第30話 : 本日、OneYearWar 2299(トゥトゥナインナイン) 世界大会予選、開催です!!
<前話のあらすじ>
母親とケンカをして家を飛び出したルナ。
そのルナをソルはジャンク屋に連れてきた。
”OneYearWar”の大会に参加したいというルナの希望を叶えるべく、ソルは、服や個人認証用のコンタクトまで用意した。
そして、エントリーをさせるため、大会のサイトに入ったのだった。
ルナが『OneYearWar』のサイトに入った。
それまで、平面ウインドウが宙に浮いている2D表示だったが、サイトが3D形式であるため、地球や月、コロニーなどの立体物が宙に表示された。
ルナが宙に浮かぶ大会エントリーの表示物を指で弾いた。
画面が地域選択に切り替わり、地球や月、火星、コロニー1、コロニー2、コロニー3など区域に分けられて表示された。
ルナはその中からコロニー3を選択した。
ソルがエントリー数を見て、驚いた。
「え?コロニー3だけで25万人エントリー?プレイヤー、、、そんなにいんの?」
「ゆったじゃん。全世界10億人がやってんだよ。
コロニー3は住居コロニー500基分。約5億人だからな。そのくらいいてもおかしくない。」
「っていうか、そんなデカイ規模なの?この大会。。。」
ソルが少し罪悪感を感じだした。
ルナが名前や住所の項目に入り、ソルにお願いした。
「ソルさん、名前と住所、入力お願い。」
「おっ、おう。」
ソルの頬に汗が伝った。
ソルは参加者の名前にアン・ハサウェイと書き込み、お婆ちゃんの住所を入力した。
そして、保証人の欄にソル自身の名前とジャンク屋の住所、自分のBCDの連絡先を書き込んだ。(”ソル”とだけ書いている。行政への登録はソルのハッキングによりそれだけになっている。)
最後に個人認証の項目に入った。
それを見たルナがプリントが終わった箱の中のコンタクトを取り出しながらソルに言った。
「このコンタクトを着ければいいんだよね?」
横を見たソルが焦りつつも答える。
「あっ、ああ。」
ルナがコンタクトを装着した。そして、認識させるためのデバイス選択に移り、近くのカメラを探した。
机の上にあったタキオンコミュのカメラを選択した。
ソルはルナが空中を指でなぞる動作(カメラを選択させる)動作を見ながらも、焦りがどんどん募っていった。
そして、ソルが声をかけようとした。
「あのさ。ちょっと。。。」
(個人認証完了。”アン・ハサウェイ”様。エントリー申請しますか。)
その認証の声が早いか、ルナの声が早いか、そのくらいのタイミングでルナが腕を持ち上げ、気合いの声を上げた。
「おねがいしまーーーーす!」
声と同時に腕が振り下ろされた。
ソルが腕を止めようとしたが、ルナの腕はソルの腕よりも早く落とされた。
(エントリー完了しました。ありがとうございました。)
「ああ!!」
ソルの顎先から汗が滴り落ちた。
エントリー完了を見て、ルナが笑顔でソルに向かって言った。
「ありがと。ソルさん。これで私、頑張れるよ!」
「ああ。ああ。そう、だな。がん、、、ばれよ。」
りょーたろが横目にソルを見ながら、ルナに言った。
「エントリーも出来たことだし、そろそろ家に帰らないとだね。」
コロニー回転中心の疑似太陽照明がすでに暗くなっていて、外の景色は家の漏れた光で星空のように見えていた。
「うん。りょーたろさん、ソルさん、本当にありがとう。私、頑張る。ママとももっと話してみる。大会も。」
「うん。ルナちゃんならきっとうまくできるよ。あっ、勉強もね。」
「うん。分かってるよ。ママみたいに言わないでよ!」
ルナがわざと口を尖らせておどけて見せた。
三人は笑いあった。ただ、ソルの笑顔は少しだけひきつっていた。
コロニー3基準時間 夜9:00。
りょーたろの車で富裕層J地区と貧困層I地区の境目のところまで来た。
ルナが前方に何かを見つけた。
「あっ!あれ。うちの車。」
ドアが開き、アンドロイドが出てくるのかと思いきや、出てきたのは人だった。
出てきた男性は、見た目、40代後半で、黒いスーツを纏い、洗練された立ち振舞いだった。
「あっ!パパ。」
りょーたろが車を止め、ルナが車を降り、父親の方に走っていった。
後からシュレディンガーもついていった。
りょーたろとソルが車から降り、ルナの方に歩いていった。
「パパ。心配かけて、ごめんなさい。」
「無事で良かった。話は家に帰ってからだ。」
男性がりょーたろとソルの方を向いた。
男性が二人に向かっておじぎをした。
「ありがとう。ルナを守ってくれて。感謝します。」
りょーたろが男性に向かって言った。
