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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第29話 : まあ所詮ゲームの大会だろ?

<前話のあらすじ>

ルナは決心をして両親に自分の想いを告げた。

隠れてゲームをしていること。そこで心の繋がりを感じていること。

その心の繋がりが何かとても大事なことに思えていること。

そして、そのゲームの大会に出たいこと。

だが、母親はそんなルナの想いを理解できなかった。

母親はルナを外にも出させず、家で勉強をさせると言い出したのだった。

そんな母親の反応に、ルナは想いを爆発させた。

ルナは家を飛び出し、ソルに連絡をしたのだった。

そして、ソルはルナを迎えに行き、ルナを連れて再び貧困層のジャンク屋に。

ジャンク屋に着き、ルナから話を聞くと、そのゲーム”OneYearWar”の大会エントリーが明日までだと言う。

そこで、ソルはルナをエントリーさせようとするのだった。


 ルナのゲーム大会エントリーについて、ソルとりょーたろ、ルナが話し合っていた。


「でも、出るんだったらさ、お前、そのままの名前で大丈夫か?

 さすがにルナ小林で出たら、それこそなんか問題になったりしないのかよ?」


「まあ、学校の夏休み期間だし、大丈夫だと思うけど。

 でもママが知ったら止められそう。」


「じゃあ、誰かの名前借りるしかだな。。。」


 りょーたろが少し戸惑いの表情を見せた。


「いやっ、偽名はヤバくないか?」


 ソルが斜め上を向いて考えて、何かを閃いた顔をした。


「あっ、いいこと、思いついた!!」


 ソルがルナを見てさらに追加した。


「あー、っていうか、その服装もここじゃやばすぎるし、変えないとだな。服屋にでもいくか!」


 りょーたろが突っ込む。


「おい。ソル。ちょっと、いいことってなんだよ。」


「まだ、な・い・しょ。ほら、服屋!服屋!!急がないと閉まっちまう。」


「おれはまだもうちょっと店あるし、服屋だけ、まずは二人で行ってこいよ。」


 りょーたろの足にシュレディンガーがすり寄った。


「ああ。二人と一匹だな。」


 りょーたろがシュレディンガーを見て、笑った。





 コロニー3基準時間、夕方6:50。


 F地区中央区の古着屋さんにソルとシュレディンガーを抱いたルナが入っていった。


「いらっしゃい!まあ!ソルちゃん。久しぶりじゃない?」


 カラフルなボロ着をうまく着こなしている、細身で艶のある美人が店の奥から歩いて来た。


「ああ、久しぶり。えちごさん、元気にしてる?旦那さんも?」


「ええ、まあ、ぼちぼちやってるわよ。っていうか。」


 えちごと呼ばれた女性がルナをマジマジと見た。


「お嬢さんもいらっしゃい。猫ちゃんも。って、この猫ちゃん、本物じゃない!?」


「はじめまして。ルナと言います。よろしくお願いします。こっちはシュレディンガー。私が飼ってる猫なんです。もちろん本物ですよ。」


 ルナの屈託のないあいさつにえちごは感心しつつ、ソルに言った。


「ソルちゃん、こんな若い子、もてあそんでー。ダメじゃない。」


「もてあそんでなんかねーし。」


 えちごがルナに顔を近づけて言った。


「あなたもこんな冴えないエンジニアに捕まっちゃダメよ。」


「誰が冴えないだよ。」


 フフフとえちごとルナが笑った。


「で、今日はどうしたの?」


「あー、こいつに合いそうな服を探してやってほしいんだよ。」


「あら?プレゼント?ソルちゃんも隅に置けないわね。」


 そういいつつ、えちごはルナを嘗めるように見たあと、回りの服を手に取り出した。


 しばらくブツブツ言いながら、ルナをチラチラ見ながら、何個かの服を取り出してはしまい、取り出してはしまいして、一セットの服を持って、ルナの前に戻ってきた。


「ちょっとビンテージだけど、これなんかどうかしら?」


 ルナには少し大きめのジーンズに、白いTシャツ。


 Tシャツの胸のところには今にも都市にコロニーが落ちそうな絵が描かれていた。


 その風景は微妙にアニメーションをしていた。


「もう200年以上も前のアニメをモチーフにしたTシャツらしいわ。

 初代のブレコン(BCDのこと)を作ったエンジニアも愛用してたって噂よ。」


 その絵を見たルナは一目で気に入った。シュレディンガーを降ろし、服に寄っていった。


「うわー、これ、スキかも!すごく!!えちごさん、センスいい!!

