第26話 : 心の繋がりを感じたい
<前話のあらすじ>
ルナが遊技場で”OneYearWar”をプレイしていた。
そこに現れた黒いスーツのアンドロイド4体。
そのアンドロイドがルナを連れていこうとする。
ソルは強化筋繊維が織り込まれたウエアの能力を解放し、アンドロイド4体を退けた。
だが、崩れた瓦礫に埋もれたアンドロイドがソルをレーザー銃で狙っていたのだった。
崩れ落ちるアンドロイドの前で、ソルが右手に振動刀を持ち、仁王立ちになっていた。
ソルの目が赤色に染まっていた。
ソルの額は汗ばみ、肩で息をしていた。
りょーたろの振動刀を受け取って、実に5秒もかかっていない救出劇であった。
回りの人々が驚きで声を失っていた。
だが、最初にソルの蹴りにより壁に激突したアンドロイドが瓦礫の中でレーザー銃を構えていた。
その照準がソルに向けられようとしていた。
その時、ソルが地面に置いた鞄から着信音が鳴り響いた。
ソルはその着信音に聞き覚えがあった。
(タキオンコミュに設定した音だ!でもなぜ?)
瞬間、さっとその鞄の方に振り返った。
まだ帯が虹色に発光しており、かなりの速度での動作だった。
ソルの頭が動いた後、元もと頭があった場所にレーザーが走った。
レーザーはアパートの崩れた壁の中から放たれていた。
ソルは通りすぎるレーザーの熱を感じ、咄嗟にアパートの崩れた壁に向いた。
壁の瓦礫の中からアンドロイドが立ち上がった。
すでにアンドロイドの手のレーザー銃はソルの方を向いていた。
(ヤバイ。。。)
ソルが万事休すかと目を瞑った。
次の瞬間、何か物体と物体が衝突する音、そしてレーザーが発射される音がした。
(あれ?無事か?)
ソルが目を開けると、シュレディンガーがアンドロイドの横に着地し、アンドロイドの腕が斜め上を向いている状態だった。
ソルが急加速して移動しようとした矢先、振動刀がアンドロイドに突き刺さった。
そして、アンドロイドのところどころからバリバリという音と稲光が出て、アンドロイドが振動していた。
「かっ、感電してる?」
振動刀の柄には少し太めの電線がぶら下がっていた。
それをソルが目で追った。
その先には、ちょうど槍のようなものを投げたモーションで止まっているりょーたろがいた。
りょーたろを見たソルの目はまだ少し赤く充血していた。
そして、その時、ソルの頭の中にアンドロイドの声が鳴り響いた。
(あいつは敵だ。殺さなくてはならない。)
ソルの中に憎悪にも似た情報が流れ込んできた。
「なんだ、これ?」
ソルは気持ち悪くなり、目を瞑り、振り払うように頭を振った。
そして、咄嗟に腰のボタンを押した。
すると、虹色に発光していた帯が黒くなり、発光をやめた。
ふっとソルの身体と心の負荷が取り払われた。
その時、ソルが持つ振動刀がちょうどエネルギーを使いきり、自然と灰色のもとの色に戻った。
壁の近くのアンドロイドが膝からガクッと崩れ落ちた。
人々の心が驚きから喜びに色を変え、歓声が沸き起こった。
だが、すぐに歓声が収まり、人々はそそくさと自分達のアパートに戻っていった。
シュレディンガーがソルを見ながら、ソルの足元にすり寄ってきた。
「ニャーン」
シュレディンガーがソルを見ながら一鳴きして身体をブルブルッと震えさせ、次にルナのところにスタスタと歩いて行った。
ソルがシュレディンガーを目で追った後、ソル自身もルナの元に歩いていった。
ルナがシュレディンガーを抱きかかえた。
りょーたろがソルの鞄を拾い上げ、ルナのところに駆け寄った。
「ルナちゃん、大丈夫?」
「うん。ありがとう。私は大丈夫。それより。。。」
ソルがルナとりょーたろの前に来た。
「りょーたろさん、これ、あんがと。それと最後も。本当に助かった。」
りょーたろは細長い棒を受け取り、ボタンを押すと棒が20cmほどになり、それを片付けながらソルに言った。
「この借りは高いぜ!!っていうか、あいつら、本気でお前のこと、殺ろうとしてたな。」
「うん。まさかこんな大勢の前で武器取り出すとは思ってなかった。」
ソルがルナの手に抱かれたシュレディンガーをさすりながら言った。
「お前もあんがとな。命の恩人だ。」
ルナがソルの目を見て言った。
「ソルさん。助けてくれて、ありがとう。身体、大丈夫?それにその目。。。」
「あー、これか。あの虹のやつ、使ったら時々なるんだ。気にするな。」
ルナは自分も”OneYearWar”をやる時にそうなることを言おうとしたが、それを聞く前にソルが話し出した。
「っていうか、お前、警備じゃないって先に言えよ。」
ソルの質問にルナが唖然とした。
「え?私、ゆったよ。警備じゃないって!!」
りょーたろが頷きながらルナに同意した。
「うん。ゆってたな。間違いなくゆってた。」
「ソルさんが聞いてないだけだよ!」
「えっ?そうだっけか?」
が、その時、ソルはふと思い出した。
「そうだ!!着信。。りょーたろさん、ちょっと鞄。」
「おう。」
ソルが自分の鞄をりょーたろから受け取り、タキオンコミュを取り出した。
タキオンコミュから延びたケーブルをBCDに繋げた。
(着信あり。 送信者:ソル柊)
ソルの頭には謎が渦巻いた。
不思議そうに首を傾げているソルをりょーたろが見ていた。
「なんだ?なんかあったのか?」
「うん。着信が。。。」
その時、小さい子供が一人ルナのところに来た。
「ねえ? ”れっどでびゆ”のおねーちゃん!サインちょーらい!!」
子供は白地の汚れた服を引っ張って、そこにサインしてとねだっていた。
「え?サイン?」
「うん。っていうか、おねーちゃん。たいかいでないの?
