第15話:なかなか面白いことをしてくれる。
<前話のあらすじ>
ルナが通商会合のパーティーに参加することになっていた日、
ソルはあい変わらず貧困層で電子機器修理を行っていた。
そこにUnion-Roswellというマフィアのアンドロイドが来た。
とあることがきっかけで貧困層に住むお婆ちゃんの借金を肩代わりしたソル。
アンドロイドは借金取り立てのため、ソルを捕まえようとしていたのだった。
リーダー格以外のアンドロイドがソルを捕まえようとした。
「お前らにおれが捕まえられるものかよ!」
ソルがキッと目を大きく開けた。
ソルの服の下の赤くなった帯が強く光った。
そして、ソルが小声で唱えた。
「Gear02」
ソルの視野右下の隅にも緑色で(Gear02)と表示された。
すると、服の下の帯が虹色に光り出す。
その時、アンドロイドの動きに若干の振動と遅延が発生し始めた。
ソルを捕まえようと襲いかかるアンドロイド。
リーダー格以外のアンドロイドが右から左から手を伸ばしてきた。
ソルは左側に向かって高速で移動した。
アンドロイドも高速度カメラでソルの動きを認識していた。
だが、なぜかアンドロイドの腕の動きに遅延が生じていた。
その遅延により、ソルはアンドロイドが出した腕の間をすり抜け、一番左側にいたアンドロイドの左側に移動した。
アンドロイドとソルが背中合わせになった瞬間、ソルが背中でアンドロイドをドンッと押した。
背中を押されたアンドロイドは体勢を崩し、前のめりに倒れこんだ。
次に、倒したアンドロイドの後ろにいたアンドロイドがソルの動きにあわせて、手を伸ばしてくる。
ソルは左手を突きだし、身体を大きく時計回りに回した。
伸ばしてきたアンドロイドの腕をソルが左手で払う。
さらにソルが身体を高速回転しさせる。
ソルは身体を回転させながらアンドロイドに近づける。
そして、回転の勢いそのままに、ソルはアンドロイドを右肘でドンっと突き飛ばした。
アンドロイドは手を伸ばした力をうまく利用され、肘で突き飛ばされた。
姿勢を崩されたアンドロイドは、先程、前のめりに倒れたアンドロイドが立ち上がろうとしたところに、ドサッと覆い被さった。
ソルはすぐさま、立ち上がろうとするアンドロイド二体を踏みつけ、その向かい側にいるアンドロイドに向かってジャンプした。
アンドロイドは空中のソルを捕まえようと両手を前に突き出して構えた。
ソルは右足で両手を蹴り払い、回転しつつ左足でアンドロイドの首をホールドした。
ソルは、自身の落下エネルギーも使って、左足で首をホールドしたアンドロイドを足で放り投げた。
放り投げられたアンドロイドは先にアンドロイド二体が倒れているところに倒れこんだ。
ソルがアンドロイドを足で投げた勢いを使って身体を回転させながら着地した。
身体を回転させて着地したポーズは、すでに次の獲物に向かってスタートを切る体勢であった。
ソルはリーダー格の右隣にいたアンドロイドを見据えていた。
ソルが移動を開始しようとした、まさにその時、リーダー格のアンドロイドが足の格納部分から何かを取り出す素振りを見せた。
「おっ、おい待っ、、」
慌てて、ソルが後ろにジャンプした。
リーダー格のアンドロイドが躊躇なく、ソルのジャンプの軌跡に向かって、光線を放った。
ソルは空中で回転しながら、光線を避け、三体が倒れている上にドンと着地。さらに後ろにジャンプした。
リーダー格のアンドロイドは取り出したレーザー銃で再びソルを狙い撃った。
だが、ソルのジャンプの軌道を追うかたちで光線が走った。
もう一体のアンドロイドもソルを追いかけるようにジャンプした。
ソルはその場から逃げるようにアパートの細い路地に曲がり走り込んだ。
リーダー格のアンドロイドの放つ光線がそれを追いかける。
光線は次々にアパートの壁に当たり、多孔質の壁が弾け飛ぶ。
ソルを追いかける一体のアンドロイドも細い路地に曲がり入っていった。
だが、ソルは折れ曲がったすぐ先で止まり、そこに目一杯の力を込めた掌底を突き出していた。
アンドロイドは高速度カメラでソルの手の位置認識が終わり、避ける処理に入った。
だが、その時には、すでにソルの掌底が胸に当たっていた。
遅延のかかった処理ではそれが限界だった。
近所のアパートに響き渡るほどの大きな衝撃音が鳴り響く。
掌底をくらったアンドロイドが向かいの細い路地に向かって吹き飛んでいった。
ソルは再び目一杯の速度で細い路地を走り、そして、アパートの上を飛び越すようにジャンプした。
リーダー格のアンドロイドが銃を構え、その路地に入ってきた。
だが、すでにそこにはソルの姿はなかった。
「なかなか面白いことをしてくれる。」
請求書に書いている(6056万サークル)が(6057万サークル)に変わった。
豪華絢爛なパーティー会場にきらびやかなタキシードやドレスを纏った人々が集まっていた。
「あら?ルナちゃんじゃないの?久しぶりね。こんなにキレイになって。」
「あっ、レミおばさん。お久しぶりです。」
レミ柊がルナを見つけて、話しかけた。そして、すぐにレイモンド小林と経済の話題に移った。
「レイモンド社長、お変わりはありませんか?
