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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第28話 : 人生500年もあるんだよ。

<前話のあらすじ>

ソルはお婆ちゃんの家族がいるエンケラドスとのタキオンコミュ通信、0時間通信を成功させた。

喜ぶお婆ちゃんや家族にソルもりょーたろも満更でもない気持ちになっていた。

ソルの視点を借りて、その様子を見ていたルナ。

ルナは心の繋がりの大事さを改めて感じ、その想いを両親に伝えようとするのだった。



 コロニー3基準時間、夕方6:00。


 玄関から奥の大広間にレイモンド小林が歩いて入ってきた。少し後ろには美月小林もいた。


 レイモンド小林が、画面は他の人からは見えていないが、新型BCDのコンセプトについて通話相手に改善指示を出しているようだった。


 ルナの母親は装飾品を外しながら、衣服を少しタイトなドレスからゆったりとした室内用の衣服にモーフィングさせていた。


 そこにルナが出てきた。


「パパ、ママ、おかえりなさい。」


 指示を出し終えたレイモンドがルナの方を見た。


「ああ、ルナもおかえり。大丈夫だったかい?」


「うん。心配かけて、ごめんなさい。」


 レイモンドは少しルナを見て、言った。


「いや。お前が無事ならそれでいい。もうあまり心配はかけないように。」


 だが、そこに母親が口を挟んできた。


「もうパパはルナに甘すぎます。」


 そう言うとルナを見て話し出した。


「ルナちゃん。あんなところにはもう二度と行かないでちょーだい。

 何度も言うけど、あなたは大事なゾディアックの跡取りなんですからね。

 どこの馬の骨とも分からない、所詮ベーシックインカムに頼ってしか生きられないような人たちとなんて会わないの!

 それに、あんなゲームなんて許しません。

 あんなのは訳の分からない下流の者たちが集まってるだけなのよ。

 もう不潔きわまりない。

 あんなので知り合って、、、」


「もうやめて!!」


 ルナが叫んだ。


「あの人たちを悪く言うのはやめて!!

 そりゃ、怖い思いもしたよ。

 でもソルさんやりょーたろさん、あそこに住んでるお婆ちゃんはすごく良い人たちで、お互いのことを尊敬して、思いやって、そうやって生きてるの。

 そんな人たちのことを悪く言うのはやめて!」


 ルナの言葉を聞いて、ルナの母親が驚いている。今にもへたりこみそうな様子だった。


「それに私はあのゲームを通して、人との繋がりを感じているの。

 ママには悪いけど、私を色眼鏡なしで一人の人として見てくれるのは、誰でもないあのゲームで共に戦っている人たちだし、一緒に何かを成し遂げようって、そんな心の声が聞こえる。」


 ルナが自分の掌を見ながら続けた。


「その人たちの人生が一瞬見えたりするの。

 楽しいことも、苦しいことも、悲しいこともいろいろ。

 それぞれがそれぞれの想いを持って生きてる。

 それを分かち合える瞬間がそこにある。

 その時、私は生きてる意味を感じるの。

 そんな瞬間がそこにはあるの。

 私はそれが大事な何かなんだって感じてるの。」


 ルナの目から涙がこぼれ落ちた。


「もちろん勉強だってする。

 今まで以上にいろんなことを学んで、もっといろんなことを知って、新しいものを産み出せるようになりたいって思った。

 それはママがダメだって言ったあそこで生きてる人たちを見て思ったの。」


 ルナが真剣な眼差しで父親と母親を見た。


「それと、1つだけ、お願いがあるの。

 今度、ゲームの大会がある。それに出させてほしい。

 私の本気を見てほしいの。

 今まで隠れてやってたけど、これからは隠さない。

 全部、本気でやりたいの。

 だから、だから、お願いします。」


 ルナが頭を下げてお願いした。


 レイモンド小林の厳しかった表情が穏やかになっていた。母親は涙を流しながらルナを見ていた。


「分かったわ。ルナちゃん。」


 ルナが少しホッした顔をした。


「ママ。じゃあ。」


 母親が一呼吸いれて話し出した。


「ルナちゃん。あなたはこれから学校にもやりません。

 家に先生を呼んで勉強をさせます。

 あなたは騙されてるのよ。

 あそこの人たちはあなたがお金持ちだから、それを利用しようとしているだけ。

 騙されてはダメよ。

 それにゲームなんてものは絶対にダメ。

 あなたがきちんと更正するまで、私の監視下にいさせます。」


 レイモンド小林は妻の言葉に驚いていた。


 ルナは驚きの表情に変わり、大粒の涙を流しながら言った。


「もうママのバカ!あの人たちはそんな人たちじゃない!!