うちのにーちゃんが ”れっどでびゆ” はさいきょーだから、でたら、ゆーそーするのにって。。。」
子供がそう話していると、その子供の親と思われる人が慌てて来て、その子を担いだ。
「もうどこ行ったのかと思った。早く家に入らないとダメじゃないの!!」
子供を担いだ親がソルたち三人を見て、ひきつった笑顔で会釈して、すぐにアパートに入っていった。
りょーたろが引いていく周囲の人たちと倒れたアンドロイドたちを見て言った。
「おい、おれたちもここ、離れた方がいいかもな。こいつらの仲間が来るんじゃないか?」
ソルも周囲を見渡した。
「そうだな。早く行こう。」
三人と一匹はりょーたろの車に乗り込んで移動を開始した。
コロニー3基準時間、午前11時。真上から照射される光はかなり強いものとなっていた。
りょーたろの車でりょーたろ、ソル、ルナ、そしてシュレディンガーが一緒に、富裕層側の地区に向けて移動していた。
車の中でソルがルナに向かって言った。
「あれ、お前のこと、ゾディアックの子って分かってるな、たぶん。」
りょーたろも同意した。
「ああ。たぶんな。他の健康そうなやつもいたのに、そいつらには目もくれてなかったからな。」
ルナが言う。
「健康そうなやつ?ってどういう意味なの?」
ルナの言葉に対して、ソルが説明しようとした。
「そりゃ、健康なやつの臓。。。」
そこにりょーたろが割って入った。
「あー、ちょ、ちょっ、ちょっと。そんなのはルナちゃんは知らなくても良いんだよ。お前も説明すんなよ。」
ルナが仲間外れ感を少し尖らせた唇で表現しつつ、続けた。
「えー?何で教えてくれないの?っていうか、何で邪魔されないといけないわけ?
私はあそこで普通に心の繋がりを楽しみたいだけなのに。」
ソルが少し不思議がったが、すぐに切り替えた。
「なにとも(なにはともあれ)、まずはお前を家に戻すからな。
たぶんゾディアックのやつらもさっきのあれ、見てたぜ。
それに家でやればいいだろ?
わざわざあんなところでやる必要なんか。」
りょーたろが運転しつつ、横をチラチラ見ながら言った。
「そーいや。ルナちゃんって、本当に『RedDevil』なの?
さっき寄ってきた子も言ってたけど。」
ルナがりょーたろを見た。そして、しばらく沈黙した後、答えた。
「うん。ホントだよ。」
「えーーーーー!?ホントに!!?」
「え?なになに?それってそんなに驚くことなの?」
ソルが不思議そうに言った。
「お前、知らないのかよ!全世界プレイヤー10億人の頂点にして、AIをも打ち倒す天才ゲーマーだぜ!!超有名人だよ。
このコロニーだって噂は聞いてたけど、おれはてっきり男なんだろうなって。
そっか、ルナちゃんが。。。」
「AI打ち負かすって。。。本気かよ?っていうか、じゃあ、余計になんでなんだけどさ。家でやれよ。ゲーム。」
嬉しそうな表情だったルナが少しうつむいた。
「それが、パパとママがもうゲームするなって。ソフトも消されちゃって。
ガッコ休んで経済会合に出席して、それ抜け出して、あそこに行ったから、私が悪いのは認めるけど。」
「あー、この前の!」
ソルが思い出した。ルナがソルを見て続けた。
「そう。あの後、消されちゃって。」
「そりゃ。お前がゲームばっかりしてるからだろ?
