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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第20話:分かるもんですか!分かる必要もない!!

<前話のあらすじ>

貧困層E地区中央区の遊技場(ゲームセンター)で”OneYearWar”をプレイしていたルナ。

そこに通りかかったソル。ソルは遊技場(ゲームセンター)の人だかりを覗いていた。

その時、4体のアンドロイドが遊技場(ゲームセンター)に入りこみ、ルナを連れていこうとする。

ソルはそのアンドロイドがUnion-Roswellというマフィアの仕業と勘違いし、アンドロイドを破壊。ルナを助けた。

そして、ソルはルナを富裕層まで連れ戻した。

だが、ソルが破壊したアンドロイドは、実はルナの警護であった。

若干揉めた二人だったが、ルナは何かの縁だといい、ソルと連絡先を交換したのだった。


 

 金曜日の朝、校庭の時計台が八時を指していた。


 ルナがVRにログインし、校庭の正門のところに現れ、校舎の方に歩いていった。


 すると、何か周囲でコソコソ噂話をされている気配を感じた。


 ルナが立ち止まって周囲を見回した。


 すると、登校している周囲の人たちがルナの方を見ていたのを止め、視線をそらした。


 そこに、クラスメートの男子が校庭に入ってきて、ルナを見つけて駆け寄ってきた。


「おはよ!っていうか、お前だったのかよ。」


 ルナが男子の方に振り向き、返事した。


「お前だったのかって何のこと?」


「何がってお前、ニュースとか見ないのかよ?これだよ。これ!」


 男子はあるニュースを宙に表示させた。


(彼女がレッドデビルの正体だ!!)


 そのニュースに映されている写真には、ルナが操縦桿を操作している動画が映っていた。


 ルナはドキッとして、目を見開いて動画を見た。


「何かの間違いだよ。私なわけないでしょ!」


「まあ、分析の結果は違うってことみたいだな。

 その記事に書いてたぜ。レッドデビルにしては操作が荒い。あんな動きはしない。ってさ。」


 男子の言葉を聞いて、ルナは少しホッとした顔をした。


 男子が記事を見ながら話していたが、ルナの方に向き直って続けた。


「あーあ、残念。本当だったら超有名人の友達なのにな〜。」


「違ってて、すみませんね。」


 そう言いながらルナは笑って見せた。


 そして、男子とそんな話の続きをしながら校内に入っていった。





 教室に入っても、やはり噂話が絶えなかった。


 ルナが教室に入り、自分の席に座るや否や、別の教室から昨日のパーティーに参加していた城ケ崎が入ってきて、ルナのところに来た。


 城ケ崎は拳を握りしめ、ドンと机を叩いて、ルナに詰め寄った。


「ルナさん、どういうつもりなんですの?昨日のあの場では言いませんでしたけれど、B-DAI-N.Coのエポック様とあんなに仲良く話してらして、一体どういうご関係なのかしら?」


「えっ?エポック?さま??」


「話してたじゃございませんの!?B-DAI-N.Co社長のご子息様よ!」


「あー、あの人。いや、あれは向こうが勝手に。。。」


「向こうが勝手に、ですって!?エポック様はそんなお方ではありませんわ。

 わたくしにだって全然話し掛けてくださらなかったのに。。。

 どうせあなたがあの方をたぶらかそうと。。。」


 城ケ崎がルナにどんどん距離を詰めてきた。





 ルナが静かにうつむいた。


 かと思うと、突然顔を上げて声を荒げた。


「だから!!向こうが勝手にってゆってるでしょ!!

 あんたはあいつが気に入ってんのか知らんけど!!私にはいい迷惑なの!!

 エポックだか、スポックだか知らんけど、あんたたちが仲良くしようが私には全く関係ない!勝手にやっててくれって感じ!!

 それについでに言っちゃうけど、あんたのヒエラルキーのひけらかしにも巻き込まないでくれる?