 だよね?ソルさん!」


 その絵にソルが反応した。


「なんでコロニーにコロニーが落ちんだよ。」


 えちごがそれに答えた。


「違うわよ。これは地球。地球の都市にコロニーが落ちてるの。」


 ソルはえちごの話を聞きつつもまだぎょっとした顔をしていた。


「まあ、いんじゃねーか。ちょっと絵が恐ろしいけどな。」


「えー、いいじゃん!!世紀末って感じ。2299年にピッタリ!!」


 ルナがえちごに言った。


「私、これ、気に入りました!!」


 えちごはその言葉を聞き、心から嬉しそうにしているルナを見て、純粋に喜んだ。


「あら、本当?そう言ってもらえると嬉しいわ。じゃあ、一回着てみる?」


「はい!」


「じゃあ、試着室に行きましょ!」


「あっ、本当に着るんですね。」


「あー、そうそう。古着だからね。

 データ移してモーフィングとかはできないの。

 だからそのものを実際に着てみないとね。」


 えちごはその反応でルナがどこの出身か感づいた。


 えちごとルナが試着室に移動し、えちごだけが戻ってきた。


 ルナが着替えている間、えちごがソルに聞いた。


「ソルちゃん、あの子。。。」


「ああ。ちょっと訳あってね。」


「この辺、物騒なんだから、あんな年の子。それに上の子じゃない。一人でいさせたら。。。」


「分かってるよ。ちゃんと見とくって。」


「まあ、ソルちゃんがそう言うなら、いいけど。」


 シュレディンガーが座って、ときおり手を嘗めながら、じっと二人の会話を聞いていた。


 ルナが試着室から出てきた。


 ダボッとしたジーンズに、ピタッとした白Tシャツ。


 今にも大都市に落ちそうな胸のコロニーが、凹凸により、結構歪んでいた。


 えちごが遠慮なく言った。


「あら、すごく似合ってる。それより、ルナちゃんって細いのに、お胸は大きいのね。

 ねえ?ソルちゃん。そう思わない?」


 ソルが少し顔を赤らめて視線を逸らした。


「まあ、似合ってるよ。いんじゃねーか。」


 ルナはソルが素直に誉めてくれたことに少し照れながらも嬉しそうな顔をした。


「えへへ。私、これにします!」


 えちごも嬉しそうに言った。


「まいどあり!」





 コロニー3基準時間、夜8:30。


 その後、二人は度なしコンタクトも購入した。


 ソルの馴染みのラーメン屋「超一蘭」でラーメンを食べた。ルナはそのおいしさに驚いた。


 ラーメン屋で回りの薄汚れた中年おやじたちがジロジロとルナを見ていた。


 ソルが周囲に気を張り巡らせていたが、ルナが中年おやじたちの気持ちを知ってか知らずか、突然ルナから気さくに話しかけ始めた。


「この服、気になるんでしょ!?いいでしょ!これ。

 今日、ソルさんにプレゼントしてもらったの。

 っていうか、この絵。素敵だと思わない?

 ちょっと終末っぽい感じがするし、2299年って感じでしょ!!

 エネルギー感じるよね?でしょ?」


 ルナは臆することなく中年おやじたちの目を見ながら話した。


 中年おやじたちはルナの目を見て、なにか心に波紋が広がるのを感じた。


 そして、その波紋はそれまでのイライラやモヤモヤを落ち着かせた。


 中年おやじの一人が言った。


「ああ、そうだな。その絵、お嬢ちゃんに良く似合ってるよ。」


 中年おやじたちが笑いだした。


 そして、ルナは周囲とあっという間に打ち解けた。


 ソルはその様子に驚いた。


(なんだ?こいつ。おやじどもの心にいとも簡単に入り込んだ?)


