第27話 : 我々にとって光はあまりにも遅すぎる
<前回のあらすじ>
りょーたろとソルはルナを富裕層地区に送り届けようとしていた。
その途中、通りかかったE地区中央区。そこにある遊技場。
ルナはりょーたろに車を止めてもらい、遊技場内で”OneYearWar”をプレイしはじめた。
ところが、そこに黒いスーツのアンドロイドが4体現れ、ルナを連れていこうとする。
そのアンドロイドはこの地区を牛耳るマフィアのものだった。
慌てて助けるソル。
ソルは、シュレディンガーやりょーたろの助けも借り、4体のアンドロイドを撃退することに成功した。
そして、無事ルナを富裕層に送り届けることができたのだった。
「こんな超大玉を逃がしたなんて、あなたたち、これ、どうするつもりなんですかね?」
白いスーツの男が椅子に座り、足を机に放り出していた。
右手にはレーザー銃を持ち、銃口で自分の肩を軽く叩いていた。
その男の左右には屈強な体躯のアンドロイドが並んでいた。
机の前で三人の男が土下座をしている。
その三人のうち、真ん中の男が顔を上げ、慌てて弁明した。
「お言葉ですが、思った以上に護衛が強力でして、その一人の男が我々の兵4体を。。。」
白いスーツの男が、机の上に表示されたアンドロイドの記録映像を見ていた。
しばらく観たのち、白いスーツの男が足を下ろし、ガタッと立ち上がった。そして、静かに言った。
「あなた、ゾディアックホールディングスくらい知ってるでしょ?
そりゃ強力な護衛の一つや二つくらいあって当然です。
そのくらい頭を使ってください。
そんなことも考えられていないということ自体があなたの失態なんですよ。」
そう言いながら、白いスーツの男が机の前に歩いてくる。
少し頭を上げかけていた三人は再び額を床につけて、土下座した。
白いスーツの男が三人の前まで来ると、真ん中の男の頭を右足で踏みつけた。
「というか、なんで最初からこちらに伝えなかったんです?
あなた、もしかして私にダマって。。。」
すぐさま真ん中の男が言った。
「いえ。そんなことは決して。。。」
三人の男の呼吸が荒くなった。
白いスーツの男が右足を頭から退け、見下しながら言った。
「顔を上げなさい。」
三人が顔を上げた。
それを見て、白いスーツの男が真ん中の男に再度聞く。
「あなた、私を騙そう、なんてしてないですよね?」
真ん中の男の声が震えていた。
「はい。そ、そんなことは、ぜ、絶対に。。。」
白いスーツの男のBCDを介して、赤い文字が視界の隅に表示された。
白いスーツの男が真顔になった。
次の瞬間、白いスーツの男はレーザー銃を真ん中の男の額に当てた。
「あっ、あっ、おゆる、、、」
言葉が終わる前に、男の後頭部から光が走り、その先の壁に当たり、壁の一部が溶けた。
真ん中の男は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
何かが飛び散ることはなかったが、崩れ落ちたそれからは赤い液体が流れ出ている。
その横で、震えながら残り二人が額を床に擦り付けていた。
白いスーツの男が机の向こうに戻りながら、崩れた操り人形の右手側の男に言った。
「今からあなたがあなたの組のNo.1です。
もうこれ以上、この慈悲深い私を失望させないでください。」
白いスーツの男の周囲にいたアンドロイドが崩れ落ちた人形の胸に何かを貼り付け、脇あたりに注射をした。
