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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
34/85

第33話 : あいつ、なかなかやるな。

すっかり仕事に集中してしまって、投稿時間過ぎてました。すみません。


<前話のあらすじ>

”OneYearWar”というゲームの大会に偽名でエントリーを試みたルナ。

だが、誰かがルナ小林の名前でエントリーしていたのだった。

無事エントリーが終わり、大会が始まった。

まず第1戦では、以前ルナと共闘していた少年が戦場に出撃したのだった。


 

 少年の機体は戦闘宙域よりもはるかに高高度に位置していた。


 索敵範囲3000kmの中距離重力子レーダーを持つ機体は優先的に破壊されていた。


 中距離重力子レーダーがなくなってから少年は自身の戦闘機を徐々に戦闘宙域に近づけつつも、1500kmほどの距離は保っていた。


 少年機は通常のレーダー索敵範囲1000kmを高度側で越えていたため、レーダーにも引っ掛からず、爆発が徐々に激しさを増す敵陣を上から見下ろす形になっていた。


 少年の機体に通信が入る。


「前方中型戦艦の防衛メタリックステラを排除せよ!!」


 その声に合わせ、ルナは少年から声を聞いた。


(今だ!)


 ルナが言った。


「うん。いいタイミング!」


 ルナの言葉とほぼ同時に、突如少年の機体が地球に向けて降下し始めた。


 ルナがその様子を見ていた。


「いけ!!」


 ソルとりょーたろは一瞬ルナを見た。ルナがなぜ少年が突っ込むと分かったのか、不思議だった。


 少年の機体は地球の重力も借り、加速しつつ、一気に敵陣の中央部に対してほぼ真上から距離を縮めていく。


 少年機に気づかず、敵陣営は前方に対して、ミサイルやイオンビームを発射し続けていた。


 少年の機体が敵陣に対して距離1000kmを切ったところで敵陣レーダーに反応が現れた。


「11、03(ひとひと、まるさん)より敵機、急接近。数いち。」


「この速度。。。RedDevilか!?」


「上部イオン中和フィールド展開、急げ!」


「砲台回せ!!」


 少年の目が若干赤く染まる。それと同時に少年機の一部からわずかに虹色の光が放たれ始めた。


 敵機のレールガン砲、イオンビーム砲筒の一部が上部に向けられる。


「遅いっっ!!」


 少年の機体の両側面に取り付けられたアサルトアームからイオンビーム、そして無数のミサイルが敵陣中腹に構える遠距離攻撃機、ならびにメタリックステラ、中型戦艦に向けて次々に放たれた。