そう言えば、またコロニー3-104の経済占有率が上がってましたね。他のコロニーや地球圏からのやっかみが厳しくなりそうです。」
「レミ社長、お元気そうで何よりです。
そうですね。コロニー3はまだハウスガーディアン症候群の割合が低い。
その分、総生産が押し上げられているだけなんでしょうけど、それでも相手からすると気にくわないんでしょうね。」
その後、レミ柊はレイモンド小林と美月小林と他愛のない話をした。
「それでは、また。じゃあ、またね、ルナちゃん。」
「はい。ではまた。」
次にレイモンド小林はKinet-dyneの孝・T・ティーウォーター社長に自分の妻と子供を紹介した。
「お久しぶりです。ティーウォーター博士、いや失礼。今は社長でしたね。」
「お久しぶりです、レイモンド社長。いやいやまだ社長なんて呼ばれるのはちょっと恥ずかしいので、博士で結構ですよ。」
「いえいえ、そう言うわけには。あっ、そうです。こちら、私の妻、美月です。」
昨夜に比べると少し痩せて見えるルナの母親が挨拶した。
「はじめまして。お噂はかねがね。夫から、ティーウォーター博士の造るアンドロイド設計は素晴らしいと常々うかがっております。」
「レイモンド社長にそのようなお言葉をいただくとはなんとも恐縮です。
して、そちらのお美しい方はご息女様でございますかな。」
「はじめまして。私、ルナと申します。以後、お見知り置きを。
私も父からティーウォーター博士のことは常々うかがっております。」
ルナがそう言いながらお辞儀をした。
その時、ルナの目の前にある二階テラスから広間に降りてくる階段で女性が自分のドレスを踏み、転びそうになった。
ルナはその姿勢の変化に気づき、自分のドレスのスカートを上げた。
「失礼します!」
ルナが、そう言うが先か、瞬間でその女性の方に移動した。
そして、ルナは左手でその女性を手摺の方にトンと押した。
さらに階段数段上がったところから落下中のシャンパングラスに向かってジャンプし、グラスを右手でさっと掴んだ。
ルナは左手でスカートを押さえて、身体をグルっと一回転させ、着地した。
女性は何とか手摺に捕まり、落下の難を逃れた。
ルナはシャンパングラスからこぼれそうになっていたシャンパンの傾きをうまく捉え、一滴もこぼすことなく、グラスを手に取っていた。
突然のルナの動きを見たティーウォーター社長は驚きを隠せなかった。
ルナはさっと立ち上がり、階段を下りてきた女性に話しかけた。
「大丈夫でしたか?どうぞ、これを。」
ルナは女性にシャンパングラスを渡した。
「ありがとう。あなたのおかげで怪我せずに済んだわ。本当にありがとう。
でも、あなた、どこかのスパイかしら?すごい身体能力ね。」
女性の冗談にルナが答えた。
「いえ。どういたしまして。実は私、ゾディアックホールディングスのスパイなんです。」
女性がえっ?と驚いた顔になった。
「というのは、冗談です。ご安心してパーティーをお楽しみください。」
ルナが会釈をして、女性と別れ、両親とティーウォーター社長のところに微笑を浮かべさせながら戻ってきた。
思わずティーウォーター社長がルナに向かって言った。
「素晴らしい洞察力と運動能力です。何かスポーツの選手なのですか?」
「いえ。たまたまです。」
「え?あ、たま、たま、、、ですか。」
「それより、ティーウォーター博士に聞きたかったことがあるんです!!」
「あっ、はい。どうぞ。」
ティーウォーター博士は驚きの顔のまま答えた。
ルナが笑顔で質問する。
「はい。質問というのは、アンドロイドもメタリックステラも、どうして間接可動域を人間とほぼ同じ設定にしてるんですか?」
ティーウォーター博士の顔が綻んだ。
「あー、とても良い質問ですね。ところで、ルナさんはどう思いますか?」
「可動域が180°以上ある方が人の動きを超越した動作ができるようになるので、その方が良いのではと私は思うのですが。」
ティーウォーター社長は博士の顔になって答えた。
「きっとルナさんは新しいタイプの人なんでしょうね。
先ほどの洞察力や運動能力を見ても少しその答えに納得です。」
ティーウォーター博士はレイモンド社長を少し見て、再びルナの方を見た。
「これはですね。2つ理由があるんです。