その後、すぐに人形を運び出した。
白いスーツの男が机の上に映された戦闘映像の中にソルの顔を見つけた。
その顔をじっと睨み付けて言った。
「また、こいつですか!」
コロニー3基準時間、午後5:00。
夏季のため、まだ回転中心軸からの光は真っ白で擬似的に見える空は青々としていた。
ただ、夕方であっても、コロニーの当たり前のこととして、光は真上から照射されていた。
ルナを送り届けた後、りょーたろは店に戻り、ソルは再びお婆ちゃんの家に行っていた。
夕方、りょーたろが少し早めに店を切り上げ、お婆ちゃんのところに来た。
「お婆ちゃん、こんにちは。まだソルいる?」
「ああ、りょーじ?だったっけ?ソルならまだ奥にいるよ。」
「はは。りょーたろだよ。りょーじはおれの大伯父さん。」
「ああ、ごめんよ。りょーたろ。さあ、中に入った、入った。」
りょーたろが、まだデバイスの前でじっと構えているソルを見て言った。
「おー、ソル。もしかして、まだ向こうできてないのか?」
「あ、りょーたろさん。ううん。もう向こうのデバイスは出来てるよ。
で、今はちょうど向こうで陽子に与えるエネルギーを少しずつ上げて、こっちに情報飛ばす処理中なんだ。
良い条件のところがきたら、こっちに情報が送られてくるはずなんだけど。」
「投入エネルギー量なんて、お前のデバイスと同じ設定にすりゃいいじゃん。
わざわざエネルギーを上げていかなくても。」
「いや。それがダメなんだよ。
これ、ギリギリ負界のゲート開くかどうかのところに調整しないといけないからさ。
加速ユニットの個体差に合わせないと大変なことになる。」
「そういや、この前、このデバイス、S2機関と構造はほぼ同じって。」
「うん。間違えてゲート開いちゃったら、、、たぶんコロニーごと持っていかれちまう。もう大爆発だよ。」
りょーたろがソルの言葉を聞いて、こめかみあたりに汗をたらし、顔をひきつらせていた。
「ヤ、ヤバそうだな。。。
あー、そういや、S2機関の爆発って、うちの大伯父さん。
何かそういう爆発に巻き込まれて死んじゃったって聞いたことあるわ。」
「本当?うちのじいちゃんも友達をそんな事故でなくしたって聞いたことあるよ。
なんか奇遇だね。」
そんな話をしている時に、急にソルの目の前のデバイスが光った。
そして、ソルのBCDに着信メッセージが入った。
(Hello Tachyon World! 送信者:ブライト・ハサウェイ)
「来たっ!」
即座にソルがBCDを通してキーボードを出し、コマンドを打ち込んだ。
すると、ソルの目の前のタキオンコミュデバイスが再び光った。
その後、すぐに返答が返ってきた。
(setting input energy. stopped TachyonCommuAdjuster.exe)
「フー、ちゃんと止まってくれたみたいだ。通信できてる。よし。」
ソルが屈託のない笑顔で立ち上がり、お婆ちゃんを呼んだ。
「お婆ちゃん、ちょっとこっちに来てくれない?」
手前の部屋ではお婆ちゃんが、エラーだらけで顔もよく見えないエンケラドスの家族画像を見ていた。
「はいはい。ちょっと待っておくれよ。」
そう言いながらお婆ちゃんが奥の部屋に入ってきた。
その間に、ソルが目線と思考でルナにメッセージを送った。
(今からお婆ちゃんとこでタキオンコミュの通信テストやるぜ。)
(えー、行って見たいのに。)
(あんなことがあったんだ。そりゃさすがにだろ?