「すみません。こんな遅くまで大事なお嬢さんを。」
りょーたろが頭を下げた。
「なんで謝るんだよ。おれたち、悪いことなんかしてないじゃんか。」
「いいから、お前も頭下げろって。」
りょーたろがソルの頭を無理矢理下げさせた。
男性が二人を見て、言った。
「頭を上げてください。原因はこっちにありますから。」
「そうだよ。りょーたろさん、私が悪いんだから。」
「すみません。」
それでもりょーたろは謝っていた。それを見ていて、ソルもバツが悪くなって、謝った。
「す、、すみません。」
「いえ。本当に。こちらが。」
男性も頭を下げた。それを見て、ルナが腰を折りながら言った。
「私がごめんなさいです。本当にもうみんな謝らないで。」
それを見て、りょーたろがわずかに笑いだした。
男性もソルもつられて笑いだした。
「では、すみませんが、失礼します。」
男性がそう言うと、ルナを車に乗せようとした。
「りょーたろさん、ソルさん、本当にありがとう。」
ルナが乗ると、ゾディアックという意味である13個の星座マークが描かれたイオンクラフト車は走り去っていった。
白いスーツの男が何者かと通話をしていた。
カメラを前に白いスーツの男が頭を下げていた。白いスーツの男の後ろには”UR”と書かれたロゴが壁に描かれていた。
「申し訳ございません。今週分はもうじき集まる予定ですので。」
「いつもより時間がかかっているようだな。私に頼むな、と言いたいのかな。まあ、代わりならいくらでも、、、」
「いえ。そんなことは。必ずや。必ずや期日内にそちらにご要望数を揃えてお送りいたしますので。」
画面に『RM(SOUND ONLY)』と書かれた者が、白いスーツの男がいる部屋の天井に設置されたカメラで、白いスーツの男を見ていた。
そして、その者があることに気づいた。
「おい!お前の画面に表示されている男。それは何者だ!」
「あっ、これは、いえ、なんでもございません。総長にお見せするようなものでは。。。」
「いいから答えるんだ!お前の判断など聞いていない。見せろと言われたら見せぬか!ウインドウを上に向けろ!!」
「はっ!申し訳ございません。」
そういうと、白いスーツの男が両手でウインドウの両端を摘まみ、反転させ、天井のカメラに正対するようにウインドウを持ち上げた。
そのウインドウには遊技場でアンドロイドと格闘しているソルが映し出されていた。
「その男。どこで?」
「はい。最近、私の縄張りで少し問題を起こしている不届きものがおりまして。
ですが、ご安心ください。すぐに排除しますので。」
その話を聞きながらRMという男が記憶の中からその男の名前を思い出した。
「ソル柊。」
「はい?」
「ソル柊。その男の名だ。お前はそんなことも調査できんのか!」
「ソル柊ですか?」
RMという男が大きくため息をついた。
「つくづくお前には失望させられる。
その男。RM財団、レミ柊の息子だ。間違いない。」
「えっ?RM財団、、、S2機関のRM財団ですか?」
「他に何がある!
お前、そいつには絶対に手を出すな。
お前の手に負える相手ではない。分かったな!!」
「。。。」
「分かったのか!?と聞いている!!」
「はい。もちろん、分かっております。承知いたしました。」
白いスーツの男はすでにソルから部材の取り上げをしていたことを伝えられなかった。
白いスーツの男は呼吸が荒くなっていた。
その様子をRMと書かれた男が見ていた。
「まあ良い。はやく物資をこちらによこせ。もう幾ばくもないぞ。」
通信を切ろうとしたRMと書かれた男が捨てゼリフのように言った。
「もちろんお前のやっていることはお前が勝手にやっていることだからな。分かっているな。」
呼吸の荒い男が素早く頭を下げながら言った。
「ははっ。承知しております。」
通話が終了して、白いスーツの男が大きく息を吐いた。
「こいつが、RM財団の?」
ゾディアックのマークを付けたアンドロイドがバロック様式の大きな扉を開いた。
「ご主人様、おかえりなさいませ。」
「うむ。今、戻った。」
「ただいまー!」
玄関から入った大広間には美月小林、ルナの母親が立っていた。
母親は父親とルナの帰りを見届けた後、すぐに奥の部屋に入っていった。
「ママ、待って。話をさせて。」
だが、母親の閉めた扉はすでにロックがされていた。
ルナが手をかざし、ロックを解除しようとしたが、解除できなかった。
ルナが扉を叩きながら言った。
「ねえ、ママ。話をさせてよ。
出ていって、ごめんなさい。心配かけて、ごめんなさい。
ねえ、ママ、ママ。」
父親が扉の前のルナのところに来て言った。