 敵機レールガン、イオンビームが少年の機体に向けて放たれようとしていた。だが、一瞬だけ砲筒が揺れ、発射が遅れた。


 その瞬間、少年の機体の後部ブースター2門が角度を変える。少年の機体が角度を変えながらジグザグに飛行した。


 遅れて放たれたイオンビームが少年の機体の軌跡を追う形で通過。その距離、数m。少年機はギリギリで何とかイオンビームを躱していた。


 敵陣には先ほど少年が放ったイオンビームやミサイルが襲っていた。


 敵陣はレールガンで少年の放ったミサイルを撃墜しようとした。だが、そのレールガン砲塔にイオンビームがヒットする。


 それでも複数あるレールガンがミサイルを一定数撃破。しかし、ミサイルの二割、三割が撃ち漏らされ、着弾した。


 ミサイルは小型戦闘機やその後ろに構えていたメタリックステラを爆発させた。


 そして、敵陣中腹に構えていたメタリックステラにも、少年の放ったイオンビームが着弾。


 多くは中和フィールドで霧散したが、一部中和フィールドが展開できていない箇所で爆発。それに巻き込まれる機体も少なからずいた。


 戦闘機群、メタリックステラ群、中型戦艦の至るところで爆発が発生していた。





 少年機と同じ陣営の機体群は、突然の敵陣営中腹での爆発に驚きを隠せなかった。


「何が起こっているんだ。」


 レーダーには赤い無数の点の中に青い点が1点だけ光っていた。





 敵陣中腹のメタリックステラ群は少年の戦闘機を狙って、レールガン、イオンビームを次々に放っていた。


 だが、メタリックステラの照準に揺れが起こり、若干のディレイが発生。


 発射されたビームはすでに少年の操る戦闘機が通りすぎた位置を通過した。


 少年の戦闘機が薄い虹色の軌跡を残し、艦隊の中央を貫通するように通り抜ける。


 通り抜ける少年の機体に周囲のメタリックステラがイオンビームを放った。


 だが、先のビームと同様に少年の機体をすり抜けた。


 しかも運悪く味方機のメタリックステラに着弾、爆発。


 敵陣前方の戦闘機群は、前方から距離を詰めてきている敵機に対応するため、次々と前方に急加速をし始め、少年の機体を追うことができなかった。


 通信が敵陣の混乱を示していた。


「戦闘機部隊、あのRedDevilもどきを何とかしてくれ!!」


「今はダメだ。前方敵機に向け発進する!敵機に背を向けられない。」


「我々艦隊の中腹に居座られると仲間撃ちしてしまう。戦闘機部隊なんとか。。ああっ!!」


 少年の機体が敵陣中央を突き抜ける際に、戦闘機両サイドのアサルトアームからレールガン砲を放った。


 放たれたレールガンは、指示をしていた中型戦艦のブリッジを破壊したのだった。


 メタリックステラ部隊はスラスターで自機の角度を変えながら艦隊をすり抜けた少年の機体を追うが、うまく照準が定められない。





 ルナが少年の様子を見ながら、以前にも増して、操縦技術が向上していることに少し興奮ぎみだった。


「あの子!うまくなってる!!やるー!!」





 前衛ではお互いの陣営がぶつかり、前衛同士の中間位置で戦闘機、メタリックステラによる近距離戦闘が開始された。





 少年の機体は照準を定められないように奇妙な軌道で旋回した。


 地球に落ちる方向から、次は地球の重力を振り払う方向に加速し始めた。


 だが、重力を振り切る方向に加速するため、先ほどのようにうまく加速できない。


 少年の目がさらに赤く染まる。


 少年は敵の攻撃意思を察知し、再び角度を変えながらのジグザグ飛行を行う。


 攻撃を躱す距離が先程よりも近い。首の皮一枚で何とか躱していた。


 少年は肩で息をするほど、体力を使っていた。


 ただ、攻撃量は先ほどの上面から浴びせた攻撃の時よりも少なく、何とか全てを避けきれていた。


 ルナが驚きながら言った。


「あの子、もしかしてこれも見越して。。。」


「見越してって、何を?」


 ソルがルナに質問する。


 ルナは、攻撃を避けながら再び艦隊の中腹を通過する少年の動きを見つつ、答えた。


「えっとね。いまだにだいたいの戦闘機や戦艦が、格好いいからとか、これまでの地球の戦闘映像からなのかな、あとアニメとかの影響なのかな、それに倣って多くの攻撃装備を上面に付けてるの。操縦席ですら上面に付けたりしている。

 で、且つ今回、地球周回エリアじゃない?

 みんなで方向合わせるために地球を下にして方向合わせしてる。ということは。。。」


 そこまで聞いてソルもりょーたろも理解した。


 りょーたろがルナの言葉に続けた。


「攻撃装備のほとんどが上向きに設置されてるから、地球側から攻める時は、攻撃装備の反対面。だから攻撃にさらされる機会が少なくなるってこと?」


「うん。そう。地球の重力で引っ張られるから、動きが制限されるんだけど、攻撃量が少ないおかげで何とか避けきれてる。」


 ソルが素直に驚いていた。


「え!?だから、上下面から?それをこのステージ知らされた時にもう考えてたってのか?」


 少年の機体は次々と中腹にいたメタリックステラ、中型戦艦を爆破していき、その援護がなくなった前方も戦況有利になっていた。


「あいつ、なかなかやるな。」


 ソルがふと少年の横の筐体上部に映し出されている小型群衆戦闘機にも目を奪われた。


 そのプレイヤーが操る小型群衆戦闘機は少年機とは別宙域で活躍していた。


 約100機からなる小型戦闘機をAIが操り、ある時は細い線状に並んで、ある時は網状になって、敵機に接近し、戦闘機やメタリックステラに取りつき、レーザーカッターにより、各部を切断したり、小型爆弾を設置し爆破させたりしていた。


