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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
19/85

第18話:初めまして!だよね?

<前話のあらすじ>

Union-Roswellというマフィアによって仕事がままならない状態となったソル。

ふと立ち寄ってE地区中央区の遊技場ゲームセンターで二人の凄腕プレイヤーを見ていた。

そのプレイヤーの1人は通商会合のパーティーから抜け出したルナだった。

そこに屈強な体躯のアンドロイドが4体が現れる。

そのアンドロイドは遊技場に入っていき、ルナの手を掴み、連れていこうとしていた。

それを見たソルが腰のボタンを押したのだった。


 

 黒色のエアクラフト車が遊技場の手前に二台停まった。


 そして、その車から黒いスーツを着た体躯の良いアンドロイドが4体降りてきた。


 すると、アンドロイドが見物している人を掻き分け、遊技場に入っていった。


 アンドロイドの1体がルナが座るコックピット型のゲーム筐体の横に着くと、筐体内に座っているルナの手をグッと掴んだ。


 ルナの手が操縦桿から離れ、アンドロイドの引っ張る力によって、筐体の外に身体が引っ張り出された。


「ちょっとなにするの? やめてよ!!」


「おい!お前ら、いいとこなんだ!邪魔すんじゃねーよ!!」


 周りの男がアンドロイドを掴んだ。


 だが、別のアンドロイドがその男を一瞬で引き剥がした。


 アンドロイドが引き剥がした男の両肩をグイッと押して、椅子にズンと座らせた。


「あなたたちこそ邪魔をしないでいただきたい。」


 アンドロイドによって肩に手を置かれた男は立ち上がろうとするも、全く立ち上がることができなかった。


 そんなことをしている間にもアンドロイドはルナを黒い車の方に引っ張っていっていた。


「ちょっと。もう良いとこだったのに。ちょっと。。。もう。」


 ルナがどんどん引っ張られるが周囲の男たちはなす術がなかった。


 その様子を見て、ソルは怒りを抑えることができなかった。


「またお前らか!お前ら、いったいなんなんだよ!!」


 ソルは腰に付いたユニットのボタンを押した。


 そして、思考で制御変数を変えた。


 ソルの視野右下の隅に緑色の表示が現れた。


(Gear02)