「ママはまだ整理ができてないんだよ。心配はいらない。
今日はもう遅い。ルナも自分の部屋に行って、ゆっくり休みなさい。
明日からまた学校だからね。
あと一週間もしたら夏休みだ。
しっかり勉強もするんだ。いいね。」
ルナは父親の顔を見て、小さく頷いた。
ルナは数日、学校に通っていた。
なぜだか周囲はルナが休んでいたことを全く聞きに来なかった。
だが、ルナはそれどころではなかった。
いつまで経ってもルナは母親と話ができずにいたからだった。
そして、とうとう終業式が終わった。
「では、みなさん、よい夏休みを!」
「よい夏休みを!」
いつも話している3人の友達がキョロキョロしながらルナのところに寄ってきた。
そして、ルナの前を陣取ったフワッとロングヘアの子が小声でルナに話しかけた。
「とうとう明日だね。大会。レッドデビル様、エントリーされたのかな?見なきゃだね。」
「あ、いーちゃん。。。」
ルナの右側に付いた子が、元気のないルナを気にかけつつも、周囲をキョロキョロ見ながら囁いた。
「噂ではレッドデビル様もエントリーしたみたいだけど。」
ルナは友達がいつものように話しかけてきてくれたことに少し心がホッとした。
「ノッコも良かった、変わりなくて。。。っていうか、エントリーはしてないと思うけど。」
ルナの左側にいる前髪パッツンのペタッとしたロングヘアの友達もまたキョロキョロしていたが、ルナの答えに思わずルナだけを見ながら話しはじめた。
「ルナ、なんでそんなことが分かるのよ。って、もしかしてルナも結構うまかったし、レッドデビル様と繋がってるんじゃないでしょうね!?」
「かしゆみが心配するようなことは全然ないから安心して。」
いつものルナっぽさが出てきて、3人は安心して話し出した。
「えー、ルナ。ちょっと本当なんでしょうね!ホントのこと、教えなさいよ!!」
「ホントだってばー!!」
友達3人の話す声が少しずつ大きくなっていた。
そんな話をしているところに以前突っかかってきていたヒエラルキー女子、麗子 城ケ崎がルナのところに来た。
「ちょっと、ルナさん。よろしいかしら?
まさか夏休みにB-DAI-N.Coのあの方に接触されるなんてことはないでしょうね?」
前回のルナの暴走がまた起こる、そんな予想から回りの友達がちょっと引き気味になった。
だが、ルナは城ケ崎の言葉であの会合後のいろいろが思い起こされて、気持ちが再び沈み込んだ。
「心配なさらずとも。全くありませんから。」
ルナの暗い声に、ヒエラルキー女子が拍子抜けな顔をした。
「あっ、あら?それは残念ですわね。
私はあの『OneYearWar』の大会の最終本戦を見に地球に行く予定ですの。
まあ、あなたのこと、よろしく伝えておきますわよ。
それでは、よい夏休みを!ほほほほ。」
女子が勝ち誇った顔をして、ルナのところを去っていった。
回りにまた友達が集まってきた。
「ルナも大変だね。変なのに絡まれて。。。」
「まあね。」
「っていうか、さっきの話。レッドデビル様と繋がってるって。」
いつもと変わりない友達に僅かだけ気持ちが和らいだ。
「いや、繋がってないしね。」
ルナは心の中で思った。
(ありがとう。いーちゃん、ノッコ、かしゆみ。
あっ、でもごめんね。本当は”RedDevil” 私なんだけどね。)
ソルが真剣な眼差しでグラフを見ていた。
そのグラフの後ろには無数のウインドウが立体的に配置されていて、ほぼ九割近くが『Setting option… Completed』と緑色に表示されていた。
残りはまだ『Setting option…』とだけ、黄色に表示されていた。
「ソルさん、デバイスの設定そろそろですか?」
「あっ、ブライトさん。はい。もう少しです。」
そう話している間にも表示が緑色に変化していくウインドウがあった。
おばあちゃんがソルの部屋にお茶を持って来た。
「ソル、ちょっと休憩でもしたらどう?疲れたでしょ?」
「うん。ありがとう。もうちょっとだけやったら休むよ。」
「無理はダメだよ。」
「うん。分かってる。」
ソルが奥の部屋を見た。アンドロイド数体がどんどんデバイスを作っていた。
その様子をお婆ちゃんが見ていた。
「すごいね、ソルは。部屋を一つ借りきって、こんなことやるんだものね。」
「いや。あの時のお婆ちゃんの笑顔があったからだよ。」
「まあ、嬉しいことゆってくれるね。」
ソルが再びグラフに目をやった。
加速器の突入電流とタキオンに情報を渡す時の臨界エネルギーの設定値に相関がありそうだった。
「これなら部品の個体差があっても、陽子の加速値から設定値を自動で算出できそうだな。」
