第19話:タキオンコミュプロジェクト。。。
<前話のあらすじ>
遊技場でアンドロイドに襲われたルナ。
そこに駆けつけ、アンドロイドを破壊し、ルナを助けたソル。
だが、実はそのアンドロイドはゾディアックホールディングスというルナの父親の会社から派遣された
ルナ専用の護衛アンドロイドであった。
ソルはルナを富裕層地区の駅に送り届け、ルナと分かれた。
だが、その時、ソルは自分のせいで他の誰かがUnion-Roswellに襲われるかもしれないという
不安を抱くようになったのだった。
白いヘッドギアを着けたソルがジャンク屋に戻ってきた。
ソルは物陰に入って、腰のボタンを押し、ヘッドギアを外して、ジャンク屋に入っていった。
りょーたろがソルに声をかける。
「おう。おかえり。」
普通に声をかけたつもりだったが、りょーたろが少し恥ずかしがった。
「なんか変な感じだな。お帰り、か。」
そのりょーたろの恥ずかしがるのを見て、ソルが言った。
「なんだよ。急に。りょーたろさん、改まって、そんなの似合わねーよ。」
そう言いつつ、ソルも少し恥ずかしがりながら言った。
「たっ、ただいま。」
ソルが目をそらした。
それを見て、りょーたろが笑い出した。
「ふふふ。ははははは。」
ソルも照れ笑いした。
「なんだよ。ふふふ。」
わずかな間をあけて、ソルは表情を少し曇らせ、りょーたろに問いかけた。
「今日は、、Roswellとか来なかった?」
りょーたろが妙に心配そうな顔をしたソルを見て、少し笑みを浮かべながら言った。
「ああ。全然何もなかったぜ。心配するなよ。」
「そっか。良かった。」
その時、ソルのBCDにメール着信が入った。
「あっ、何かメールが来た。」
りょーたろが心配そうな顔になった。
「誰から?もしかしてRoswellか?」
「いや、ゾディアックだ。」
りょーたろが次は驚いた顔になった。
「ゾディアック?ってあの、ゾディアックか?」
ソルがりょーたろを見ながら頷き、Openボタンを押した。
するとソルの銀行口座に金が入金された旨のメッセージが入った。
(入金 50,000,000Circle)
「えっ?なんだこれ?何かとんでもない額が入金されたみたい。」
「入金?どういうこと?」
ソルは送られてきたメッセージを確認した。
(ルナ小林に近づくな。お前の身のためでもある。
金に困っているのなら、今振り込んだ金で十分だろう。
もし足りない場合は金額を要求しろ。
また振り込んでやる。)
ソルは金で何でも解決しようとするこの態度が気に食わなかった。
「ふざけやがって!何様のつもりだよ!!
そんなもののために助けたわけじゃねーよ。」
「急になんだよ、どうした?」
「あー、これだよ。」
ソルが思考と目配りでりょーたろに画面表示を共有した。
りょーたろは宙に映し出されたメッセージと口座残金が見えた。
メッセージを見たりょーたろが言った。
「確かに高圧的だな。っていうか、なにがあったんだよ。」
ソルが遊技場でルナを助けたことなどを話した。
「そういうことか。なるほどな。
お前の勘違いはあったものの、それでもだな。」
りょーたろはソルに話しかけながら、口座残高を見た。
(50,008,342Circle)
残高を見て、りょーたろがニンマリしていた。
「あっ、お前がいくらもってたか、分かったわ。っていうか、こんだけかよ。」
「しょーがねーだろ?この前のお婆ちゃんの件で、取られちまったんだからさ。」
少しムキになっているソルを見て、りょーたろが返した。
「あー、あの件な。でも、まあ、もらっといたらいいんじゃね?