 もうほっといて!!!分かったぁ!?」


 少しルナは間を空けて続けた。


「返事は!?分かったのかって聞いてるでしょ?どうさ!!どうなのよさ!!」


 ルナが城ケ崎の顔に睨みを利かせて詰め寄った。





 ルナがはっとした。


 周囲を見回すとみんなが突然のルナの暴走にシーンと静まり返っていた。


 城ケ崎は驚きで放心状態になっている。


 ルナが顔がどんどん赤くなっていく。


(あれ?なんでいつもは隠してる本音が出ちゃってんのよ、私。。。)


 その時、突然、頭の中にソルと気持ち良く話せていた自分の姿を思い出した。


 それと同時に、放送が入った。


「2年1組 ルナ小林さん、至急校長室におこしください。繰り返します。2年1組 。。。」


 その放送を盾に、ヒエラルキー女子との話し合いを中断した。


「ごめんなさい。さっきのは忘れてください。今、私、校長先生に呼ばれたみたいで。。。ちょっと行かなければならないみたいですの。」


 ルナはそう言うとさっと席を立った。


「あっ、ちょっとお待ちなさい!」


 城ケ崎が我にかえり、ルナの正面に立ち、手を広げ、ルナの行く手を阻もうとした。


 だが、ルナは一瞬何重ものフェイントを入れ、スルッと身をかわした。


「あれ?ルナ、、、さん??」


 ルナはその一瞬の後、すでに城ケ崎の背後に立っていた。


 そして、すたすたと教室の扉まで歩いていった。


 その様子をいかにも運動が得意そうな男子が見て、感嘆の声を漏らした。


「えっ?すげえ。。なんだ?あの動き。」


 ルナが教室のドアを開けると、そこはすでに校長室の扉の前だった。


 ルナがドアをノックする。


「はい。」


「ルナ小林です。入ります。」


「はい。どうぞ。」


 ルナは軽い深呼吸をして、ドアを開けた。


「失礼いたします。」


 ルナが会釈をして、姿勢を戻すと、すでにルナの母親が校長室にいた。


 そして、生徒指導のアンドロイドもいた。


 みんながルナを見ていた。


 生徒指導のアンドロイドがルナに向かって言った。


「ごきげんよう、ルナさん。さあ、こちらに。」


 ルナは母親の横に移動するように促された。


 促されるまま、ルナが母親の横に移動した。


 校長が宙にウインドウを表示する。


(これがレッドデビルの正体だ!)


 今朝男子がルナに見せたものと同じ、ルナが操縦桿を握っている画像だった。


「これは本当ですかな?」


 生徒指導のアンドロイドは追加する。


「昨日は社会学習ということでルナさんはお休みでしたが、この時間だと学校がまだ講義中であるにも関わらず、遊戯場にいたということになります。しかもE地区で。」


 ルナは終始下を向いていた。


 それを母親が見て、答えた。


「ルナ、本当なの?」


 ルナが小さい声で言った。


「うん。」


 ルナの母親が校長に向かって謝罪した。


「大変申し訳ありません。良く言ってきかせますので。」


 生徒指導のアンドロイドが何か言いそうだったが、校長が割って入った。


「まあ、ルナさんは本校設立以来歴代二番目の成績ですし、おじい様は本校の理事長。小林様には学校一の寄付をいただいておりますから。」


 校長がチラッとアンドロイドを見た後、さらに続けた。


「今後はくれぐれもご注意を。今日は一度ご帰宅されるのがよろしいかと。」


「分かりました。そのようにさせていただきます。寛大なご処置、誠にありがとうございます。」


 母親が深々と頭を下げた。


 ルナも少し頭を下げた。


 そして、母親はルナの腕を掴んで校長室を退室した。


「失礼いたします。」


 二人が校長室を出る時、生徒指導のアンドロイドが校長に何か言いかけていた。


 校長室を出るとそこはすでに校庭だった。


 ルナは靴も履き替えていて、荷物も手に持っていた。


 そのまま、校庭を出ると、VRが自動的にログアウトされた。





 ルナはVRから戻り、自分の部屋の椅子から立ち上がった。


 すると、突然部屋のドアのロックが解除された。


 ドアが開けられ、家事用アンドロイドがゾロゾロと入ってくる。


 そして、アンドロイドの次にルナの母親が入ってきた。


 アンドロイドはルナの机の上にある四角い箱とさっきまで座っていた椅子とを運びだし始めた。


「えっ?ちょっと待ってよ。なんで運び出すの?ちょっと。」


 ルナが四角い箱を持ったアンドロイドを止めようとするが、アンドロイドは止まる様子もなかった。


 ルナが母親にお願いする。


「ちょっと、ママ。やめさせてよ。」


 ルナの母親はルナを見て、少し悲しそうな顔をしながら首を振っていた。


 そして、ルナの母親が何か宙を触るような手付きをしたかと思うと、何かを摘まんで捨てる動作をした。


 ルナがハッとして、BCDで自分のメモリエリアを見た。


 宙にウインドウが表示された。


 そこには『OneYearWar』のアンインストールを行っているスクロールバーが表示されていた。


 そのスクロールバーもあっという間に100%になり、ウインドウから『OneYearWar』のアイコンが消えた。


 アイコンだけでなく、アンドロイドたちがルナの部屋にあった四角い箱や椅子、最後に机まで運び出してしまった。


 ルナが勢い良く母親に詰め寄った。


「なんでこんなことをするの?あれは私の大切な。。。」


「何が大切なの!?大切なのはあなたの今の時期でしょ?