 ソルはルナの言っていたことを思い出していた。


「あんな会合で上辺だけ繋がっても世界は良くならないよ。

 コロニー同士でだって、地球とだって仲良くできてないし。

 バカみたいって言われるかもだけど、ちゃんと心が繋がらないと。」


(あながち理想論だけってわけでもないんだな。

 こいつ、こういうのを体現してるからこそか。)


 ソルはルナの持つ天性の協調性を感じ取っていた。





 ソルとルナ、シュレディンガーがジャンク屋に戻ってきた。


 りょーたろは店先で店の片付けをしていた。


「ただいまー。」


 ルナの屈託のないあいさつにりょーたろが笑顔で答えた。


「おっ、おかえり。おー、ルナちゃん、似合ってるじゃん、その服。」


「でしょ!!ありがと!!」


「ただいま。また二階、借りるよ。」


「ああ。あとちょっと片付けしたら行くわ。」


 ソルとルナが二階に上がった。


 ソルは鞄からタキオンコミュを取り出し、机に置いた。


 ソルが机の前の椅子に座った。


「何するの?」


 ルナが興味津々で聞きながら、ソルの横の椅子に座った。


 シュレディンガーがルナの膝に飛び乗り、座った。


「まあ、ちょっとな。」


 タキオンコミュからケーブルを伸ばし、BCDに繋げると目線でお婆ちゃんのところに通話した。


 その時、りょーたろが二階に上がってきた。


「なにやってんの?」


 ソルが通話のウインドウをりょーたろとルナに共有した。と同時に、お婆ちゃんが出た。


「あー、ソルかい?どうしたの?」


「もしもし、お婆ちゃん?今、ちょっといい?」


「ああ、さっき、またアンと話をしてたよ。これ、本当にすごいね。」


「でしょ!?お婆ちゃんの喜ぶ顔が見れて、おれも嬉しいよ。

 あっ、でさ、ちょっと話なんだけど。」


「ああ。なんだい?」


「お婆ちゃんとこのアンちゃんのさ、名前を貸してほしいんだよね。」


 シュレディンガーが耳をピクピクさせていた。


「えっ?名前かい?」


「うん。昨日お婆ちゃんのところ泊まったルナがさ、ゲームの大会に出たいんだけど、ちょっと訳あって名前明かせないんだよ。

 それでもし良かったら、お婆ちゃんのところのアンちゃんの名前借りたいなって。」


「ああ、そんなことかい。

 お、ルナちゃんもそこにいるんだね。

 うん。うん。いんじゃないかい。ソルやルナちゃんの役に立てるなら、そのくらいお安いご用だよ。

 アンにはゆっておくからね。心配しなくていいよ。」


「本当?ありがとう、お婆ちゃん。助かるよ。

 あとさ、アンちゃんのアップの写真とかあったら、送ってくれないかな。」


「ああ、分かったよ。さっきちょうどエラーのない綺麗な画像もらったところだよ。

 一番良いのをすぐ送るよ。」


 そう話しているお婆ちゃんの笑顔が本当に嬉しそうで、ソルも心から嬉しく思った。


「ありがとう。お婆ちゃん。助かるよ。」


 そう言うとソルは通話を切った。


「お前、そういうことか。」


 りょーたろが机の上の度なしコンタクトと写真の話で、ソルの思惑を理解した。


「それさ、やっぱ、ちょっとやばくないか?」


「いや、まあ所詮ゲームの大会だろ?いんじゃねーか。」


「でも、規模がさ、、、」


 お婆ちゃんから早速写真が送られてきた。


 アン・ハサウェイがにこやかに笑みを浮かべている写真。大きな目が印象的な写真だった。


「うん。ちょうどいいな。」


 ルナが写真を見ているソルに質問した。


「写真、どうするの?」


「まあ、見てなって。」


 ソルがアン・ハサウェイの写真の目の部分を拡大し、画像処理を始めた。


 それに合わせて、ソルが(アン・ハサウェイ)の名前で何かをサーチする処理も走らせた。


 それらの処理が走っていることが、りょーたろとルナにも見えていた。


 処理を走らせた後、ソルが二階に移動された荷物から両手で抱えるくらいの大きさの箱を見つけだした。


「あった!あった!これこれ。」


 りょーたろはその箱を見て、自分の直感が正しいことを悟った。