 その後、すぐにエネルギー充填音が鳴り響いた。


 ソルのつなぎが赤色に変わり、身体にピタッとフィットした白いシャツやつなぎのズボンの下のレギンスに描かれた黒い帯が赤くなり、その後、虹色に光り始めた。


 それと同時にアンドロイドたちが僅かに震え始めた。


 エネルギー充填完了のブザーが鳴ると、ソルの身体がキュンと加速した。


 その加速はコロニー内を移動する時のそれを遥かに超えていた。


 次の瞬間、ソルは向かって一番手前のアンドロイドの横に移動した。


 アンドロイドはまだ男の方に肩を置いていた。


 ソルは右手を振り上げ、男の肩に置かれていたアンドロイドの両手を上に弾いた。


 そのままの流れでソルは身体をアンドロイドに接近させながら、左手の肘を突きだした。


 ソルの肘がアンドロイドの胸に叩きつけられた。


 硬い鉄板を叩くような音が遊技場全体に響いた。


 その音と共にアンドロイドが黒い車の方向に吹き飛んだ。


 車のサイドドアにアンドロイドが叩きつけられた。


 アンドロイドの胸は陥没していた。


 そしてソルは再び高速移動をして、右手で、女の子の腕を掴んでいるアンドロイドの左腕を掴んだ。


 アンドロイドがソルを見る。


「何をする気です?やめなさい。」


 すると、ソルが目を見開いて、アンドロイドの腕を掴んだ右手の握力を最大まで上げた。


「この手を放しやがれ!!」


 金属の板が無理矢理潰される音がする。


 アンドロイドの腕のソルに掴まれた部分がどんどん細くひしゃげていく。


 アンドロイドの腕から内部の部品が飛び出し、白い液体が吹き出す。


 そして、アンドロイドの手に力が全く伝達されないようになる。


 女の子を掴んでいたアンドロイドの手が開き、女の子は少しアンドロイドから離れた。


 それを見て、ソルは身体を高速に回転させながら、掴んでいるアンドロイドの左腕を引っ張った。


 ソルはアンドロイドの左腕の下にソルの左腕を回し、背中をアンドロイドの腹部に押し当てた。


 次の瞬間、アンドロイドの身体が宙を舞った。


 この時代ではもう人間の技はほとんどお目にかかることもなくなっていたが、それはまぎれもなく柔道の一本背負いであった。


 だが、普通の一本背負いとは違う点があった。


 ソルはアンドロイドを投げた後、宙を舞うアンドロイドの頭に対して、姿勢を戻したソルが蹴りを入れたのだった。


 アンドロイドの頭部から金属の鉄板が引き裂かれるような凄まじい音がした。


 ソルの蹴りが入ったアンドロイドの頭部が90度近い角度に折れ曲がった。


 アンドロイドはそのまま頭部から地面に叩きつけられた。


 立ち上がったソルに横からアンドロイドが襲ってきた。


 そして、アンドロイドはソルを両手で抱きかかえた。


 だが、ソルは、アンドロイドの腕を引きちぎるように、無理矢理広げた。


 アンドロイドの腕がバラバラにちぎれ飛び、破片の中でソルがアンドロイドにパンチをお見舞いした。


 その瞬間、遊技場にいる人の身体が震えるほどの大きな音が響き渡り、アンドロイドが黒い車の方に吹き飛んで行った。


 ソルはルナに合図をする。


「逃げるぞ!!」


 ルナが言葉もなく、うなずいた。


 ソルはそれを見て、ルナをガッと片手で抱え、遊技場から走り去った。


 残り一体のアンドロイドはソルを追うことなく、ソルが移動して行った方を見ていた。





 ソルはルナを抱えたまま、文字通り、目にも止まらぬ速さでコロニー内を移動していた。


 そして、ソルが少し先の壁を目にしてルナに言う。


「頭抱えてろよ!」


 ルナが頭を抱えたのを見て、ソルは勢い良くジャンプした。


 ソルはルナの重さを見誤った。


 一気に飛び越える予定だったが、ギリギリ壁を乗り越えられるくらいの高さになり、壁の上でもう一度地面を蹴り上げた。


 地面に着地し、再びソルが走り出した。





 レイモンド小林が先ほどソルと争っていたアンドロイドの視点の映像を宙に映し出して見ていた。


 レイモンド小林の後ろの窓には衛星軌道から地球を見た景色が広がっていた。


 レイモンド小林がBCDを通して、レミ柊にCallした。


 レミ柊が机の対面側に現れた。


「もうすでに知ってるかもだけど、そちらのソルさんがE地区で、わが社のアンドロイドと少し揉めたみたいだ。」


 レミ柊が謝罪した。


「ごめんなさい。ソル、父に似て頑固なの。そちらのアンドロイドの費用はお支払するわ。」


「いや。大丈夫だよ。元はと言えば、うちのルナがE地区に行ったのが事の発端だし、ソルさんはルナを助けようとしてくれただけだから。」


「本当にごめんね。ありがと。それとソルはルナちゃんに何かすることはないと思うけど、もし心配なら。。。」


 レイモンド小林がわずかに笑いながら答えた。


「いや。僕はソルさんを信用してるよ。何といってもレイ様の分身でもある人だ。間違いはないだろう。」


 レミ柊はソルを信じてくれているレイモンド小林に対して笑みを浮かべた。


「ただ、一応、ソルにはルナちゃんに近づくなと警告を投げくれないかしら。

 あと、親バカで申し訳ないんだけど、手切れ金という形で5000万サークルほどお金も送ってやってほしいの。

 もちろんそのお金はこちらから払わせてもらうから。」


「分かったよ。送っておく。」


 レイモンド小林が息を吐いて続けた。


「ふう。お互い親として苦労するな。」


「そうね。あの頃からは想像もつかない。」


 レイモンド小林が少し笑った。


「全くだよ。よく言われることだけど、親ってのは成ってみて初めて親の気持ちを知るもんだな。」


「本当にね。」


 二人は移動しているソルとルナの様子が映されている映像を見ていた。





 ソルがルナを抱えたままで、A地区の豪華な駅に到着した。


「よいしょっと」


 ソルがルナを地面に立たせて、腰のボタンを押した。


 ソルの身体に描かれた赤い帯が黒くなり、つなぎの色が変わる。


 その時、ルナがソルに向かって指を差した。


「って言うか、あんた誰?

 それに、なんでアンドロイド壊しちゃうの!?

 それにそれに、なんでここに連れてきたの!?」


 ソルは突然助けた女子に責められて驚いた。


「はあ?お前が襲われてたんだろ?

 助けてやったのに、何だよ!その言いぐさは!!

 それに、お前な、そんなカッコであそこを出歩くのは自殺行為だ。

 知らねーのか?あの辺りじゃお前の着ている服よりも安い金で人が殺されることだってあるんだからな。」


 ルナが目を細めて横目にソルを見て言った。


「何かママみたいなこと言うんだね。

 あそこでゲームをやってる人、見てる人たちはみんな同じ想いだったよ。

 心が通じ合ってたっていうか、分かり合ってたっていうか。あそこにいた人たちに悪い人はいなかったもん。」


「なに訳の分かんないこと言ってんだよ!!

 分かりあってたわりに襲われてたじゃねーかよ。」


「私は襲われてなんかないんですけど!!」


「いやいや。完全に襲われてたしな。

 腕掴まれてたの、どこのどいつだよ!?」


「襲われてなんかないってば。

 あのアンドロイドの胸の紋章見なかったの?

 あれ、ゾディアックのマークだよ。私の警護用アンドロイド。」


「え?私の?警護用?あれ、Roswellじゃないのかよ?ゾディアック??」


「うん。そうだよ。ゾディアック・ホールディングス。」


「えっ?マジかよ?