 あんなことで学校に呼び出されて、もう恥ずかしい。

 おまけに下のE地区に行ってただなんて。」


「何が恥ずかしいの?ママは何も分かってない。私はこのゲームを通じて。。。」


「もうその話はよしてちょうだい。あなたはゆくゆくはこのゾディアックを引き継ぐ身分なのよ。

 そのためにはいろんな方と繋がりを持っていかないと。

 あんなゲームごときに没頭するなんて時間の無駄なの。分かるでしょ?

 あんなことが世間に広まったってだけでも恥ずかしいのに。」


 母親にそんな風に否定されると思っていなかったので、ルナは悲しくなって涙を浮かべた。


「ママは何も分かってないんだ。」


 母親が強い口調になった。


「分かるもんですか!分かる必要もない!!」


 ルナが愕然とした。ルナは強いショックを受けた。ルナはまるで人格が否定されたように感じた。


 母親から同じような声が聞こえた。


 それは言葉に発したものではなかったが、ルナにははっきりと聞こえていた。


(ルナちゃんがこんな不良になるなんて。こんな風に育てた覚えなんてないのに。もうどうすればいいのやら。。。)


「どうすればいいって、私が家を出ればいいんでしょ!もう、ママのバカ!!」


 そう言うとルナが部屋を飛び出した。


「ちょっとルナちゃん!待ちなさい!!」


 母親が止めようとしたが、もうすでに部屋を出た後だった。


 母親が部屋に残っていたアンドロイドに言った。


「何をしているの!?さっさと連れ戻しなさい!!」


 アンドロイドが他の仲間と通信をしていた。


 本棚の上に隠れてその様子を見ていたシュレディンガーが部屋を飛び出した。


 シュレディンガーはあっという間にお屋敷を出ていき、ルナの元に走っていった。





 コロニーの中心軸からの光がオレンジ色の光を発していた。


 貧困層のアパートは夕日に照らされているように赤みがかっていた。


 ソルが部品を組み立てて、すでに中に入れる制御用プログラムを書いていた。


 中央のボールに魚肉ソーセージのような4本の棒が刺さっていた。


 中央のボールが正四面体の中心、四本の棒が正四面体の頂点から中心に向けて延びている形で、三本の棒が机に向かって延びているような姿勢で置かれていた。


 その中央ボールとちょうどルービックキューブくらいの箱が配線で繋げられていた。


 ソルはBCDを通して、そのルービックキューブにデータを送り、そのルービックキューブは中央のボールに4本の棒が刺さったユニットにデータを送っていた。


 その時、突然、BCDにメッセージが入った。


(差出人=ルナ小林

 おーい、ソルさん。わたし、ルナです。気がついたら返事して〜!!)


 ソルはメッセージを見たが、無視した。


(おーい、ソルさん。いつの時代も既読無視は罪だよ〜!!今、E地区の中央駅にいるんだけど。)


 ソルはそれを見て、ハッとした。


「えっ?あいつが一人でこっちに!?おい、正気かよ!?」


<次回予告>

貧困層中央駅に降り立ったルナ。

だが、そこは昼間の遊技場(ゲームセンター)とは違い、ヤク中の浮浪者の溜まり場だった。

高価な服を纏うルナ。近づいてくる浮浪者たち。

本当の貧困層の姿を見て、ルナは恐ろしさで足が震えだしたのだった。

ルナに浮浪者の手が伸びる。

次回、第21話 ”えっ、、、えっ?えっ?なに?あんたたち、ちょっと来ないでよ!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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― 新着の感想 ―
 ルナさん達のやってることが、まんま昭和時代の中高生に見えてしまう。  寿命とエネルギー問題を克服して宇宙に出た人類の未来。実現したら案外こんなもんなのかもしれないと思ってしまいました。  続きを楽し…
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