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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第24話 : 一回家に帰っとけよ。

<前話のあらすじ>

ソルは親しいお婆ちゃんのために、ある通信機器をお婆ちゃんの家族に届けようとしていた。

お婆ちゃんの家族はエンケラドスという土星の衛星の開拓移民で、通信には光速でも往復4時間、しかもノイズが入り、かなりの時間をかけないとうまく通信ができない状況。

それに対して、ソルは新しい0時間通信技術を開発して、それを提供しようとしていたのだった。

そういった一生懸命さがルナの心を動かしていた。

母親と喧嘩して家を飛び出していたルナは再び母親と話そうと決意をしたのだった。



 地球にあるB-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)社内の大型ディスプレイに宇宙空間が映し出されていた。


 赤い機体が縦横無尽に動き回っている。


 回りの機体が小刻みに揺れていた。そして、赤い機体が通りすぎると、その周囲の機体が爆発した。


「損壊率50%」


 管制モニタの前に座っている開発職員が状況を告げる。


「もういい。やめろ!」


 リチャード・マーセナスが中止の合図をした。


「なぜ模擬で作った相手にすら勝てんのだ!動きを予測すれば良いだろう!?」


 その質問に開発職員が答える。


「お言葉ですが、予測はしております。ですが、あの機体から発せられた模擬のジャミング信号ですらもAIの処理に遅延が発生するのです。

 動きの予測に従って攻撃してはいるのですが、遅延のせいで回避されてしまうのです。

 逆に相手からの攻撃はその遅延のせいで広くなったN.E.Z. (ノーエスケープゾーン)から撃たれてしまうため、回避ができんのです。」


「こちらもジャミングを送れば良いだろう?」


「それが。。。」


 答えづらそうにしている開発職員に代わってB-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)社長が答えた。


「あちらはAIではなく、人が直接操縦している機体なんです。だから、ジャミングは効果がありません。

 ただ、もう少しだけでも反応速度を上げることさえできれば、複数機で取り囲むことで、なんとかなりそうでは。。。」


 反論にイライラしながらリチャード・マーセナスが言葉を遮った。


「分かっているなら早くやらんか。何年かかってると思ってるんだ!!

 いつまでも目をかけてやるほど、私の気は長くはないぞ!そのつもりで取り掛かれ。」


 マーセナスは持っている杖を社長の方に向けて話した。


 B-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)社長の頬に汗が伝っていた。


「はっ。かしこまりました。」





 コロニー3基準時間、午前10時半。


 ルナを富裕層のエリアまで送るため、りょーたろとソルとルナはりょーたろの車でお婆ちゃんの家からに富裕層エリアに向かって移動していた。


 コロニーG地区では、まだ回転中心に向かって伸びているシャフトの点検作業が行われているため、コロニーをグルっと遠回りする形で富裕層に行かなければならなかった。


 りょーたろの自動車がF地区からE地区に抜け、中央区にさしかかった。


 そこには人集りができている遊技場(ゲームセンター)があった。


 ソルはその遊技場(ゲームセンター)に見覚えがあった。そして、それはルナにとっても同じだった。


「あっ!ちょっとだけ、ちょっとだけ停めて!!」


 りょーたろがルナの言葉に車を停めた。


 ソルにはルナの目的が分かっていた。そして、以前、ここでルナの護衛アンドロイドを打ち負かした記憶もあり、再び護衛が現れてくれることを期待して、ソルが自動車から降りた。


 ソルが降りるや、ルナも即座に車から降りて遊技場(ゲームセンター)に入っていった。


 りょーたろも降りてきて、その場で立っているソルに話しかけた。


「ルナちゃん、どしたの?急に。」


「あー、あいつ、何か”One”なんとかって言うゲーム、上手いらしいよ。」


「え?”OneYearWar”だろ?ルナちゃん、上手いの?本当に?」


 ソルはりょーたろがそのゲームに興味がありそうに感じ、少し新鮮さを感じた。


 外からしばらく眺めていると、遊技場(ゲームセンター)内からどよめきが聞こえてきた。


「なんだ、なんだ?行ってみようぜ。」


 りょーたろが遊技場(ゲームセンター)の方に歩いて行った。ソルも仕方なしについていった。


 遊技場(ゲームセンター)内ではゲーム台を取り囲むようにして、人が集まっていた。


 ルナが前回もいた少年と再びタッグを組み、敵陣営内で無双していた。


 少年の操る白い機体が間一髪で、ルナの操るカラフルな機体はかなり余裕で、イオンビームやミサイルを避け、反撃に転じていた。その動きは人を魅了するに十分であった。


 ソルはふと思った。


(これこれ!これだ!!最初に見た時の動き!!前回はなんかあいつ遠慮してたのか?)