ゾディアックのやつらにしたらそのくらい端金だろ!?」
「そんなわけには。。。」
ソルは送り先に振り込もうとしたが、この前の騒ぎや今日の仕事のキャンセル、そして誰かが自分のせいで被害を被るかもという不安が頭によぎった。
ソルは躊躇している自分がいることに腹が立った。
(くそっ!!自分が情けない。。。)
そんなソルの様子を見て、りょーたろが話題を変えた。
「あっ、そう言えば、昨日お前がほしいって言ってたメモリ読み込みユニット。届いたぜ。2階の部屋に置いてある。部屋、使えよ。」
りょーたろの言葉を聞いて、ソルの興味は一気にそちら側に持っていかれた。
「あっ、うん。もう届いたの?分かった。あんがと。」
朝3時、りょーたろがポッドの中で足を広げて、ひどい寝相でイビキをかいていた。
だが、ジャンク屋の二階にはまだ明かりが点いていた。
ソルはメモリ読み込みユニットを使いすぐにキューブ型メモリからデータを読み出していた。
だが、そのデータには複雑な暗号化が施されていた。
ソルはこの時間になるまでの数時間をかけて、ようやく暗号化を解読することに成功した。
「できた!!解読成功だ!!」
宙に浮くウインドウにフォルダ1つと形式不明のファイル一つが表示された。
フォルダは至って普通のフォルダに見えた。
もう一つの形式不明のファイルは、さらに複雑に暗号化されたデータのようだった。
「まださらに暗号化かよ。ふー。。。ひとまずこっちだな。」
ソルはとりあえず普通のフォルダの中を確認した。
フォルダ内には数個の図面ファイルと数個の文章資料があった。
ソルはまず図面を開いた。
目の前に図面が3Dで映し出された。
描かれたものはリングが二つ、90度の角度差を持って設置されており、ある角度から見るとまるで無限大のようなマークに見えた。
寸法を見ると、それは巨大な建物のようなサイズで、いかにも21世紀に行われていた粒子衝突実験施設の絵そのものであった。
次にソルは文章資料の方を開いた。
3D図面が映し出されている横にウインドウが開かれた。
ソルが思わず題名を声に出した。
「タキオンコミュプロジェクト。。。」
その資料を読むと、先ほど映し出された設備の絵もあり、この設備の仕様書であった。
最初のページには ”制作者 : 柊レイ” と書かれていた。
それはどうやらソルの祖父が発明したもののようであった。
ソルは資料を読み進めた。
この資料によると、このリングはCycrotronで陽子を加速させるものであった。
加速させる陽子の数は4個。
4方向からそれらを衝突させる時に、その4つの陽子が作り出す空間に光子を突入させる。
それにより、光子を負界、ならびに虚界に入り込ませることができ、そこに存在する物質”タキオン”に情報を載せることができるという装置であった。
負界、虚界は祖父が世界11次元の謎を解明した時に存在が明らかになった世界であった。(小説 ”ガロワのソラの下で” 参照)
負界や虚界に存在する ”タキオン” という物質は光の速度を越えて移動できるため、タキオンに与えるエネルギーをコントロールすることで、どんなに距離が離れていてもゼロ時間で通信ができるという設備だった。
思わずソルが感嘆の声を上げる。
「ちょ。。。これ、すっごいことじゃ。。。でも、なんで?」
ソルは不思議だった。こんなに素晴らしい設備をなぜ作らなかったんだと。
資料を読み進めるうち、次第にその理由を何となく理解した。
仕様書を読んで、ソルは問題が2点あることに気がついた。
1点は装置のサイズ。
「Cycrotronでかいな。直径15kmか。。。このコロニーの直径の2倍よりもデカイ。ははは。」
ソルはあまりの規模の大きさに笑いが込み上げた。
そして、もう1点。
タキオンにエネルギーを与えるための式がまだ完成していなかったのだった。
ソルから笑みが消え、ソルはその式に強い興味をそそられた。
数式への興味に負け、巨大な装置規模で実現不可能だという問題点を頭の隅に追いやり、その式をじっと見つめた。
幼いソルが、祖父である柊レイの書斎に入って、そこにある書籍を読み漁っていた。
祖母の柊(夏目)ミライは、ふと書斎の扉が開いていることに気がついた。
祖母が書斎入った。
そして、部屋の奥でソルが宙に浮く電子ボードに落書きを書きまくっていることに気がついた。
祖母は特に落書きには気にも止めず、ソルに話しかけようとした。
「ソルや。何を。。。」
祖母は目を疑った。
その落書きの内容。懐かしい数式。そして、何よりも美しい数式。
200年ほど前、夏目ミライとして必死に作り上げた数式がソルの目の前に広がっていた。
「ソルや!この中間式も全部、ひょっとしてあんたが書いたのかい?」
「うん。そだよ。お婆ちゃん。どうして?」
柊(夏目)ミライはそこに間違いがないと分かっていながらも、柊レイを呼び、その中間式を見てもらった。
「うん。間違いない。合ってる。」
柊ミライが視線を柊レイからソルに移した。
「ソル。あんたって子は。」
ソルは柊レイが紐解いた11次元の数式をわずか12歳で全て理解していたのだった。
ソルの頭の中で数式が駆け巡っていた。
朝5時半を過ぎた頃、夏季であるため、コロニー回転中心部の照明ユニットがすでに徐々に明るくなりかけ始めていた。
その時、ソルによる約3時間の長考が結した。
ソルの中で数式の全てが繋がった。
ソルは目を見開き、宙に数式を書き始めた。
その後30分間、ソルは延々と宇宙語を書き続けた。
そして、遂にタキオンへの情報伝達式を完全に作り上げた。
「できた。。。できたぞ!!」
ソルが目を上げた時、ふと窓から外の風景が見えた。
貧困層地区の荒れたアパートの風景だったが、なぜかいつもよりわずかに明るく、そして美しく見えた。
「えっ?」
ソルは目を擦ったが、その状況は変わらない。
ソルは笑みを浮かべて、納得した。
世界を司る真理を1つ理解した。そのせいなのだと。
ソルはタキオンコミュデバイスが実現できなかった問題点2つのうちの2番目を解決したと悟った。
その時、ソルはその数式がなにかを訴えていると感じた。
ソルは再び真剣な面持ちで数式に目をやった。
そして、すぐにソルはその直感がなにかを悟った。
ソルが完成させたタキオン情報伝達式から逆算して、陽子を衝突させる際の詳細エネルギー投入量、光子や重力子の振動周波数、与えるべきエネルギーが導きだされた。
そのエネルギー量は1つ目の問題点を自ずと解決していた。
その投入すべきエネルギー量を見て、ソルの真剣な表情は少しずつ笑顔に切り替わっていった。
(これって今の技術なら手のひらサイズの加速器でできるんじゃねーか!?)
