戦闘開始するや否や、ルナは小惑星帯を突き抜け、単騎敵陣へと侵攻していたのだった。


 

 小惑星群の隙間から5本の虹色の軌跡が鮮やかに飛び出した。


「撃ち方、始め!」


 周囲の戦闘機とメタリックステラがその軌跡に向かって、一斉に砲撃を開始した。


 無数の弾丸とイオンビームがレーダーの反応位置目掛けて撃ち込まれた。


「これでそう簡単には入り込めまい!!」


「圧し通る!!」


 おびただしい数のイオンビームとレールガン、そしてミサイルが放たれていた。


 だが、五つの機体はまるで稲妻のような動きで、敵機の隙間を、レールガン砲弾の隙間を、イオンビームの隙間を縫い、移動した。


 そして、その虹色をした稲妻の軌跡に触れられた敵機は次々に爆発していった。


 稲妻の軌跡は無作為に、恐ろしい勢いで、且つ確実に中型戦艦に近づいていった。


 虹色の光彩を纏った赤い機体はついに戦艦が作っていたイオン中和フィールド領域を越えた。


「何故だ?画像解析は完璧のはずだ!!何故当たらんのだ!?」


 赤い機体が戦艦に対して、10kmを切った。


「El fin!さあ、電子の海に還るがいい!!」


 赤い機体は虹色のオーラを纏い、ブリッジが戦艦の上部に配置されている旧タイプの戦艦にはイオンビームを、そして、戦艦内部にブリッジが設置されているタイプにはバンカーバスターミサイルを発射した。





 あらゆる場面に対しての教師データが書き込まれ、そこからあらゆる場面に対しての最善手を模索するAIでさえも、この未知なる動きを前にした時、回避方法検討処理がひたすら走ってしまう結果となった。


 さらに、それに加え、深紅の機体オル・アティード=”RedDevil”から発せられるノイズ情報までが付け足され、計算が収束するどころか発散するほどとなっていた。


 それはまるで人が焦り、そして恐怖している様子にも似た行動を取らせた。


 無闇にレールガンやミサイルを撃ち、イオンエンジンを全開にしたりした。


 だが、それも一瞬で無に帰った。


 RedDevilから撃ち込まれたイオンビームが瞬時に戦艦のブリッジを貫き、溶かした。


 そして、エンジン部にはバンカーバスターミサイルが撃ち込まれ、ブリッジの融解から一瞬のディレイの後、内部から爆発した。


 圧倒的。まさに圧倒的な状況だった。


 戦場の中央で数多くの小さい爆発が起こっている中、E国の艦隊群中腹に位置する中型戦艦3機、大型戦艦2機が虹色に光る稲妻の軌跡に沿って、爆発した。


 さらに、防衛する戦闘機、メタリックステラも全く歯が立たず、イオンビーム、レールガン、ミサイル、全てが空を切った。


 運悪く、稲妻の軌跡に触れた機体は例外なく、爆発していった。


 いつの間にか、赤い機体は旗艦にまで達していた。


 旗艦からむやみやたらに放たれるイオンビーム、レールガン、ミサイル。


 もちろんそれらは全てAIにより高精度で照準が合わせられ、放たれたものであった。


 しかし、虹色の波動の影響から5機全てがそれらの攻撃を躱し、それぞれの機体から放たれたパイルバンカーミサイルは旗艦の中腹部に突き刺さった。


 いつものように爆力反射防壁が何度かミサイルを退けた。


 旗艦も黙って見過ごすわけにはいかなかった。


 一度ミサイルを受けた場所に飛んでくるミサイルをレールガンで撃ち落としにかかっていた。


「次当たれば落ちる。なんとしても死守するのだ!!