 アンドロイド、Roswellのだと思って、壊しちまったじゃんか。

 しかも、ゾディアックって。お前、あのゾディアックの?」


「あっ、ゾディアック、知ってんだ!」


 ソルは、そう言ったルナを良く見ると確かに以前どこかで会ったことがあるような気がした。そして、知っている人にも似ているのを感じた。


 ソルは以前子供の頃にプログラムを教わった小春というお婆さんのことを思い出していた。


 小春お婆さんは現在のゾディアックホールディングスを立ち上げた時の副社長で、ソルの祖父である柊レイと以前同じプロジェクトを実施していたと聞いていた。


 そして、そのプロジェクトを推進する過程で半永久機関であるS2機関や寿命制御薬であるテロメライザーの基本技術を作り上げたと聞いていた。


 ソルのハッキングの技術、プログラミング技術は小春お婆さんから教えてもらい、ソルが独自に発展させたものであった。


 その記憶が一瞬でフラッシュバックしたが、首を振り、答えた。


「ゾディアックなんか知らねーよ。」


「えー?自分で言うのも何だけど、このコロニーでゾディアック知らないって、ちょっとあんた、モグリなんじゃないの?もっ、もしかして不法入植者?」


 ルナは初めて会ったはずの男子に、いつもは心に思っても吐き出せずにいるような言葉が、躊躇もなく飛び出しているのを感じて、不思議な感覚を覚えた。


 ソルはルナの言葉を聞いて怪訝けげんそうな顔をした。


「お前な、あんたってうちの婆ちゃんみたいな話し方するなよ。


 しかも、どう見ても俺の方が年上だしな。敬語を使え、敬語を。」


 その言葉でルナはある人を思い出した。


 ”The drop of the colony”で出会ったSummerEyeという人のことを。


(あの人も『あんた』って言ってたな。私、感染(うつ)ってんのかな。ふふふ。)


 ルナが思い出しながら笑みを浮かべた。


 突然笑みを浮かべた女子にソルがさらに怪訝けげんそうな顔をした。


「なっ、なんだよ、お前。気持ちわりーな。」


 するとルナがはっと思い出から戻ってきた。


「あっ、ごめんなさい。そうだ!名前、まだ言ってなかったね。

 私、ルナ小林って言うの。

 初めまして!だよね?

 っていうか、なんでかな?あんたにちょっと親近感、感じたっていうか。。。なんだろ?これ。

 まっ、ひとまず、良く分かんないけど、ありがと。」


 ソルは急に素直になった女子の態度に少し戸惑った。


 そして、記憶の片隅に『ルナ小林』という名前があることに気がついた。


「なんだよ。怒ったり、感謝したり。まあ、いいや。

 あー、ほら、まあ、もう行けよ。どうせ、この辺りなんだろ?」


「あっ、うん。じゃあ、また。。あっ、あんたの名前は?」


 ソルは気づかれるような気がして、ルナから目をそらして答えた。


「あー、えーと、ソルだよ。ソル。」


「あっ、ソルさん。いい名前だね。

 ルナにソル。なんか似てるかもね。

 じゃあ、記念だし、アカウント教えてよ。私も教える。」


「お前な。こんな見ず知らずの人に。。。」


「いいじゃんか。ほら、これで。」


 ルナが近接P2P通信でアカウントをソルに送ってきた。


 ソルもなぜか若干親近感を感じていたため、それに応じた。


「もう分かったよ。ほら。」


 ソルのアカウントがルナに渡った。


「ありがと。じゃあ、またね。」


 ルナは手を振ってサヨナラの合図をした。


「おう。」


 そう言って、ソルは軽く手を上げた。


 ルナは駅の方にタッタッタッタッと走っていき、途中で振り返り、手を振った。


 そして、また駅の方に走っていった。


 ルナの姿が見えなくなって、ソルはぼそっと呟いた。


「あいつ、変なやつだな。」


 ソルは一度駅に背を向けたが、もう一度振り替えって見た。


 そこにルナの姿はもうなかった。


 その時、何故だか分からないが、ソルはふと感じた。自分の周囲がUnion-Roswellに巻き込まれるという不安感を。


 ソルは物陰に隠れて、腰のボタンを押し、白いヘッドギアを着けた。


<次回予告>

ルナを送り届けた後、ジャンク屋に向かったソル。

ジャンク屋りょーたろはソルを温かく迎える。

そして、以前ソルが見せたキューブ型メモリの読み取り機が入ったと伝える。

果たしてそのキューブにはどんな情報が入っているのか!?

次回、19話 ”タキオンコミュユニット。。。”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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― 新着の感想 ―
勘違いで大暴れして器物損壊でどっちが誘拐犯……。 しかも、リアルタイムで全部親バレ。 客観的状況と外野の存在はあるけど、若い二人の出会いですね。 宇宙都市時代のちょっとした青春劇場。 どうなっていく…
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