ゲームは1日1時間。こりゃ大昔からのルールだぜ!」
「1時間って言われたって1回始めたら終われないよ。仲間だっているし。」
「じゃあ、1日何時間やってんだよ?」
「えーと、だいたい3、4時間。休みの日はもっと。。。」
「なげーよ!」
「だって!」
ルナがまたうつむいた。そして、肩が揺れていた。
それを見て、りょーたろとソルの笑顔が徐々に消えていった。
「だって、あれをやる時だけ、人との繋がりを感じられるの。
何か気味の悪い時もあるけど、それでもみんな一生懸命で。みんな不安も抱えてて。
その時だけなの。仲間を感じられるというか。人の思いを感じられるというか。。。
本当に心が繋がれば、人は分かり合えるはずなんだよ。
何かうまく説明できないけど。」
ルナが顔をあげる。
「今はお金のことなんて良く分かんないけど。
あんな会合で上辺だけ繋がっても世界は良くならないよ。
コロニー同士でだって、地球とだって仲良くできてないし。
バカみたいって言われるかもだけど、ちゃんと心が繋がらないと。
それをあのゲームでは感じられる。
何か、何か良くは分からないけど。。。」
ソルは母親と祖父のケンカを思い出していた。
「父さんみたいに純粋に人の変革を求めたって、人類は変わらない。
父さんや母さんの作ったS2機関でエネルギー問題が解決したってみんなが心を1つにしなかったのだから無理なのよ!!」
レミ柊を説得するように、柊レイが言った。
「それでも。。と言い続けなければなにも変わらない。」
ソルが思い出から戻ってきて前を向いて言った。
「そっか。でもな。金は必要だ。生きていくためにな。
だけど、それだけじゃないっていうお前の気持ちも分かる。
おれも親の財産に頼って生きるのなんてまっぴらだ。
だから、ここにいるしな。」
ソルはルナの方を向いて言った。
「さっきのお前の思い、ちょっと感じるものがあった。
理想論かもしれないけど、それはそれで大事なんだとおれも思う。
ただの金持ちお嬢様じゃなかったんだな。
その思いを一度本気で親に説明してみろよ。」
ルナが口をつむって少しうつむいて何か考えているようだった。
しばらくして、ようやく口を開いた。
「うん。分かった。やってみる。
っていうか、親の財産って、ソルさん、やっぱりRMの。。。?」
りょーたろがにやけて言った。
「おっ!ルナちゃん。さすが!分かってんねー!!そーだよ。ソルの名字は柊。」
ルナがりょーたろを見た後、驚いた顔でソルを見た。
「えー!?じゃあ、レミおばさんの?なんでここに!?」
「驚くだろー!」
「りょーたろさん!余計なこと言うなよ。もうそれはいいんだよ。」
揺れる自動車の中、3人は笑いながら、富裕層エリアに向かって進んだ。
コロニー3基準時間、午前11:30。
3人と1匹を乗せた自動車が富裕層のJ地区を走って、J地区中央駅まで着いた。
貧困層 I地区から富裕層J地区に入るところで検問があったが、ルナの認証で何とか許可が得られた。
富裕層に入るや、それまで揺れていた自動車が静かに走行するようになった。
自動車が駅前に停車した。
全ての車がイオンクラフト式で、りょーたろの車はかなり目立っていた。
そのため、周囲の人、アンドロイドまでもりょーたろの車を何事かと見ていた。
指差す子供に目隠しして遠ざける育児用アンドロイドもいた。
3人と1匹が駅前に降りた。
そこにはすでにゾディアックのイオンクラフト車が2台停まっており、アンドロイドが立っていた。
ルナとシュレディンガーがそれに気づいた。
ルナがりょーたろとソルに言った。
「りょーたろさん、ソルさん。本当にありがと。勉強になったし、嬉しかった。」
りょーたろが頷きながら答えた。
「ルナちゃん、またね。」
ソルが若干言葉に詰まりながら言った。
「おう。。。ま、負けんなよ。」
ルナは目を輝かせて頷いた。
「うん。ありがと。じゃあ、またね。」
ルナが手を振って、イオンクラフト車の方に歩いていった。
<次回予告>
ルナを富裕層エリアに送り届けたソルとりょーたろ。
ソルはお婆ちゃん宅で再びタキオンコミュデバイスの作業に取りかかる。
そして、ついにデバイスが完成する。
そこに具現されるもの。それは技術の先にある人の繋がりだった。
次回 第27話 ”我々にとって光はあまりにも遅すぎる”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