 ミサイルだ!!ミサイルを撃ち落とすのだ!!」


「RedDevilを遠ざけろ!!近接信管誘導ミサイル発射!!」


 カタパルトデッキ横のミサイル発射台から次々と近接信管ミサイルが放たれた。


 だが、コックピットボールの側面にその状況が映された。瞬時にミサイルの型式判別され、その情報がパイロットの脳内に送られる。


 それまで動いているメイン機体と4機のビットは変わらず動き続けているが、赤い機体に張り付いている残り4機のビットが小型ブースターによって、角度変更された。


 その角度はまさに発射された近接信管ミサイルの方向であった。


 旗艦から飛んでくる近接信管ミサイル。だが、その信管が作動する距離になる前にオル・アティードに張り付いたビットからのイオンビームによって次々と爆破させられた。


「これでもダメなのか。。。」


 旗艦の状況を見た周囲のメタリックステラも旗艦防衛を最優先に動いていた。


 赤い機体は旗艦とその周囲のメタリックステラによって囲まれてしまった。


「囲んだぞ!今だ!!撃ち落とせ!!同士討ちに気を付けろ!!」


「自ら寄ってきてくれるとはありがたい。」


 赤い機体は周囲のメタリックステラやミサイルを狙い撃つ旗艦のレールガンの位置を見て、突然稲妻の動きから蝶のような動きに、ビットは落ち葉のような動きに変化した。


 赤い機体はレールガン弾やメタリックステラからのイオンビームをヒラヒラとした動きで避けながら、ミサイルを狙っている砲台に、周囲のメタリックステラにイオンビームを撃ち込んでいく。


 次々に砲台とメタリックステラが潰されていく。


 赤い機体を狙っていた旗艦のレールガン砲台は次第に赤い機体から放たれたミサイル迎撃に回されていった。


 旗艦は他AI機に対して、指示を飛ばした。


「何をやっている!?メタリックステラ部隊、はやく赤い機体を沈めるのだ!!」


「狙ってる!なのに、当たらんのです!!」


「接近して捕まえろ!!」


「それもやっています。だが、接近できません。」


 接近しようとするメタリックステラは次々と落とされていく。


 メタリックステラをとしつつ、旗艦のレールガン砲台もどんどんとしていた。


 周囲を囲まれていたはずのRedDevilだったが、その戦場はまるで旗艦に対する詰め将棋を見ているようであった。そして、ついにその時がきた。


 赤い機体は回避行動を取りつつ、旗艦に対しても次々とミサイルを放ち続けていた。


 旗艦はミサイルが同じ位置に撃ち込まれることも分かっていた。


 だが、すでに20ほどの砲台が落とされ、ミサイルを撃ち落とす速度が間に合わなくなっていた。


「El fin!電子の海に還るがいい!!」


 そして、爆力反射装甲のなくなっていた旗艦中腹部にミサイルが突き刺さった。


 赤い機体が旗艦から離れる方向に加速した。


 旗艦の中から爆発音がして、一部から爆発が漏れだした。


 そして、ついに旗艦全体が膨れ上がり、大爆発を起こした。


 実に試合が開始されて、約20分。


 まさにルナの圧倒的快進撃だった。


 そして、旗艦の爆発の光が収まり、アンドロイドが宣言した。


「E国旗艦消滅により、戦闘終了。Z国勝利です。これにて試合終了となります。」


 10名から1名が勝ち上がる形式であるため、誰の目からも結果は明らかであった。


「1位 LittleForest

 撃破ポイント 1687万1600ポイント

 戦場影響ポイント 362万5100ポイント

 自機破壊 0万ポイント

 合計2049万6700ポイント


 2位 ジュピターキング

 撃破ポイント 122万3200ポイント

 戦場影響ポイント 5万1000ポイント

 自機破壊 0ポイント

 合計127万4200ポイント


 3位 。。。」


 気がつけば、遊技場の周囲には100人ほどの人だかりができていた。


 ネットにアップされた動画を見た者たちが集まってきていた。


 誰もアンドロイドの得点などは聞いていなかった。


 大歓声と拍手で会場が大盛り上がりだった。


 ゲーム台のコクピットから降りたルナがアンドロイドに連れられて、遊技場の外に出てきた。


 ルナを見て、観客たちがルナの元に押し寄せた。


 会場運営用アンドロイドが手を広げ、人の進行を阻止していた。


 だが、人が押す勢いが止まらない。


 シュレディンガーが人の足の隙間からルナの元に行き、ルナの肩に登った。


 その時、ソルが群衆から声を聞いた。


(富裕層のガキがなんでこんなところで!おれたちの希望を潰しに来たのか!?)


 激しい憎悪にまみれたその声。それと同時にルナの顔もひきつった。


 とうとう人の勢いに圧され、アンドロイドが倒れてしまう。


 ソルにはルナの視点が見えた。


 アンドロイドの手前の男の顔。憎悪で歪んだ表情。そして、右手には棒のようなものを持っていた。


 ソルが腰のボタンを押し、人混みに紛れて、白いアイマスクを装着した。


 ルナは見ていた。アンドロイドが押し倒され、その隙間から男が走ってきているのを。そして、先程聞いた憎悪の声がその男から放たれていることも認識した。


 男が接近してくる。3m、2m、、、ルナにはその男の行動がゆっくりと見えていた。


 他のアンドロイドも何体か押し倒され、次々に人々がルナの方に押し寄せていた。


 ルナはその押し寄せる人の中の数人から憎悪を感じた。


 ルナの頭で思考が繰り返される。


(なんでこの人たち、こんなに怒ってるの?)


