第32話 : 各機に告ぐ。本ミッションは地球座標系とする。座標、合わせ!
<前話のあらすじ>
ソルに連れられ、コロニーE地区中央区の遊技場に来たルナ。
偽名を使ってエントリーしようとするも、シュレディンガーによって邪魔されてしまい、偽名でのエントリーが失敗に終わる。
だが、誰かが”ルナ小林”でエントリーをしていた。
ルナは、不思議に思いつつも、自分のアカウントでエントリーが出来たのだった。
そして、とうとう大会がスタート。
まずは、ある少年を含めた10人がゲームを開始した。
その少年は、ルナが以前E地区中央区の遊技場、つまりまさにこの遊技場で共闘した少年であった。
(開戦まであと 0:10:00)
開戦に近づき、音楽が盛り上がりを見せていた。
アンドロイドが一秒毎にカウントダウンを始めた。
(5、、、4、、、3、、、2、、、1、、、Mark!)
全機、異なる母艦のリニアカタパルトから加速された。
リニアカタパルトにいくつも並ぶ緑色のランプを勢いよく通過して、全機が宇宙空間に投げ出された。
ルナは少年が操る戦闘機の立体映像を見ていた。
左手側に地球が大きく映っている。前方遠くに人工衛星が白く小さい点として無数に散らばっている。
少年機の左右、つまり地球から高度が低い側、そして地球から高度が高い側、両方にも母艦があり、そこからも無数の戦闘機、メタリックステラが放出されていた。
3Dマップには地球の裏側に敵旗艦が赤色表示で配置されていて、それ以外の敵機は表示されていなかった。
それに対して、自軍の旗艦、戦艦、各機はすでに青色で示されていた。
すると、突然、通信が入った。
「各機に告ぐ。本ミッションは地球座標系とする。座標、合わせ!」
「ラジャー!」
全員が返事をして、座標系を合わせた。
それを見て、ソルがルナに質問する。
「地球座標系って?」
「あー、地球座標系は、地球側を下、宇宙側を上にして、地球表面からの距離で高さを表すの。
それと地球にある経度、緯度で座標が示されるの。」
「あー、なるほどね。」
少年の視界前方には、すでに自軍の哨戒機が飛び出していた。
少年が一気にブーストを全開にした。速度がみるみる上がっていく。
(13.4km/s)
機体の速度は第二宇宙速度を越え、地球の重力を振りきるように地球から離れていく。
ルナが小さい声で言った。
「なるほど。それもあってブースターを。」
少年は仲間の機体の高度をどんどん越えていく。
ある程度の高度に達した後、地球周回の経路に戻す。
(31.7km/s)
少年の機体はブースターで地球周回から外れていかないように地球の丸みに合わせ若干方向修正しながら進んでいた。
出発地点からちょうど地球を45度回ったあたりで、最初にありとあらゆる方向に放出された哨戒機から連絡が入る。
(地球座標 緯度35°16’56” 経度139°36’21” 高度1515.463km 敵機発見。人工衛星ステルス発動。)
少年が思考によって3Dマップを全体に切り替える。
マップには哨戒機の索敵範囲5000kmを誇る超高精密重力子レーダーによって捕捉された1個の敵機が赤い点で表示されていた。
捕捉された赤い点はちょうど味方旗艦から地球周回約110度の位置に示されていた。
が、それは少年の進行方向とはほぼ逆側であった。
敵の旗艦からの距離を考えると、そろそろ自分の方向にも敵機が捕捉される頃かとそう思った途端、地球周回、球面上のいろんなところで赤い点が映し出され始めた。
それは少年の進行方向側にも発生した。
哨戒機が捕捉した相手の位置、数などを鑑みて、どこが激戦区になるか、相手がどのように攻め込んでくるか、相手の手薄な場所はどこか、などを旗艦のAIが瞬時に全体に知らせた。
それによってまた味方機が進行方向を変えたりした。
何秒か後、ちょうど敵、味方の哨戒機の中間点で数個の爆発が見え始めた。
ルナが言った。
「始まった。」
その時、ルナは出場者の中から攻撃の意思を感じた。
(そろそろいける!)
ルナが何人かの台の上の機体を確認した。
ある者の戦闘機型機体は大きなアンテナ型レーダーと長距離イオンビーム砲を装備していた。
そして、その機体は前方に向けて長距離イオンビーム砲の角度を調整し始めていた。
ルナがその機体に目を見張る。
その機体はまだ敵機群から5000kmほど離れていた。
長距離イオンビーム砲であれば、ギリギリ相手を溶かすことができるほどの射程であった。
「長距離重力子レーダーで遠くの敵まで位置を確認して、イオンビームで居抜こうとしてる。でも。。。」
ルナがソルとりょーたろに小声で解説した。
戦闘機の操縦者がAIに思考で指示を出していた。
戦闘機のAIが敵機に対して照準を合わせた。
それはまさに精密機器そのもので、数千分の一から数万分の一秒角単位で座標フィードバックがされ、精密にイオンビーム砲の砲筒角度が合わせ込まれた。
(1秒角と言うのは、1°を3600で割った角度)
そして、すぐさまエネルギー充填がなされた。
(いけえっ!!)