慌てて、宙にウインドウを開き、思い付いた部品を検索してみた。
確かにエネルギー投入量、陽子の加速度とも申し分ない部品が普通にあった。
(微妙なエネルギー投入量には気を遣う必要はあるけど、なんとかなりそうだ!)
ソルはその部品の価格を見た。
超特価 6,000Circle/個
4個だと24,000Circle。通信テスト用に2台作ろうとすると48,000Circle。
今の持ち金は約8,000Circle。
シャクなのでゾディアックから振り込まれた金額は勘定に入れていなかった。
「予算、足りないな。まあ、りょーたろさんに聞くしかないか。」
そして、資料の続きを読み込んだ。
気になる記述があった。
(同封の未解凍暗号化ファイルはそのままタキオンコミュのメモリに投入すること。)
データ容量が34ハーポバイト。(※ハーポはメガ、ギガ、テラ、ペタ、エクサ、ゼタ、ヨタ、ハーポのハーポ。)
(この未解凍データ、何に使うんだろう。まあ、おじいちゃんのことだから何かあるんだろうな。)
そう思っていると、後ろで人が歩いてくる音がした。
「おっ?なんだ、それ?」
昨日の画面共有をそのままにしていたため、りょーたろにも見えていた。
「なんかうちのじいちゃんの発明品みたいなんだ。あ、ちょうど良かった。この部品ない?」
振り向きながらソルがそう言って、先ほどのネットで調べた部品が映っているウインドウを、りょーたろに見せた。
「あー、発明家だったっていうおじいさん!」
そう言いながらりょーたろは部品のウインドウを見た。
「おっ、それ!ちょうどあるわ。この前取り寄せたんだよ。」
「えっ?本当に!?さっすが!こんな珍しい部品まで!!」
「そりゃ、品揃えがモットーの『ジャンク屋りょーさん』だからな。」
そう返しながらりょーたろが笑い出した。
「って本当はさ。今だからだよ。ほら、加速器で粒子とかぶつけるのなんか、小学生の夏休みの自由研究くらいだろ?そろそろ夏休みだしな。」
「あー、そういうこと!」
「何個だよ?」
「あー、とりあえず8個。」
りょーたろは昨日見たソルの残高から単品の価格を計算した。
「じゃあ、しゃーないから、1個1000な。」
ソルが目をうるうるさせて喜んでいた。
「あー、本当にもう、りょーたろさん、最高!大好き!!」
ソルがりょーたろに頬ずりしようとする。
「やめろ!お前、おれはそんな趣味ねーんだよ。」
りょーたろがソルを引き離した。
「りょーたろさんのいけず!!」
ソルがそう言うと二人して笑いあった。
笑い終わった後で、ソルがあくびをした。
「お前、徹夜かよ?」
「うん。ちょっと難しい数式の部分もあってね。でも、もう解決済みだよ。」
「寝不足はテロメアの敵だぜ。」
「そだね。組み立てはちょっとだけ仮眠してからにするよ。」
そういうとソルは部屋の奥のソファに向かっていった。
「ここ、借りるよ。」
りょーたろが「下のポッド、使えよ」と言おうとした矢先、ソルが倒れるようにソファに横になった。と同時に、すぐにイビキが聞こえてきた。
「こいつはいっつも全力少年だな。」
りょーたろが笑って部屋から出ていった。
金曜日の朝、校庭の時計台が八時を指していた。
ルナがVRにログインし、校庭の正門のところに現れ、校舎の方に歩いていった。
すると、何か周囲でコソコソ噂話をされている気配を感じた。
ルナが立ち止まって周囲を見回した。
すると、登校している周囲の人たちがルナの方を見ていたのを止め、視線をそらした。
そこに、クラスメートの男子が校庭に入ってきて、ルナを見つけて駆け寄ってきた。
「おはよ!っていうか、お前だったのかよ。」
<次回予告>
学校で噂になっているルナ。
友人やヒエラルキー女子にも声を掛けられる。
困惑するルナ。
その時、突然、校長室に来るようにというルナを呼び出す放送が。。。
次回、第20話 ”分かるもんですか!分かる必要もない!!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




