第22話:0.02002ミリ秒だ。
<前話のあらすじ>
母親と揉めたルナが家を飛び出し、ソルのいる貧困層に来た。
ソルは仕方なくルナを迎えにいった。そして、ソルはルナを連れてジャンク屋に戻った。
ソルはジャンク屋で自宅の万年筆の中に隠されていたメモリチップからデータを取り出し、そのデータにあったタキオンコミュデバイスを作っていた。
そのデバイスは全く遅延のない0時間通信が可能となるトンでもない発明品だった。
土曜日の朝6時、コロニー回転中心軸の疑似太陽ライトが徐々に輝きだした。
まだシャッターが閉まっているジャンク屋に光が差し込みだした。
ソルが朝日の光を浴びながら伸びをして、ジャンク屋の裏手出口から出た。
そして裏手の広間に、通信機器を置いた。
「よし!やるか!!」
ソルが通信機器にケーブルを着けていた。
ソルが活動する音を聞き付け、ルナとりょーたろも眠そうにジャンク屋の裏手に出てきた。
ルナの後ろにはシュレディンガーもついて来ていた。
「おっ、おはよう。二人とも良いところに。
じゃあ、このケーブルでりょーたろさんのBCDとタキオンコミュを繋いで。」
ソルがケーブルの差し込みポートをりょーたろに差し出した。
目を擦りながらりょーたろが答えた。
「えっ?おれがやるの?」
ソルがニヤニヤしながらコクッと頷いた。
「ああ。まあ、分かったよ。やってやんよ。」
りょーたろがケーブルを繋げている間、ソルが腰に制御の小さいBoxを付け、ボタンを押した。
エネルギー充填音が小さく響く。
(カラーリング999)
制御Boxに表示されると共に、ソルのつなぎが赤色に変色し、白いシャツに描かれている黒い帯が赤色に光だした。
そして、ソルが白いヘッドギアを付ける。
眠たそうだったルナの目がぱっちり開き、興味津々でそれを見ていた。
「なんか、それ悪者側のエースパイロットみたいだよ。仮面いらないんじゃない?」
「だめだよ。これでコロニー内に設置されてるカメラでの個人認証を防げるようにしてるんだよ。防犯システムにも細工してるしな。」
「もしかしてソルさん、悪いことでもやってんの!?」
「そんなわけねーだろ!ちょっといろいろあんだよ。」
りょーたろがケーブルの連結を終わらせた。
「オッケー!繋いだぜ。」
「分かった。じゃあ、ちょっと反対側まで行ってくる。」
そう言うと、ソルが急発進した。
発光しているソルが見る見るコロニーの周回を回っていった。
りょーたろがルナに話し始めた。
「あいつは何でもない部品から超一級品を作る天才だ。
どんなややこしい部品でもあいつは一目で理解して使いこなす。
部品の性能を100%どころかそれ以上引き出すし、部品と部品を組み合わせて、どんなデバイスでも軽く作っちまう。
例えばあの服だ。超筋繊維が編み込まれてて、アンドロイドなんか比じゃないくらいのパワーとスピードを実現してる。
衝撃にも耐えられるように外からの瞬間的な加圧には硬化する仕様だ。」
「あー、それで私の警備アンドロイドを一撃で。」
ルナはソルを目で追っていたが、話し出したりょーたろに視線を移した。
「うん。そして、それをするためにあいつは数学も、物理も、化学も、そしてプログラムも全てに精通してる。
なんか、おじいさんはもっとすごい人だったって言うけど、おれはあいつほどの技術者を見たことがない。」
りょーたろが通信機器を見ると、ルナも機器の前にしゃがんで興味津々で見ていた。
「無神論者のおれが言うのも変だけど、やつは神に選ばれてるって本気で感じる。
こんなところでおれとつるんでる場合じゃない。」
りょーたろの話が終わり、ルナが再びりょーたろの方に向いた。
「でも、ソルさん、ここで幸せそうだよ。それにりょーたろさんのことも尊敬してるみたいだし。
なんか二人が羨ましい。私が繋がりに見ている答えみたいなものを二人から感じたんだよね。
私にもそんな人がいたらいいのにな。」
ルナは昨日の母親の行動を思い出して、また悲しそうな顔になった。
ソルが、2分弱で直径6kmのコロニー反対側まで移動した。
りょーたろとルナのBCDにソルからCallが鳴った。二人ともReceiveを押した。
「今、コロニーのほぼ真反対にいる。今からブルーライトをそっちに照射して、同時にタキオンコミュで信号を送るから、見上げてもらって、ブルーライト検知と信号検知の時間差を測定してほしいんだけど。」
「えっ?見上げんの?」
りょーたろがまだ少し暗い青空を見上げた。そして視線で(Visor system 遮断)をした。
すると、りょーたろの見上げていた青空がコロニー対面側の富裕層の風景に切り替わった。
コロニー中央シャフトからは朝日の光が差し込まれていた。
ルナは上を見上げていた。
「青空しか見えないけど?」
ルナは、先ほど思い出した母親との確執にまだ心なしか少し悲しそうな表情だった。
「あー、ちょい待ち!」
ソルが何か操作をしているようだった。
ルナの視界にある表示が浮かんだ。
(”Visor system 遮断ソフト”をインストールしますか?)
