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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第21話:えっ、、、えっ?えっ?なに?あんたたち、ちょっと来ないでよ!!

<前話のあらすじ>

ルナは貧困層の遊技場(ゲームセンター)で”OneYearWar”というゲームを行っていた。

そこにアンドロイドが入ってきて、ルナを連れていこうとする。

そこに偶然居合わせたソルはアンドロイドを破壊し、ルナを富裕層まで送り届けた。

次の日、ルナが学校に登校するや、校長室に呼び出された。

校長室では先日ルナが貧困層で遊技場(ゲームセンター)にいたことを問われ、ルナは正直に答えた。

母親も校長室に呼ばれており、その日は家に帰るように言われる。

母親は家に着くなり、ルナがゲームを出来ないようにしたのだった。

口論となるルナと母親。その時、ルナは母親の心の声を聞く。

(こんな子になって、どうすれば良いのやら。)

その言葉を聞き、ルナは家を飛び出したのだった。


 

 後ろからりょーたろが覗き込んだ。


「珍しいな。ソルに女からのメッセージが!?」


 りょーたろが笑いながら言った。


 ソルはりょーたろの方に振り向いて言った。


「違うよ。この前のゾディアックの。。。」


「なんだ?まだ何か絡みがあんの?」


「いや、絡みとかじゃなくて。急にこの地区の中央駅にいるって。」


「え?本気かよ?あの振り込み娘が一人で?でもどうせ護衛がいんだろ?

 ほっとけよ。関わるとロクなことにならない。」


 そんな話をしている間に、またメッセージが入った。


(頼れる人がソルさんしかいないの。お願い。来て。)