 最初に侵入してきた男が棒を振りかぶった。


 その時、突然、ルナの目の前に赤い線が飛び込んできた。そして、棒を持った男が遊技場の奥に吹っ飛んでいき、押し寄せる人の一部にぶつかった。


 目の前に赤いつなぎを着た白いアイマスクの男が低い姿勢で着地していた。


 その男がすくっと立ち上がると、ルナに言った。


「飛び上がるぞ!頭抱えてろよ。」


 そう言うと、白いアイマスクの男はルナをお姫様抱っこした。


 シュレディンガーがルナのお腹にちょこんと座った。


 次の瞬間、白いアイマスクの男は周囲の建物を飛び越えるほどのジャンプをした。


 りょーたろが鞄から超振動ブレードを取り出し、手に持っていた。そして、それを見て言った。


「あっ、これ、使ったら、人死んじゃうな。あぶねーあぶねー。」





 ソルが富裕層J地区の中央駅前でルナを抱きかかえたまま、人やアンドロイドがいない物陰に着地をした。


 運んでいる間、ルナは泣いていた。


 ゲームによって心が通じ合えると信じていたルナにとって、先ほどの憎悪は衝撃だった。


 ソルがルナを下ろして、腰のボタンを押す。


 アイマスクを取り外しながらルナに言った。


「お前、もう泣くなよ。」


「だって、あの人たち。」


「わかってるけど。。。あそこはお前が思っているような人ばかりじゃないんだよ。

 そもそも”下の世界”って劣等感を抱いてるやつもいりゃ、”上の世界”を憎んでいるやつだっている。

 今回、お前は自分の名前が出ちまったから。。。

 あっ、そうだ。っていうか、なんでお前の名前で登録されてるんだよ?」


 ルナがソルの方を向いて、涙を拭きながら言った。


「そんなの、そんなの、私だって分からないよ。

 っていうか、なんで上とか、下とか区別する必要があるの?

 私はただ一緒に思いを共有したいだけなのに。」


「まあ、それはこの前聞いたけど。。。」


 ふとソルは、以前ルナの父親がルナを迎えに来ていた時のことを思い出した。


「もしかしてお前のおやじさんじゃねーの?登録したの?」


 シュレディンガーが手を嘗めていた。


「いや。それはないと思う。だって、パパはすごい厳しいんだよ。まだママの方が私に優しいのに。それなのに。。。」


 ルナが母親と話せていないことを思い出して、再び目に涙を溜めていた。


「もう泣くなって。じゃあ、おばさんに聞いてみたらいいじゃねーか。

 仲直りにきっかけにもなるんじゃねーの?あー、それを狙ってるのかもな。」


 ソルが笑って見せた。


 ルナの表情が少し和らいだ。


「そうなのかな?うん。分かった。ママに話してみるよ。」


 その時、BCDにメッセージが送られてきた。


(ルナ小林様。第一次予選通過、おめでとうございます。

 第二次予選は明後日正午開始となります。

 会場はコロニー3-14のA、C、E、G、I地区ポートサイド、センター、パワーサイド会場のどこからでも出場可能です。

 午前11時30分までに受付を完了させてください。)


「あっ、今メッセージが。。第一次予選突破だって。

 次は明後日。

 参加はA地区でも良いんだ。」


「じゃあ、こっちでやれよ。もうイザコザに巻き込まれるのはゴメンだぜ。」


 ルナがうつむいて少し考えた末に答えた。


「うん。分かった。そうする。」


「じゃあ、おれはそろそろ行くわ。明後日も頑張れよ。。。

 あの、、、応援、してるからな。負けんなよ。」


「うん。ソルさん。。。ありがとう。」


 素直にお礼を言うルナに少し照れながらソルが返事をした。


「おう。じゃあな。」


 ソルが腰のボタンを押して、白いアイマスクを再び装着した。


 そして、白いアイマスクの男がルナに手を上げたかと思うと、大きくジャンプした。


 シュレディンガーも白いアイマスクの男をずっと見ていた。


 そのすぐあとに、一台のイオンクラフト車がルナの前に停まり、中からルナの警備アンドロイドが出てきた。


<次回予告>

次々と予選を通過するルナ。

その間にも開拓移民者に順調に広まっていくタキオンコミュデバイス。

そして、予選決勝に落とされる1つの影。

ルナはどうなってしまうのか。

次回 第36話 ”マジで絶好調じゃん!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