 ゲーム台の上に表示されているゲームプレイの立体表示をりょーたろが見て、感嘆の声を上げた。


「これ、ルナちゃんがやってんのか!?」


 ふと、りょーたろが今朝の俊敏な動きを思い出した。


「ルナちゃん、実は只者じゃないな。。。」


 横にいた貧困層の小さい男の子がりょーたろを見て言った。


「おじちゃん、知らないの?あの子、きっと”レッドデビル”だよ。みんなは違うって言うけど、僕にはそうにしか見えないし。」


「おじちゃんじゃない。お兄さんね。」


 りょーたろがおじちゃん呼ばわりした子供をひきつった顔で見て、反論した。


 そして、再びゲームの表示を見た。


 ルナの操る機体がAIプレイヤーの撃ってくるイオンビームをことごとく避けていた。


 周囲はどんどん興奮していっている様子だった。


「ほら!おじちゃん!!見た!?あんなAIの攻撃を避けて、やっつけちゃう人間なんて”レッドデビル”だけだよ。」


 りょーたろがひきつった笑いで子供を見た。





 ルナはあまりの楽しさに我を忘れていた。


 ルナが飛んでくるミサイルを望遠で見た。視線の先のミサイルが拡大表示された。その横にはミサイルの型式が表示される。


「あの型は。。。近接じゃない!!」


 その言葉と共に、ルナの目が若干赤くなった。と同時に、ルナの操縦する、様々な色で構成された機体がミサイルの方に加速した。


 機体がとんでもない速度でミサイルに向かって進行した。


 そして、ミサイルとミサイルの僅かな隙間をアサルトユニットとブースターユニットそれぞれがすり抜けた。


 ルナの機体はそのまま直進し、ミサイルを放ったメタリックステラ10機ほどにイオンビームとミサイルを撃ち込んだ。


 メタリックステラは、予測にない機体運動から放たれたビーム、ミサイルになす術もなかった。


 ルナの機体が通過すると同時に、全てがことごとく爆発していった。





 ルナの機体の動きに遊技場全体から歓声が上がる。


「やっぱりあの子、”RedDevil”だ!!」


 ところが、歓声に一部どよめきが含まれはじめた。


 どこからか黒いスーツを着た4体のアンドロイドが遊技場(ゲームセンター)内に入ってきていた。


 黒いスーツのアンドロイドが人を掻き分け、ルナの方に近づいて来ていた。


 そして、ついに黒スーツのアンドロイドがルナの座っている台の横に来た。


 ルナが横を見て悲鳴を上げた。


「キャーーー!!」


 アンドロイドがルナの腕を掴み、つれていこうとする。


 事の異変に気がついた見物客の男がアンドロイドを制止しようとアンドロイドの腕を掴んだ。


 アンドロイドはルナを掴んだ腕ではない方の腕でその男を掴み、軽々と男を投げ捨てた。


 男が筐体に衝突し、動かなくなった。


 そして、アンドロイドは、ルナを掴んだまま、外に移動を始めた。


 りょーたろがソルとルナを交互に見つつ、驚きの声を上げた。


「おっ、おい、ルナちゃん、つれていかれちまうぞ!!」


 だが、ソルは落ちついていた。


「どうせゾディアックの警備アンドロイドだろ?つれていかせろよ。」


 ソルがルナに向かって大声を上げた。


「一回家に帰っとけよ。またな。」


 だが、ソルの声を聞いて、引っ張られるルナが叫ぶ。


「違うよ!こいつら、私の警備じゃない!お願い!助けて!!」


「は?何?帰りたくないからって嘘つくなよ!」


 周囲の男からも情報が入る。


「いや。あいつら、このあたりを牛耳っているマフィアだ!”エリア51”だ!!」


 ソルの頭が混乱し始めた。


「本当に違うってば!!」


 ソルがルナの声紋を分析した。


(True)


 ソルのBCDの表示が真実を告げた。


「本当にヤバいやつかよ!!」


 ソルが慌てて腰のボタンを押した。


 すぐに高エネルギー充填音が鳴り出した。


 そして、ソルが思考で出力を変えた。


 ソルの視野右下隅に緑色の表示が現れた。


(Gear02)


 ソルが纏うシャツに描かれている黒い帯が赤くなり、次第に虹色に光りだした。


<次回予告>

遊技場に入ってきたアンドロイドたち。

このアンドロイドはこのあたりを牛耳るマフィアだった。

アンドロイドによって連れ去られそうになるルナ。

その時、ソルが立ち上がる。

だが、アンドロイドは反撃は許さぬとばかりに武器を取り出すのだった。

それを見たソルは更なる力を解放する!!

次回、第25話 ”身体、耐えてくれよ!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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