 何か嫌な予感がして、放っておけず、ソルが立ち上がる。


 りょーたろがニヤけながらソルに言った。


「ははっ、結局行くのかよ?」


 ソルが首をかしげながらへの字口にして言った。


「はー、柊家の呪いだな。全く自分の性格が嫌になる。」


 ソルは腰のボタンを押した。


 上のシャツに描かれた黒い帯が赤く光だした。そして、部屋の中で白いヘッドギアを装着した。





 ルナがE地区中央駅の出口から出てきた。


 同じようにシュレディンガーも出口から出てきた。


 ルナがシュレディンガーを見て、少し安心した顔をした。


「あっ、シュレディンガー!お前も来てくれたの?おいで。」


 ルナは足にすり寄ってきたシュレディンガーを抱きかかえた。そして、周囲をキョロキョロ、オドオドしながら見ていた。


 その様子を駅前の広場で地べたに横になっていた男が見ていた。


 男はひどく汚れた服を着ており、焦点があまり定まってない様子だった。


 立ち上がった男の足取りはフラフラしながらも、一歩、また一歩とルナの方に近づいてきた。


 ルナがその男が立ち上がった場所を見ると、そこかしこに金色の丸いシールのようなものが落ちていた。


 男の首もとを見るとそこにも金色の丸いシールが貼られていた。


「えっ?あれって。。。」


 その瞬間、ルナの頭の中で、学校で学習した医療の画像がフラッシュバックした。





 教壇の前に立つアンドロイドが生徒の脳内に送り込まれた画像に対して説明をし始めた。


「このシールには無数のマイクロニードルが作り込まれています。

 その細い針は毛穴以下のサイズであるため、痛みを全く感じることなく薬剤の投入が可能です。

 首もとの頸動脈付近から投入することで速効性もあり、医療を大きく進歩させた技術と言えるでしょう。

 古くからこれを悪用した薬剤投入での事件、麻薬の使用なども起こっており、社会問題にもなっています。」





 ルナはブルブルと首を振った。今はそんなことを思い出している場合ではない。


 明らかにその男の足取りは怪しかった。


 ルナの視野の隅に別の男が映った。


 その男もフラフラとルナの方に向かって歩いてきていた。


 周囲を見回すと他にもルナの方に向かって歩いてきている男が見えた。


「えっ、、、えっ?えっ?なに?あんたたち、ちょっと来ないでよ!!」


 ルナの表情が不安から恐怖に変わっていった。


 ルナがガクガク震えだした足で後退りした。


 地面にある若干の凹凸が今のルナにとって充分大きい障害物だった。


 ルナが凹凸につまづき、ペタンと尻餅をつく。


 その時、ルナの抱きかかえていたシュレディンガーがルナの前に降り立った。


 シュレディンガーがフーと怒りのポーズをとった。


 ドンドン男たちが近づいてくる。


 ルナはうまく立ち上がれない。


「あっ、あっ、あっ、やめ、やめて。。。」


 男たちはルナから数mのところまで来ていた。


 ルナを捕まえようと、男たちは汚れた手を伸ばしていた。


 シュレディンガーが今にも男たちに襲いかかりそうになっていた。


 ルナは恐怖で目をつぶった。


 恐怖で目が開けられない。


 何秒、いや何分経ったのか。恐怖でルナの時間の感覚がおかしくなっていた。


 その時、ルナは頬に風を感じた。


 そして、次の瞬間、大きな音が何度も響いた。


 ルナがそっと薄目を開けた。


 すると、目の前に赤いつなぎをズボン部分だけ履き、袖を腰に巻き、ピタッとした白い長袖シャツとそのシャツに赤い帯が発光している人が立っているのが見えた。


 赤い帯の男はルナに手を伸ばしていた男の腕を掴んでいた。


 赤い帯の男の顔を見るとその男は白いヘッドギアを付けていた。


 白いヘッドギアの男が掴んだ腕を引っ張り、金色の丸いシールが落ちているところにぶん投げた。


 投げられた男は飛んでいき、大きな落下音が鳴り響いた。


 周囲を見るとそこかしこにルナに迫ってきていた男たちが地面に寝そべりノビていた。


 その時、黒いエアクラフト車が駅前通りに2台急停車した。


 そして、その車から黒いスーツを着たアンドロイドが降りてきた。


 それを見た白いヘッドギアの男が一言言った。


「ちゃんと家に帰れよ。」


 白いヘッドギアの男が、その言葉を残して、人の目では追えないほどの速度であちこちに飛び跳ね、姿を消した。





 ソルが駅の壁の裏に隠れた。


 周囲にカメラがないことを確認して、白いヘッドギアを外し、腰にある小さい箱を操作した。


(カラーリング001)


 つなぎの色が元の藍色に戻り、白い服に付いている赤い帯の発光がなくなり、黒くなった。


 ソルは壁の影からルナがいた方を覗き見た。


 次の瞬間、ソルがギョッと身を引いた。


 壁のすぐ向こう側にルナが立って、こちらを覗き込んでいた。


(え?ウソ?普通は追えないくらいの速度だったんだけど。。。)