 ソルが言った。


「あれはあれですげーな。ルナ、あんなの来たらどうすんの?」


 ルナがあっさり答える。


「小型機はブースターがあんまり良くないから、速度もあんまり出ない。

 だから、密集戦闘で遅い機体にだけ取りついてるでしょ?やられてるの、ほとんどメタリックステラたし。

 あんなのに捕まるほど、私は遅くないよ。

 それに、あの子のもそうだけど、あの虹色の光はJAM-Unitから発せられるものなんだけど、あれはAIの思考を鈍らせるの。

 あの子のはまだちょっと弱いけど、それでもAI操縦の機体では捕まえようにも捕まえられないんじゃないかな。」


 りょーたろがルナというよりも、RedDevilに興味津々で聞いた。


「そうそう。それ、聞きたかったんだよ。あの虹色のって?」


「あれでしょ?実は私も良く分かってないんだけど、なんか昔、あれは人の思考を読み取ったり、お互いで情報を共有したりするデバイスだったらしいの。

 今のデバイスはその劣化版?みたいで、AIの思考を読み取ったり、こっちの思考を植え付けたりするくらいのものらしい。」


「ふーん、そういうことね。」


 りょーたろとソルが自分達の使っているデバイスのことをふと考えて、お互いを見ながら頷いた。


「あと、あの虹色は電磁波がああ見えてるらしいんだけど、強いフィールドの場合、レールガンとか数10mmくらいの砲弾ならある程度までは軌道を曲げられるんだ。

 私は調子良いときなら45度くらいまで曲げられるよ。」


「え?あれってそんな効果もあんの?もうチートじゃん。」


「でも、これは実際の物理現象だからチートなんかじゃないんだよ。」


「まあ、物理現象っちゃ物理現象だけど。。。でも、それ信じて構えとくのって、ちょっとこえーな。なんか突き抜けてきそうで。。。」


 二人が話している間にも戦闘が続いていた。


 立方体機が小さいキューブに分離し広がり、電磁ネットワイヤーで網を作った。


 戦闘機がその網を通過すると機体が細かく切断された。次々と機体を細切れにしていく。


 だが、小さいキューブが、移動している際に、1つ、また1つと破壊されていく。


 その都度、網を小さくしつつ、敵機を切り刻んでいた。


 審判アンドロイドが残り時間を知らせる。


「残り三分です。」


 少年機が後ろに陣取っていた大型戦艦に対して、最後の攻撃を仕掛けていた。


 恐ろしいほどの弾幕に対して、少年機が回避動作にて接近を試みていた。


 少年の目は真っ赤に染まり、汗をかき、肩で激しく息をしていた。


 ルナが祈るような目で少年を見ていた。

「頑張れ!あと少し!!」


 少年のコンソールに(距離200km)と出た。その瞬間、少年が叫ぶ。


「いっけーーーー!!」


「させるか!!」


 少年機は両サイドのアサルトアームからイオンビームを連続して放ち、残りミサイルを怒涛の勢いで放った。


 それと同時に戦艦のレールガン砲台からは砲弾が放たれた。


 少年機はミサイルを連続発射しつつ、レールガンの砲弾を避けるため、機体を傾けた。


 だが、少年機は疲れから動きが鈍っていた。


 傾きはじめた機体のブースターユニットに敵の放ったレールガン弾がほぼ垂直に着弾。


 レールガンの弾は虹色の衣によって若干角度を変えたが、それでも弾がブースターユニットを貫いた。


 ブースターユニットが放射していた光を漏らしながら爆発した。


 その瞬間、少年の機体は爆発によって弾かれた。


 少年が必死に体勢を立て直そうとする。


 それを撃ち漏らすまいと砲台が狙いを定め、砲撃した。


 少年機は1つのブースターで最大限回避行動を取った。


 砲台が少年機を追いかけ、砲撃を続けた。


 数秒後には少年の機体に次々とレールガンの弾丸が着弾した。


 だが、その間に、少年機から放たれたイオンビーム、ミサイルが戦艦を襲っていた。


 イオンビームはことごとく大型戦艦の手前で霧散した。


 放たれたミサイルは砲台が数個打ち落とした。


 だが、全てを落とすには、砲台が少年機を狙い過ぎであった。


 ミサイル数個が砲撃をすり抜け戦艦に着弾。


 ミサイル着弾と同時に戦艦の装甲に取り付けられていた爆力反射防壁が爆発した。


 ソルとりょーたろがその様子を食い入るように見ていた。


「やったか!!」


 ルナがすぐに答える。


「いや、まだ分からない。」


 残りのミサイルが再び大型戦艦に着弾。同様に防壁が働いて再度表面が爆発。


 少年機にはさらにレールガンが撃ち込まれた。


 少年のコンソールには(Malfunction!(誤動作))や(Breakdown!(故障))が表示されていた。


 三度、大型戦艦にミサイルが着弾した。


 まだ防壁が働き、戦艦の表面で爆発が起こった。


 完全に推進力を失った少年機に対して、AIが照準を完全に合わせ、レールガン弾を放った。


「これで終わりだ!!」


 レールガン弾が少年機に接近する。


 その時、四度、ミサイルが大型戦艦に着弾した。だが、爆発が起こらない。


 それを見た瞬間、ルナが言った。


「いった!!着弾の位置も悪くない!!」


 戦艦から放たれたレールガン弾が少年機に着弾。ついに少年機が爆発した。


