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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第16話 : それはまだ秘密ですよ。

<前話のあらすじ>

マフィアに襲われたソルは強化ウエアの力を使い、何とか逃げることができた。

時を同じくしてルナはコロニー3で開かれている通商協議会合のパーティーに参加していた。

いろんな会社の社長と会話した後、地球議会の議長、リチャード・マーセナス、”OneYearWar”開発元であるB-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)の社長とその御曹司と話し始めた。

そして、リチャード・マーセナスがルナに問いかける。

「”RedDevil”はご存じですかな?」

ルナは思わず唾を飲み込んだ。。。



 レイモンド小林のところに、リチャード・マーセナス、そしてB-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)の社長とその社長の息子がやってきた。


「これは、これは、小林社長ではないですか。お久しぶりです。お変わりありませんかな?」


 リチャード・マーセナスがレイモンド小林に挨拶をする。


「マーセナス議長、お久しぶりです。はい、何とかやらせてもらってますよ。」


「またまた、何とかだなんて。地球圏、コロニー圏全体で見ても、最優良企業のゾディアックホールディングス社長様の言うことではありませんよ。」


「いえいえ。いつどうなるか、分からない。それが経済というものですので。」


「それはそうですな。いつどうなるか。

 あっ、そうでした。紹介がまだでしたね。こちら、B-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)のトミー宝田社長、それとその息子さんです。えーと、息子さんの名前は。。。」


「エポックです。」


「これは、トミー宝田社長、エポックさん、コロニー3-104にようこそお越しくださいました。」


 レイモンド小林とB-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)のトミー宝田社長が挨拶をして、握手をした。


 その様子を見つつ、リチャード・マーセナスがルナを見て、話し出した。


「先程の階段での見事なサルベージ、見させていただきました。

 判断、そして瞬発力。いや、実に素晴らしかったです。Miss、、、」


 リチャード・マーセナスがルナを笑顔で話ながらも言葉を止めた。


 そこにルナが答える。


「ルナと言います。」


「Missルナ。良い名前だ。」


「ありがとうございます。たまたまです。」


 ルナがニコッと笑うと、B-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)の社長息子エポックがルナを気に入ったように見ていた。


 その息子が話しかけようとした時、リチャード・マーセナスが再び話し始めた。


「あっ、瞬発力と言えば、ご存じですかな?

 今、最も有名なゲーム、宇宙戦争をモチーフにした『OneYearWar』を。

 この社長のB-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)が作ったものなんですよ。

 そして、どうやらその世界ナンバーワンプレイヤーがこのコロニー3にいるらしいのです。」


 ルナがドキッとした。


「そのプレイヤーは人間なんです。AIをも凌ぐヒューマンプレイヤー。

 プレイヤーたちの中ではAIスレイヤーなどとも呼ばれています。

 その判断力、瞬発力たるや。恐ろしい限りです。」


 少しルナがむず痒そうな表情をしていた。


「是非一度見てみてください。

 このコロニー3には有名なヒューマンプレイヤーが二人。

 一人はすでに場所を明かしていて、このコロニー3-104のE地区中央区にいるようです。

 もう一人が先ほど話した世界ナンバーワンプレイヤー、通称”RedDevil”。」


 「”RedDevil”。。。」


 レイモンド小林が復唱した。

 リチャード・マーセナスが軽く頷き、続けた。


 「一度プレイを見ると虜になると言われているほどです。

 私もこのコロニーのようだということだけは聞いているのですが、会社ポリシーとして、個人情報は絶対に漏らさないとしておりますゆえ。」


 レイモンド小林が少し興味を示していた。


「それは一度見てみたいものですね。」


 そういうと、レイモンドはルナを見た。


 ルナは苦笑いをしていた。


 リチャード・マーセナスが笑いながら言った。


「社長なのだから調べれば良いだろうといつも言ってるのですがね。」


 ルナの母親はゲームの話で、且つE地区という貧困層地区の名前が出たため、あまり乗り気ではなかった。そこで少しだけ皮肉を込めて言葉を切り出した。


「このコロニーであるという情報は漏れても大丈夫なのです?」


 B-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)の社長、トミー宝田は、それを感じ取ったのか、わずかに笑みを浮かべながら、静かに答えた。