 悪く言うのはやめて!

 もうママとは話したくもない!!」


 そう言うとルナが屋敷から出ていってしまった。


「ちょっとあなたたち、ルナを捕まえ。。。」


 ルナの母親がアンドロイドに指示を出そうとしていた。


 だが、父親が母親の腕を掴んだ。


 そして、母親の方をじっと見ていた。





 お婆ちゃんの家からジャンク屋に帰る車の中で、ソルが嬉しそうに口座の入金履歴を見ていた。


(入金 70,000Circle)


「お前な。見すぎだっつーの。」


 嬉しそうなソルの顔を見ながら、りょーたろも満更でもない表情だった。


 ソルがりょーたろに向かって言った。


「でも、本当にお婆ちゃん嬉しそうだったよね。それが何よりも嬉しかった。」


「確かにな。技術屋ってああいうところで報われるよな。やっぱり。やってて良かったって。」


「そうだよね。もうあのお孫さんの笑顔も最高だったし。これからも頑張ろって本当に思った。」


「そーだな。」


 そこにルナからの連絡がソルに入った。


「はいはい。どうしたよ。うまく。。。」


「うあーーーーーーん。。。」


 ソルには明らかに大号泣しているのが分かった。ソルがりょーたろにも音声を共有しつつ、答えた。


「おいおい。どーしたよ?」


「うあーーーーーん。あだぢ、おぼったこと、ヒック、つだえだのに、ヒック、ま、ま、ママが、ぜんじぇん、どりあっでもくれながっだ、のー。」


 ソルが困った顔になった。


「えっ?じゃあ、大会も出られないの。。。」


「でらでないよ。ごんなんじゃーー。

 うあーーーん。もうどうじだらいいのが。わがんだいよ。もーー。」


 ルナの話し声の裏で、何か外にいるような音の伝わり方を感じた。ソルが聞いた。


「っていうか、お前、今、どこにいるの?」


 ルナが涙と鼻水を滴しながら、周囲を見た。


「だぶんAぢぐのじゅうおうふんずいのばえ」


「分かったよ。もうそっち行くから。ちょっと待ってろよ。」


 通話を切って、ソルがりょーたろに言った。


「はー。りょーたろさん、ごめんけど、またあいつ連れてくるかも。」


 少し鼻で笑いながらりょーたろが何度もうなずいた。


「ああ。わーってるよ。」


 ソルが腰のボタンを押し、白いヘッドギアを腰の後ろから出して、装着した。


 腰に付いた小さいボックスに(カラーリング999)と表示が浮かんだ。


「じゃあ、行ってくるよ。」


 そういうと、ソルがジャンク屋に向けて走っている自動車のドアを開き、ダンっと飛び立った。


「おいおいおい!!」


 ソルが飛び出した反動で車が傾き、りょーたろが何とか車の姿勢を取り戻した。





 コロニー3基準時間、夕方6:15。


 A地区の中央区。キレイな噴水がある公園のベンチにルナが座っていた。


 ジョギングをする老人夫婦がルナを横目に通りすぎている。


 そこに猫が一匹ルナの足元に現れた。


「あっ、ジュレディンガー。。。ぎでぐれだの?