その代わり、おれの視点、共有にしているから見てみろよ。)
(うーん。確かに。まあ、しようがないか。
分かった。ありがと。じゃあ、見てるね。)
ソルの視点にルナが乗ったことが、ソルの視界に表示された。
お婆ちゃんがソルのところまで来た。
「お婆ちゃん、これ、ちょっとブレコンに繋いでみて。」
「はいはい。」
りょーたろがソルの横の椅子から立ち上がり、ニコニコ笑っているお婆ちゃんを座らせる。
「で、繋げるってどうやるんだい?」
「ああ、やってあげるよ。」
ソルがタキオンコミュデバイスから出ている細いケーブルをお婆ちゃんのBCDに繋げた。
そして、ソルがお婆ちゃんに言った。
「じゃあ、エンケラドスにいる。息子さんに連絡してみて。」
「はいはい。連絡すればいいのかい?」
「うん。」
お婆ちゃんが目線で電話帳から息子をピックし、電話をかけた。
しばらくすると、電話が繋がった。
「もしもし。母さん?」
「もしもし。え?ブライトかい?本当にブライトなのかい?」
「本当に母さんなんだね。」
すると、ソルが笑顔でお婆ちゃんに言った。
「繋がった?動画にしなよ。」
お婆ちゃんが驚いた顔で横のソルを見た。
「動画もできるのかい?」
ソルが笑顔で頷いた。
お婆ちゃんが目線で動画に切り替える。
エンケラドスの居住区。
コロニー3-104のタキオンコミュデバイスにはカメラが取り付けられていた。
そのカメラに撮された老婆リタ・ハサウェイの姿が、ブライト・ハサウェイのBCDを通して、ブライト・ハサウェイの視界前方に映し出された。
ブライト・ハサウェイの顔が歪む。
ブライト・ハサウェイが見る映像が滲んでいた。
おもむろにブライト・ハサウェイは後ろに振り返って大きな声で娘を呼んだ。
「アン、来てごらん。」
小学生になったばかりくらいの女の子が勢いよく走ってきた。
ブライト・ハサウェイはウインドウを娘にも見えるように画面共有処理をした。
お婆ちゃんの目の前にブライト・ハサウェイの顔が映った。
振り向いて娘を呼ぶその顔は幸せそうな笑みを浮かべていて、何かを耐えるように口をつむんでいた。
奥から小さい女の子が走ってきた。
「おばあちゃん!!」
その声を聞いた時、お婆ちゃんの目から涙が溢れ出た。
「ああ、アン。元気かい?」
お婆ちゃんは目を細め、泣いているのか、笑っているのか、分からないくらい顔をくしゃくしゃにして、いろんな話をしはじめた。
ルナがソルの視点を介して、お婆ちゃんの笑顔とも、泣き顔とも思える顔を見て、飛び跳ねて喜んだ。
そして、ルナもお婆ちゃんの涙を見て、涙を流していた。
「良かったね、お婆ちゃん。」
ソルが嬉しそうにお婆ちゃんを見ていた。
ソルもりょーたろも、お婆ちゃんの嬉しそうな言葉で、通信がうまく行ったことを理解していた。
りょーたろがお婆ちゃんの背中越しにソルの腕をちょんちょんと指でつついた。
ソルがりょーたろを見た。
りょーたろが拳を付き出していた。
ソルが笑って拳を合わせた。
その様子に気づき、お婆ちゃんがソルやりょーたろにも画像と音声を共有した。
そして、お婆ちゃんが息子に言った。
「この人がこの機械を作ってくれたんよ。ソルっていうんよ。
で、こっちがりょーじ?じゃないね。えーと、りょーたろやね。
本当にいい人たちでな。」
すると、ブライト・ハサウェイがソルにお礼を言った。
「ソルさん、りょーたろさん、私、ブライト・ハサウェイと言います。
本当にありがとうございます。
こっちに来てからは母ともなかなか連絡が取れなくて、元気にしているのか心配で、心配で。
でも本当に良かった。娘も喜んでいますし。
もう感謝しかありません。」
「いえ。全然。でも、本当にこんなに喜んでもらえるなんて、作って良かった。」
「あっ、というか、このデバイスって何で時間差なく通信が?」
「あー、まあちょっといろいろありまして。。。」
頭を掻きながら、話しにくそうなソルを見て、ブライト・ハサウェイは余計な詮索はやめた。
「あっ、すみません。お互い技術屋。野暮な質問でしたね。」
ブライト・ハサウェイも頭を掻いた。
「あの、これ、他の人にも伝えて良いでしょうか。
きっとここにはこれが欲しい人、ゴマンといると思うんです。
あと、これって、いくらでしょうか。
是非売っていただきたいのですが。」
「えっ?値段ですか?えっと。。。」
ソルは頭の中で少し計算した。
加速器が4個で2万4000、中央ボールの制御部が5000、工賃が5000くらい。
そこに少し色を付けて返答した。
「えーと、5万くらいでどうですかね?」
「えーーーー?」
その反応にソルが焦った。
(やばっ。ちょっと色付けすぎたか?)