「やっぱりソルさんだったんだ!!」


 ルナが壁を回り込んで、ソルの方に歩いてきた。


 ソルはルナの後ろからアンドロイドが近づいてくるのも見えた。


「なんでここが分かったんだよ?」


「え?最後ここに入っていったでしょ?」


「見えてたってことかよ?」


「うん。それよりも私のこと一緒に連れてって。早く。ソルさんの家でも、どこでもいいから。」


「お前な、何でおれがお前を家に連れていかないといけねーんだよ。

 それに、この前も言ったろ?そんなカッコでうろつくんじゃねーよ。お前のその服で命が狙われ。。。」


 そう言っていると、突然ルナが泣き出した。


「ごめんなさい。分かってる。だけど、だけど。。。」


 そう言いながらルナの目から大粒の涙がどんどん溢れだした。


「ちょ、ちょっと、もう泣くなよ。」


「ごめんなさい。あとで訳は話すから、お願い。ソルさんの行くところならどこでも。」


 ソルはじっとルナの顔を見て、顔を背けた。


 ソルが自分の性格を恨むかのようなしかめっ面をしたかと思うと、腰に付いた小さい箱のボタンを押した。


 ソルが白いヘッドギアを付ける動作の間にエネルギー充填音が響いた。


「首押さえとけよ。」


 ソルがそう言うと、ルナを両手でお姫様抱っこした。


 ルナに付いてきていたシュレディンガーがぴょんとルナの胸に飛び乗った。


 ルナを追いかけてきていたアンドロイドが何か動きを感知して、素早く移動し始めた。


 だが、その移動よりも先に、ソルはルナを抱えたまま、ジャンプして建物の影に消えてしまった。





 レイモンド小林がBCDを通してCallしていた。


 レイモンド小林の背後には、部屋の壁一面に、夕日に照らされたE地区駅前の様子が映しだされていた。


「はい。柊です。」


「ああ。私です。」


 一呼吸置いて、レイモンド小林がつづけた。


「うちのルナがまたソルさんのところに行ってしまって。また迷惑をかけてしまうみたいで、一言謝罪をと。」


「あ、そのこと。うん。こっちにも情報が来てる。ごめんなさい。こちらからも連絡すべきだったわね。」


「いや。本当にすまん。何て言えばいいのか。」


「どうした方がいい?ソルに言ってルナちゃんを連れてくるように言ってみようか?」


「いや。もしできるなら、少しソルさんのところにいさせてやってくれないかな。

 実はソルさんと会ったことでルナの精神レベルが安定しててね。

 まあ、一応監視は付けてるから、何か起これば、すぐにでも警護アンドロイドが駆けつけられる。」


「そう。まあ、レイモンドがそういうんなら、それでもいいけど。」


 レイモンド小林はレミ柊から自分の名前を久しぶりに聞いて、少し笑みを浮かべた。


「ソルさんが一緒なら僕も安心できる。」


「分かったわ。」


 電話を切って、レイモンド小林がBCDを通して、宙に浮かぶウインドウを見た。


 そこには、時おり高くジャンプしながら高速で移動するソルたちの映像が映っていた。





 ソルがルナをお姫様抱っこした状態で、ジャンク屋のそばに着地した。


 ルナにできるだけ衝撃を与えないようにしゃがみこんで着地していた。


 ソルはすぐさまルナを抱えたまま、物陰に移動した。


 物陰に着くなり、ルナの上に乗っていたシュレディンガーが飛び降りた。


 そして、ソルがルナを下ろした。


 ソルがヘッドギアを外した時、ソルの着地音を聞いたりょーたろが店の物陰に出てきて、笑顔でソルたちに挨拶した。


「いらっしゃい。」


 その言葉を聞いてソルがりょーたろを細い目で見た。


「なんだよ。無視しろって言ってたくせに。」


 りょーたろが笑いながら返した。


「それはお前がこの前、嫌がってたからだろ?」


 ルナとシュレディンガーが、やりとりしている二人を見ていた。


 ルナの様子を見たソルがりょーたろを紹介した。


「あー、この人はおれの仕事仲間で、そのー」


 ソルが少し恥ずかしがりながら顔を上に向けて続けた。


「なんだ、りょーたろさんって言う、まあ、その、、、信頼できる先輩みたいな、感じの人だ。」


 りょーたろが笑みを浮かべながらソルを見て言った。


「なんだよ。急に。この前の部品代はあれ以上は安くしねーからな。」


 ソルがりょーたろを見て言った。


「なーんだ。誉めて損した。」


 ルナが笑いながら、りょーたろの方に向き、ペコリとお辞儀しながら言った。


「私はルナ小林って言います。すみません。突然お邪魔して。

 ソルさんの行くところに連れてってってお願いしたら、ここに連れてきてくれたんで。」


「うん。何となくいきさつは聞いてる。まあ、ゆっくりしていってよ。」


 りょーたろが言葉を返した。


 ソルがふと思い出した。


「あー、そうだ。お前んところから金が振り込まれてさ。それ返すわ。」


 ソルがルナのメッセージアカウントを探し始めた。


 ルナは慌てて言った。


「いいの。いいの。そんなのもらっといてよ。今日も助けてくれたし、ほら、ボディガード費用だと思ってさ。」


 ルナが両手でソルの操作している手を止めた。


 ソルはルナの手を振りほどきながら言った。


「大人をからかうもんじゃない。それに、この金はお前のじゃないしな。」


「そりゃそうだけど。でも、ほら。私だって一応、小林家の人間だし。」


 声が小さくなるルナに対して、はーと息を漏らしてソルが言った。


「金ってのはな、ちゃんと働いた分だけもらやーいんだよ。

 おれを認めてくれて、その感謝の気持ちが対価になってだな。。。」


 ソルの長くなりそうな小言に対して、りょーたろが割って入った。


「いいじゃん、いいじゃん!そんなこと言わなくたって。もらっとけって。

 そのくらい、あのゾディアックグループにしたら、もう誤差にもならんって。ねえ、ルナちゃん?」


 加勢に付いてくれたりょーたろの方を見ながらルナが言った。


「さすが!りょーたろさん、話が分かる!!」


「なんだよ、りょーたろさん。こいつが来たらこいつの肩ばっか持って。」


 ソルがりょーたろとルナを目でキョロキョロ見ていた。


 ソルは二人の結託ぶりで分の悪さを感じて、話を巻いた。


「まあ、いいや。ちょっと2階で続きやるよ。」


 そう言うと、ソルはジャンク屋の奥から2階に上がっていった。


「お金、本当に返さなくていいからね。」


 そう言いながら、ソルの後を追うルナ。そして、それに付いていくシュレディンガー、そしてりょーたろが店の奥から2階に上がっていった。




<次回予告>

ルナはジャンク屋でソルが作っている通信機を見る。

興味をそそられるルナ。そして、ルナはジャンク屋に泊まると言い出す。

そんなルナに振り回されるソル。だが、悪い気はしなかった。

そして、とうとうその通信機が。。。

次回、第22話 ”時間差なしの通信?”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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