「それ、入れてみ。」
「うん。分かった。」
ルナが思考でインストールの開始を選択した。一瞬でインストールが完了した。
ルナは迷わずそれを実行した。
すると、ルナの視界が青空から富裕層の風景に変わった。
少し曇っていたルナの表情が驚きと喜びが合間ったものに変化した。
りょーたろが言った。
「あー、もうシャフトの光、ちょっと眩しいな。」
りょーたろ横にいるルナに言った。
「ルナちゃん、悪いんだけど、店入って左側のB5の棚に眼鏡型の遮光フィルタあるから、取ってきてくれない?」
ルナがさっとにこやかな表情に変化した。
「リョーカイです!!」
ルナが機敏な動きで店に戻った。
「はやっ。。。」
りょーたろはその機敏さに少し驚いたが、ソルが何かのソフトを送ってきたので、そちらに集中した。
「ごめん。さっき、渡し忘れてた。そのソフト、インストールして。」
「ああ。分かったよ。」
りょーたろはBCDに送られてきたソフトをインストールし始めた。
ステータスバーが延びていく。しばらくして、ルナが店の裏手から出てきた。
「これだよね?」
ルナは黒い眼鏡型の遮光フィルタを持っていた。
「そうそう。あんがと。」
BCDの表示にインストール完了の文字が現れた。
「インストール完了。いつでもいいぜ!」
りょーたろは黒い眼鏡型の遮光フィルタを掛けて、朝日を照らすコロニー回転中心のバーを見た。
「オッケー!」
「じゃあ、いくよ。」
一瞬、回転中心のバーの横にキラッと光源が見えた。
すぐにソルの声がする。
「どう?」
その声に合わせて、りょーたろのBCDにウインドウが一つ表示された。
(光受信time lag = 0.02002ms)
りょーたろが答えた。
「光受信との時間差は、、、0.02002ミリ秒だ。」
ルナは”光受信との時間差”という言葉でその時間の示す意味を悟り、瞬時に計算した。
ルナが授業で習ったことを思い出す。
コロニーの直径6km。
真空中の光の速度は299792.458km/s。
空気1気圧、20℃の屈折率1.000305。
空気中では真空中よりも0.0305%速度が遅くなる。
計算機を使えば簡単な割り算だが、瞬時にできるものではない。
だが、ルナには造作もないことだった。
日頃で鍛えられた反応速度も相まって、ソルよりも先に答えを導きだしていた。
「成功してる!!」
そして、若干遅れてソルも言葉を発した。
「成功だ!!」
りょーたろはルナの反応と理解力に驚き、ルナの顔をマジマジと見た。
「0時間通信できてる。。。ちゃんとタキオンにデータを渡せたぞ!!」
りょーたろはソルの声を聞き、喜びが込み上げ、再び上を見上げた。
りょーたろが上を見上げながらルナに質問した。
「ルナちゃん。。。これ、どんな内容か、もしかして分かってたりする?」
質問し終わった後、りょーたろがルナに視線を移した。
ルナがキョトンとした顔でりょーたろを見て答えた。
「うん。たぶんだけど。時間差なし通信って言ってたし。
それに、さっきソルさんの言ったタキオンって負界や虚界を行き来する物質でしょ?
S2機関の柊レイ博士が見つけた物質。
確か光より速いから光の受光が信号到着よりも遅いってことじゃないの?