 あんだだけだよ。あだじのごど、ちゃんど見でぐれでるのは。ありがど。」


 そういうと、ルナがシュレディンガーを抱きかかえた。


 その時、中央公園に繋がっている道路を赤い線が過ぎ去って行った。


 かと、思うと赤い線が再び戻ってきて、公園内に入ってきた。


 その線はやがて大きくなり、ルナを通り越し、木の裏に入っていった。


 そして、木の裏から濃い藍色のつなぎを着た一人の男が出てきた。


 そして、その男がルナの前に歩いていく。


 シュレディンガーがその男に気づき、ルナの膝から飛び降りて、その男の方に歩いていく。


 男は足元に来た猫の頭を撫でながらルナに近づいていった。


 ルナの目に藍色が飛び込んだ。ルナにはその色に見覚えがあった。


 夏仕様の気象のため、コロニー中心軸の光がまだ眩しく、ルナは目を細目ながら、見上げた。


「あっ、ゾルざんっ!」


 ソルが頭を掻きながら周囲を見ていた。


「お前な。もう泣きやめよ。」


 ソルがハンカチを差し出した。


 ルナがまた泣き出しそうな顔で、ソルの差し出したハンカチを手に取り、涙を拭いた。


 ルナは涙を拭いたそのハンカチで思いっきり鼻をかんだ。


 ソルがその行動に驚いていた。


「ありがど。ゾルざん。。。」


 ルナがハンカチを返してきた。


「あっ、おっ、おう。」


 ソルがハンカチを人差し指と親指でつまみ、繋ぎの太ももポッケにしまった。


 ソルが周囲の気配に気づいた。


 物陰からルナを見ている何体ものアンドロイドに気がついた。


「って言うか、めちゃくちゃ見られてんな。まあ、しゃーねーか。」


 ソルがルナの手を取った。


「ちょっと、行くぞ!!」


 ソルがルナの手を引っ張って、先ほどソルが現れた木の影に入った。


 アンドロイドが木の影に駆け寄ろうとした。


 その時、赤色のつなぎを着た白い仮面の男がルナを抱き上げて、ルナの上にはシュレディンガーを乗せて、飛び去っていった。





 コロニー3基準時間、夕方6:25。


 白い仮面の男がルナを抱き上げ、その上に猫を一匹乗せて、ジャンク屋の店の前に降り立った。


 白い仮面の男がルナと猫を降ろして、ジャンプし、ジャンク屋の二階に飛び込んだ。


 りょーたろが音を聞いて、店から出てきた。


「ルナちゃん、いらっしゃい。」


「りょーたろさん。」


「少し落ち着いた?」


 りょーたろの足にシュレディンガーがすり寄る。


 りょーたろがシュレディンガーの喉を指で撫でると、シュレディンガーがゴロゴロ喉から音を立てていた。


「話したけど、ダメだったの?」


 りょーたろがシュレディンガーを撫でながら、ルナの方を見ていた。


 コクッと頷くルナ。


 店からソルが出てくる。つなぎはすでに深い藍色になっていた。


「まあ、一回や二回くらいダメだったからって諦めんなよ。」


「でも、大会の受付が明日までなの。。。」


 りょーたろがふとRedDevilが大会で活躍するシーンを思い浮かべて答えた。


「えっ?そうなの?」


 ソルは何食わぬ顔で答えた。


「そんなに出たいのかよ。大会。」


「うん。。。」


 ルナがまた泣きそうになる。


「だって、私の大切な繋がりなんだもん。ただのゲームじゃないんだよ。私にとっては。。」


「はいはい。分かったから。もう泣くなよ。」


 両手を前に出して感情を押さえろよと言わんばかりの仕草でソルが言った。


「ママがあんなこと言うんなら、私、学校なんて行かない。」


「お前な。親に何言われたのか知らないけど、そのくらいでそんなこと言うなよ。」


「でも、ママは全然分かってない。」


「お前も分かってないじゃん。もっとちゃんと親と話し合うべきだぜ。」


 りょーたろが笑った。


「それ、お前が言うかよ。」


「だって、こいつが。」


 鼻から息を吐いて、りょーたろがルナに話をし始めた。


「ルナちゃん。まあソルの言うことも正しい気がする。もうちょっと頑張って、根気強く話してみた方がいいんじゃない?