1つは人間を越えた可動域にすると、その動作を見た人がアンドロイドを怖がるんです。
実際に一度そういうアンドロイドも作ったのですが、突然アンドロイドの手が反対側に向き、顔も反対側に向くと何か昔々のホラー映画に出てくるお化けのようだという意見がたくさん寄せられたんです。気味が悪いと。」
ティーウォーター博士やレイモンド社長、ルナの母親がふふふと笑った。
「そして、もう1つ。これが私がルナさんを新しいと言った所以なのですが。
人間がリンクしてアンドロイドをアバターとして使う時、人間の動きを越えた動きを使いこなせない、もしくはその動きに痛みまで感じてしまう人がいるんです。
そのため、可動域を人間と同じになるように作っているんです。」
「あー、そういうことなんですね。」
若干まだ納得がいかない顔のルナを見て、さらにティーウォーター博士が続けた。
「ただ、ルナさんのあの動きなら人間の可動域限界を越えたり、多間接を持つアンドロイドだったりでも問題なく扱えそうです。そんな気がします。」
ルナはティーウォーター博士の目をじっと見た。
(ティーウォーター博士、本当に思ってる。。。)
「はい。そうですね。きっと扱えると思います。」
ティーウォーター社長もルナの目を見て答えた。
「あなたは正直な人ですね。」
ティーウォーター社長がレイモンド社長と夫人を見て付け加えた。
「素晴らしいご息女様ですね。羨ましい限りです。」
そうして、レイモンド社長とティーウォーター社長が少しの間、会話した後、ティーウォーター社長が大手顧客となっている人を見つけた。
「あっ、すみません。ちょっと大事な方が見えたもので、この辺で。」
「はい。ありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ、ではまた。」
そういうと、ティーウォーター社長が席を外した。
それを見て、レイモンド小林のところに、リチャード・マーセナス、そしてB-DAI-N.Coの社長とその社長の息子がやってきた。
「これは、これは、小林社長ではないですか。お久しぶりです。お変わりありませんかな?」
リチャード・マーセナスがレイモンド小林に挨拶をする。
「マーセナス議長、お久しぶりです。はい、何とかやらせてもらってますよ。」
「またまた、何とかだなんて。地球圏、コロニー圏全体で見ても、最優良企業のゾディアックホールディングス社長様の言うことではありませんよ。」
「いえいえ。いつどうなるか、分からない。それが経済というものですので。」
「それはそうですな。いつどうなるか。
あっ、そうでした。横にいながら挨拶がまだでしたね。ご紹介します。こちら、B-DAI-N.Coのトミー宝田社長、それとその息子さんです。えーと、息子さんの名前は。。。」
「エポックです。」
「これはよくぞ。コロニー3-104にお越しくださいました。」
レイモンド小林とB-DAI-N.Coのトミー宝田社長が挨拶をして、握手をした。
その様子を見つつ、リチャード・マーセナスがルナを見て、話し出した。
「先程の階段での見事なサルベージ、見させていただきました。
判断、そして瞬発力。いや、実に素晴らしかったです。Miss、、、」
「ルナと言います。私の娘です。」
「Missルナ。良い名前だ。」
「ありがとうございます。たまたまです。」
ルナがニコッと笑うと、B-DAI-N.Coの社長息子エポックがルナを気に入ったように見ていた。
その息子が話しかけようとした時、リチャード・マーセナスが遮った。
「あっ、瞬発力と言えば、ご存じですかな?
今、最も有名なゲーム、宇宙戦争をモチーフにした『OneYearWar』を。
この社長のB-DAI-N.Coが作ったものなんですよ。
そして、どうやらその世界ナンバーワンプレイヤーがこのコロニー3にいるらしいのです。」
ルナがドキッとした。
<次回予告>
ルナの前に地球議会の議長リチャード・マーセナスと”OneYearWar”開発元のB-DAI-N.Co社長が現れる。
彼らの口からは”RedDevil”の名前が。
慌てるルナ。とうとうルナの正体がバレてしまうのか?
次回、第16話 ”それはまだ秘密ですよ。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