「いえ、それもプレイヤー内での憶測なんです。

 参加しているサーバーとか、今行われている予選の参加状況とかから推測されたようなんですよ。

 うちから漏れたものではありません。

 この厳格な情報管理こそがうちの顧客への信頼を保つ秘訣なのです。」


 ルナの母親、美月小林からの質問を避けるように、B-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)の社長はルナに視線を移し、聞いた。


「ルナさん、もしかして、、、」


 ルナが生唾を飲み込んだ。


「お知り合いにいませんか?”RedDevil”と呼ばれているプレイヤーが。」


 ルナは両手を前に出して、目一杯振りながら答えた。


「いえいえいえいえ。しっ、知りません。あっ、でも友達との間では話題になりますよ。すごいプレイヤーですよね。」


 チャンスとばかりにB-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)の社長息子が、次は遮られないように少し早口でルナに話しかけた。


「もしかして、ルナさんもゲームされてるんですか?フレンド交換でも。。。」


「いえいえいえいえっ、わっ、わっ、私は全然です。はい。すみません。」


 と言いながら、ルナはしどろもどろになりつつ断った。


 そこに再び割り込みをリチャード・マーセナスが入れた。


「そうそう。ただ、もうすぐそれもひっくり返るのでしょう?もうすぐ現状を遥かに凌ぐAIが出来るんだと。」


 B-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)社長が口の前に人差し指を出し、笑いながら言った。


「それはまだ秘密ですよ。」


 ルナがそれを聞いて、目をキラキラさせていた。


 それを遮るようにレイモンド社長が話を切り出した。


「それはそうと、私どもゾディアックホールディングスも地球環境保護基金への寄付10年100兆サークルを決定いたしました。

 これにより、地球圏での観光業発展が期待できるものと思われます。

 そこで、通商会合でのコロニー製品関税の件ですが。」


 リチャード・マーセナスは小さく何度か頷き、言葉を遮って話し出した。


「そうですな。観光業は地球の地の利を活かした商業アイテムです。

 基金への寄付、誠に感謝いたします。

 関税の件、少々私の先走りだったのかもしれませんな。

 私はコロニー環境での商業的利点が羨ましくて羨ましくて。

 特に御社やRMエナジーさんには全く敵いませんのでね。

 思わず口に出てしまったのです。

 本当に素晴らしいサービスを提供してらっしゃるのでね。」


 そういうと、リチャード・マーセナスが笑いだした。


 それにつられてB-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)トミー宝田社長も笑いだした。


 レイモンド社長は口もとだけで笑っていた。


 ルナにはリチャード・マーセナスの中に激しい炎が燃えているのが見て取れた。


 そこからたわいもない探り合いの会話をしばらくした後、リチャード・マーセナスとB-DAI-N.Co(ビーダイエヌコ)トミー宝田社長と息子のエポックは他の要人達と話すためレイモンド社長のもとを離れた。


 ルナはリチャード・マーセナスの執念や嫉妬のような強い念をずっと感じていた。


(あの人、本当に地球圏の再建に計り知れない想いを抱いてるんだな。)


 その後、ルナの家族は他の政財界の要人達と会話をした。


 ルナはお世辞、おべっかの裏の嫉妬や妬みをひしひしと感じながら会話していた。


 何組かと会話した後、同級生の麗子城ケ崎とその両親がやって来て話を始めた。


「テロメライザーにBCDまでゾディアックさんには敵いませんな。

 製造にはKinet-dyneさんのアンドロイドではなく、弊社のアンドロイドを使っていただけるとありがたいのですが。」


 その発言をしている男性から声が聞こえる。


(こいつさえ、こいつさえいなければ、うちがコロニー1位の座に付けるのに。

 もしかしてテロメライザーのせいでまだまだ生きながらえるのか?

 もう本当に死んでくれ。頼むから死んでくれよ。

 それともおれがRoswellとかに頼むしかないのか?)


 ルナは笑いながらも吐き気を感じた。


 その時、同級生の女子が笑いながらルナを見た。


 ルナは父親と話している男性から目を背け、同級生の女子を見た。


 その時、ルナにはその女子の声が聞こえた。


(あんたなんか、ゾディアック家の子として生まれてきただけじゃない!