 それと同時に、大型戦艦に飛び込んだミサイルが武器庫に到達した。


 少年機の小さい爆発のすぐ横で、大型戦艦が爆音をあげ、外郭装甲が膨張した。


 そして、再度、より大きな音を立て、大型戦艦が爆発した。


 その爆発に周囲の機体が巻き込まれていった。


 そして、ファンファーレが鳴り響く。





「戦闘終了です。」


 審判アンドロイドが試合終了を告げた。


 少年がガタッとコックピットから崩れ落ちた。


 ルナとソル、りょーたろが駆け寄り、ソルが少年を抱き上げた。


「おい、大丈夫かよ。」


 少年がルナを見て、言った。


「へへへ。初めて一人で大型戦艦倒したよ。おれ、やったよね!?」


 ルナが感動して目に涙を浮かべている。


「うん。君、すごい強くなっている。大型戦艦撃破、本当にすごかったよ。」


「へへへ。おねえちゃんに褒められるなんて、鼻が高いや。」


 その後、審判アンドロイドが集計結を示した。


「1位 アイザック・リゲル

 撃破ポイント 453万5400ポイント

 戦場影響ポイント 52万2100ポイント

 自機破壊 -10万ポイント

 合計495万7500ポイント


 2位 リルバ・ラル

 撃破ポイント 147万7600ポイント

 戦場影響ポイント 13万4100ポイント

 自機破壊 0ポイント

 合計161万1700ポイント


 3位 。。。」


 ルナが少年に勝利を伝えた。


「君、アイザック君だよね?勝ち上がったよ!!おめでとう!!」


「へへへ。ありがと。おねえちゃんも頑張ってね。」


「うん。アイザック君。君の名前、覚えたよ!!」


 アイザック少年のぐったりした様子を見て、ソルが言った。


「もうしゃべるなよ。」


 医療チームのアンドロイドが来た。


「医療用車両があります。こちらにお越しください。」


 アイザックを抱えたまま、ソルがアンドロイドについて行った。


 ルナとりょーたろも一緒に医療用車両の方に歩いていった。


 アンドロイドがソルの手からアイザックを受けとり、医療用車両に入っていった。


 医療用車両の表示が治療中に変わった。


「大丈夫だよね?」


 ルナがソルとりょーたろを見た。


「まあ、あれだけしゃべれてたし、大丈夫だろ。心配しなくていいんじゃねーか。」


「うん。そうだな。ちらっと見えたけど、治療カプセル、最新のだったし。まあ、2、3時間すりゃ、すっかり元通りなんじゃないか。」


 その時、ルナのBCDにメッセージが入った。


「あっ、次、私だ!」


 ルナがメッセージを見て、両手を組み裏向きにして、腕を伸ばしながら言った。


「よーし!あの子に負けてられない。やるぞーー!!」


「それでは、第二戦目を開始します。メッセージを受け取った十名の方はお好きな台にお座りください。」


「じゃあ、行ってくるね!」


「おう、頑張れよ!」


 ルナがキリッとした顔になり、意気揚々と歩いていった。


 ほどなくして十人全員が席についた。


「戦闘宙域は火木星間メインベルト小惑星群エリアです。

 それではただいまから五分間のセッティングタイムになります。

 五分終了後、ただちに開戦となります。

 戦闘時間は四十五分です。

 それでは始めます。スタート!!」


 セッティング時間が開始されると突然、周囲がざわめきだした。


 各台の上に表示された機体の中の一つが原因だった。


 ルナの台の上に表示された機体。


 真っ赤なカラーリング。


 中央のコックピットボールの前方に電磁ワイヤで繋がれた槍型アサルトユニット4門。


 同じく後部に繋がれたグライダー型ブースターユニット4門。


挿絵(By みてみん)


 機体に乗り込む茶色のモジャモジャ頭の少年パイロット。


 そして、機体の下に書かれたユーザー名=LittleForest。


 ”OneWarYear”プレイヤーなら見たことのある機体、少年パイロット。


 そして聞いたことのあるユーザー名。


 まぎれもなく”RedDevil”だった。


「おい!マジかよ。RedDevilだ。RedDevilがエントリーしてたんだ。」


「っていうか、男じゃないのか?しかも、あんな女の子だったなんて。。。」


「やっぱりこのコロニーだったんだ!!」


 周囲がどよめく。


 そして歓声があがる。


 多くのものが動画を撮り始めた。


 りょーたろはこのどよめきを当然のように感じていたが、ソルは驚きを隠せなかった。


「お、お、おい!りょーたろさん、なんだよ、このザワザワした感じ。」


「だから言ってるだろ!ルナちゃんは世界一有名な”RedDevil”っていうプレイヤーなんだって。」


 りょーたろはなんだか嬉しかった。逆にソルはソワソワしていた。


<次回予告>

少年の奮闘に力をもらったルナ。

ルナの機体を見て、どよめきだすオーディエンス。

そして、RedDevilの出撃!!

虹の軌跡が全ての人を興奮のるつぼに叩き込む!!

次回、第34話 ”電子の海に還るがいい!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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