 あー、それとさ、数日くらいガッコ休むのはいい。でも学校はやめない方がいい。

 今の世の中じゃ少なくともちゃんと大学くらいは出とかないと。


 まあ、こんなところにいるおれやソルが言うのもなんだけど、ルナちゃんはまだ世界を知らない。世の中には知らないことがたくさんある。

 人間だって、最近じゃアンドロイドですら、変なやつだって、面白いやつだって、いろんなのがいっぱいいる。

 そういうのも含めて勉強しておくってのも悪くないよ。


 そこからやっぱりつまんなかったら自分の好きなことやるもいいし、何かから距離置くのもいいし。それはルナちゃんの自由だ。


 人生500年もあるんだよ。

 そりゃ、辛いことだって、面白くないことだってある。

 でも、その中で自分が生きる、生きていきたい道を選ぶためにいろんなことを今のうちに勉強しておくのも大事だとおれは思う。


 まあ、ダメだったとしてもさ、ベーカム(ベーシックインカム)あるんだし、ソルもいるし、おれもいるし。なんとでもなると思うよ。


 こんな世の中だけど、ある意味、保険の効いてる挑戦し放題な世の中なんだよ。今は。」


「いつになく語るじゃん。」


 ルナは少しうつむいて考えていた。


「。。。うん。。。うん。

 なんだろ。りょーたろさんやソルさんの言葉だとそんな気もするような。。。

 分かった。家に帰ったら、もうちょっとだけ話してみる。」


 りょーたろとソルの顔が少し和らいだ。しかし、ルナはまだ困り顔のままだった。


「でも、大会のエントリーが。。。」


 ルナの言葉にソルがズバッと切り込んだ。


「そんなに出たけりゃ、勝手に出りゃいいじゃん、そんなの。」


「勝手にってゆったって、未成年者は保証人が必要なの!!」


「保証人?それって親じゃないとダメなのかよ?」


「あっ、そうか。成人してればたぶん大丈夫。」


「はは。じゃあ、おれがなってやるよ。出たいんだろ?その大会。」


「本当に!?」


 ソルの足元にすり寄ってきたシュレディンガーをソルが抱き上げた。


 そして、ソルはシュレディンガーに向かって話した。


「なあ、いいよな?別に。」


 ソルに抱き上げられたシュレディンガーがやさしく「にゃー」と鳴いた。


 ソルがりょーたろとルナを見て、言った。


「シュレディンガーがいいってさ。」


「ソルさん、ありがとう。うれしい。」


 りょーたろがソルに呟いた。


「なんだよ。情でも移ったのかよ?」


「違うよ。あの、その、そう!」


 ソルが遊技場に表示されてあった情報を思い出した。


「本選って地球なんだろ?タキオンコミュのデバッグだよ。」


 りょーたろが横目でソルにツッこむ。


「そんなのエンケラドスとやったじゃん。」


 ソルは少し姿勢を引きぎみにしつつも答えた。


「あれだよ。その。。。そう!地球の地場が影響するのかどうか。。。」


「分かった。分かった。はいはい。」


 ソルは適当にあしらうりょーたろからルナに目線を移した。


「でも、出るんだったらさ、お前、そのままの名前で大丈夫かよ?

 さすがにルナ小林で出たら、それこそなんか問題になったりしないのかよ?」


「まあ、学校の夏休み期間だし、大丈夫だと思うけど。でもママが知ったら止められそう。」


「じゃあ、誰かの名前借りるしかだな。。。」


 りょーたろが少し戸惑いの表情を見せた。


「いやっ、偽名はヤバくないか?」


 ソルが斜め上を向いて考えて、何かを閃いた顔をした。


「あっ、いいこと、思いついた!!」


 ソルがルナを見てさらに追加した。


「あー、っていうか、その服装もここじゃやばすぎるし、変えないとだな。服屋にでもいくか!」


 りょーたろが突っ込む。


「おい。ソル。ちょっと、いいことってなんだよ。」


「まだ、な・い・しょ。ほら、服屋!服屋!!急がないと閉まっちまう。」


「おれはまだもうちょっと店あるし、服屋だけ、まずは二人で行ってこいよ。」


 りょーたろの足にシュレディンガーがすり寄った。


「ああ。二人と一匹だな。」


 りょーたろがシュレディンガーを見て、笑った。


<次回予告>

ルナを”OneYearWar”の大会にエントリーさせようとするソル。

偽名を使うため、衣装やあるアイテムを揃え、いざエントリーへ。

その時になって、ソルがそれが大事(おおごと)だと知るのだった。

次回 29話 ”まあ所詮ゲームの大会だろ?”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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