第14話:ふう。どうしたもんか。
<前話のあらすじ>
”OneYearWar”の世界大会予選が地球で始まった。
それを見て、ルナは参加したいと気持ちが募る。
だが、ルナは両親にまだ”OneYearWar”をやっていることすら話せていなかった。
そこにルナの母親がやってきた。
翌日の通商協議会合のパーティーにルナも一緒に参加することを母親が告げたのだった。
ソルが自宅を壊され、大家から追い出された次の日、ソルはやはり修理工として仕事に励んでいた。
ソルがアパートの外の配電盤を閉める。
「これでよしっと。」
額の汗を腕で拭った。
コロニーの中心軸から模擬日光が照射されていた。
日差しの強さは春から夏のそれに移行し始めていた。
アパートの部屋からTシャツを着た中年男性が出てきた。
「さんきゅーな。動き始めたよ。」
「あっ、うん。直ったっしょ?良かった。勘が当たった。」
「ここんとこ、また暑くなってきたからさ。助かったよ。いくら?」
「部品代と工賃で6000だよ。」
「オッケー、相変わらずソルは商売っけがないな。ちょいまち。」
男が目をキョロキョロさせた。すると、ソルのBCDに表示が出た。
(振り込み金額 6000C)
「確認したよ。ありがと。」
「いや、こっちこそだよ。ソルがいてくれて本当助かるわ。まるであれだわ。」
「あれって?」
「えっと、あれ、あれだよ。そうそう!ブラックジャック。」
「うん?なにそれ?」
「ソルともあろうお方が知らんの?
無免許でも超絶技術力の医者でよ。
金持ちからは法外な治療費取るくせに、貧乏人からはラーメン一杯とかで手術やったりする。」
「えっ?そんな人がいんの?」
「いや、漫画だよ。漫画。あっ、でもソルは貧乏人にしかしねーから違うか。」
「なんだ、そりゃ。」
そう言って二人は笑っていた。
アパートの部屋の前で2人の男が笑いあっている様子がウォールディスプレイに写し出されていた。
「いつまでソルにこんな生活を続けさせるつもりなの?」
豪華絢爛な部屋の壁一面にソルの様子が写し出され、レミ柊は腕組みをしながら1人の老人に向けて話しかけていた。
「わしにはソルが満足そうに暮らしているように見えるがの。」
腰が曲がった柊レイが杖をつき歩きながら答えた。
「なぜそんなことが言えるの?
お父様は分かってない。ソルにこんな生活をさせるべきじゃない。
力づくでも連れ戻します。」
「そんなことをしてもソルは戻ってこやせぬ。
ソルは自分で生きる道を選んだんじゃ。
なぜお前はソルを信じてやれぬのだ?」
「ソルはあんなことをするために生まれたんじゃないんです。
お父様も知っているでしょ?
それに、昨日なんてあんなチンピラに絡まれて。
私がすぐにでも解決して、、、」
「そんなことをするでないと言うておるじゃろう。
そんなことをせずともソルは自分で解決する。
わしの血を引いておるのじゃ。
あんなやつらにはやられたりせん。」
「お父様はなぜそんなことが言えるんです?
お父様はあの連中を知らないのですか?
このコロニー貧困層では有名な悪名高い連中です。
人が何人も消えてると聞きます。」
じっとレミ柊が父親を見る。
父親は目を逸らし、ポケットのデバイスを見た。
ポケット内のデバイスには(TestMessage)と書かれた着信履歴が表示されていた。
「分かっておる。だが、レミよ。もう少しだけソルを信じてやってほしい。」
「。。。」
部屋にノック音が響いた。
部屋に執事アンドロイドが入ってきた。
「レミ様、パーティーの時間でございます。」
レミも父親もアンドロイドの方を見た。
「分かったわ。今行きます。」
そして、レミが部屋のドアに向かって歩き出した。
数歩歩いて、レミが立ち止まり、再び父親の方を向いて言った。
「続きはパーティーの後で。」
レミは捨て台詞を吐いた後、部屋を出ていった。
ソルの祖父がため息を吐いた。
「ふう。どうしたもんか。」
アパートから出て、貧困層で歩いているソルが映像に映し出されていた。
アパートから出てきたソルをアンドロイド5体が待ち構えていた。
アンドロイドの腕にはURと書かれた四角いロゴが描かれていた。
リーダー格のアンドロイドがソルの前に電子ペーパーを出した。
「これがあの老婆が抱えていた負債だ。
この前はお前の生体情報に紐付いた口座から金を受け取ったが、他にあるのだろう?