小さい声でソルが返そうとした。
「あっ、ちょっとたかすぎ、、、」
「やっっす!!そんなに安いんですか!!あの50万サークルの間違いじゃ?」
大声で驚いたブライト・ハサウェイの横でアンが耳を塞いで、ブライト・ハサウェイを見ていた。
お婆ちゃんも言った。
「ソルはいっつも商売っ気がないんよ。もっと取ってもいいのにね。」
ブライト・ハサウェイが娘の頭を撫でながら言った。
「そうですよ。こんな画期的な商品。
いや、本当に50万でもみんな買うと思いますよ。」
「いや。まあ、いんですよ。あー、その代わり、そちらで部品を集めて、今回みたく、デバイスにするところまで持っていってくれませんか?
その後の設定とかはちょっと危ないので、おれの方でやりますから。
あー、それと勝手に起動しないでくださいね。微妙な調整が必要なんです。
下手すると本当にコロニーごと吹き飛ぶほどの大爆発を起こしかねないんです。
金額はこちらの機器分5万とそちらで作っていただく分は工賃1万として、計6万でいかがでしょうか。」
「えっ?これでコロニーが吹き飛ぶ?はは。良く言っておきます。。。
あー、部品集めて、デバイスできたら、また連絡します。
うちの母経由で連絡でいいですか?」
「あっ、いや。おれもこれ、持ってるんで。おれのアドレス送ります。
そっちにお願いします。」
「分かりました。よろしくお願いします。
あっ、今回の分、そのアドレスに送金しておきますね。
えっと、ちょっと気持ち色付けて7万送ります。
他のやつらにも7万ってゆっときます。」
「えっ?いんですか。そんなに。」
ブライト・ハサウェイがカメラに近づいて言った。
「ソルさん、この技術は本当にすばらしい。
これは宇宙開発にとってこれからきっと必要不可欠なものになる。
今や我々にとって光はあまりにも遅すぎる。
こんな素晴らしい技術にはそれなりの対価が支払われるべきですよ。
と言いながら、全然安い値段で買わせてもらってますが。。。」
ブライト・ハサウェイが苦笑いした。
「いえ。ありがとうございます。」
「いや、本当にこちらこそですよ。本当に、本当に。」
ソルの視線を借りて様子を見ていたルナが言った。
「良かったね。ソルさん。お婆ちゃんも。ホントに良かった。」
その時、玄関の方からアンドロイドの声が小さく聞こえた。
「ご主人様、おかえりなさいませ。」
コロニー3基準時間、夕方6:00。
玄関から続きの大広間にレイモンド小林が歩いて入ってきた。
少し後ろには美月小林もいた。
レイモンド小林が、画面は他の人からは見えていないが、新型BCDのコンセプトについて改善指示を通話相手に出しているようだった。
ルナの母親は装飾品を外しながら、衣服を少しタイトなドレスからゆったりとした室内用の衣服にモーフィングさせていた。
そこにルナが出てきた。
「パパ、ママ、おかえりなさい。」
<次回予告>
心を開き、想いの丈を両親に打ち明けるルナ。
両親はルナの心を理解してくれるのか?
そして、ルナは、りょーたろ、ソルとも会話を交わす。
ルナの心の繋がりであるゲーム ”OneYearWar”。
ソルとりょーたろは”OneYearWar”の大会エントリーの期日が明日に迫っていることを知る。
ソルとりょーたろは何とかエントリーする方法を考えるのだった。
次回 28話 ”人生500年もあるんだよ。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!
<ちょっとあとがき>
今回、りょーたろが大伯父と言った、りょーじという名前の人物。
実はこれは前作”ガロワのソラの下で”に登場した主人公、柊レイの親友だった人物です。
こんな感じでちょくちょく前作を絡めており、そのあたりも気がつけていただけたなら大変光栄です。
いろいろ探してみてください。