ルナが操縦者のはっきりとした声を聞いた。
長距離砲からイオンビームが放たれた。
イオンビームは地球の重力、地場によって若干曲がった。
だが、それすらも計算されており、イオンビームは敵最前線の戦闘機にヒットした。
その戦闘機はまだ攻撃が自分に向いていないと思い、イオン中和フィールドを張っていなかった。
5000kmを飛来し、弱まったイオンビームであったが、ヒットした戦闘機が徐々に加熱され、機体が溶け、爆発した。
その爆発により周囲に破片が飛び散った。
飛び散った破片は周囲の機体にも僅かながら損害が生じさせた。
再び遠距離射撃の戦闘機が砲筒の角度を少しずらし、イオンビームを放った。
イオンビームは光の速さの70%であるため、5000kmという距離もわずか0.02秒で到達する。
次はメタリックステラが被弾した。
僅かにエイムがずれ、イオンビームはメタリックステラの脚部に当たった。
弱まったイオンビームが脚部を熱する間に、メタリックステラのAIは瞬時に脚部を切り離した。
次の瞬間には脚部が加熱爆発した。だが、メタリックステラ自体は無事であった。
遠距離を飛行したイオンビームは、速度こそ速いが、宇宙空間に僅かながらに存在する物質によってエネルギーを失い、着弾した対象物を加熱し、溶かすまでにタイムラグが生じてしまう。
近距離で被弾させた時ほどの瞬発性は失われてしまっていた。
そのタイムラグのためにターゲットに逃げられる可能性があるのだ。
「12、11(ひとふた、ひとひと)より遠距離攻撃あり。各機中和フィールド展開されたし!」
被弾した側が通信でお互いに警戒を促していた。
「もういっちょ!」
操縦者が叫ぶと再びイオンビームの光が走った。
ルナがその声と同時に再び解説した。
「でも、ちょっと攻撃するタイミングが早かったな。」
放たれたビームは進行先で楯を構えるメタリックステラの前で霧散した。
メタリックステラの楯にはイオン中和フィールドが張られていた。
次の瞬間、そのメタリックステラの後方にいた遠距離攻撃用戦闘機各機から反撃のイオンビームが放たれた。
イオンビームは光を放つその特性上、相手に自分の位置を知らせるサインともなっていた。
もちろん遠距離攻撃機もそれを想定し、発射後にイオン中和フィールドを展開していた。
が、まだそれほど激しい戦闘に突入していなかったため、多方向から想定以上のビームが機体に押し寄せた。
ビームの一部が霧散する。が、次々にイオンビームが押し寄せる。
ビームが霧散する位置が徐々に長距離砲の機体に近づいていく。
予想以上のビームの接近に戦闘機が慌てて、機体を移動させようとする。
だが、思った以上に機体へのビームの接近が速く、ついには移動し始めた機体の半身にイオンビームがヒットした。
そして、機体が回転し、ちょうど次のビームの直撃を受ける形となり、戦闘機はあえなく爆発してしまった。
「あー、やっぱりやられちゃったか。。。他がまだ手すきの時に攻めたのが良くなかったね。」
ソルとりょーたろが冷静に分析しているルナを驚きの眼差しで見た。
その機体は、再び、母艦からのスタートとなった。
だが、ふたたび戦闘宙域まで飛行する時間を考えると、そのプレイヤーの敗退は誰が見ても明らかだった。
ルナとソル、りょーたろが再び少年の方を見た。
互いに地球周回をどんどん進行していった。
少年の操る機体はさらに高度を上げていき、ほぼ戦闘宙域から離脱している状態になっていた。
「あいつ、何やってんだよ。」
ソルがボソッと言うと、ルナが答えた。
「ううん。あのブースターを付けた意味がもうすぐ分かるよ。」
その後すぐに、お互いの哨戒機が交差するほどの距離になった。
両陣営最前線の機体が敵対する側の哨戒機をイオンビームによって破壊した。
お互いの最前線機体の機影がレーダー網から消えた。
「哨戒機撃破完了。敵機との距離想定約4000。メタリックステラ網目隊形拡大急げ!!」
「イオン中和フィールド、前方展開!」
「網目中央への戦闘機配置。前線戦闘機イオンビーム、ならびにミサイル射出用意!!」
「緯度75°10’22”、経度-35°06’35”。展開薄いぞ!配置急げ!!」
最前線機体が慌ただしく陣形を変えていく。
数十秒後、お互いの前線に置かれた索敵能力3000kmの中距離重力子レーダーにより互いの位置が捉えられた。
即座にイオンビームが飛び交う。
前線の至るところでバチバチとイオンビームが霧散する。
それをすり抜けて機体が爆発をはじめた。
そして、さらに数十秒後、ミサイルが飛び交い始める。
中和フィールドでは防げないそれは至るところで爆発の光を生む。
さらに数十秒後、互いの中和フィールドを越えて、各陣営の機体が入り乱れて、イオンビーム、レールガン、ミサイルの打ち合いをはじめた。
少年の機体は戦闘宙域よりもはるかに高高度に位置していた。
中距離重力子レーダーを持つ機体は優先的に破壊されていた。
中距離重力子レーダーがなくなってから徐々に戦闘宙域に近づきつつ、1500kmほどの距離は保っていた。
少年機は通常の重力子レーダー索敵範囲1000kmを高度側で越えていたため、レーダーにも引っ掛からず、爆発が徐々に激しさを増す敵陣を上から見下ろす形になっていた。
少年の機体に通信が入る。
「前方中型戦艦の防衛メタリックステラを排除せよ!!」
その声に合わせ、ルナは少年から声を聞いた。
(今だ!)
ルナが言った。
「うん。いいタイミング!」
ルナの言葉とほぼ同時に、突如少年の機体が地球に向けて降下し始めた。
ルナがその様子を見ていた。
「いけ!!」
ソルとりょーたろは一瞬ルナを見た。ルナがなぜ少年が突っ込むと分かったのか、不思議だった。
<次回予告>
少年の機体が急降下を見せる。
それはまるで重力の井戸に落ちていくかのようであった。
次々と敵機を撃破していく少年。
敵陣営を突き抜けた後、次に少年は急上昇をする。
その時、少年の真価を目の当たりにすることとなる。
次回 33話 ”あいつ、なかなかやるな。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