お前はあの老婆の保証人になった。
お前はこれを払う義務がある。」
その電子ペーパーには請求金額が書かれていた。
(6056万サークル)
その額を見て、ソルは驚いた。
「はあ?6056万!?」
ソルが斜め上を見ながら言葉を続ける。
「っていうか、お婆ちゃんから聞いたぜ。
それが発生しだして、まだ二ヶ月くらいらしいな。
家賃も法外な100万サークル。
仮にそれから考えても6056万なんてあり得ねーんだが。」
言葉を続けながら、ソルは腰のボタンを押した。
エネルギー充填音が鳴る。
充填音に合わせて、ソルは身体を捻っていた。
ソルのつなぎが赤く染まっていく。
充填が完了するや、再びソルがアンドロイドの方を向いた。
「明らかに法外な利子だぜ、これは。
警察沙汰にしたくなかったら、正規の数字で計算してくれ。」
リーダー格のアンドロイドが笑いながら話した。
「警察に言いたければ、言えば良い。
警察は我々Union-Roswellの犬だ。口出しなどできやしない。」
「はあ?それにお前ら、おれの部品、盗んだじゃねーか。
その額はどうなってんだよ。」
「あんなガラクタは一文にもならん。
こっちはガラクタ処分してやったんだ。ありがたく思え。」
「ふん。もうちょっと頭使えよ。
今のでお前らがやったって認めたことになるんだけどな。」
そして、大事な部品に対してアンドロイドが使った言葉にソルが苛立っていた。
「それに、あれはガラクタなんかじゃねーよ!!」
ソルとリーダー格のアンドロイドが話をしている間に、他のアンドロイドがソルの作業鞄の中身を見た。
ソルの作業鞄に昨日、電気部品店に入れたはずの部品があることを確認した。
すぐさまその情報がリーダー格に伝わる。
「おい、お前の鞄に入っている制御機器を見せろ!」
ソルは鞄を自分の後ろに回しながら言った。
「これは今日のお客用の部品なんだ。渡すわけねーだろ。」
「いいからよこすんだよ!お前には拒む権利などない!!」
リーダー格の横にいたアンドロイドが前に一歩歩みだし、ソルの鞄を奪おうとした。
ソルがバックステップでその腕をヒラリと避けながら、一言漏らした。
「ふう。どうしたもんか。」
「部品を取り上げろ!!」
リーダー格以外のアンドロイドがソルを捕まえようとした。
「お前らにおれが捕まえられるものかよ!」
ソルがキッと目を大きく開けた。
ソルの服の下の赤くなった帯が強く光った。
そして、ソルが小声で唱えた。
「Gear02」
ソルの視野右下の隅にも緑色で(Gear02)と表示された。
すると、服の下の帯が虹色に光り出す。
その時、アンドロイドの動きに若干の振動と遅延が発生し始めた。
ソルを捕まえようと襲いかかるアンドロイド。
リーダー格以外のアンドロイドが右から左から手を伸ばしてきた。
<次回予告>
ソルのシャツに描かれている帯が虹色に光る。
ソルを捕まえようとするUnion-Roswellのアンドロイド。
抗うソルに対して、アンドロイドは大腿部から何かを取り出した。
その時、ルナは通商会合パーティーに参加していた。
同じ会合に参加していた”OneYearWar”の開発会社。
その場で”RedDevil”の話題が。
そして、ルナはある行動を取るのだった。
第15話 ”なかなか面白いことをしてくれる。”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