ソルが小声で独り言を言った時、全てのウインドウが緑色に変化した。
「あっ、ブライトさん。できました。また、そちらのシリアルを偶数でお願いします。」
ソルが再び奥の部屋を見た。
アンドロイドがデバイスを組み上げていた。
最後の行程ではアンドロイドがデバイスにシリアルが貼り付けていた。
そのシリアルの下6桁は製造個数を示しており、その値はすでに3000を越えていた。
次の日の朝、ソルがジャンク屋の二階でまだ寝ている頃、ソルのBCDに着信が入った。
小さな音が骨伝導で体内に響いた。
ソルが目を覚ました。
データ分析の作業中、机に座ったまま寝てしまっていたようだった。
ソルが目を擦りながら、あくびをした。BCDがソルの覚醒を感知し、視神経に着信ウインドウの情報を送った。
(発信元:ルナ小林)
ソルが視野の端を見た。ソルの意識が時間を表示させた。
(AM 6:55)
「なんだよ。こんな朝早くに。」
目線で着信を取った。
「なんだよ。こんな朝早くに。」
着信を取るやいなや、再び同じことを繰り返した。
「私、ルナです。ソルさん。ごめんなさいだけど、またE地区の遊技場、連れてって。」
「え?なんで?またあそこ行ったら、次こそ本気で襲われるぞ。」
「だから、ソルさんにお願いしてるの。また、守ってくれるでしょ?」
「はぁー?お前な。おれはお前のボディーガードじゃねーっつーの。」
「でも、でも、まだ私、ママと。。。」
「なんだよ。まだちゃんと話せてないのかよ。なら、ちょっとゲームすんの我慢しろよ。」
「いや、それが、今日から大会なの!だから、遊技場に行かないといけなくて。」
「だからって、なんでこっちなんだよ。そっちにもあるだろ、遊技場くらい。」
「うん。あるけど、たぶん学校の知り合いも出てるから。顔バレてるでしょ。偽名使うのに。」
ソルは偽名という言葉で、忘れかけていた焦りが突然戻ってきた。
「あっ、あれな。まあ、そうか、そう、、だな。じゃあ、まあ、こっちでやるしかないか。」
ソルは罪悪感から、いや偽名を使ったことがバレてしまうことを恐れて、しかたなく承諾した。
ルナがソルのその言葉を受けて、嬉しそうに言った。
「ありがと。ソルさん、本当に。じゃあ、ごめんなさいだけど、また迎えに来てくれない?」
「今からかよ?」
「あー、えーと、お昼の12時に遊技場で待機だから、まあ30分前くらいには着いておきたいかな。」
「まー、しゃーないな。分かったよ。じゃあ、11時にA地区のこの前のところで。」
「うん。ありがと。」
通話を切った後、ソルの頬に汗が流れ落ちた。
コロニー3基準時間、昼11:25。
ソルがルナを抱えて、ルナの上にシュレディンガーを乗せて、E地区中央通りに繋がる裏通りに着地した。
ソルが物陰に入り、ルナとシュレディンガーを下ろすと、白いヘッドギアを外した。
ソルの赤色に発光した帯が黒色に変化した。
ルナは、この前ソルにプレゼントされた、ダボッとしたジーンズに、コロニー落としのTシャツを着ていた。
やはり胸に位置するコロニーが歪んでいる。
ソルがキョロキョロして、周囲の様子を伺った。
「今のところ、問題なしだな。いいぜ。遊技場に行こう。」
裏通りから中央通りに出て、少し歩き、遊技場に到着した。
遊技場の看板には『OneYearWar 2299 世界大会 予選会場』とホログラム表示させていた。
遊技場の手前ではアンドロイドが大音量で大会開催の旨を知らせていた。
「本日、OneYearWar 2299(トゥトゥナインナイン) 世界大会予選、開催です!!」
それを聞いてか、人がぞろぞろと集まってきていた。
ソルはその様子を見て、意識してかせずか、生唾を飲み込んだ。
<次回予告>
”OneYearWar”の大会に参加するため、E地区中央区の遊技場に足を運んだソルとルナ。
大会を見ようとたくさんの人が集まる。
そして、エントリーしようとするルナ。
その時、ある事件がルナを襲う。
次回 31話、”5、、、4、、、3、、、2、、、1、、、Mark!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!
<ちょっとあとがき>
タキオンコミュデバイスがソルとアンドロイドの手によってどんどん作られています。
その数、1週間で3000個を越える数です。
これ、計算していただくと分かるのですが、1日約400個を越えるペースなんです。
そして、それは約3~4分に1個のペース。
最後のソフト調整をソルが1人でやっているとすると。。。
ソルの体力、集中力のすごさが少し垣間見える数字かと思います。