「やっぱりか。お前、本気か?」


「そりゃ、そうでもしないと。別名でエントリーなんかできないだろ?」


「まあ、そうだけど。」


 りょーたろの心配をよそに、ルナが興味津々でソルに聞いた。


「その箱なになに?」


「これか?これは立体スキャナプリンタだよ。

 立体物の表面にいろんなものをプリントできる。

 例えばおれが着てる服。この服には人工筋肉繊維とか、液体鉄鋼とか、アンテナ材料とかがプリントされてるんだ。

 まあ、物に機能を付与できるってことだ。」


 ソルはそう言いながら、買ってきたコンタクトを全てその中にセットした。


「例えば、このコンタクト。このコンタクトに、、、」


 BCDの画面に画像処理完了の表示が出ていた。


 ソルはその画像処理結果ファイルを摘まんで、箱のコントロールユニット部分に移動させた。


「この結果をいれて、印刷スタート!」


 箱の中で何かが印刷されている音がしたかと思うと、ものの数秒で(完了)とコントロールユニットに表示された。


 ソルは箱を明け、おもむろにそのコンタクトを自分の目に装着した。


「りょーたろさん!」


「ああ、分かったよ。」


 りょーたろが手に持っていた決済用の個人認証ユニットでソルの目をスキャンした。


 ソルの装着したコンタクトには超小型ナノベアリングによるポンプ、そして人工血管、人工血液、体温発電ユニットが作られていた。


 人工血液の中には、ハッキングで探しだしたアン・ハサウェイの健康診断情報から遺伝子情報が入力されていた。


 もちろん、その血液が流れている血管の構造も本物そっくりに作り込まれていた。


 個人認証ユニット経由でりょーたろのBCDに表示がされた。りょーたろがそれをソルとルナに共有した。


(個人認証完了:アン・ハサウェイ)


「完成!!今まさにコンタクトにアンちゃんの個人データが読み取れるように機能付与したんだ。

 これ着けて、出りゃいい。

 まあ、年齢が見た目と違うのは、テロメライザーのせいにしとけばいいんだよ。」


「え?個人認証まで?すっご!!」


 ルナが驚きつつも、目をキラキラと輝かせていた。


 りょーたろがどんどん進行させるソルを諭そうとした。


「いや、でもやっぱりだな。まずくな、、、」


「じゃあ、あとはエントリーだな。ルナ、サイトに入れよ。」


「うん。分かった。」


 ソルが席を代わり、ルナが中央の席に移った。


 そして、ルナがBCDのウインドウを二人に共有した。


 シュレディンガーが机に登って座った。


 ソルはルナがエントリーをしている横で、ルナの画面を見ていた。


『OneYearWar』のサイトは3Dサイトで2D表示だったウインドウが3Dになった。


 ルナが宙に浮かぶ大会エントリーをクリックした。


 画面が地域選択に切り替わり、地球や月、火星、コロニー1、コロニー2、コロニー3など区域に分けられて表示された。


 ルナはその中からコロニー3を選択した。


 ソルがエントリー数を見て、驚いた。


「え?コロニー3だけで25万人エントリー?プレイヤー、、、そんなにいんの?」


「ゆったじゃん。全世界10億人がやってんだよ。

 コロニー3は住居コロニー500基分。約5億人だからな。

 そのくらいいてもおかしくない。」


「っていうか、そんなデカイ規模なの?この大会。。。」


 ソルが少し罪悪感を感じだした。


<次回予告>

着々と進行するゲーム大会のエントリー。

ルナに偽名を使わせるも規模の大きさに罪悪感を感じだすソル。

それからソルは通信機器の開発、販売を、ルナは学校生活をそれぞれ暮らす。

そして、とうとう大会当日!!

その時、ルナがソルに連絡を入れてくる。あるお願いをするために。

次回 第30話 ”本日、OneYearWar 2299(トゥトゥナインナイン) 世界大会予選、開催です!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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