どうやってタキオンに情報与えるのかとか、詳しくはよく分かんないけど、何となく二人の意識も聞こえるし。
っていうか、ソルさんのおじいちゃんって。。。」
「おれたちの意識が聞こえる?あっ、っていうか、ルナちゃんって今、高校生くらいじゃないの?」
「そうだよ。」
「え?11次元の内容ってさ、大学で習うんじゃない?」
「あー、うん。そうだけど、もう高校の単元って簡単すぎて、先に勉強しちゃったんだ。」
りょーたろの驚きの目が、さらに見開いていた。
「マジか。。。ここにもいた。。。」
りょーたろとルナがそんな話をしていると、ジャンク屋の前に何かが落ちてきたような音がした。
りょーたろが音のした方を向いた。
ソルがすぐジャンク屋の裏手に出てきた。
「成功だ!やった!やったぞ!!」
「やったな!!ソル!お前ってやつは!!」
「すごいね!ソルさん!!」
興奮した顔のソルがりょーたろと力強く、何度もハイタッチした。
ソルはルナにもハイタッチした。
そして、りょーたろとルナもハイタッチした。
シュレディンガーもソルの脚にすり寄った。
「なんだ!?お前も祝ってくれてんのか?サンキューな。」
ソルがシュレディンガーを抱き上げた。そして、シュレディンガーの頭を撫でながら続けた。
「でも、こんな近い距離じゃ、ちょっと不確かだな。もうちょっと遠い距離で試したいな。」
「あっ、そう言えば、お前が助けたお婆ちゃん。エンケラドスにいる家族と話したいってゆってなかったっけ?」
りょーたろが思い出したように提案した。
ソルが目を見開いてりょーたろを見た。
「そうだ!それだ!!」
「そうと決まれば、お婆ちゃんのところ行くか?」
「またテストするの?面白そう!!私も行きたい!行きたい!!」
りょーたろは笑顔だったが、ソルが眉をひそめた。そして、シュレディンガーを下ろして、腕を組んだ。
「いやいや。お前はもう帰れよ。十分見ただろ?」
「なんでよ。ここまで一緒にやったんだし。いいじゃん。そのおばあちゃんのところまで。ね?お願い!ね?いいでしょ?」
ソルが腕を組んだまま、斜に構えていた。
ルナはターゲットをりょーたろに変えて、両手を合わせた。
「ね?りょーたろさん、お願い!!ね?お婆ちゃんのところだけでも!!ね?」
目に涙を溜めてお願いするルナ。
りょーたろが頭を掻きながら、ソルに言った。
「まあ、いいじゃん。ソル。その、、なんだ、まあ、お婆ちゃんのところまでだけならさ。」
シュレディンガーがじっと三人のやりとりを見ていた。
りょーたろがソルの方に向いて言った。
「なんだよ、りょーたろさん!なんか買収された?」
りょーたろが眉を上げ、への字口をしてソルを見ていた。
ソルが涙目で懇願するようなルナを見た。
ソルがため息を一つ吐いて言った。
「じゃあ、お婆ちゃんのところまでだからな。お婆ちゃんのところ行ったら帰れよ!」
「うん!!ありがとう!!りょーたろさん!!ソルさんも。」
りょーたろが一呼吸おいて口を開いた。
「よし!そうと決まれば、店の前で待っててくれ。」
りょーたろが店の横の倉庫に歩いていった。
ソルがおもむろに白いヘッドギアを着け、つなぎを上まで着て、フードまで被った。
そして、ルナに向いて言った。
「行くぞ。」
ソルがルナに声を掛けて店の前に歩いていった。
「うん!でもなんでそんなカッコ?」
ルナはさっきまでの涙目がウソのように笑って返事をした。
「別にいいんだよ!」
前を歩くソルの後にルナがついていった。
変装したソルとルナ、シュレディンガーが店の前に着くと、ソルがおばあちゃんにCallした。
すぐにおばあちゃんが電話を取った。
「ああ、ソル?どしたんだい?」
「おばあちゃん、今からそっちに行っても良い?家族ときれいな画像で通信できるかもしれない。」
「本当かい?それならぜひお願いしたいねー。」
「分かった。ちょっと待っててね。今から行くから。」
ソルが通話をしていると、倉庫から四輪トラックが一台出てきた。
ルナが目を輝かせながら車を見ていた。
「車輪のついてるやつ、実際に見るの、初めてー!すごい!!」
呆れ顔でソルがルナに言った。
「昔は全部こうだったんだよ。」
ソルとルナの前に車が止まり、中からりょーたろが言った。
「さあ、乗って、乗って。」
りょーたろの横にルナとシュレディンガーが、その横にソルが乗り込んだ。
トラックは高いモーター音を響かせ、勢い良く発進した。
<次回予告>
お婆ちゃん宅に着くや、ソルはタキオンコミュデバイスのデータをエンケラドスに送り始める。
そのお婆ちゃん宅で優しい人々の心と新しい技術に触れるルナ。
この週末がルナにとってかけがえのない経験となっていくのだった。
そして、自分の生活に戻るため、移動を始めるルナ。
ソル、りょーたろもルナに付き添っていた。
だが、その途中でルナがある事件に巻き込まれるのだった。
次回、第23話 ”おれたちにしか見れない世界がきっとあるはずだろ!?”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