 それなのにあんなにエポック様に馴れ馴れしくして、もう許せない。

 私はあの方にお近づきにならなくてはならないっていうのに!!

 私が絶対に彼の心を掴んでみせるんだから!今に見てなさいよ!!)


 ルナは、それまでの大人達の表面的な会話、心の中の本音をずっと聞かされ、そして今同級生の本心が聞こえ、思わず心の声が出そうになっていた。


 両親の前では必死に押さえている本音発言衝動。





 ルナが両親と城ケ崎家の間にスッと入り込んだ。


 そして城ケ崎家の両親に指を指した。


「ああぁーーーーっ!!なんなのよ、あんたたちは!!

 言いたいことはっきり言いなさいよ!!

 なんでまだ足を引っ張るようなことしか考えないの?

 なんでこんな時代になってまで、まだ取り合いしか考えないのよ!!

 ただ新しい世界でお互い足りない部分をおぎあいながら、支え合いながら切り開けばいいじゃない!!

 それとも、なに?300年以上経った今ですらもあんたたちはアダム・スミスの世界で生きてんの?

 それがあんたたちのやりたいことなの?

 あんたたちが本当にやりたいことは一体なんなのよ!!」


 ルナは想いに任せてそう言いながら、最後はルナの目から一筋の涙が頬を伝っていた。





 はっとルナが我に帰った。


 目の前で同級生の女子が笑っている。


 両親同士の会話が終わりかけていた。


 ルナは吐きそうになった言葉を飲み込み、最後の自分の言葉を思い返した。


(本当にやりたいことは一体なんなのよ!!)


 そして、ふと少し前の会話を思い出した。


「このコロニーには有名なヒューマンプレイヤーが二人。

 一人はすでに場所を明かしていて、このコロニー3-104のE地区中央区にいるようです。」


 そして、以前、『OneYearWar』内で会ったヒューマンプレイヤーの記憶。


(コロニー3-104 E地区中央店)


 ルナは父親と母親に言った。


「ちょっと体調が悪いから、先に帰ってもいい?」


「もうちょっと我慢できないの?」


「うん。あんまり良くないかも。」


 父親がルナを見て言った。


「分かった。車を呼んでおくから、正面玄関のところに行きなさい。」


「うん。ありがとう。」


 そう言って、ルナは疲れた足取りでSPのアンドロイドと一緒に正面玄関の方に歩いていった。


 そして、アンドロイドに囲まれながら一人、イオンクラフト車に乗り込んだ。


 AIの運転手が音声ガイドを行った。


「ご自宅に移動します。」


「うん。お願い。」


 ルナが返事をすると、車の前方の空気の色が濃くなり、車体がわずかに傾いたかと思うと音もなく動き出した。


 そして、移動し始めて少しした後、再びコロニーのある場所が思い起こされた。


 ルナが視線でアプリを立ち上げると衣服を選択した。


 ルナの来ているドレスがモーフィングし、可愛らしいパンツ、フリルの付いたどこか上品さも兼ね備えたブラウスに変化した。


 ルナはAI運転手に言った。


「お願い。行き先変更して。E地区中央区に。」


「かしこまりました。」


 高速のインターチェンジを車がグルっと回り始めた。


 移動する車の中には目を輝かせているルナがいた。


<次回予告>

大人たちの建前の会話に疲れはてたルナ。

両親よりも先に会場から自宅に移動しはじめた。

その時、ルナの頭にある記憶がよぎる。コロニー3 E地区中央区のプレイヤーのことが。

いてもたってもいられず、コロニーE地区中央区に移動するルナ。

そこには遊技場が1軒。そしてあるプレイヤーがいた。

目を輝かせるルナ。

気がつけばルナは”OneYearWar”の世界に飛び込んでいた。

そこに体躯の良いアンドロイドの姿が現れる!

そして、新たな出会いも!!

次回、第17話 ”お前ら、いったいなんなんだよ!!”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


<ちょっとだけ、あとがき>

なんか関税と言うと、2025年現在では、あの人を思い浮かべる人が多いかと思います。

でも実は時事ネタではなくて、この話自体は”ガロワのソラの下で”が完成した2023年にはすでに出来ていました。と言っても、ダメですね。先に出さないと。(笑)


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